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ピーター・ターチン「主流派経済学によるとパンデミックでインフレになるらしい:ペストとインフレーション」(2017年4月6日)

The Black Death and Inflation
April 06, 2017
by Peter Turchin

マーク・コヤマのツイッターに誘導されて、スコット・サムナーのブログに辿り着いたが、そこで、異端派経済学が、伝統経済学の牙城American Economic Reviewを侵略しつつあることを私は知った。サムナーはノーベル賞受賞者のロバート・シラーの〔異端派的内容の〕論文を、猛烈に糾弾している。エイプリルフールの投稿なのに、サムナー、クソ真面目のようである。

以下、シラーの論文の要旨からの引用である:

人間の脳は、いかなる時も、経路依存的な行動を正当化するため、事実に基づいていようといまいと、好意的な「物語化」チューニングを行ってしまう。これは、支出や投資といった基礎的な行動ですらそうなのだ。物語化によって、〔人は〕活動を動機・関連付け、価値観や要求を深く感じ入るのである。物語が「バイラル化」すれば、経済的な影響を伴い、世界規模にまで広がっていく。

シラーの論文そのものは読んでいないのだが、シラーは、正当化経済学の関心があまりに狭くなっていて、テンプレ化してしまっているので、経済学の活動を感化できるなら感化して、〔学問〕領域の拡張を提起しているようだ。この件については、私もブログで喚起してきている(例えば、ここ〔本サイトでの翻訳版はここ〕)。興味深いのは、ノーベル賞学者であっても、〔このような喚起を行えば〕異端派の烙印から逃れられないことだろう。 [Read more…]

ピーター・ターチン「経済学は、不平等が(時に)なぜ減少するのか答えられない」(2015年11月1日)

Economics Can’t Answer Why Inequality (Sometimes) Declines
November 01, 2015 by Peter Turchin

9月、私はオーストリアのウィーンで開催された国際カンファレンス「持てる者と持たざる者:グローバル・ヒストリーにおける富と所得の不平等を探求する」に行ってきた。この会議については、前回のブログ・エントリで言及しているが、この会議で学んだことの1つが、「経済学者は、不平等が増加したり減少したりする理由を本当に分かっていないんだな。特に減少についてだ」ということだ。

トマ・ピケティから取り掛かってみよう。『20世紀の資本』(いや“Das Kapital”と言うべきか?)は今や不平等を研究する学者の「バイブル」となっているからだ。 [Read more…]

ジョセフ・ヒース「文字通りの意味でのファシスト」(2016年3月1日)

Fascist in the literal sense of the term
Posted by Joseph Heath on March 1, 2016

何年か前のトロント市議選の際だが、何者かが、市内のあちこちの新聞受けや電信柱に「警官が市長を選ぼう!」と書かれたステッカーを貼り回っていた。そのステッカーを見て、私が思ったのが「わぁ、こりゃ、マジもんのファシストだ。単なる比喩的や表現や、誤用・乱用なんかじゃない。文字通りのファシストじゃないか」だった。(ステッカーを見たのは、ロブ・フォードが市長に当選した時の選挙だった思うが、ちょっと自信がない)

むろんここで問題になっているのは、「ファシズム」が、(特に60年代に)政治用語として大々的に誤用・乱用され、効力を完全に失ってしまっていることにある。私たちは、人がやりたくないことをやらされているように見えた時、それを「ファシスト」と呼ぶのに慣れ親しみすぎている。結果、私たちは「ファシスト」という言葉の本来を意味を把握できなくなっている。(我々大学教授も、学生にファシストの政治思想については何も教えない傾向にあるので、ほとんどの人は、「ファシズム」を、ナチズムであったり、人種差別と軍国主義を結びつけたものとして、単に連想するだけである。) [Read more…]

ノア・スミス「岩崎明子博士へのインタビュー:ワクチンの有効性、COVID-19の先行き、科学における女性」(2020年12月29日)

Interview: Dr. Akiko Iwasaki
Vaccine efficacy, the future of COVID-19, and women in science
Dec 29, 2020 by Noah Smith

僕は、ツイッターで多くのCOVID-19の専門家をフォローしているが、イェール大の免疫学者、岩崎明子博士ほど有益な情報を提供してくれている人はいないだろう。彼女はどういうわけか、ウィルスに関する極めて非常に大量の技術的な情報を、科学的な正確さを犠牲にすることなく、僕のような素人でも簡単にわかるような方法で伝えるのに成功している。また、ニューヨーク・タイムズVoxなんかでコラムを書いたり、ポッドキャストに出演したりもしている。彼女は、他の科学者と協力してCOVID-19を阻止する計画を作るのを手伝っている。彼女は、大量に研究論文を発表しながら、これを成し遂げたんだ。彼女はまた、生物学の分野で女性が直面している障壁についても語ってくれた。

率直に言って、岩崎博士はとても素晴らしい。「生物学者」と聞けば、僕は今や彼女を思い浮かべるほどだ。なので、僕は自分のブログで、彼女にインタビューできて、とても光栄だ! メールで交換した文面の未編集版は以下となっている: [Read more…]

ピーター・ターチン「フェミニストから見た人類の社会進化:デヴィッド・グレーバーさんかなり変ですよ その2」(2019年2月16日)

A Feminist Perspective on Human Social Evolution
February 16, 2019 by Peter Turchin

人類が進化する過程で、不平等の水準は劇的に変化してきている:祖先である類人猿の社会階層から、狩猟採集民の平等主義の小規模社会に、そして権力・地位・富の分配で大きな格差がある大規模な階層的社会へと。枢軸時代(紀元前800~200年)は、不平等の進化において、別の注目に値すべき変容――より大きな平等主義への移行の始まりがもたらされており、現在まで続いている。結果、不平等の軌跡はZのように見えるため、私はZ曲線と呼ぶことを以前から提唱している。

最近、デヴィッド・グレーバーとデヴィッド・ウェングローは、この人類史の物語の重要な部分に意義を申し立てた。

何世紀にもわたって、私達は社会的不平等の起源について単純なお話を自身に言い聞かせてきました。人類史において、ほとんどの期間、人は狩猟採集民として小さな平等主義の部族で暮らしていました。その後、農業が始まり、それに伴い私有財産権がもたらされました。続いて、都市が出現し、これは文明の出現に他なりません。

この物語には根本的な問題があります。真実ではないのです。

グレーバー&ウェングロー(G&W)への全般的な批判については、前回の私のエントリ〔本サイトでの翻訳版はここ〕を参照して欲しい。私は、G&Wの言うこと全てに反対しているわけではない(例えば、農耕の採用と大規模で複雑な社会の台頭との関係は、通常描かれている以上に複雑である。)しかし、彼らのエッセイの中心的な考え、「狩猟採集による平等主義的な更新世から、不平等な初期国家への移行はなかった」は間違えている。 [Read more…]

ランダル・レイ「現代貨幣理論への“カンザス・シティ”アプローチ:成立史から辿るMMT入門」(2020年7月)

The “Kansas City” Approach to Modern Money Theory
by L. Randall Wray
Levy Economics Institute of Bard College
Working Paper No. 961
July 2020

目次

  1. 表券主義ー貨幣国定説
  2. 信用貨幣:貨幣サーキットと内生的貨幣
  3. 貨幣の性質
  4. バランスシートの統合および整合: あるいは、政府支出の実態
  5. 部門別収支
  6. 金融不安定性
  7. 機能的財政、需要管理、完全雇用
  8. MMTと雇用保障
  9. 結論: MMTと政策

要旨

現代貨幣理論(MMT)は、異端派経済学内の流派の一部を統合したものである。主権通貨を発行する国家において、金融・財政の運営を記述することに焦点が当てられている。以上の観点から、ジョージ・フリードリヒ・クナップの国家貨幣のアプローチ(チャータリズム:表券主義)を応用し、さらにジョン・メイナード・ケインズの『貨幣論』を採択している。MMTは「主権通貨の発行者と、その主権発行通貨の利用者の違い」を強調している。この違いが強調されているのは、「財政・金融の政策余地」「期日までに全てを支払う能力」「信用力」「超過債務」などの問題に関係しているからである。しかし、MMTは、A・ミッチェル=イネスに倣って、主権通貨発行者と非主権通貨発行者の間には類似性があることを認めている。それゆえ、信用貨幣論(ポストケインズ主義者が通例呼ぶ用語では「内生的貨幣理論」)と、貨幣国定学説(Staatliche Theorie des Geldes)の統合を行った。MMTはこの統合を、政策分析に活用し、為替制度、完全雇用政策、金融・経済の安定性、そして現代経済が直面している現状課題(不平等の拡大、気候変動、人口高齢化、長期停滞、開発の不均衡)などの問題に応用している。本論文では、ミズーリ大学カンザスシティ校(UMKC)とバード大学レヴィ経済研究所におけるMMTへの取り組み、「カンザス・シティ」アプローチの発展について焦点を合わせてみたい。

キーワード:現代貨幣理論(MMT)、機能的財政、チャータリズム(表券主義)、貨幣国定学説、部門別収支(三部門収支バランス)、カンザス・シティ・アプローチ、雇用保障(ジョブ・ギャランティー)、主権通貨(ソブリン通貨) [Read more…]

タイラー・コーエン「ドクター・ファウチのシュトラウス主義(蒙昧論法)」(2020年12月24日)

Dr. Fauci, Straussian
by Tyler Cowen December 24, 2020 at 2:01 pm in Medicine Science

ドクター・ファウチは、何百万ものアメリカ人が指針が求めている人物であり、トランプ政権でアドバイザーを務めており、次期バイデン政権でも務める予定の人物だが、最近になって、集団免疫の推定値を徐々に引き上げ始めている。

パンデミックの初期だと、彼は、ほとんどの専門家と同じく60~70%の推定値を持ち出す傾向があった。一月ほど前、彼はテレビのインタビューで「70ないし、75%です」と言い始めた。そして先週、CNBCのインタビューでは「75ないし、80ないし、85%です」や「75から85%以上ですね」と言っている。

翌日の電話インタビューで、彼は、徐々に、しかして意図的にゴールポストを動かしているのを認めた。ファウチ曰く、「私がポストを動かしているのは、ある理由では新しい科学的知見に基づいているからですよ。でも別の理由もあります。それは自分の本当の考えを、国がやっと聞く準備ができたからなんです」と。

「受け入れるには困難かもしれませんが、ウィルスを封じ込めるには90%近くの集団免疫が必要になるかもしれないと私は考えています。これは、麻疹の流行を止めるのに必要な数値とほぼ同じです」とファウチは語っている。

有名な疫学学者は、ファウチが出した結論について尋ねられて、「彼が正しいと証明されるかもしれない」と述べた(略)。

ドクター・ファウチは、「私は数週間前だと、公に集団免疫の推定値を高くするのに躊躇していました。アメリカ人の多くが、ワクチンを摂取するのに躊躇しているように感じられたからです。国家として集団免疫を獲得するためには、アメリカ人はほぼ例外なくワクチンを受け入れる必要があるでしょう」と語った。

以上引用したニューヨーク・タイムズの記事の全文はここだ。いくつかの要点は以下となる:

1.たしかに、シュトラウス主義(蒙昧主義)は、これまで一般理論として説得力をもってきた。

2.ファウチは、多くの人から、「反トランプ」として偶像視されているが、リスクを伝達する人間としては無惨な存在である。これは、彼が最近、何種類かのワクチンを大して「効果が少ない」と攻撃したことからも裏付けられる。(こういったワクチンは、適正に使用すればそれでも有効に機能する可能性がある)。彼の以前のマスク〔には効果がない〕との発言は触れるまでもないが、3月半ばの船旅の安全性についての発言もそうだ。「ファウチをどう把握するのか?」これは、実際かなり良いリトマス試験紙になている。

3.FDAの一連の行為について、〔ファウチという〕内部関係者が話している。これは全て信用すべきなのだろうか?

4.僕は、集団免疫の閾値が何なのか一切分からないが、この件(あるいは他の案件)私は真実を語ろうと努力しているのだということは保証しておく。僕が提唱する蒙昧主義は、僕自身がコミュニケーションのときに「こうすべきだ」と考える規範的理論ではなく〔つまり私は裏のあるような言い方をしようと思っているわけではなく〕、「世の中は実際こうなっている」という実証的な理論であって、その正当性がまたもや立証されたというわけだ。

ジョセフ・ヒース「行政府の規制について真剣に考える」(2014年7月7日)

Thinking seriously about regulation
Posted by Joseph Heath on July 7, 2014

ダニエル・カーペンターの本“Reputation and Power Organizational Image and Pharmaceutical Regulation at the FDA(評判と権力:FDAの組織的心証と医薬品規制)”を読み終えたところだ。「十全に魅力的な本である」とまでは言わないが、FDA(米国食品医薬品局)の歴史について書かれた700ページの本としては、かなり良い本である。私がこの本に関心を持ったのは、去年の秋、3ヶ月ほどの間に、2人の人間からこの本を勧められからだ。まったく別の機会、まったく別の2人から「君は、このFDAについての700ページの本を読むべきだよ」と言われる驚くべき可能性を考慮した以上、これは素晴らしい本に違いない、と思ったわけだ。

2人もの人間にこの本を勧められたのには理由がある。行政の裁量権と、“public servant(公務員)”はその裁量権をどのように実施しているのかに、私が関心を持っているからだ(ここを参照)。私は、政府の行政機関について研究しているのだが、規範的な政治哲学において行政機関は深刻なまでに理論化されていないとの見解に沿った研究となっている。この研究に基づいた行政機関へ幅広い関心の一環としてFDAに関心を寄せることになった。

もっとも、カーペンターの本は、ある研究プロジェクトの一部であることで、私個人の関心を超えて、興味深い本だ。もう少し詳しく説明しよう。この本は、アメリカにおける、とある学者の集団(多くがトービン・プロジェクトに参加している)が行っている最近の試みの一環として出版されている。この学者集団は、「規制」について真剣に考えることで、過去50年に渡って「規制」をめぐる議論を支配してきた、古臭く、それでいて高度にテンプレ化された理論(「いわゆる“公共の利益”と“レントシーキング”には対立が存在する」や「規制の虜」理論)を打破しようとしている。 [Read more…]

ピーター・ターチン「“コネチカットの狂った預言者”」(2020年11月12日)

“The Mad Prophet of Connecticut”
November 12, 2020 by Peter Turchin

グレーム・ウッドが、「クリオダイナミクス(歴史動力学)」と「私」と「今、我々が直面している不和の時代」についての“長い記事”〔訳注:日本での要約はここで読める〕を書いてくれた。グレームは、非常に知性あるジャーナリストであり、クリオダイナミクスと構造人口動態のメカニズムが、どのように国家を崩壊に至らせるのかについての彼の説明は、非常に優れたものだ。アトランティック誌は、徹底したファクトチェックを行っており(今日のオンラインメディアは、ファクトチェックに限られたリソースしか割いていないので、これは珍しい対応である)、グレームの記事内の、事実に基づいた論拠については、何の異論もない。

しかし、グレームは、ジャーナリストなので、雑誌の発行部数(ないし購読料)を上げるようなやり方での事実の提示が彼の仕事となっている。グレームの見解は、私の研究をいくつもの別のアングルから観たものとなっているが、そこで彼が記事に付け加えた「ひねり(偏った解釈)」に関しては、私は科学者なので同意できない。特に、私を「預言者」(もっと酷く「狂った預言者」)と描いたことは、ハッキリ否定したい。彼は(ありがたいことに)記事内では、この極端なキャラ付けは行っていないが、ツイッターではやらかしてくれた。 [Read more…]

ブランコ・ミラノヴィッチ「戦前日本における結婚と社会:谷崎潤一郎『細雪』を読む」(2020年11月23日)

Marriage and society in the ante-bellum Japan
Posted by Branko Milanovic, Monday, November 23, 2020

谷崎潤一郎が、第二次大戦中に執筆した『細雪』三部作、私はこの小説を2度読んでいる。最初は10年以上前になるだろうか、2度目はパンデミック渦中の今。世界的な傑作小説の1つである。大阪・神戸の裕福な商家の一家が、少しづつ貧しくなっていく物語だ。4人姉妹の内、三女と四女の結婚を中心に描かれているが、さして何かが起こるわけではない。実際、ほとんど何も起こらない。姉妹が最終的に結婚するかどうかすら、さして重要ではない。ジェイン・オーステンの小説ではない。

卓越した技術で執筆されている小説であり、中盤まで、読者は登場人物達を、己の人生の渦中において面識があるように感じられるほど、見事なまでに描かれている。ヒロイン達の些細な行動でさえも、何が動機となっているか心中で十全に吟味できるるので、ゆったりしたペースの文体は、まったくもって退屈とならない。1930年代後半の日本の社会環境について学びながら、心理学についても学ぶことができる。二度と戻ってこない世界、そして谷崎がそれを知りつつ執筆していたのを考えれば、この本は、哀愁を帯びつつも、どこかノスタルジックだ。私達は、永遠に失われてしまった世界、その最後の蠢動を目の当たりにする。

しかし私は経済学者なので、文学的要素以外で、この本が明らかにしている、最も印象深い3つの要素について考察してみたい。「ジェンダー関係」「階級間のソーシャル・ディスタンス(社会的距離)」「日本の“西欧化”」である。 [Read more…]