ポール・クルーグマン「オランドの政策転換は間違いだ」

Paul Krugman, “Hollande takes a wrong turn,” Krugman & Co., January 24, 2014. [“France by the Numbers” & “The Glittering Crises“]


オランドの政策転換は間違いだ

by ポール・クルーグマン

The New York Times Syndicate
/The New York Times Syndicate

「金のクロワッサンで人類を苦しめてもらっちゃこまるね.」 フランス大統領フランソワ・オランドがセイ法則をたたえたのに対して経済学者アラン・テイラーが返した言葉がこれだった(私信).オランド氏は記者会見で文字通りにこう言ってのけた:「供給は需要をつくりだすのです」――発言だけでなく,政策もサプライサイド経済学に移してしまった.しかも,やっぱり自分で「サプライサイド経済学」っていいながらね.

ぼくにとって驚嘆だったのは,オランド氏のざんねんぶりだけじゃない.フランスのエリートたちに蔓延している極度の悲観論だ.みんなも,フランスは〔経済的な〕「災害地域」だと思ってるだろうね.でも,数字をみてごらん.たしかによくはないけど,そこまで劇的にわるいってことはない.

まずは,危機以後の経済成長からはじめるとしよう.欧州の文脈で,フランスはどれくらいの位置にいるだろう?

ドイツほど好調じゃあない.それは一目瞭然だ.でも,他の欧州諸国と比べてみると――苦境にハマってる債務国を除いてみても――フランスの実績はこれといってみじめじゃない

「じゃあ,競争力の低下はどうなの?」 たしかに,フランスは近年ずっと一貫して経常赤字をつづけてる.でも,それだって数字はかなり小さい

それに,フランスの財政状況はちっともやばそうに見えない.やばいところと言えば,経済が低迷しているさなかに構造赤字を削減しちゃった度合いくらいのものだ.ユーロ危機がどん底だったときにパニックを起こしていた債券市場も,現時点ではとくに心配してはいないようだ

さて,ここ何期かにわたって,フランスの実績はまちがいなく低調だ.でも,どうしてだろう?

経済学者の Francesco Saraceno は,調査結果の証拠を使って,こう論じている――問題は需要であって供給じゃない.インフレ率のデータもこの説を支持してる

欧州の多くの国と同じように,フランスもデフレとべったりになっていて,日本のシナリオと似たような状況に陥るリスクがすごく大きい.あ,そうそう.国際通貨基金 (IMF) がこの話題について出してるレポートは,「不確実性」にいくらか重きを置こうとしてるけれど,それでもその結論では,欧州の状況の大部分は緊縮政策の問題だと言ってる.

ここでも,事態はよくない.でも,みんなには,ぜひ疑問を抱いてほしいところだ――「フィンランドやオランダみたいな最悪の事例でも,エリートたちは事態が最悪になればなるほど,さらなる痛みを強制しなくてはいけないという決意は強められるとい観念にはまりこんでいる一方で,フランスのエリート層はきびしい右旋回をしなくちゃいけないってああもあっさりと説得されているのは,いったいどういうわけだろう?」

© The New York Times News Service


金ぴか経済危機

多くの人たちが指摘するように,ユーロ体制はずいぶんと金本位制に似た機能をするようになってる――その結果,経済史家が言う「金の足枷」にそっくりなものが繰り返されている.金の足枷は,大恐慌の波及で大きな役割を果たした要因だ.

他にいろんな要因があるなかでも,とくにこの金の足枷に関する議論は,経済史にとって,まあ,黄金時代の幕開けをつげるものとなっている:2008年以来のこの期間ほど,歴史が進行中の出来事の手引きに(それに,政策担当者が耳を貸す気になれば,現在の行動の手引きにも)なってくれる時代はちょっと思いつかない.

で,歴史家たちが押し選れくれることは他にもまだまだある.

先日の『エコノミスト』にでた論文で,オックスフォードの経済学者 Kevin O’Rourke は1914年以前の金本位制を再考して,こう指摘している――好条件のもとですら,金本位制はインフレの期間にまずまずうまく機能したにすぎなかった.

彼が述べているように,これこそ,ユーロ圏の指導者たちが全体的なデフレへの地滑りに深く警戒すべきなによりの理由なんだ.


【バックストーリー】ここではクルーグマンのコラムが書かれた背景をショーン・トレイナー記者が説明する

政策の転換

by ショーン・トレイナー

1月14日の記者会見で,フランス大統領フランソワ・オランドは経済政策の転換を公表し,限定的な緊縮策とサプライサイド経済改革の支持を誓った.彼の主張によれば,こうした政策は低迷するフランス経済を加速する助けとなるのだと言う.

サプライサイド経済学の支持者たちは,投資家と企業に減税すればさらなる投資がなされるようになり,それによって雇用がうまれ,経済は成長するのだと信じている.アメリカでは,この説は共和党の元大統領ロナルド・レーガンとジョージ・W・ブッシュと結びつけられていることが多い.レーガンもブッシュも,社会の富裕層に減税すれば,それ以外の人たちに「したたり落ちる[トリクルダウン]」と有権者に約束した.

フランスの失業率が10パーセントを超えるなかで,オランド氏の支持率は20パーセント前後という歴史的な低さを記録している.演説のなかで,オランド氏は,社会的サービスを500億ユーロ削減し,企業に300億ユーロ減税してフランスの福利厚生を支えさせると述べた――ここでいう福利厚生は,2人以上の子供がいる家庭に支払われる手当のことだ.その一方で,企業はさらに従業員の雇用を増やして,妥当な賃金を提示し,訓練を提供しなくてはならないとホランド氏は述べた.

1月20日付けの『ガーディアン』に寄稿したコラムで,経済学者のディーン・ベイカーは,フランスのもっと広範な経済的な傾向により,オランド氏の予算削減の短期的な便益を曇らせるかもしれないと主張した.

「フランスの国民的な誇りに訴えかけるのは,感動的ではあるが」――とベイカー氏は述べる――「現代の経済をまったく把握できていない.彼の支出削減プランは深刻な帰結をもたらすだろう.」

ベイカー氏は続けてこう記す:「オランドはちょうど,冬至に太陽神への生け贄をささげようとしている異教の司祭みたいなものだ.日が長くなり始めると,司祭は太陽神への犠牲が功を奏したのじゃと吹聴できる.両者の大きなちがいは,オランドとちがって司祭の生け贄はそれ以上事態を悪化させないというところだ.」

© The New York Times News Service

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