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ジョセフ・ヒース「インテリは保守の首相になぜヒステリーを起こすのか?」(2015年8月24日)

Stephen Harper versus the intellectuals
Posted by Joseph Heath on August 24, 2015 | politics

スティーブン・ハーパー1 が首相だった時代を思い起こすと、彼が統治に関して2つの重要な「発見」を行ったことがわかる。1つ目は、ケベックでの一切の支持がなくとも国を統治する方法を発見したことだ。2つ目は、インテリ層からの一切の支持がなくとも国を統治する方法を発見したことだ。

後者の芸当は、もちろん前者よりはるかに首尾よく実行できる。なぜなら、インテリは多数の票に影響を与えず、ごく少数の票田にクラスターとして群がるからだ。アメリカの共和党は、ずっと昔にインテリを見限っている。(2004年の大統領選の直前に、アメリカのインテリ達が集まって「ジョージ・W・ブッシュの再選を阻止しよう!」と訴えたニュヨーク・レビュー・ブックスの痛々しい号を今でも私は思い出すことができる。これは何も変えることができなかった。) [Read more…]

  1. 訳注:第28代カナダ首相(在任2006~2015年)。極右政党「カナダ改革党」を出自に持ち、後に2004年のカナダ保守党に結党に関与し党首に就任。2006年の総選挙後にカナダ首相に就任。 []

ジョセフ・ヒース「ナオミ・クライン、追記その2」(2015年4月12日)

Naomi Klein postscript no. 2
Posted by Joseph Heath on April 12, 2015 | environment

これがすべてを変える』を読んで、私はどこかノスタルジックな気分なった。今から10年以上も前の古き良き時代だ。当時、『ブランドなんかいらない』や『アドバスターズ1 』が大流行しており、〔アドバターズの編集長〕カール・ラースンは「『カルチャー・ジャミング2 』は、我らの時代の、60年代の公民権運動、70年代のフェミニズム、80年代の環境保護活動になるだろう」と宣言していた。アンドルー・ポターと一緒に「こいつら全部クソだぜ!」と叫んで楽しんでいたことを思い出した。 [Read more…]

  1. 訳注:カナダに本拠を置くカウンターカルチャーに大きな影響を持っている雑誌。「ウォール街を占拠せよ」で有名なオキュパイ運動等を先導している。 []
  2. 訳注:アドバターズによって提唱されている反資本主義運動。資本・大企業の洗脳に対抗するために、一般市民が資本・大企業のブランド広告等に対して文化的撹乱攻撃を仕掛けて認知不協和的を作り出し対抗しよようとする試みである。例えば、ナイキのスニーカーやヴィトンのバッグの代わりに、自前の「クール」なスニーカーやバッグを使用することで、ブランドによる洗脳価値観を錯乱・転倒させるようとする試みである。 []

ジョセフ・ヒース「大学教授のうっかりはマウント行動」(2017年9月5日)

Absent-mindedness as dominance behaviour
Posted by Joseph Heath on September 5, 2017 | academia

父はむかし、私にある話をした。その何年も前に、父は大学教授としてサスカチュワン大学1 のセントトーマス・モア・カレッジで歴史学を教えていた。父は車を運転して仕事に行き、駐車して、授業を教えに教室へ向かったものだった。しかし家に帰る時、自分がどこに駐車したのか思い出せない事がしょっちゅうあった。サスカチュワン大学は縦横無尽に拡がっている広大な駐車スペースを有する大学の一つだったので、父は何度も自分の車を探してさまよう事を余儀なくされたものだった。

父の教授としての生活は、かつて望んでいたものと比べるとはるかに失望するものへと変わった。それに加えて、同僚とのあらゆる種類の軋轢に巻き込まれていることに父は気が付いた。軋轢があまりにひどくなったので、ある日父はやっとのことで大学を辞職した。辞表を出して駐車場に向かい、辺りを探し回って車を発見し、家まで運転し、二度と大学には戻らなかった。父の話で愉快なのがここからだ。その後の人生の中で、自分の車をどこに停めたのかを忘れたのはその時が最後だった、と父は断言したのである。 [Read more…]

  1. 訳者注:カナダ・サスカチュワン州にある州立大学。 []

ジョセフ・ヒース「移民についてのカナダ特殊論」(2017年7月1日)

Canadian exceptionalism
Posted by Joseph Heath on July 1, 2017 | Canada, immigration, multiculturalism

先日のことになりますが、イギリスの選挙ではジェレミー・コービンが躍進し、フランスではマクロンが現象を巻き起こすことになりました。この両出来事を受けて、右派ポピュリズムの熱狂は崩壊し始めている、といった楽観論が見られます。こういった楽観論が現れたのは、ドナルド・トランプ、彼の存在がある程度は理由になっているでしょう。トランプの選挙とそれに引き続いた彼の言動は、醜悪なアメリカ人の完全な自己標本のようなものになっていました。このトランプの一連の言動は、他国の有権者に「トランプに権力を与えた熱狂を我々は克服しているのだ」と思わせ、これらの国におけるポピュリズムの趨勢に相当のダメージを与えたことは疑うまでありません。(思うにこのトランプの言動はフランスでの出来事において重要な要因になっていました。)

ほんの数ヶ月前だと、〔このような楽観論は全く存在せず〕様々な事情は全く異なって認識されていたのです。当時、カナダでは排外主義が勢いづくような兆候が〔諸外国と比べて〕例外的に観察されず、カナダは特殊なのではないのか、といった議論が国内に蔓延することになりました。私たちカナダ国民皆が見た、ジャスティン・トルドーが笑顔でシリア難民を空港で歓迎している写真が、世界中の新聞に転載されたのです。そして写真が掲載されたことで、カナダ人の多くが、我が国はなぜ特殊なんだろう、と不思議に思うことになりました。

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ジョセフ・ヒース「一分でわかる保守派の反理性主義の歴史」(2015年4月)

Joseph Heath, “A one-minute history of conservative anti-rationalism” (In Due Course, April, 2015)

〔訳注:本稿では、理性および理由という意味を強調するために原文における「rationalism」という言葉を、邦訳『 啓蒙思想2.0―政治・経済・生活を正気に戻すために』栗原百代訳, NTT出版, 2014年で使われている「合理主義」ではなく、「理性主義」と訳出しています。〕

左派の反理性主義はこれまでずっと害悪を撒き散らしてきたが、同時に左派が反理性主義でいるのは自分自身を破滅に至らしめる行為であると指摘しておきたい。というのも、左派というのはどんな形であれ常に進歩というアイディアにコミットしており、進歩とは理性の働きに依拠するものだからだ。我々の社会の中のおける社会的・経済的問題のほとんどは複雑であり、解決するには巧みさと集団行動が必要である。これらは直感に従えば成しえるというものでは、けしてない。そのためアメリカの「リベラル」が自分たちを「進歩派(プログレッシブ)」と再ブランディングしているのには大きな利点がある。はじめに、アメリカで使われている「左派」の同義語としての「リベラル」という言葉は語源的に根拠薄弱だし、歴史的に見て不正確であり、他の英語圏での使われ方と一致しない。ふたつめに、「進歩派」対「保守派」というのは、抽象的な「左派」「右派」より、政治的に何が問題とされているのかを実際によりはっきり捕らえている。左派と右派を分ける核になっているものはフランス革命とその後の反応であり、左派とは理性的洞察を道具として使ってより正しい社会を発展させることにコミットするものであり、右派とはその結果を恐れるか或いは「発展」という価値観に懐疑的なひとびとのことだった。なので、保守派の反理性主義は長い歴史と際立った伝統がある。いやまったく、反理性主義というのは歴史を通して存在する「保守派」の多様なイデオロギーに共通する数少ないもののひとつだ。最初であり最も有名なバージョンは、エドマンド・バーク(または20世紀にはマイケル・オークショット)に最も良く例示される進化論的保守主義の類である。 [Read more…]

ジョセフ・ヒース「将来世代に負担を残すなと言っている人は、嘘を付いてる冷笑家? それともバカなだけ? 永遠の疑問」(2015年1月25日)

Cynicism or stupidity? the eternal questionPosted by Joseph Heath on January 25, 2015 | environment, politics

先日ダボスで、財務大臣のジョー・オリバーはカナダは均衡財政を維持する決意を表明した。オリバーは、均衡財政を世代間の公平性に関したよくある言い回しの「道徳的的問題」として説明してみせた。「我らの子供ら、孫らに、今日の我らが負っている歳出を負担させることは、間違えていると皆さんも考えているでしょう…」

しかしながら、学があるほとんどの人がご存じなように、これは経済的誤謬である。一家総出でレストランで食事して、食べ終えてから、親は勘定をばっくれて、子供たちに支払わせるようなものではない。政府がお金を借りた場合は、〔会計上の金融〕資産と負債が共に生み出され、このどちらもが将来世代に引き継がれることになる。つまり「我らの子供らや孫ら」を含めても状況はそのままなのだ(例えば、ある人がカナダの貯蓄債権を相続したとする。するとその人は〔債権から〕歳入を受け取る。一方で、別の誰かがその歳入への支払いに応じねばならない税負担を相続することになる)。これは、同一世代内での分配効果を持つことになるが、世代を跨いでの分配効果は持たない。唯一の世代を跨いだ問題は、我々が、今貯蓄するか、それとも消費すべきにあり、金利がゼロに近い場合は、この問いに答えるのはそれほど難しくない。 [Read more…]

ジョセフ・ヒース「タバロックへの返答」(2015年4月22日)

Response to Tabarrok Posted by Joseph Heath on April 22, 2015

〔『啓蒙思想2.0』本文の訳は、邦訳『 啓蒙思想2.0―政治・経済・生活を正気に戻すために』栗原百代訳, NTT出版, 2014年 より引用しました。〕

Marginal Revolution のアレックス・タバロックが最近、寛大にも『啓蒙思想2.0』の告知と、さらにはThe New Rambler での長い書評を(『資本主義は我々を愚かにするか?』という見出しで)書いてくれた。私はこの10年以上ずっと、 Marginal Revolution の熱心な読者でありファンだったので、これはとてもエキサイティングだった。書評ではまた、いくつもの興味深い問題点が提起されており、コメントしようかなと思った。

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ジョセフ・ヒース「『反逆の神話』刊行15周年インタビュー」(2019年5月9日)

[Joseph Health, “The Rebel Sell at 15,” In Due Course, May 9, 2019]

アンドリューとぼくの共著で出した『反逆の神話』でおもしろいのは,スペインでベストセラーになったことだ.この前,刊行15周年で Manuel Mañero にインタビューを受けた:”15 años después, la contracultura gira a la derecha.” 省略なし全文の英語版をこちらに掲載しよう(質問には著者両名が答えた.)
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ジョセフ・ヒース「ワクチン接種は集合行為問題だ」(2015年2月5日)

Joseph Heath, “Vaccination is a collective action problem“, (In Due Course, February 5, 2015)

何週間か前、集合行為問題の理屈を理解することは多くの人にとって難しい、という投稿を書いた(ホッブズの難しいアイディア)。集合行為問題とは、人々のやりとりがよくない結果にいたるのだが、だれもそれを止める動機を持たない、という状況のことだ。

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ジョセフ・ヒース「ホッブズの難しいアイディア」(2014年12月15日)

Joseph Heath, “Hobbes’s difficult idea” (In Due Course, December 15, 2014)

ポール・クルーグマンの「リカードの難しいアイディア」は私のお気に入り論文のひとつである。そこでは、どうして人々が「比較優位」の概念を理解するのがこれほど大変なのかの理由が述べられてい。比較優位ほどひどい状況ではないとは言え、「集合行為問題」も理解が難しい概念であるということを最近思い知らされ。この概念は比較優位よりもう少し長い歴史があが、集合行為問題を「ホッブズの難しいアイディア1 」と呼んでも歪曲にはならないだろうと思っている [Read more…]

  1. 訳注:ホッブズは、人間が各人の欲望の赴くままに行動すると「万人の万人にたいする戦争状態」となって悲惨なことになってしまうので、人間は国家の支配に服して各人の権利が制限されることで逆説的により幸福になると考えた。この考えは集合行為問題の萌芽と言える。 []