ポール・クルーグマン「失墜した経済思想」(2017年9月22日)

Paul Krugman, Discredited Ideas (Video VOX, 22 September 2017)

金融危機とその後の状況は私たちが思ったように理解不可能なものだったでしょうか。この動画では、ポール・クルーグマンは私たちが学ぶことのできる四つの見解をあげています。この動画は2017年9月22日に開催された「金融危機から10年」と題されたカンファレンスで録画されたものです。 [1]訳注:本訳はクルーグマンが実際に話しているものをもとにしており、動画の英語字幕とは必ずしも一致しません。 

クルーグマン:
金融危機とその後の状況は理解不可能なものではまったくなかったと、実際に私はしばらく説いてきました。もし基本的な最新のケインズ主義経済学の見解を持ったひとがこの金融危機に直面したとしたら、この金融危機が起こったことは大変驚いたでしょうが、それはほとんどのところ制度を見張るのに失敗したからです。

現実世界の政策議論と〔財政を心配する〕深刻なひとびとはいろいろいっていましたが、多くのひとびとが間違ったことを信じていたので、大変な意見の相違と混乱がありました。

悪い考え方は、多くの場合はよくある古い考え方ですが、公の場での議論で大きな役割を担いましたが、今なら私たちは振り返って「それって本当に間違ってるんだよ」と言える機会かもしれません。深刻なひとびとは決定的な流れに試されましたが、そこから学ぶのがよいでしょう。

それらは四つのカテゴリーに分けられます-緊縮派、構造派、財務省見解派、マネタリズムです。

緊縮派は、経済危機や不況というのは余剰から生じた問題を解決するものだという固執した考えを持っています。資源が有り余っているところと不足しているところがあり、不況というのは浄化手段なのだから良いものなのだ、というように。

この見解にはいくつか示唆するものがあります。例えば、拡張している産業と収縮している産業とで失業率が逆方向に動くようなことが起こらなければなりませんが、それはまったく観測できませんでした。

次に構造派です。3-4年前の米国で多くのマクロ経済学者ではない影響力のある公人たちが行った議論や私自身の原稿などのいくつかを、実際にもう一度読み直してみました。アメリカにはスキルギャップやミスマッチ、余剰の労働者がいて、どうやったって経済危機以前に存在した低い失業率に戻すことはできないとみんな知っていましたし、疑問の余地もありませんでした。もちろん、失業率がもとに戻るまでは。

それは驚くべきことでした。なぜならその議論は古めかしい言葉で、ほとんど1930年代半ばに言われていたものと同じだったからです。その頃その考えは間違っていたし、今回も間違っていました。

財務省見解派というのは、政府の支出は経済を拡張させることはできず、政府支出の削減は経済を悪化させないという見解のことです。このように呼ばれている理由は1930年代にさかのぼりますが、ここにあるのはその現代版です。

財政政策の問題は、対照実験になるようなものがほとんどないということです。なぜなら多くの財政政策は起こったことの反応として実施されているので、実際には原因ではなく反応を測定していることになるからです。とはいえ、EU圏の緊縮財政マニアが一番近い対照実験になるでしょうか。経済危機に入るとき古いタイプのケインズ主義者なら「見てみたところ、乗数はだいたい1.5だと思う」と言うでしょうし、危機が起きてから回帰分析をしてみて乗数が本当に約1.5のように見える、となります。なので、実際のところ財政政策はどの道考慮するに値しないという見解は、今後見ることもないくらいにとことん反論されてきているのです。

最後に、もう誰も古きミルトン・フリードマン型のマネタリストはいません。誰もGDPの成長率はM2の成長率と同じだなんて考えていないし、それで話は終わりです。しかし、信じられないほど多くの人々、そしてここアメリカでは多くのプロの経済学者でさえも、「インフレを起こさずにマネタリーベースをそんなに大量に増加できるなんて信じられない」と言いました。大勢の人々がこれと同じ考えを持ちました。ここアメリカではマネタリーベースは400%増加しましたが、インフレなんてものはまったく起こりませんでした。これは流動性の罠の見解が正しく、マネタリストの見解は間違っていたという明白な証明です。

これらすべては重要なことだと私は思います、これらの誤解は政策に大きなダメージを与えたのですから。政策担当者は結果的に正しかった理論よりも間違った考えのほうが説得力があると思ったのだし、そもそも自分が間違っているなんて誰も認めないのですから、責任なんて本当にどこにも存在しないのです。

私が考えるに、この問題に間違った意見を持っていたひとびとの中で事実を認めたのは少数でしょうし、なぜ間違えたのかについてはほとんど検証がなされていません。特定の誰かを名指しはしませんが、ひっぱたきたいと思うひとは何人かいます。でも、私たちは十分やれなかったということについて学ぶべきなのです。

References

References
1 訳注:本訳はクルーグマンが実際に話しているものをもとにしており、動画の英語字幕とは必ずしも一致しません。
Total
1
Shares

コメントを残す

Related Posts