二コラ・シャトレ「GDPの落ち込みが激しいのは行動制限のせい:米欧の比較」(2021年9月27日)

Nicolas Chatelais “Covid-19 et divergence de baisses de PIB entre Europe et États-UnisBloc-note Eco, Banque de France, le 27 septembre 2021

2020年におけるGDPの落ち込みは、アメリカではヨーロッパよりも緩やかだった。感染拡大へ対処の一環として強制あるいは自粛として行われた行動と移動の制限は、フランス、イタリア、スペインではより強力であったことがアメリカとの差のうち40%以上を説明する。この要因は産業の特化の差(アメリカがデジタル産業に優位をもち、ヨーロッパは観光業の比重が大きい)によって増幅された。財政支出の違いによって説明できるのは差の20%以下である。

グラフ1:2020年における米欧間のGDP変化の格差の説明要因(出典:IMF、各国統計、著者による計算)

読み方:行動制限の違いがアメリカと仏+伊+西グループの間の成長率の差の40%を説明する。この3か国のグループが観光業への依存が最も高いことは、アメリカとの差の20%と少しを説明する。

差の80%は経済主体の対応の違いと産業の特化による

私たちは過去の結果(より詳細についてはフランス銀行の記事No.237を参照)を使って、なぜアメリカでは新型コロナの感染が大きく拡大しているにも関わらず、GDPに対するマイナスのショック(5.6%)はフランス(9.5%)、イタリア(9.5%)、スペイン(12.7%)、イギリス(11.4%)といった一部のヨーロッパ諸国よりも小さいのかを調べてみた。この違いを説明できる要因は数多くある。アメリカとEU圏を越えて、私たちは52か国について、2020年のGDPに対するショック(実際のGDP成長率と2019年10月にIMFが公表した予測値の差)と以下の7つのカテゴリに分類できる85の変数候補の間の関係を検証してみた。

  1. 構造的なマクロ経済上の特徴(例:観光業や消費の対GDP比等)
  2. 発展、人口、医療の水準(例:人々の脆弱さ、病院の収容能力等)
  3. 経済ショックを緩和するための財政措置(例:家計への金融支援、企業向け財政措置、企業の資本増強等)
  4. 法による制限(感染対策のために各国政府がとった措置をオックスフォード大学のデータによって合成したもの)と事実上の制限(経済主体の移動の減少をGoogle Mobilityのデータによって合成したもの)を盛り込んだ実効行動制約指標(ICEA:Indicateur de Contrainte Effective sur l’Activité)で測った政府や経済主体の反応
  5. 感染拡大の強さ(例:感染者数、死者数等)
  6. 技術発展(例:テレワークの普及、インターネット網のカバー率等)
  7. 危機に陥る前の経済状況(例:公的債務の水準、貯蓄水準等)

一番の説明要因は、アメリカ政府(連邦政府と州政府)の行動制約が比較的緩く、経済主体が比較的制約なく移動できたことで、これは仏・伊・西のグループとの差を42%説明し、GDPの変化率で言えば2%ポイントをやや上回る差に相当する(図1及び表1)。

表1:2020年のGDP変化率におけるアメリカとの差への貢献度(訳注:カンマは小数点)

読み方:仏・伊・西の3か国にとって、アメリカと比較してGDPの落ち込みが5%大きく、うち0.8ポイントは技術の遅れによって説明される。

この要因は、アメリカ経済が仏・伊・西の3か国と比べて観光業への依存が少ないことで増幅されている(アメリカとの差の20%、GDP変化率の差では1.2%ポイントに相当)。

さらに、アメリカにおける技術の先進性(自宅で勤務可能なサービス部門の割合、テレワークを即座に実施するための新技術の利用、インターネットを介した企業間取引)は仏・伊・西との差の約16%を説明する。特にテレワークはカリフォルニア州(新技術)、ニューヨーク(金融)、フロリダ(医療)、イリノイ(保険)でとりわけ普及している。

最後に、2020におけるアメリカでの財政刺激が説明するのは仏・伊・西の3か国との差の20%に過ぎず、GDP変化率で1.1%ポイントに相当する。この結果は最大限大きく見積もったものだ。というのも、別の計量モデルの推定では、財政刺激の貢献は10%程度の結果が出ている。私たちの計算によれば、ユーロ圏の国々によるより迅速な対応がGDPの落ち込みの差を緩和した可能性はあるものの、外出禁止措置による影響の差を打ち消すには至らなかったことに注意してほしい。

2020年のGDPの落ち込みがイギリスにおいて最も大きかった原因の3分の2は、イギリスの行動制限が一番きつかったことで説明される(3.8%ポイント)。アメリカとの差のうち残りは産業特化(観光業と技術発展)によって説明される。財政支出の規模は比較的似通っていた。

GDPの下落についての米欧間の差と、それぞれの内部における差

まず注目すべきは、アメリカ(-5.6%)、イギリス(-11.4%)、EU各国(-8.1%)の2020年のGDPに対するショックの違いは、大部分が前半期に発生した下落によるものであり、各国全体としてみると第3四半期に少なくともアメリカと同程度の経済回復を果たした。すなわち、アメリカのGDPは前半期から第3四半期にかけて失ったうちの70%を取り戻しており、これは大部分の国が55%から80%を取り戻したこのパネルデータ中での平均に位置している(図2)。

図2:前半期におけるGDPの下落と第3四半期における回復

読み方:ヨーロッパ各国(グラフ左)は前半期にGDPの大きな落ち込み(青の棒)を受けたが、他国と同程度の大きな回復を示した。

続いて、感染拡大の影響はヨーロッパ各国でバラバラであり、アメリカの各州においても差があった。

ヨーロッパに関しては、仏・伊・西の10.6%、イギリス11.4%、ドイツ6.5%と比べて北欧諸国では平均4.5%とショックは限定されていた。アメリカでは2020年の落ち込みはユタ州の-0.1%からハワイ州の-8.0%まで差があった。

GDPの落ち込みは実施された制約(ICEA)と整合的であり、それは先進国や規模の大きな途上国だけでなく、アメリカの各州においても同様だった(図3)。しかしいくつかの州は例外的で、特にアメリカの最も大きな4州のうち、アメリカのGDPの20%以上を占める2州、すなわちカルフォルニア(14.7%)とフロリダ(5.3%)は確かに感染拡大危機の影響を大きく受けたものの、制約から予想されるほどには落ち込みはなかった。

これはこれらの州の産業特化(前者は情報技術、後者は医療)によって説明できる。ニューヨーク州(アメリカのGDPの8.1%)とハワイ州は、観光業への依存が強かったために、ICEAによるアメリカの平均よりも大きなGDPの落ち込みを受けた。ハワイにおいては、宿泊業と飲食サービス(同州のGDPの8.5%)の2020年第2四半期における成長率への寄与は前年同期を61%下回った。同様に、ニューヨーク州の宿泊・飲食サービス部門は、2020年第2四半期に前年同期比で70%の落ち込みを記録した。結果、ニューヨーク州の2020年第2四半期におけるGDPは12%の下落を示した。

図3:アメリカ各州とヨーロッパにおけるGDPの下落と行動制限措置(出典:IMF、著者の計算)

読み方:アメリカ各州(黄点)は平均すると、規模の大きなヨーロッパの国(青点、右下の赤で囲った範囲)よりも行動制約が緩く、北欧諸国よりは厳しかった。その他の国(緑点)は差が激しい

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