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ジェームズ・ハミルトン「Libra:Facebook暗号通貨の経済学」

James Hamilton “Libra: economics of Facebook’s cryptocurrency” Econbrowser, June 24, 2019


先週1 ,Facebookは新たな国際暗号通貨Libraの構想を発表した。このLibraという名前は,銀1ポンドに基づき中世を通じてフランスの貨幣だった”livre”と,ラテン語で「自由」を意味する”liber”の合成のように思える2 。Facebookは,従来の銀行にアクセスのない世界の17億人の成人に対してLibraが国境を越えて資金を簡単に転送する自由を与えると主張している。

お金は3つの特質によって定義される。すなわち,計算の単位(私たちが買うものは大抵ドルで値付けされている),交換の媒介(そうしたものを買う際には,売り手に自分のドルをあげて支払えばよい),価値の貯蔵(自分の富は支出したくなるまでドル現金で確保しておける)だ。

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  1. 訳注;2019年6月18日 []
  2. 訳注;ぱっと見ではLibraの名称について公式に解説した記事はなかったものの,ラテン語で”Libra”は天秤を指すとともに,重量の単位,銀貨を指した(フランスの重量・通貨単位livreの語源)。ただし,フランス語でLivreは英語のbookなので(重量・通貨単位のlivreと語源は異なる),Face”book”に通じると言えるのかもしれない。 []

ジェームズ・ハミルトン 「的の中心を射抜かん! ~Fedが掲げる『バランスのとれたアプローチ』を可視化すると・・・~」(2014年3月2日)

●James Hamilton, “A bull’s-eye for Fed accountability”(Econbrowser, March 2, 2014)


この前の金曜日に、ニューヨークに足を運んで、U.S. Monetary Policy Forumに参加してきた。私も顔を出したセッションの一つでは、非伝統的な金融政策を行使する上での戦略をめぐって、中央銀行が国民やマーケットを相手に円滑なコミュニケーションを図るにはどうしたらよいか、という問題がテーマとなっていたのだが、そのテーマとの絡みで、シカゴ連銀総裁のチャールズ・エバンズ(Charles Evans)が非常に興味深いアイデアを開陳していたので、それを以下に紹介するとしよう。

効果的なコミュニケーションを図る上で何よりも重要なのは、Fedが一体何を達成しようとしているのか(何を目標としているのか)をはっきりとさせることにある、とはエバンズの言。連邦議会は、Fedに対して、「物価の安定」と、「雇用の最大化」という、二重の責務(デュアル・マンデート)を課しているが、その具体的な内容となると? [Read more…]

ジェームズ・ハミルトン 「エコな日本?」(2007年7月9日)

●James Hamilton, “Energy use in Japan”(Econbrowser, July 9, 2007)


一週間ほど前まで、日本に滞在していた。東京にあるいくつかの大学と日本銀行で講演を行うのが訪日の目的だったのだが、それはさておき、驚きを禁じ得ないことがあった。東京では、南カリフォルニアとは大違いのやり方で、エネルギーが使われているようなのだ。

1999年からこれまで(2007年まで)の間に、日本における石油の総消費量は、年率に換算すると1%のペースで減っている。その一方で、同期間に、アメリカにおける石油の総消費量は、年率換算で0.8%のペースで増えている。日米間でかような違いが見られるのは、なぜなのだろうか? 日本の方が経済成長の伸びが鈍いというのも理由の一つではあろうが(日本の実質GDP成長率は年当たりに換算すると1.6%、米国のそれは2.7%)、エネルギーの使い方にまつわる習慣の違いも一因となっているように思われる。


福島駅にある駐輪場

私が直接言葉を交わした(東京で働く)日本人に限っていうと、職場まで自家用車で通勤しているという人は(車通勤を選択肢の一つに入れているという人さえも)、一人もいなかった。誰もが電車通勤。駅までは、バスを利用するか、自転車を漕ぐか、徒歩で向かうか。

東京で車通勤が忌避されているのは、アメリカに比べて、ガソリンの価格がべらぼうに高いからというわけじゃない。東京近郊にあるガソリンスタンドで、レギュラーガソリンが1リットル当たり136円(1ガロン当たりおよそ4.20ドル)で売られているのをよく目にしたものだ〔2007年7月時点の話〕。私が暮らす(南カリフォルニアにある)サンディエゴでは、レギュラーガソリンの価格が今年(2007年)の春に1ガロン当たり最高で3.50ドルに達したことがあったが、それに比べると、確かに東京の方がガソリンの価格は高くはあるが、かといって、べらぼうに高いというわけでもない。

東京では、駐車場代が高い。そんな不満の声をよく耳にしたものだ。私が観察した範囲でいうと、駐車場に車を1日預けておこうとすれば、2000円(およそ16.30ドル)はかかる、というのが典型的なケースのようだ。さらには、高い駐車場代を支払う意思があっても、駐車場に空きがあるとは限らない。職場で従業員のために駐車場を用意してくれていればいいが、そうなっているわけでもない。

駐車場の問題もあるが、個人的に一番しっくりくる説明は他にある。自分で車を運転するよりも、電車を利用した方が、通勤時間が短くて済む、というのがそれだ。東京だと、ほんの数分も待てば、目的の電車に乗れる一方で(私も東京にいる間に、ほとんど待つこともなく、1日のうちに何本も電車を利用したものだ)、車を運転して都内の主要道路を通り抜けようとすれば、渋滞に巻き込まれること必至だ。何年か前になるが、東京都が交通インフラの強化策を打ち出したが、その対象として選ばれたのは、駐車場や道路ではなく、鉄道だったものだ。

日本の隣国たる中国は、今後のエネルギー政策のお手本をどこに求めたらよいかと模索している最中のようだが、私ならどの国をお薦めするかはおわかりだろう。

ジェームズ・ハミルトン 「東京で目の当たりにした英語表記の数々」(2007年7月10日)

●James Hamilton, “English for fun and profit”(Econbrowser, July 10, 2007)


東京滞在記〔拙訳はこちら〕の続きになるが、東京の街中を歩いていて目を引かれることは他にもある。日本では、英語がビジネスの世界にロマンティックなかたちで取り入れられているようなのだ。英語がメタファー(暗喩)として自由闊達に援用されており、日本人の間では、一つひとつの英語の表現が、アメリカ人が受け取るのとは違った意味で通用しているらしいのだ。いくつか例を紹介するとしよう。

まずは、「フレッシュネスバーガー」。日本で人気のハンバーガーチェーンの社名らしい。

散髪に行くなら、どこがお薦めだろうか? 「エンジェルゲート」(「天使の扉」)?1 他に心当たりはある?

「エンジェルゲート」の隣には、黄色の文字で「ボーディングハウス」(「下宿」)と紹介されている建物(マンション)があるが、その入り口には、“smoky”(「煙たいです」)との売り文句が大書された看板が掲げられている2。「エンジェルゲート」で散髪してから隣の“smoky”な建物に寄るよりは、まずは“smoky”な建物に寄ってからその後に「エンジェルゲート」で散髪した方が得策だろう3

以下の店を訪れるお客は、一体何を買うつもりなのだろうか? 私には見当がつかない。

ところで、英語よりも日本語を得意とする御仁に朗報だ。横浜国立大学の教授である沖本竜義氏と、成蹊大学の教授である井上智夫氏の両名(日本滞在中に、天晴れなホスト役を務めてくれた二人)が、拙著の『Time Series Analysis』を日本語に訳してくれたのだ。上下二巻本として出版されたばかりで、売れ行きは順調らしい。

邦訳版でも、きらりと光る記述は元のまま(英語表記のまま)のようだ。

  1. 訳注;以下の画像にある美容室の店名は、「エンジェルゲート」ではなく、「ヘアスペース・クラッシー」が正解のようだ。 []
  2. 訳注;建物の一階にはバーが入っており、その店名が“smoky”(「スモーキー」)ということのようだ。 []
  3. 訳注;「エンジェルゲート」で散髪してスッキリした後に、わざわざ「煙たい」建物の中に入っていくよりも、「煙たい」建物の中に入って頭髪が汚れた後に、「エンジェルゲート」で散髪する方が望ましい、という意味。 []

ジェームズ・ハミルトン 「小人閑居して不善を為す ~バイオレンス映画の(短期的な)犯罪『抑止』効果~」(2007年5月1日)

●James Hamilton, “Idle hands are the devil’s workshop”(Econbrowser, May 1, 2007)


カリフォルニア大学サンディエゴ校教授であり、私の同僚でもあるゴードン・ダール(Gordon Dahl)と、カリフォルニア大学バークレー校教授のステファノ・デラヴィーニャ(Stefano DellaVigna)の二人が、共著で興味深い論文を物している。題して、“Does Movie Violence Increase Violent Crime?(pdf)”(「バイオレンス映画は暴力犯罪を誘発するか?」)。

まずはじめに、ダールとデラヴィーニャの二人は、アメリカで封切られたバイオレンス映画の観客動員数の推移に目を付け、その数が週ごとに大幅な変動を見せていることを確認した。二人の論文から拝借した以下のグラフをご覧いただきたいが、ここ最近の傾向として、ブロックバスター映画(超大作映画)の最新作が封切られた週(公開第一週目)には、かなりの数の観客が映画館に足を運んでいることがわかる。

さらに二人は、アメリカ国内における暴力犯罪(暴行罪と脅迫罪)の発生件数の推移に目を付け、この数もまた、週ごとに大幅な変動を見せていることを確認した。もしかして・・・。ダールとデラヴィーニャの二人は、ピンと来た。両者(バイオレンス映画の観客動員数と、暴力犯罪の発生件数)の間には相関があるのではないか、と。念のために確かめてみると、やはり両者の間には相関が確認されたが、その詳細(正と負の、どちらの相関なのか)については、おそらく誰もが予想だにしないものであるに違いない。バイオレンス映画を観るために映画館に集まった人の数(観客動員数)が多い日ほど、暴力犯罪の発生件数は――観客らが映画館に滞在している可能性のある時間帯(午後6時から深夜12時までの間)においてだけではなく、それ以降から翌日の朝にかけての時間帯(深夜12時から午前6時までの間)においても――「少ない」傾向にあることが見出されたのだ。以上の関係は、映画会社によるブロックバスター映画の公開予定日の決定に影響を及ぼすような一連の季節要因(その一連の季節要因は、映画のバイオレンス度とは別の理由で、暴力犯罪の発生件数と何らかの関係を持つと思われる要因)をコントロールした後もなお、変わらず確認されるようだ。さらには、暴力犯罪を抑制する上で一番大きな効果を備えていると思われるのは、最高度のバイオレンス度を誇る映画(kids-in-mind.comでの評価で、8~10のバイオレンス度1と判定されている映画)ということのようなのだ。

ダールとデラヴィーニャの二人も論文の中で触れていることだが、従来の膨大な先行研究(実験結果)では、正反対の(そして、一見すると自然に思える)結論――暴力的なシーンの視聴は、暴力行為を誘発する可能性あり――が導き出されている。しかしながら、ダールとデラヴィーニャの二人は、怯むことなく、こう指摘する。従来の研究では見逃されている要因がある。それは、隔離(閉じ込め)効果だ、と。つまりは、映画館にいる間(映画館でバイオレンス映画を観ている最中)は、路上でたかりを働くことなどできやしないのだ。さらには、暴力行為を抑制する効果は、映画館を出た後も続くかもしれない。映画を観て過ごしたおかげ(アルコールが売られていない映画館で時間を過ごしたおかげ)で、そうでない場合よりも、アルコールの摂取量が減り、そのために、アルコールが原因で他人とトラブルを起こす危険性が抑えられる可能性があるのだ。映画の内容が暴力的であればあるほど、暴力行為に手を染めるおそれのある(気性の荒い)者たちが路上を離れて(バイオレンス映画を観るために)映画館に足を運ぶ可能性も高まる。ダールとデラヴィーニャの二人はそう理屈付けている。

ハリウッドには、映画の中に血しぶきが飛び散るシーンをこれまで以上にドシドシ盛り込んでもらいたいものだ。・・・なんて結論を引き出したいわけではない。そうではなく、建設的な活動の機会を確保して、暴力行為に手を染めるおそれのある若者たちを、そこへドシドシ引き込むべしと言いたいのだ。そうすれば、公共の利益に大いに適う可能性があるのだ。

  1. 訳注;0から10までの値をとり、数値が大きいほど、バイオレンス度も高い。 []

ジェームズ・ハミルトン 「もしもアメリカが金本位制に復帰していたら(その2)」(2012年9月1日)

●James Hamilton, “Return to the gold standard”(Econbrowser, September 1, 2012)


2012年度の共和党の政策綱領には、金本位制への復帰の可能性を検討する委員会の設置が盛り込まれるのではないか。そのような憶測がメディアの一部で報じられていたが、出来上がった綱領(pdf)を読む限りでは、金については一言も言及されておらず、これといって害をもたらしそうにない提案に落ち着いたようだ。

かつてレーガン大統領は、大統領就任直後に、米国の通貨を貴金属で裏付けるべきかどうかを検討する委員会を設置した。その委員会の最終的な結論は、「ノー」というものだった。あれから30年が経過しようとしているが、我々の目の前には、現政権がこれまでに行ってきた政策の残滓をきれいさっぱり洗い流すという重要な課題が立ちはだかっている。レーガン大統領に倣って、どうやったらドルの価値を安定させられるかを検討する委員会を設置すべき時が来たのだ。

まともな意見が大勢を占めたようで、ありがたく思うべきところだが、そう考える理由についていくらか言葉を費やしておいたほうがいいだろう。

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ジェームズ・ハミルトン 「もしもアメリカが金本位制に復帰していたら(その1)」(2008年5月9日)

●James Hamilton, “What if we’d been on the gold standard?”(Econbrowser, May 9, 2008)


仮にアメリカが2006年に金本位制に復帰していたとしたら、今頃どうなっていただろうか? 友人でもある経済学者のランドール・パーカー(Randall Parker)と会話している最中に、ふとそのような疑問が話題になった。我々2人が辿り着いた結論を以下に述べさせてもらうことにしよう。

2006年に金のドル建て価格は1オンス当たり600ドルを突破したが、アメリカ政府がその当時の情勢を踏まえて、「金1オンス=600ドル」の交換比率(平価)で、ドルと金を交換(兌換)することを保証する(金本位制に復帰する)決断を下したと仮定しよう。アメリカが2006年にそのようなかたちで金本位制に復帰していたとしたら、多くのことが今とは違っていた可能性がある。しかしながら、まずは、今とは変わっていないと思われる事象から先に触れておくとしよう。仮にアメリカが2006年に金本位制に復帰していたとしても、ナイジェリアやイラク、イランといった地域を舞台とする地政学的なリスクを心配する声は今とそう変わりはなかっただろうし、おそらくアジア経済も驚異的な勢いで成長を続けたことだろう。さらには、信用力の低い相手を対象に貸し出された住宅ローンに潜む問題も次第に露わとなり、それに伴って、多くの金融機関の健全性に疑いの目が向けられる事態1に相変わらず陥っていたことだろう。これまでに触れてきた一連の事象はいずれも、金に対する需要を高める要因として働いたことだろう。その結果として、(金に対する需要の高まりを背景として)金の相対価格は、2006年以降に上昇傾向を辿ったことだろう。言い換えると、1オンスの金を手に入れるのと引き換えに、手放さなければならない財の数量――例えば、傘の本数だったり、車の台数だったり、椅子の数だったり――は、2006年以降にますます多くなっていたことだろう。 [Read more…]

  1. 訳注;サブプライム危機 []

ジェームズ・ハミルトン 「『大恐慌の経済学』 ~大恐慌研究のスペシャリストである経済学者12人は何を語るか~」(2007年5月30日)

●James Hamilton, “Economics of the Great Depression”(Econbrowser, May 30, 2007)


イースト・キャロライナ大学の教授である、ランドール・パーカー(Randall Parker)の『The Economics of the Great Depression』(「大恐慌の経済学」)が(2007年5月中に)出版されたばかりだ。光栄なことに、この本には私へのインタビューも収録されている。

本作は(パーカーが2003年に出版した)『Reflections on the Great Depression』(邦訳『大恐慌を見た経済学者11人はどう生きたか』)の続編である。前作では、1929年から1939年まで続いた大恐慌(Great Depression)を直に体験した、著名な経済学者たちへのインタビューが収められているが、本作では、大恐慌から半世紀経た地点からあの当時の出来事を理解しようと注力している、経済学者たちへのインタビューが収められている。一例を挙げると、ベン・バーナンキ(Ben Bernanke)やロバート・ルーカス(Robert E. Lucas)、アラン・メルツァー(Allan Meltzer)といった大物たちがインタビューに応じている1

私へのインタビューを、ほんの一部だが、以下に引用しておこう。 [Read more…]

  1. 訳注;他には、ピーター・テミン(Peter Temin)、リー・オハニアン(Lee Ohanian)、クリスティーナ・ローマー(Christina Romer)、バリー・アイケングリーン(Barry Eichengreen)、スティーブン・チェケッティ(Stephen Cecchetti)、ジェームズ・バッキーウィッチ(James Butkiewicz)、マイケル・ボルドー(Michael Bordo)、チャールズ・カロミリス(Charles Calomiris)へのインタビューが収められている。 []

ジェームズ・ハミルトン 「原油価格の急落は景気の下振れをもたらすか?」(2014年12月21日)

●James Hamilton, “Do falling oil prices raise the threat of deflation?”(Econbrowser, December 21, 2014)


原油価格が急速な勢いで下落している昨今だが、その影響でアメリカ国内のインフレ率がFedの目標である2%を大きく下回る可能性がある。仮にそうなった場合、アメリカ経済は新たなリスクを抱え込むことになるだろうか? 私の答えは「ノー」だ。以下で、そう考える理由を説明するとしよう。

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PCEデフレーターの月次ベースの変化率(前年同月比)の推移(データの出所;FRED

経済学の理論的なモデルでは、「インフレ」というのは、名目賃金を含めたあらゆるモノ(財やサービス)の価格が同時に同じ割合だけ上昇する状況を指すことが多い。名目金利が一定のままであれば、(先のような意味での)「インフレ」(率)が低ければ低いほど、資金の借り入れに伴って負担せねばならない実質的なコスト(実質金利)は高まることになる。アメリカでは、短期名目金利がゼロ%の水準に張り付いたままの状況が続いているが、かような中で「インフレ」が低下することになれば、(実質金利が高まるために)総支出(総需要)の収縮が引き起こされる可能性がある。Fedとしては、そうなって欲しくないことだろう。理論的にはそういう話になる。

その一方で、世の中の消費者たちは、経済理論が説くのとはかなり違ったかたちで、「インフレ」というものを理解しているようだ。「インフレ」というのは、名目賃金の水準はそのままで、頻繁に購入する財やサービスの価格が上昇する状況のこと。世間ではそのように理解されているのだ。そのことを踏まえると、「インフレ」の引き上げを追い求めるFedに対して、大半の消費者が眉をひそめるのも頷けるところだ。

今年の秋以降の原油価格の変動に備わる効果は、どちらかというと、世間一般の人々が抱く物価観(ものの見方)によってうまく捉えられそうだ。アメリカ国内におけるガソリンの平均小売価格の現状は、1ガロン当たりおよそ2.40ドル。昨年を振り返ると、ガソリンの平均小売価格は1ガロン当たり3.60ドルで、アメリカ国内におけるガソリンの消費量は1年間で1350億ガロンに上った。今年1年間のガソリンの平均小売価格が現状のまま1ガロン当たりおよそ2.40ドルで、アメリカ国内でのガソリンの消費量が昨年と変わらない(昨年と同じく、1350億ガロンのガソリンが消費される)ようであれば、合計でおよそ1600億ドルのお金が浮く計算になる。アメリカ全土の世帯数は1億1600万世帯なので、1世帯あたりに換算すると1400ドル分のお金が浮く計算になるわけだ。

低所得世帯にとっては、特に大きな「棚ぼた」と言えるだろう。というのも、低所得世帯ほど、所得に占めるエネルギー消費の割合が高いからだ。

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データの出所;Daniel Carroll

世の消費者たちは、かような「棚ぼた」を手に入れるや、高額の耐久財――景気の動向を左右する上で大きな役割を担う財――の購入に前向きになる傾向にある。過去のデータはそう告げている。

結論を述べるとしよう。ガソリン価格の下落を伴うデフレ(ないしは、インフレの低下)は総需要を収縮させそうかというと、そうはならなそうだ。Fedに対して金利の引き上げ(ゼロ金利の解除)に動くのをもう少しだけ辛抱させる効果はありそうだけどね。

ジェームズ・ハミルトン 「サウジアラビアは原油価格の急落にどう対応するだろうか?」(2014年10月19日)

●James Hamilton, “How will Saudi Arabia respond to lower oil prices?”(Econbrowser, October 19, 2014)


今年の夏以降、原油の価格が(その他の数々のコモディティの価格とともに)急落している〔拙訳はこちら〕。このような事態を受けて、サウジアラビアが原油の減産に動くのではないかとの観測が取り沙汰されている。私の予測を一言でまとめると、次のようになるだろう。そのような可能性はあまり期待しない方がいい。

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データの出所:FRED

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