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G.オッタヴィアノ「経済地理の逆襲:ヨーロッパの地域格差と選挙動向」(2019年7月3日)

[Gianmarco Ottaviano, “The economic geography of sovereignist Europe,” VoxEU, July 3, 2019]

経済地理が逆襲しつつある――グローバル化の時代に「距離は死滅する」とお手軽な論議が20年ほど続いてきたが,みんなの生活水準が上がっていく世界という約束は,各国内部の地域差のしぶとさによって突きつけられる挑戦はますます強まってきている.多くの人々や企業が地理的に流動的でないかぎり――おうおうにしてもっとも高技能で生産的な人々や企業が流動的でなかったりするかぎり――遠く離れた人々どうしのやりとりがさらに簡単になっても,集積の経済は弱められるどころか,むしろ強化される.この角度から見たとき,ヨーロッパで近年見られる選挙傾向は驚くほどよく理解できる.

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グズマン,オカンポ,スティグリッツ「経済開発のための実質為替レート」

Martin Guzman, José Antonio Ocampo, Joseph Stiglitz ”Real exchange rates for economic development” VOX.EU, 21 February 2019

経済開発における為替レート政策については,依然として広く議論が行われている。本稿では,競争力のある安定した実質為替レートを確保する政策には理論的基礎があることを主張する。利用可能な一連の政策手段に制約がある場合,伝統的な輸出部門に対する輸出税に加え,競争力のある為替レートを補完的に使用することにより,事実上の複数実質為替レートがもたらされる。競争的のある為替レートを維持し,国外からの資金の流れの景気サイクルや交易条件による為替レートへの影響を弱め,ひいては成長と安定を促進するためには,外国為替介入と資本収支規制の双方を効果的に使用できることが実証的な証拠によって示唆されている。 [Read more…]

オリビエ・ブランシャール&ローレンス・サマーズ「経済学の進化か革命か」

Olivier Blanchard, Lawrence H. Summers “Evolution or revolution: An afterword” VOXEU, 13 May 2019

大恐慌と1970年代の大インフレによって生まれたマクロ経済学思想の変化は,過去10年の出来事を受けて起きたものよりもずっと劇的なものだ。本稿では,低い中立金利,安定化の主要手段としての財政政策の再浮上,インフレ目標到達の困難,低金利環境による金融への影響の組み合わせが,私たちのマクロ経済学理解や最良の結果をどのように達成するかについての政策判断に大きな変化をもたらすことで,この〔過去の経済学思想の変化の大きさと現在のそれとの間の〕格差が今後数年で縮まるだろうことを論じる。 [Read more…]

カール・アイギンガー 「ポピュリズム: 根本原因、帰結、そして対策」(2019年4月20日)

Karl Aiginger, “Populism: Roots, consequences, and counter strategy“, (VOX,  20 April 2019)


ポピュリズムが体現するもの、それは自由民主主義、多元主義、人権、そして意見交換に対する挑戦である。本稿では、ポピュリズムの特徴と原動力を精査したうえ、EUとその加盟国が取りうる戦略的対応に考察を加えてゆく。そこには、ヨーロッパが福祉・低失業率・低格差を兼ね備えた高所得社会のロールモデルにして、脱炭素化と公共部門運営のリーダーたる存在となるヴィジョンもふくまれる。

ポピュリズムの定義は容易でない。だが、それが自由民主主義、多元主義、人権、そして意見交換に異議申し立てをするとき、その影響は誰の目にも明らかになる。近日開催される欧州議会選挙では、様々なポピュリスト政党がヨーロッパの在り方に対する影響力を獲得するかもしれない。これら政党の要求は、ヨーロッパ拡大を止めて移民流動を未然に防ぐこと、ユーロの廃止、人道問題や気候に関する国際的な取決からの離脱である。

三つの特徴と一つの加速因子

ポピュリズムの第一の特徴は、一個の社会が直面する問題をめぐる、過度に単純化され、しかも悲観的な解釈だ。こうした解釈が政治的影響力の獲得手段として用いられている。第二は、清く正しい一般市民からなる大集団を一方、自己利益に奉仕する腐敗した経済マイノリティないし文化マイノリティを他方とする二極化であり、社会を支配しているのは後者だとされる。第三は、多元主義、グローバル化、多国間主義はネガティブなものであると宣言することだ。これらは人民の均質性を危うくし、諸国は自国民が適切と考えるやり方で自らの問題を解決する権利を剥奪されてしまうのだから。遠く離れた国から、キリスト教以外の宗教を携えて、何の資格も持たない人達が移住してくる恐怖は、今日のポピュリズムを加速させている因子である。かつての左翼ポピュリストにあった開放礼賛的な側面は見られない。

いくつかの根本原因

ポピュリズムが四つの相互に関係した根本原因をもつことは、実証的に明らかになっている (Fukuyama 2018, Guriev 2018, Mudde and Kaltwasser 2018)。経済的な根本原因は、所得の低迷、失業、そして格差 – 個人レベルでも、地域レベルでも – にある。文化的な根本原因は、(ジェンダー平等や新しいライフスタイルといった) 自由主義的価値観の支配力の強まりだ; ポピュリストは、保守的価値観をふたたび容認可能なものにしようとする。第三の原因は、恐怖と不確実性。経済であれ文化であれテクノロジーであれ、急激な変化について回る帰結である。そして政策失敗、第四の原因はこれだ; 構造改革やテクノロジー改革からの落伍者、あるいはグローバル化の敗者に対し、補償も支援も与えないならば、彼らは制度を信頼しなくなる。

投票行動に関する社会経済的エビデンス

ポピュリスト政党はつぎの二つの集団にとって魅力がある: 低所得部門 (必ずしも最も所得が低い層ではない)、そしてミドルクラス層 (典型的には徒弟訓練を修了した者) である。ポピュリストへの投票行動は、所得の増加および教育水準の増加とともに減少する。そのことと部分的に重なるが、ポピュリスト候補の得票率は、製造業におけるブルーカラー労働者および低技能労働者、また比較的高齢の層や男性、そして地方において高くなっている。興味深いことに、地方での得票率は、移民の割合が大きくなるほど減少する。また住民が移民との個人的な接触経験をもっている場合も同様だ。

権力への歩みと足場固め

ポピュリスト政党はまず何らかの連立関係をむすぶ。通常、相手は主流保守政党である。政権を取ると、これら連立与党は政策アジェンダを変更する。選んだ政策手段が経済問題を悪化させてしまった場合、外部の敵対勢力なるものが発明される。(ジョージ・ソロスから移民そしてブリュッセルの中央集権論者にいたる) こうした敵対勢力が、予期されていた成功を妨害しているというのである。投票手続きが変更されると、「実力者 (strongmen)」 が憲法上のチェック・アンド・バランスを撤廃し、司法制度とメディアに対する影響力を強め、かくしてヨーロッパの規範は無視されるようになる。EUからの離脱は多数派の獲得には至っていない。そこで急進的かつ非現実的なEU改革が要求されることになる。そこには個別の国によっては解決しようのないのが明らかなイシューさえ含まれる – たとえば犯罪、投機、脱税、気候変動などだ。

ポピュリスト政党が政権内で担う役割が強化されると、貿易と投資に関する取決やグローバル化の在り方に対するヨーロッパの役割が弱まる (Rodrik 2017)。中国はこの弱点を利用し、シルクロードの拡大、そしてアフリカおよび南ヨーロッパにおけるインフラの買収を進めている。ヨーロッパ内では、東と西の断裂が広がっている。ポピュリストは左派も右派もロシアとの協調に意欲的であり、西バルカン諸国における平和活動を危殆化している。

戦略的対応

主流政党はしばしば 「ライトなポピュリズム (populism light)」 – 急進性や排外主義の点で僅かに穏当なポピュリスト政策アジェンダ – に向かって進んでゆく。しかしそうなれば経済問題は貿易規制のため悪化し、不確実性と悲観主義が強まってしまう。

オルタナティブは、誤った枠組み設定を正すところから始まる (Aiginger 2019)。EUに経済問題が存在するのはたしかだが、一般的に言って30年前より福祉は向上しているし貧困も減っている。平均寿命はいまも上がり続けているが、これは合衆国と対照的だ。EUは紛争の絶えぬ大陸に平和をもたらしてきたのである。

第二に、EUとその加盟国は、統治と移民流動と高齢化に関する新戦略を必要としている。加盟国は共同の取り組みにおいてこそ良く為しうることは何かについて意見を合わせておくべきだ。アフリカの人口は今世紀中に四倍になりそうだが、南ヨーロッパや東ヨーロッパでは20~30歳人口の割合が三分の一も減る、あるいは半減さえするのではないか (Rodriguez-Pose 2018)。移民流動はポリシーミックスを必要としている – 一方では、資格のある移民を誘致しつつ、人道問題による避難民には職業訓練と社会統合をほどこすこと; 他方では、アフリカにおける投資・教育・統治の戦略を工夫すること。以上はポピュリストの提言する政策手段とは大きく異なる。

第三段階となるのは2050年のヴィジョンである。ヨーロッパは、福祉・低失業率・低格差を兼ね備えた高所得社会のロールモデルにして、脱炭素化と公共部門運営のリーダーたる存在にならなければならない。イノヴェーションは社会目標を原動力とすべきで、単なる労働生産性にフォーカスするばかりではいけない。このことは、労働からエネルギーへの税源シフトを含意する。また失業については、これを生涯的な社会給付でファイナンスすることはできず、むしろテクノロジー変化に適応できるよう若者のエンパワーメントを計ることで、事前に予防してゆかねばならない。

最後になるがこれも重要だ。EUは市民との繋がりを再び築き上げなければならない。ヨーロッパ計画が知的に支持されるだけでなく、共感をもって応援されるように。そのためには、ヨーロッパの統合が厚生を向上させる理由を訴えるナラティブが求められる: すなわち 「人生の選択肢を広げてくれるヨーロッパ (A Europe that empowers and increases life choices)」 である。

参考文献

Aiginger, K (2019), “Populism and economic dynamics in Europe”, Policy Paper 1/2019, Policy Crossover Center Vienna – Europe.

Fukuyama, F (2018), Identity: The Demand for Dignity and the Politics of Resentment, Profile Books.

Guriev, S (2018), “Economic Drivers of Populism”, AEA Papers and Proceedings (108): 200-213.

Mudde, C, and R Kaltwasser (2018), “Studying Populism in Studying Populism in Comparative Perspective”, Comparative Policy Studies 51(13): 1667-1693.

Rodriguez-Pose, A (2018), “The revenge of the places that don’t matter (and what to do about it)”, Cambridge Journal of Regions, Economy and Society 11(1): 189-209.

Rodrik, D (2017), “Populism and the Economics of Globalization“, CEPR Discussion Paper 12119.

 

 

マリア・ヴィクトリア・アナウアティ, セバスチャン・ガリアーニ, ラミーロ・ガルベス 「経済ジャーナル階層の違いによる引用パターンの差異」(2018年10月9日)

Maria Victoria Anauati, Sebastian Galiani, Ramiro Gálvez, “Differences in citation patterns across journal tiers in economics” , (VOX,  09 October 2018)


経済学では、ごく限られた一流ジャーナルにおける発表がかなり重視されている。だが、ジャーナルの評判は必ずしも引用パフォーマンスに即応しない。本稿では、ジャーナル階層が違うと引用パターンも大幅に異なり、そこから論文の総引用数および引用ライフサイクルの双方にも影響が出ている実態を記述してゆく。とはいえ本結果が示唆するところ、トップファイブの座を占めるジャーナルは重視され過ぎているようだ。

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ゼバスチアン・ドゥー, ホセ-ルイス・ペイドロ, ハンス-ヨアヒム・フォーツ 「銀行破綻はかくしてヒトラーに権力への道を敷いた: ドイツにおける金融危機と極右勢力, 1931-33」(2019年3月15日)

Sebastian Doerr, José-Luis Peydró, Hans-Joachim Voth, “How failing banks paved Hitler’s path to power: Financial crisis and right-wing extremism in Germany, 1931-33“, (VOX, 15 March 2019)

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フィリップ・アギオン et al.「イノベーション、不平等、社会的流動性」(2015年7月28日)

●Philippe Aghion, Ufuk Akcigit, Antonin Bergeaud, Richard Blundell, David Hemous “Innovation, income inequality, and social mobility” 28 July 2015

ここ数十年、特に先進国において、トップ所得格差は加速的に拡大し続けてきた。本コラムでは、イノベーションがトップ所得格差の拡大を説明しており、社会的流動性を強化することを主張する。特に、社会的流動性に対するイノベーションのポジティブな効果は新しいイノベーターによる。 [Read more…]

バウアー他「集団意思決定の暗黒面:外部の人間への敵意」

Michal Bauer, Jana Cahlíková, Dagmara Celik Katreniak, Julie Chytilová, Lubomír Cingl, Tomáš Želinský “The dark side of decision-making in groups: Nastiness to outsiders“, VOXEU, January 5, 2019

集団は個人よりもより利己的に行動し,それがその構成員の意思決定にも影響を与えるということについて経済的な合意がある。本稿では,単にある集団の構成員になるだけで私たちは外部に対してより反社会的になってしまうという社会心理学上の別の仮説を支持する,スロバキアとウガンダにおける実験から得られた新たな証拠について述べる。ある組織において,集団内部の結束は暗黒面ももたらしうるのだ。外部の人間への敵意を強化するという形で。 [Read more…]

ポール・クルーグマン「失墜した経済思想」(2017年9月22日)

Paul Krugman, Discredited Ideas (Video VOX, 22 September 2017)

金融危機とその後の状況は私たちが思ったように理解不可能なものだったでしょうか。この動画では、ポール・クルーグマンは私たちが学ぶことのできる四つの見解をあげています。この動画は2017年9月22日に開催された「金融危機から10年」と題されたカンファレンスで録画されたものです。1  [Read more…]

  1. 訳注:本訳はクルーグマンが実際に話しているものをもとにしており、動画の英語字幕とは必ずしも一致しません。 []

チャド・ジョーンズ「新しいアイデアについての新しいアイデア: ノーベル賞受賞者、ポール・ローマー」

●Chad Jones, “New ideas about new ideas: Paul Romer, Nobel laureate”(VoxEU, October 12, 2018)

ニューヨーク大学のポール・ローマー氏は、「技術革新を長期的マクロ経済分析に統合した功績により」、ウィリアム・ノードハウス氏と共同で2018年のノーベル経済学賞を受賞した。本コラムでは、彼の主要な洞察と経済成長の過程に関するわれわれの理解に対する彼らの広範囲にわたるインプリケーションについて解説する。

ポール・ローマー氏が1980年代初期に経済成長に関する研究を始めたとき、経済学者の間での従来の見解――たとえば大学院で教えられているモデル――は、生産性の成長は経済の残りのどんなものによっても影響され得ないものであった。ソロー(Solow 1956)のように、経済成長は外生であった。

ローマーは、技術進歩は経済的なインセンティブに反応する研究者や起業家、発明家による努力の結果であるということを強調して、内生的経済成長理論を発展させた。彼らの努力に影響を与えるいかなるもの――たとえば税政策や研究基金や教育――は、潜在的に長期的な経済の見通しに影響を与えうるのだ。

ローマーの非常に重要な貢献は、アイデアの経済性といかにして新しいアイデアの発見が経済成長の中心にあることを明確に理解していることである。彼の1990年の論文は分水嶺である。それは、ソローのノーベル賞受賞業績以降の成長に関する文献の中で最も重要な論文である。

その論文の歴史は魅力的である。ローマーは約10年間成長に関して研究を続けてきた。1983年の論文と1986年の論文は、成長論のトピックに取り組んでおり、知識とアイデアは成長にとって重要であると示唆している。もちろん、あるレベルでは、誰もがこれが真実であるに違いないことを誰もが知っていた(そして、以前の文献にもこれらを含むものはある)。

しかし、ローマーが未だ理解していなかったものであり、未だに完全に評価された研究がなかったのは、知識とアイデアは成長にとって重要であるということがいかにして実現されるのかに関する詳細な本質であった。彼がついに成長を深く理解した証拠の1つは、1990年の論文の最初の2つのセクションが、かつての暗い部屋を照らす照明スイッチとしての最低限必要な数学しかない文章でほぼ全てが非常に明快に書かれていているということである。

以下に主要な洞察を示す。アイデアは、何かをしたり作ったりするためのデザインや青写真であるが、非競合的であるという点で他のほとんどどんな財とも異なっている。古典的な経済学における標準的な財は競合的である。すなわち、高速道路を走行する人や特定の手術の技術を必要とする人や灌漑のための水の利用が多ければ多いほど、それらは行き渡らなくなる。この競争は、ほとんどの経済の中心にある希少性の根底にあり、厚生経済学の基本定理を生み出す。

対照的に、アイデアは非競合的である。ピタゴラスの定理やプログラミング言語であるJavaや最新のiPhoneのデザインを利用する人が増えれば増えるほど行き渡るアイデアが減る、ということはない。アイデアは利用によって使い尽くされることはなく、一旦発明されれば、いかなる人数であっても同時にあるアイデアを利用することは技術的に可能である。

一例として、ローマーのお気に入りの例である経口補水療法を考えてみよう。近年まで、途上国では何百万もの子供が下痢によって亡くなっていた。問題の一部は、子供たちが下痢を患っているのを見ている両親が液体を摂取させないようにすることである。脱水が始まり、子供は死ぬだろう。

経口補水療法は、数種類のミネラル、塩類、少量の砂糖を水に溶かして正しい比率で溶解させることで、子どもに水分を補給し、命を救う救命策である。このアイデアが発見されてから、そのアイデアは毎年何人もの子供を救うために使われえた。アイデア(化学式)が、より多くの人々が使用するにつれて次第に希少になるということはない。

アイデアの非競合性はどのように経済成長を説明しているのだろうか。鍵となるのは、非競合性が規模に対する収穫逓増を生じることである。標準的な再現性の議論は、生産の規模に対して収穫一定であることを根本的に正当化している。工場からのコンピュータの生産を倍増したい場合、実行可能な方法の一つは、通りの向こう同等の工場を建設し、その上で同等の労働者や材料などを運び込むことである。すなわち、工場をその通りに再現すればよいのである。このことは、競合性のある財を用いた生産は、少なくとも有用なベンチマークとして、収益が一定であるプロセスであることを意味している。

ローマーが強調したことは、アイデアの非競合性は、この再現性の議論の不可欠な部分であるということである。すなわち、企業は新しいコンピュータ工場が建設されるたびにコンピュータのアイデアを再考する必要はないのである。代わりに、同じアイデア――一連のコンピュータの作り方の詳細な手順――は、新しい工場で使用することも、実際には任意の数の工場で使用することも可能である。なぜなら、それは非競合的だからである。

競合的な投入物(工場、労働者、資材)には規模に関する収穫一定があるので、競合的な投入物とアイデアを同時に考えると規模に関する収穫逓増がある。すなわち、競合的な投入物とアイデアの質または量を二倍にすると、総生産は二倍以上になる。

ひとたびリターンを増やすと、成長は自然についてくる。一人当たりの生産量は、知識の総ストックに依存する。すなわち、知識ストックは経済のすべての人々の間で分割する必要はないのである。

このことをソローモデルにおける資本と対照してみよう。一台のコンピュータを追加すると、一人の労働者がより生産的になる。新たなアイデア――最初のスプレッドシートまたはワープロ用のコンピュータコード、またはインターネット自体を考えよ――を追加すると、いかなる数の労働者であってもより生産的になる。非競合性を伴って、一人当たり所得の成長は一人当たりのアイデアの成長ではなく集計的なアイデアの総ストックの成長に結びついている。

いかなるモデルであれ、人口増加が原因で、集計で成長するのは非常に容易である。ソローモデルでさえそうである。自動車産業の労働者が増えると、より多くの車が生産される。ソローにおいては、自動車労働者1人当たりの自動車需要が伸びる必要があるため、1人当たりの成長を維持できない。

しかし、このことはローマーの場合には当てはまらない。研究者が多ければ多いほどより多くのアイデアを生み出すが、このことは、非競合性のために誰しもをより幸せにする。25年であれ100年であれ1,000年であれ、歴史を通して、世界は、アイデアの蓄積とアイデアを生み出す人々の数の両方の成長によって特徴付けられている。ローマーの洞察によれば、これは長期的に指数関数的な成長を維持するものである。

最終的に、非競合性と結びついた収穫逓増は、外部性のない完全競争均衡は存在しないということを意味し、資源の配分を分散させることができない。代わりに、いくつかの出発が必要である。

ローマーは、新しいアイデアの発見に対する不完全な競争と外部性の両方が重要である可能性があると強調した。独占的競争は起業家がイノベーションするインセンティブとして効果を発揮する利益を提供する。そして、発明者と研究者は、のちに先人の洞察から恩恵を受ける。

経済成長に関する研究は、ローマーの貢献によって非常に影響を受けており、後に続くわれわれはみな、巨人の肩の上に立っている。知識のスピルオーバーに適切に報いることは難しいかもしれないが、今年のノーベル経済学賞は報酬を受けるには十分である。

参考文献

Romer, Paul M (1986), ‘Increasing Returns and Long-Run Growth’, Journal of Political Economy 94: 1002-37.

Romer, Paul M (1990), ‘Endogenous Technological Change’, Journal of Political Economy 98(5): S71-102.

Solow, Robert M (1956), ‘A Contribution to the Theory of Economic Growth’, Quarterly Journal of Economics 70(1): 65-94.