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ブランコ・ミラノヴィッチ「我々がドナルド・トランプから受けた恩恵」(2020年11月7日)

What we owe to Donald J Trump
Posted by Branko Milanovic Saturday, November 7, 2020

トランプが歴史と化そうとしている今、公表文献の多くで、彼の過去4年間の実績を元に、大統領職の評価が行われている。評価のほとんどは、アラ探しであり、仰々しいだけであり、飽き飽きするような内容だ。トランプは、「無神経」「人種差別」「外国人排斥」「傲慢」「非効率的」「無効率的」「無知」であるとの理由から罵倒されている。トランプを擁護する人のほとんども、同じ理由をもって擁護することになるだろう(擁護者の見解では、「外国人排斥」「人種差別」「傲慢」は、深刻な道徳的欠陥ではなく、美徳と見なされるかもしれない)。

私のトランプへの評価は、まったく異なる。まず最初に、私が思う、トランプが正しかったところを示そう。次に、トランプが与えてくれた教訓について示そう。 [Read more…]

ブランコ・ミラノヴィッチ「ミルトン・フリードマンと労働者管理企業」(2020年10月15日)

Milton Friedman and labor-managed enterprises
Posted by Branko Milanovic Thursday, October 15, 2020

 1973年の春、ミルトン・フリードマンはユーゴスラビアを訪問した。彼はその旅の数週間後、この訪問についての非常に興味深いやり取りを録音しているリンク先を参照;このリンクは私の友人であるミロス・ヴォイノヴィッチが発掘したものだ)。フリードマンのユーゴスラビアに対する印象と、そこで出した結論は非常に明確で的を射ている。ただしフリードマンの考えは当時において特に目新しいものではなかった。彼が言及しているユーゴスラビアの協同組合(正確には自己管理型企業、SME)の問題は1973年の時点では大変よく知られていた。それでもやはり、フリードマンのまとめは非常に的確であった。またおそらく彼は、よく計画された訪問と良い対談相手に恵まれていたようである。私はフリードマンと対談したメインホストが、ベオグラードの傑出した経済週刊誌である『Ekonomska Politika』に所属する優秀なジャーナリストであったことを漠然とだが読んで覚えている(私の初期の記事のいくつかはここで出版されているので、この雑誌に対する私の評価にはいつも多少の好意的バイアスがかかっている)。

 皆さんにはフリードマンの話を聞くことを勧めるが、フリードマン(もちろん他の人も)が指摘したSMEの3つの大きな欠陥についてもう少しだけ述べておきたい。これは労働者による経営と所有という考え方が再び人気を集め始めている今、特に重要と言える。 [Read more…]

ブランコ・ミラノヴィッチ「何が懸かっているのだろう? アメリカの選挙を控えての短い記事」(2020年10月19日)

What’s at stake? A short text on US elections
Posted by Branko Milanovic Monday, October 19, 2020

[これは、『グローブ&メール』紙の依頼で書かれた、差し迫っているアメリカの選挙についての短い記事である。記事は、新聞社的にお気に召さなかったようで、文章の大幅な訂正を要請された。事実間違い、英語の訂正、言い回しの変更などの要請には私はいつも喜んで応じている。場合によっては、テキストの一部を削る要請すらも受け入れている(中国で翻訳出版された場合などだ)。しかしながら、内容の変更を受け入れることはありえない。よって、ここにオリジナルの文章を投稿する。]

来たるべきアメリカの大統領選には、いったい何が懸かっているのだろう? 一言に集約するなら“normalcy(正常化・常態化)”のように私には思える。しかしながら、この言葉を聞くと、私は非常に不安になる。私の世代の東欧人にとっては、「正常化」と聞けば、1968年のチェコスロバキアの“normalization(正常化)”の悪夢が蘇るのだ。当時、ソ連と(今日の呼称では)『連立パートナー』が、チェコスロバキアに侵攻し、プラハの春を鎮圧し悪政を復活させている。

不安になるには別の理由もある。トランプ以前のアメリカ合衆国は、望ましい状態にあったとは到底思えないのだ。いや、そもそもトランプを最高権力の座に押し上げたのは、まさにその「正常性」に他ならない。記憶を辿ってみるのは有益だ。ジョージ・W・ブッシュの下で、米国は中東を不安定化させる絶え間ない戦争を起こし、いくつかの推定に従うなら50万もの人々を殺害している。この大統領の下では、米国は大恐慌以来、最悪の経済危機を引き起こしている。次の大統領下では、米国は、経済危機の責任者達を救済し、リビアに混乱の種をまき、中産階級の衰退を座視している。

すると当時の「普通」とはいったい何だったのだろう? トランプ政権が、COVID-19の伝染に対してほとんど何もしなかったことで(座視しなければ〔助けられた〕)25万人近くのアメリカ人の死の一因になったという、並外れて無責任で無慈悲な対応をひとまず脇におけば、当時の「普通」と今とに、はたして違いがあるかどうか、議論の余地があるだろう。違いがあるとすれば、1つ目は、トランプが退陣すれば、政権と対峙した、ジャーナリスト、政治家、俳優、一個人、テレビプロデューサー、要はほぼ全国民との、絶え間なかった諍いに終止符が打たれるだろう。新政権は、権力を維持するために、アメリカ人を異なる集団で敵対させるような不毛な試みは止めるだろう。これは、権力の頂点からの公然とした人種差別的な振る舞いを終わらせもするだろう。不法移民がアメリカ国境を超えるのを阻止するために、壁を作るとのアイデアも新鮮味を失うことになるだろう。

外交問題では、中国との緊張は緩和されるだろう。トランプが悪化させた米中関係が尾を引くのは疑うまでもない。それでも、トランプは、COVID-19を、自身の権力から放逐させる中国の陰謀と見做しているような言動を示しており、これは桁外れに危険な行為だ。アメリカと中国の関係が、トランプ以前に戻ることはないだろうが、少なくとも2つの核保有国が戦争を始める危険性は軽減されるだろう。

しかしながら、「正常化」は、バイデン政権の無為無策によってもたらされるだけでない。「ポジティブ」な観点からは何がもたらされるのだろう? あまり楽観的にはなれない。これは、バイデンの精彩を欠いた半世紀のキャリアだけに原因があるわけではない。リベラルなエスタブリッシュメント(現状の中道派の民主党支持者と多数の共和支持者を共に含む)が、心地よく受け入れている物語にも原因がある。「トランプ以前は全てが素晴らしかった。トランプが登場して何もかもバラバラになってしまった」との物語だ。この物語は、(上記で述べたように)単に間違えているだけでは済まない。この物語は、〔政治的〕不作為を導くだろう。合衆国は、「富の分配」「エリート主義的な教育制度」「機能不全化した医療」「金権政治に支配された政治制度」「崩壊するインフラ」「中産階級の衰退」「制御が効いていない独占企業」に対して、大いなる変革を必要している。いったい誰が、これら一連の変革を行うのだろう? 新しいルーズベルトがよく引き合いに出されている。バイデンはその役割を担えるのだろうか? ルーズベルトの功績の多くが、戦争への精力的な取り組みと共に発達した「階級を跨いだ協力」、ほぼこれだけを要因にして確立されたことも無視できない。今は、戦時と同じような出来事は一切存在していない――そして、それをもたらすような戦争が起こらないことを願う。

よって、省察してみれば、次期政権に求められているのは「正常化」などではない。1980年のレーガンの当選以来の(逆の方向への)最大規模の政策変更である。アメリカはしばしば行幸に恵まれ、不可能に見える状況から抜け出す並々ならぬ能力で世界を驚かせてきた。トルーマンは軽薄だと思われていなかっただろうか? ケネディは経験不足だったのでは? ルーズベルトは上流階級の御曹司だったのでは? 問題の核心は、バイデンが世界を、そして自分自身をも驚かせられるかどうかにある。

ブランコ・ミラノヴィッチ「不平等と新型コロナウイルス」(2020年9月15日)

Inequalities and Covid-19
Posted by Branko Milanovic on Tuesday, September 15, 2020

不平等というのは様々である。所得と富の格差だけではなく、性別、人種、年齢、国内の地域単位などにおいても不平等は存在している。ニューヨークのような街を散歩していると、あるエリアから別のエリアへと歩いただけで格差が見て取れる。

そのため、(様々な形で)不平等とパンデミックの影響にしばしば関連性が見られるのは特に不思議なことではない。私が思うに、これはアメリカにおいて非常に明白であるが、おそらく南アフリカやペルー、チリ、ブラジル、インドと言った甚大な被害を受けた他の国においても同じである。 [Read more…]

ブランコ・ミラノヴィッチ「コロナ後の世界」(2020年3月28日)

The world after corona
Posted by Branko Milanovic on Saturday, March 28, 2020

パンデミックが世界の所得分配に与える影響について何か言えるだろうか? パンデミックがいつまで続くのか、どれだけの国が影響を受けるのか、人が何人死ぬことになるのか、社会機構が崩壊してしまうのかどうか、今はこれらになんら意味のあることは言えない。我々は真っ暗闇の中にいるのだ。今日言ったことのほとんどは、明日には間違いだったと証明されるかもしれない。もし誰か正しい人がいれば、それはその人が必ずしも賢明なのでなく、運がよかっただけだ。ただ、このような危機下では、運は大いに価値がある。 [Read more…]

ブランコ・ミラノヴィッチ 「史上最も狡猾な敵」(2020年3月14日)

●Branko Milanovic, “The most insidious enemy”(globalinequality, March 14, 2020)


戦争よりも始末が悪い敵。そいつ(新型コロナウイルス)のせいで犠牲になる人の数は、戦争で犠牲になる人の数よりも少ないとしてもだ。

戦争よりも始末が悪いのはなぜか? 戦争では、線引きがはっきりとしているからだ。微塵も疑ったことがない隣人が敵になる。戦争では、そういうことがあり得る。しかし、両親が敵になることはない。兄弟姉妹が敵になることはない。我が子が敵になることはない。配偶者が敵になることはない。

そいつは、他人を愛する人を襲う。

そいつは、友を欲する人の命を奪う。世話好きの命を奪う。団欒(だんらん)好きの命を奪う。

そいつから逃れて平和に生きるためには、この世界から自分を切り離すしかない。孤独で氷のように冷たい世界に閉じこもって、そこから二度と出てこないでいられるだけの強い意志と冷淡さを持つしかない。

そいつの「目的」は、社会を破壊すること。

そいつの「目的」は、あなたを生かすために命も惜しまない人にあなたの命を奪わせること。

ブランコ・ミラノヴィッチ 「『労働の配分』と感染症」(2020年3月21日)

●Branko Milanovic, “Four types of labor and the epidemic”(globalinequality, March 21, 2020)


政策当局者にしても、一般大衆にしても、株価だの、会社の財政状況(資金繰り)だのといった「金融指標」に視線を注いでいるが、それは間違っている。フォーリン・アフェアーズ誌に寄稿したばかりの記事で、そのように述べた。株価を維持したり、会社の資金繰りを支援したりすることは、重要じゃないと言いたいわけではない。経済活動に深刻な混乱が生じているような状況では、戦争に類似した危機に見舞われている最中では、(第二次世界大戦中の米国も含めて、過去のあらゆる戦争時にそうであったように)「物理的な数量」にこそ目を向けるべきなのだ。「金融指標」への注目は、そのことから目を逸らせるだけでしかないのだ。

現下の問題を「労働の配分」という観点から考察してみるとしよう。とりあえず、世にある労働(職業)を以下の4つのタイプにおおまかに分類するとしよう。(A) 医者をはじめとした医療関係者, (B) オンライン小売業界で働く従業員, (C) 物理的な財の生産に従事する人々(工場労働者など), (D) 専門職(教師、エンジニア、デザイナーなど)。それぞれの部門の就業者数は、需要(求人)と供給(求職)が釣り合う水準に決まってくる。

「感染症の流行」のような甚大なショックは、部門別の労働需要にアンバランスな(不均一な)影響を及ぼすことになる。危機に見舞われた後の新しい状況では、それまでの「労働の配分」は理想的な配分から大きくかけ離れてしまうことになるのだ。 感染症の流行に伴って、(A) 部門における労働需要(求人数)は急激に増える。(B) 部門における労働需要も増えるだろう。外出が控えられて、ネットショッピングが増えるだろうからだ。その一方で、(C) 部門における労働需要は減る。(D) 部門に関しては、労働需要に大きな変化は無いだろう。感染症に特有の事象も考慮せねばならない。(B) 、(C)、(D) の三部門での経済活動が継続されたら、感染者が増える可能性が高いのだ(感染拡大の多くが職場内での感染というかたちをとるとすれば、だ)。そうなれば、(A) 部門で働く人々にさらに負担がかかることになる。あまりに忙しくなりすぎて、過労死で亡くなる人も出てくることだろう。ところで、(B) 、(C)、(D) の三部門の活動が完全に停止されたらどうなるだろうか。(B) 、(C)、(D) の三部門で働く人々全員に自宅待機が命じられたらどうなるだろうか。新たな感染者はきっと減るだろう。「隔離」の狙いも同じところにある。 [Read more…]