ライアン・デッカー, ジョン・ハルティワンガー, ロン・ジャーミン, ジャヴィア・ミランダ 「まだ得できるところが残っている: 反応性の減退と生産性スローダウン」(2018年6月12日)

Ryan Decker, John Haltiwanger, Ron Jarmin, Javier Miranda, “Leaving money on the table: Declining responsiveness and the productivity slowdown“, (VOX, 12 July 2018)


雇用再配分は生産性の重要決定因子である。本稿では、合衆国のデータを活用しつつ、過去数十年間にわたる再配分率の全体的低落の背後には、ショックにたいする反応としての雇用再配分ペースの減退があることを示す。反応性の弱まりは2000年代にハイテク企業の集計的生産性にたいする足枷となったが、この問題はその他の部門ではすでに1980年代に始まっていた。

一経済の生産性を決定付けるものは何か。これを考えたとき我々が通例思い浮かべるのは、テクノロジー・労働層の技能・経営慣行である。しかし重要でありながらさほど注目されていない決定因子がある。それが資源の再配分だ。

市場経済は、労働者をはじめとする資源を、より効率的な生産・交換形態へと絶えず再配分する。例えば、純雇用成長数の背後には、事業間の雇用フローがある。この雇用再配分は、事業拡大 (および新参) 雇用者によって創出された雇用に、事業縮小 (および撤退) 雇用者により破壊された雇用を加えた総和である。ハイペースな雇用再配分は労働者と企業にとってコストが高い。しかしそれは、低価値ないし非生産的な活動を離れより高価値な活動へと向かう、資源の絶え間ない動きを反映している。

このプロセスを歪ませる、あるいはスローダウンさせる動きは、生産性にネガティブな効果をもたらしかねない。ところが我々は、同プロセスが2000年以降顕著にスローダウンしている旨を示すエビデンスを得ており、ここから集計的生産性への足枷が暗示されるのである。

雇用再配分スローダウン

先行研究は、合衆国における雇用再配分のペースが1980年代前半以降減退してきたことを明らかにしている。そこで原因として挙げられるのは、労働者離職パターンの変化 (Hyatt and Spletzer 2013)、移住の減少 (Molloy et al. 2017)、労働層の高齢化 (Engbom 2017)、起業の減少 (Decker et al. 2014) などである。

図1は一部部門における雇用再配分を示す。再配分データにみられるひとつの印象的な点は、我々がDecker et al. (2016) で強調したところでもあるが、全体経済とハイテク経済のあいだのコントラストだ。前者においては再配分の減退が数十年間にわたり着実に進んでいるが、後者においては2000年代に減退し始めるまで、再配分パターンは平坦ないし上昇していたのである。

図1 雇用再配分パターンは部門により異なる

出典: Longitudinal Business Databaseに基づく著者の計算。
: パラメタを100に設定したHPトレンド。産業は一貫したNAICS基準にもとづき定義。ハイテクの定義はHecker (2005) による。新参者・継続者・撤退者すべてをふくむ。

雇用再配分は企業と労働者にとってコストが掛かるので、再配分の減退が厚生を向上させることもありうる。例えば小売り部門では、「家族経営 (mom and pop)」 企業から小売チェーンへのシフトが、企業安定性の増強と生産性の上昇に結実している。事業モデルにおけるその他のシフトも同様の効果をもたらしうる。他方、より大きな再配分は生産性を増やす旨を示すエビデンスもあり、したがって図1にみられる再配分パターンがこれまで生産性を阻害してきたのかは、こうしたパターンを生じさせているものの正体に依存することになる。

減退の理由を説明する

我々の最近の研究では (Decker et al. 2018)、調整摩擦を伴う企業動態をあつかう典範的モデルの洞察を応用して、この問題の解明を試みている。これらモデルは、雇用再配分の減退の説明としてふたつの相対する仮説を提示する:

  • ショックの数や強さの低下。各事業は生産性・利潤性にかかる条件ないし機会の変容に反応する。雇用の創出・破壊もこうした反応にふくまれる。したがって再配分の減退は、企業が直面する個別ショック (idiosyncratic shocks) のバラツキないし強さのほうも減退している状況を意味することがある。個別ショックは、生産者のあいだにみられる技術的効率性や相対的な生産物需要にかかる異なる現状を反映したものともいえよう。こうしたショックのバラツキの減退は、全体的な生産性にとっては、概して恩恵的となりうるだろう。労働者と企業の側でコストのかかる変化を敢行する必要を減らすことで、厚生の向上さえもたらすかもしれない。
  • コストと摩擦の増加。再配分のペースは事業の環境にたいする反応性を反映するのだから、事業の拡張や縮小を抑制するようなコストや摩擦の増加は、全体的な再配分を減少させるはずだ。この理由で再配分が減退しているならば、こうした事態は生活水準の低下につながるものと見込まれる。非生産的な事業における資源が身動きできなくなるからだ。

標準的なモデルが提示する便利な実証的予測のおかげで、以上ふたつの相対する仮説に区別がつくようになる:

  • 摩擦を一定に保つならば、ショックのバラツキの減退は、労働者あたり収益といった事業レベルの生産性を計る尺度のバラツキが低くなることを含意する。
  • 労働調整摩擦の上昇は、事業レベルでみた雇用成長と生産性とのあいだの関係の弱まり、ひいては事業間の労働者あたり収益のバラツキの上昇を含意する。生産的な事業が以前ほど労働者を追加しなくなり、非生産的な事業が以前より労働者を抱え込むようになるのならば、労働者あたり収益は生産的な企業については高まり、非生産的な事業については減退するので、全体的なバラツキが大きくなるからだ。

図2は企業レベルの労働者あたり収益の標準偏差を、合衆国における若年/成熟のハイテク/非ハイテク企業について示したものである。労働生産性のバラツキは漸次的に増加している。我々は1980年代を始期とする製造業データも活用しているが、こちらでも全要素生産性 (TFP) についてバラツキの漸次的増加が示されている1

図2 産業内でみた労働生産性のバラツキは上昇している (経済全般)

出典: RE-LBDにもとづく著者の計算。
: 対数労働生産性の産業-年度-毎平均からの標準偏差。若年企業は5才未満。ハイテクの定義はHecker (2005) による。NAICS 52および53は省略。

企業間の生産性のバラツキが増加しているならば、〈ショックのバラツキが変化した〉 仮説と齟齬を来すとともに、〈事業の反応性が弱まった〉 仮説が支持されることになる。

反応性の減退を調査する

つついて我々は製造業部門にフォーカスを合わせ、工場レベルのTFPを構築することで、事業の雇用成長反応を調べた。図3には、高生産性工場を一方、産業平均的な生産性をもつ工場を他方とし、そのあいだの雇用成長率の差を示している。前者はそれぞれの産業における平均を1標準偏差分上回るものである。

我々はこれを異なる事業タイプ (若年/成熟、ハイテク/非ハイテク)、また異なる時期 (1980年代・1990年代・2000年代) について計算した。1990年代には、ハイテク若年企業のうち、産業TFP平均を1標準偏差上回る工場における雇用生長率は、産業平均よりも一年あたり16%ポイント大きかった。

より一般的にいえば、ハイテク事業のあいだの生産性反応は、1980年代から1990年代までは上昇し、その後2000年代をとおして下落しており、これは同期間のハイテク部門の雇用再配分パターンにつき図1で確認したところをなぞっている。ハイテク以外では、生産性反応は該当期間中一貫して減退しており、集計定な再配分の時系列とも整合的である。以上は反応性仮説を支持する。

図 3 工場の雇用成長はTFPにたいする反応性を弱めている (製造業)

出典: LBD・ASM (Annual Survey of Manufactures)・CM (Census of Manufactures) にもとづく著者の計算。
: 若年企業は5歳未満。ハイテクの定義は Hecker (2005) による。TFPRが産業平均を1標準偏差上回る工場と産業平均のあいだにある成長率の差。

労働調整コストと摩擦の増加のみが唯一の在り得る説明というわけではない。企業の市場支配力の増加や、勝者総取り的競争の蔓延化もまた、反応性を減少させると考えられる。しかしそれは標準的なモデルにおける生産性のバラツキには影響しないはずだ。企業間のテクノロジー拡散がもっと遅いならば (Andrews et al. 2015が論ずるように)、これは労働者あたり産出量のバラツキの増加を生み出すかもしれない。しかし拡散がもっと遅いとしてもそれだけでは事業レベルの反応性の弱まりに説明がつかないだろう。

生産性への効果

反応性の弱まりは生産的事業に向かう資源のフローがより遅くなることを含意するが、これは集計的生産性にたいする相当なインプリケーションを孕んでいる。そこで我々はシンプルな反実仮想を実施し、こうした生産性効果の大きさの推定を試みている。すなわち、事業レベルミクロデータを活用しつつ、各年度につき、図3における反応性係数の推定値をもとに集計的生産性を推定したうえで、この集計的推定値を、生産性にたいする反応性を1980年代前半の強さで一定に保ったばあいの推定値と比較した。対象期間の終わり頃には 「反応性一定 (constant responsiveness)」 シナリオの集計的生産性のほうが大きくなっているが、これはこのシナリオでは最も生産的な事業がより多くの資源を獲得できるようになっているためだ。図4に、これらシナリオの差をハイテク/非ハイテク製造業の双方について示す。

図 4 集計的TFPにたいする再配分の寄与の推移 (製造業)

出典: LBD・ASM・CMにもとづく著者の計算。
: 図はTFPR概念をもとにした差分の差分反実仮想を示す。ハイテクの定義はHecker (2005) による。

図4を解釈するため、ハイテクの線分を2010年について見てみよう。この-0.02という値はなにを含意するのかといえば、2009年における工場規模と生産性の実際の分布を所与としたうえ、生産性反応が依然として1980年の水準にあったならば、2010年の集計的な (産業レベルの) 生産性は約2%大きかったはずだということである。

より一般的にいえば、ハイテクの線分は1980年代と1990年代をとおして正の値をとっており、これはちょうど反応性が上昇した頃だった (図3)。反応性の増加が、雇用再配分の向上をつうじて生産性を押し上げていたのである。2000年代になると、反応性の減退が集計的生産性への足枷になってゆく。

このタイミングは合衆国生産性成長のタイミングと全般的に類似している。Fernald (2014) は1990年代後半の生産性加速と2000年代中頃のスローダウンを実証しているが、こうした動きはIT利用・生産型産業に集中していた。

我々はさらに非製造業産業についても同様の結果を得ている (TFPではなく労働生産性に依拠した)。なにより、ハイテク製造業の内部では、資本投資と工場撤退の反応性も類似のパターンをなぞっていることが判明しており、これは生産性淘汰が弱まるトレンドが一般的であることを示唆する。さらに反応性の変化は産業構造の変化からくる影響の結果ではなかったことも判明した。この再配分駆動型生産性成長スローダウンが、より強力な企業内部的生産性成長によって相殺されてきた旨を示すエビデンスは、得られなかった。

調整摩擦

雇用再配分パターン変化の原因解明は重要である。これらパターンは集計的生産性および生活水準に相当なインプリケーションをもっている。今回の調査結果が示唆するところ、研究者は考え得る調整摩擦増加の原因にフォーカスを合わせるべきであるようだ。政策その他のファクターであって、雇用行動や事業縮小と関連したコストを増やし、あるいはインセンティブを減らすようなものはいずれも、そうした原因となりうる。

本稿執筆者注: 助言を頂いたキャシー・バフィントンに感謝する。本稿で表明された意見や結論はいずれも本稿執筆者のものであり、必ずしも合衆国国勢調査局、連邦準備制度理事会、およびそのスタッフの見解を現わすものではない。機密情報が開示されていないことを確認するため、調査結果はすべて査読をうけている。

参考文献

Andrews, D, C Criscuolo, and P N Gal (2015), “Frontier Firms, Technology Diffusion and Public Policy: Micro Evidence from OECD Countries”, in The Future of Productivity: Main Background Papers, OECD.

Decker, R A, J Haltiwanger, R Jarmin, and J Miranda (2014), “The Role of Entrepreneurship in US Job Creation and Economic Dynamism”, Journal of Economic Perspectives 28(3): 3-24.

Decker, R A, J Haltiwanger, R S Jarmin, and J Miranda (2016) “Where Has All the Skewness Gone? The Decline in High-Growth (Young) Firms in the U.S”, European Economic Review 86: 4-23.

Decker, R A, J Haltiwanger, R S Jarmin, and J Miranda (2018), “Changing Business Dynamism and Productivity: Shocks vs. Responsiveness”, NBER working paper 24236.

Engbom, N (2017), “Firm and Worker Dynamics in an Aging Labor Market”, working paper.

Fernald, J (2014), “Productivity and Potential Output Before, During, and After the Great Recession.” Chapter 1 in J A Parker and M Woodford (eds), NBER Macroeconomics Annual 2014, MIT Press.

Hyatt, H R, and J Spletzer (2013), “The Recent Decline in Employment Dynamics”, IZA Journal of Labor Economics 2(3): 1-21.

Molloy, R, C L Smith, R Trezzi, and A Wozniak (2016), “Understanding Declining Fluidity in the U.S. Labor Market”, Brookings Papers on Economic Activity.

[1] 全要素生産性 (TFP) とは、労働・物理的資本 (設備および建物)・素材・エネルギーの分を調整した、投入量あたり産出量である。

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