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ノア・スミス「ヒッケル説を反駁する:貧困削減をめぐる議論」(2021年4月3日)

[Noah Smith, “Against Hickelism,” Noahpinion, April 3, 2021]

貧困は減少してきてる.そして,それは自由市場資本主義のおかげではない.


Mumbai Night City” by Vidur Malhotra, CC PDM 1.0

ジェイソン・ヒッケルを反駁するのは骨折り仕事なうえに,やったところで感謝もされない.ヒッケルのツイートが世間であちこち出回っている.その一方で,そのツイートの冷静な反駁が,かえってツイートの勢いを増しているありさまだ.それでも,反駁はぜひしておかないといけない.なぜなら,ヒッケルの言ってる見当違いな物語は掛け値なしに人口に膾炙しやすいので,永遠に終わらないシジフォスの苦役のごとき反論が必要になるからだ.
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ノア・スミス「バイデノミクス解説」(2021年4月3日)

[Noah Smith, “Bidenomics, explained,” Noahpinion, April, 2021]

これはレーガン時代の終わりだ.でも,話はそれで終わらない.


Joe Biden” by Gage Skidmore, CC BY-SA 2.0
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ノア・スミス「キミの住んでるところで価格が変わるのはインフレじゃないよ」(2021年3月23日)

[Noah Smith, “Your local price changes aren’t inflation,” Noahpinion, March 23, 2021]


Pile of Cashby 401(K) 2013, CC BY-SA 2.0

ベイエリアに住んでる人たちのなかに,インフレになってなくてもインフレだと思う人たちがいるのはなんでだろう?
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ノア・スミス「マクロ戦争再発:2011年の再演,今度はミーム戦争だ」(2021年3月23日)

[Noah Smith, “The return of the Macro Wars: 2011 is back, but this time with better memes,” Noahpinion, March 23, 2021]

ここしばらく,マクロ経済学は熱気にあふれた話題ではなかった.2008年金融危機後の数年は,財政刺激と金融政策について活発な(ときに刺々しい)論争がたくさん交わされた.学術業界の埃っぽい大広間から無名な論文が引っ張り出されては,公共の議論の的になったりしてた.そうした論争には,失業してしまった数百万ものアメリカ人の命運がかかっているように思われていた.ぼくがブロガーをやりはじめたのは,そんな頃だった.
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ノア・スミス「最低賃金への反論を考える」(2021年1月27日)

[Noah Smith, “The minimum wage pushback,” Noahpinion, January 27, 2021]

もっともな懸念もあれば,そうでもない懸念もある

2週間ほど前,連邦最低賃金がかなり安全な政策である理由について長文の記事を書いた翻訳〕.あのあと,最低賃金懐疑派の人たちから手厳しい反論が出てきた.なかには,ぼくの同僚もいる.そうした反論は,ただ罵倒して却下するのではなくまじめに取り上げる値打ちがある.そこで,反論をひとつずつ取り上げていこう.ただ,まずは,政策全般について,費用・便益・リスクの話をしておきたい.
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ノア・スミス「政府負債の危険なんて、誰もわかっちゃいない」(2021年1月22日)

(ツイッター上でのアドバイスを受けて一部訳を変更しました)

たぶん、経済学者はこの面白そうな問題を考えるべきなんだろう。

Noah Smith
No one knows how much the government can borrow

マクロ経済学で最も重要な疑問の1つ、それは変な話だけど経済学者が研究しない事を選んでいる疑問だ。その疑問とは、「政府はどれだけ安全に借りることができるか」。

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ノア・スミス「時給15ドルの最低賃金がかなり安全な理由」(2021年1月15日)

[Noah Smith, “Why $15 minimum wage is pretty safe,” Noahpinion, January 15, 2021]

最低賃金について経済学者たちが考えを改めた理由

1994年に,デイヴィッド・カードとアラン・クルーガーが画期的な研究を発表した.最低賃金を大幅に引き上げても,(大半の経済学者の予測に反して)失業が増えないというのが,その内容だった.カードは,多くの同僚たちに能動的に無視された.彼らは,最低賃金が雇用をつぶすという理論に深く傾倒していた:
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ノア・スミス「岩崎明子博士へのインタビュー:ワクチンの有効性、COVID-19の先行き、科学における女性」(2020年12月29日)

Interview: Dr. Akiko Iwasaki
Vaccine efficacy, the future of COVID-19, and women in science
Dec 29, 2020 by Noah Smith

僕は、ツイッターで多くのCOVID-19の専門家をフォローしているが、イェール大の免疫学者、岩崎明子博士ほど有益な情報を提供してくれている人はいないだろう。彼女はどういうわけか、ウィルスに関する極めて非常に大量の技術的な情報を、科学的な正確さを犠牲にすることなく、僕のような素人でも簡単にわかるような方法で伝えるのに成功している。また、ニューヨーク・タイムズVoxなんかでコラムを書いたり、ポッドキャストに出演したりもしている。彼女は、他の科学者と協力してCOVID-19を阻止する計画を作るのを手伝っている。彼女は、大量に研究論文を発表しながら、これを成し遂げたんだ。彼女はまた、生物学の分野で女性が直面している障壁についても語ってくれた。

率直に言って、岩崎博士はとても素晴らしい。「生物学者」と聞けば、僕は今や彼女を思い浮かべるほどだ。なので、僕は自分のブログで、彼女にインタビューできて、とても光栄だ! メールで交換した文面の未編集版は以下となっている: [Read more…]

ノア・スミス「2020年代のテクノ楽観論」(2020年12月4日)

[Noah Smith, “Techno-optimism for the 2020s,” Noahpinion, December 4, 2020]
Cheap taxis and fancy smoothies are out. Big Science is in.

安いタクシーもおしゃれスムージーも飽きた.これからはスゴイ科学の時代だ

2010年代:テクノ悲観論と停滞

2010年代,「いまは技術停滞のまっただ中だ」というのが大方の見方だった.2011年にタイラー・コーエンの『大停滞』が出たり,2016年にロバート・ゴードンの『アメリカ経済:成長の終焉』が出たりした.ピーター・ティールは「空飛ぶ車をのぞんでたのに,手に入れたのは140字だった」と宣言した.デイビッド・グレーバーもこれに同調した.ポール・クルーグマンは,キッチン器具に新しいモノが登場しないのを嘆いた.経済学者のなかには,とにかくアイディアを新規発見しにくくなっているのではないかと問う向きもあった.スタートアップ企業の Juicero が高価な新キッチン器具をひっさげて登場したときには,これこそテック系産業のダメっぷりを示す象徴だといろんな人たちからこき下ろされた.「テック系」(tech) は,だいたいソフトウェア企業の同義語になった.とくに,ソーシャルメディアやギグ経済企業やベンチャーキャピタル企業をそう呼ぶ.多くの人たちは,この手のイノベーションは果たして社会をよくしているんだろうかと疑問視した

こんなわけで,2010年代はテクノ悲観論が深まった10年間だった.

これはちょっとしっくりこない.全要素生産性で見ると2010年代はそんなにメタメタなわけじゃなかったからだ(経済用語に疎い人に補足すると,全要素生産性 (TFP) とは,経済学者たちのあいだでおおよそテクノロジーの生産力を測るものと考えられてる数値だ).TFP は計測しにくいけれど,アメリカでは2010年から2017年のあいだに 3パーセント上がったようだ.他の各種推計では,民間部門の TFP 成長率はだいたい年率1パーセントになっている.たしかに,2000年代に比べると伸びが遅いけれど,70年代後半や80年代前半の停滞ぶりに比べればそう悪くない.というか,近年とりわけ停滞していたのは2000年代の後半だったように見える.


[2011年を1として合衆国の全要素生産性の推移を表す.グレーの範囲は景気後退期.]

というわけで,2010年代のテクノ悲観論がこうもあちこちに出回っている理由は,ただ経済統計を見るだけではちょっと説明しにくい.もしかすると,過去50年間で2度目に生産性が停滞した時期だったために,停滞が例外ではなくて通例なように思えるのかもしれない.あるいは,もしかすると,19900年代から2000年代序盤の極端なまでのテクノ楽観論から生じた,振り子の揺り戻しみたいなものなのかもしれない.もしかすると,格差や景気後退や政治的な分断やソーシャルメディアの炎上合戦やマヌケなテック系企業創設者たちへのいらだちを間接的に表しているのかもしれない.あるいはひょっとすると,人々はたんに自分がのぞむとおりのテクノロジーを手に入れていないだけかもしれない.ぼくにはわからない.全部当たってるのかもね.

ただ,2020年代には大きな変化が起きそうに思える.科学とテクノロジーに起きているいろんな変化を見ると,技術進歩がふたたび加速する見込みがありそうだ.しかも,それは「もっとスマホアプリが登場するよ,やったね」みたいな変化ではない.

テクノロジー vs.「テック系」

ここで,ぜひ,世間が考える「テック系」とテクノロジーがどうちがうのか区別しておきたい.「テック系」「シリコンバレー」「テック産業」と言えば,ソフトウェア産業を意味するか,それに加えてなんであれベンチャーキャピタルに資金提供されたものを意味するか,さらにそういうものに文化的なつながりがあると受け取られる人物(e.g. イーロン・マスク」を意味するかといったところだ.典型的には,ゼネラルエレクトリックやゼネラルモーターズのようなもっと古くからの企業や,バイオテック/製薬企業,政府から資金提供された科学は含まない.

技術進歩の大半はテック系産業からやってくるとアメリカ人が考えていても仕方ないと言えなくもない.1980年いらい,ぼくらの生活をとりわけ大きく変えた製品の多くは――コンピュータ,インターネット,スマートフォン,ソーシャルメディアは―――テック系産業からやってきた.テック系企業のトップ5社(マイクロソフト,アップル,アマゾン,グーグル,フェイスブック)は,いまやアメリカ株式市場のだいたい5分の1を占めている.世間の人たちが〔技術進歩をもたらす人として〕思い浮かべるイメージで言えば,ある程度白衣を着た科学者のイメージからガレージでコンピュータをつくるスティーブ・ジョブズという元型に変わったところがある.

でも,そのテック系産業は,科学とイノベーションの広大な生態系の下流にある.公表される科学の大半は大学からもたらされている.その大学の資金を提供しているのは,政府の研究助成金・学費・企業の共同ベンチャー資金の組み合わせだ.(大企業の研究所は,かつて研究のかなりの割合を占めていたけれど,いまはちがう.ただ,AI でのグーグルの取り組みはその変化を逆転させる動きを代表しているのかもしれない.)


[分野別に見た研究開発への支出(世界のトップ企業1000社)]

たしかに,民間部門はかなりのお金を研究開発に費やしている.でも,ぼくらの知る「テック系」産業は,そうした支出の3分の1ほどを占めるにすぎない.

「テック系」は間違いなくとても重要だ.でも,テック系で全体が語れるわけでないのも確かだ.

それに,大半の製品イノベーションをやったのは大企業であってスタートアップではなかった.近年,経済学者の Daniel Garcia-Macia, Chang-Tai Hsieh & Peter J. Klenow による研究では,創造的破壊生産性向上のうち,創造的破壊ではなく既存製品の改善による部分がどれくらいを占めるのかを推計しようと試みている――Clay Chirstensen がいう「持続的イノベーション」に当たるそうした改善による生産性向上がだいたい75%で,破壊的イノベーションが25%だと彼らは推計している.

さらに,技術進歩の多くは,App Store からアプリをダウンロードしたり Best Buy で電子機器を購入するといったチャンネル以外で実施されている.首尾よく進んだと伝えられる驚嘆すべきCOVID-19 ワクチン開発が示すように,医療制度をとおして影響をもたらすイノベーションは多い.太陽光発電・風力発電の展開は,大半が公益事業会社によってなされるだろうし,電気自動車は大手製造企業からもたらされるだろう.それに,軍もテクノロジーの多くを利用する.ただ,そのことを大規模戦争で思い起こす機会がやってこないことをぼくとしては願ってるけど.

言い換えると,2020年代には,ソフトウェアや電子機器のスタートアップ企業が新しい製品や人々どうしの新しい交流方法をもたらすってかたちを,技術進歩の大半はとらない見込みが大きいってことだ.大手ソフトウェア企業は大企業なまま,スタートアップはスタートアップのままにとどまり,ベンチャーキャピタルは相変わらず設け続けるだろうけれど,おそらく,趨勢を変えるイノベーションという領域では,「ビッグサイエンス」が優位になってくるだろうとぼくは踏んでる.

そして,それはいいことだ.個人的な話をすれば,IT革命は世界にあれこれのすばらしいことをしてくれたと思う――IT 革命のおかげで旧友とつながりを保てるようになったし,離婚した後にもかんたんに交際できるし,世界中の人たちと会えるようにもなった.それに,IT革命が生み出したいろんな社会運動は,いろんなラジオや印刷出版の到来に似た水準ですでに社会を変えている.IT 時代に産み出された進歩と社会の変化は,生産性の数字でとらえられるものよりもずっと大きいと思う.でも,この話に賛成でないとしても,まだ悲観しなくていい.2020年代の技術進歩はいまある「テック系」に集中するとはかぎらない.

新たな鉱脈

科学とテクノロジーは鉱石がねむる鉱脈を掘るようなものだとぼくは思ってる.ときに,うまく掘り当てて大もうけすることもある.DNA の構造を発見するような理論的発見があると,まったく新しい知識分野が切り開かれる.トランジスタのような鍵となる発明があれば,そこからありとあらゆる発明が可能になったりする.時が経つにつれて,そうした鉱脈はどんどん掘り尽くされていき,さらに鉱石を掘り出すのに必要な労力は増えていく.でも,そういう古い鉱脈は,新しい鉱脈につながる筋道を見出す助けになる.科学は線形に進歩しない.科学は,枝分かれしながら広がっていくものだ.

じゃあ,次の10年間に急速に伸びていきそうなのは,どんな分枝だろう? 確信をもって答えるのは難しいけれど,いくらか推測はできる.Caleb Watney がいい感じの新しい記事を書いて,推測を語っている.彼がもっぱら関心を向けているのは,ワクチン・太陽光発電と蓄電池・人工食肉・AI・自動運転車・核融合・VR だ.

個人的には,自動運転車や核融合や VR がこの10年で世界を席巻するか懐疑的で,こういうのはもうちょっと先のことなんだろうと思ってる.この推量が外れてくれればそれはそれでありがたい.

ただ,ワクチン技術が飛躍的に進歩したのは疑いようがない.COVID の危機に後押しされて,mRNA ワクチンはうまくいくかどうか定かでないツールから証明済みのものに変わった.きっと,これによって,あらゆる種類の新ワクチン開発が加速するだろう.ガン用ワクチンもそれに含まれうる.いまのフレーズをぜひ読み返してちょっと考え直してほしい:「ガン用ワクチン」

近年ふるわなくなっている新薬発見率に,AI も大きな影響をもたらしうる.グーグルの DeepMind が「タンパク質の折りたたみを解決した」と言ったら誇張だけれど,グーグルの機械学習技術によってこの分野の急速な発展が可能になったのは否定できない.

また,自動運転車が遅々として実現できずにいたとしても,間違いなく機械学習は他のいろんな分野を確信するだろう.どの分野に革新が起きるかは予測しがたい.たとえば,自律的ドローン集団によって戦争に革新が起こるかもしれない.ディープフェイクが伝統的な映画制作にとってかわるかもしれない.アルゴリズムが新聞・雑誌の論説を書けるようにすらなるかもしれない.それに,数多くの研究分野が機械学習の導入で変わりうる.

もちろん,人工食肉も世界を変えるだろう.ものすごく広大な土地が,家畜用の牧草地から他の用途に使えるようになるだろう.

それに,言うまでもなく最大の革新が起きるのはグリーンエネルギーと蓄電だろう.先日の投稿でも触れたように,太陽光発電・風力発電の価格はこの10年で大きく下がった.この下がり具合は,申し分なく革新的だ.でも,それより蓄電の方がいっそう大きな革新になりうる.利用が増えるにつれて急速に値段が下がっているのは,リチウムイオンバッテリーだけじゃない――ありとあらゆるテクノロジーも同様だ.

気候変動を食い止めて文明を持続可能にするのに,これは大いに役立つだろう.突き詰めて言えば,それ自体が計測しようがない生産性向上となる.しかも,それに加えて,太陽光発電と蓄電が安価になれば,これまで数十年にわたってご無沙汰だったものが復活することだろう――つまり,より安価なエネルギーだ.

石油価格が下がらなくなり,原子力発電も思ったように発展しなくなってからというもの,人類は化石燃料の旧式技術でやりくりするしかなかった.その化石燃料はいつか枯渇するのが確実で,しかも気候変動を促進してしまう.この現状は,人類にとってとてもよくない.安価なエネルギーの終わりは,おそらく1970年代におきた最初の生産性停滞の原因になっていただろうし,『宇宙家族ジェットソン』みたいな SF 風の未来が一向に実現しなかった理由でもあったろう

でも,60年代いらいはじめて,テクノロジーによってエネルギーが安くなりそうだ.これは生産性を急激に高め,しかも普通の労働者達が直接に便益を手にしやすくする可能性を秘めている(エネルギーは人間の知性を大いに補うので).それに,予測しがたい無数の他のイノベーションを産み出すことも確実だ――夏に連邦捜査官たちが用いた催涙ガスを撃退するのにポートランドの抗議集団が電動リーフブロワーを使ったような,そういう意外なイノベーションが産み出されるだろう.

さらに,自分の身に手を加えられるようにするテクノロジーもある――とくに,CRIPSr だ.最初の CRIPSr によるヒト遺伝子編集は,ものすごいスキャンダルを引き起こしたけれど,もっと穏当な試みもそう遠からず表に出てくるだろう.

次の10年に大きく花開く可能性を秘めた分野は他にもたくさんある――合成生物学,積層造形,脳-コンピュータ・インタフェイス,生物化学工学,ドローン戦争,再生医療,などなど.それに,ぼくがよく知らない分野だって,大きな可能性を秘めている.たとえば,単細胞生物学とか.

こうしたものの大半は,ラボでの研究や医療制度や軍やソフトウェア産業以外の企業によるイノベーションに依存している点に留意しよう(AI は大きな例外だ).これらが本当に「すごい」と興奮するほどに進歩を遂げる分野だとしたら,それはつまり,2020年代の技術進歩は「テック系」を大きく超えるものになるということだ.

…そして,お次は宇宙だ.

あらたなスプートニク

読者は気にとめていなかったかもしれないけれど,中国はちょうど無人ロボット宇宙船を月に着陸させたところだ.ヒトを月面に届けるのもそう遠くない話だろうし,月面基地も現実味がある.中国のこうした動きに刺激を受けて,インド・日本・ヨーロッパ・アメリカでも独自の月面ミッションを計画している.一方,アメリカには「スターシップ」という巨大ロケットがある.こいつは短距離を行き来できて,しかも,もしかすると月や火星まで飛べるかもしれない.さらに,ここ地球軌道では,アメリカ・中国・ロシアのあいだで宇宙を軍事的に掌握する戦いが進行している.

宇宙開発競争の復活だ.

さて,軍事競争なんて物騒な話ではある.でも,大国どうしが再び競り合わざるをえないとすれば――現時点で,これはほぼ不可避に思える―――少なくとも,新たな宇宙開発競争がもたらされるはずだ.

技術進歩にはお金がかかる.しかも,時が経つにつれてますますお金がかかるようになる.進歩の泉から水を湧き出させ続けるために必要な大金を議会に出させるのはすごく難しくなりうる.60年代以降,GDP 比で連邦政府の研究助成は減り続けている

でも,60年代にものすごい増加があったのに留意しよう.その相当部分は,第一次宇宙開発競争だった.アポロ計画はとてつもなく高くついた.でも,ソ連とアメリカという大国どうしが宇宙の掌握をめぐって競争するというだけで,議会にそのためのお金を決済させるのに十分だった.

宇宙開発競争は技術開発を前進させて,〔宇宙食から民生用に広まった〕フリーズドライ食品なんかをはるかに超えるものをもたらした.でも,ここにはそれよりもっと重要な原則がある.大国どうしの競争は,近視眼的で視野の狭い政治階級に圧力をかけて適切な水準での研究に資金提供させるのに使えるんだ.

アメリカが中国と繰り広げる競争は,たんに月面基地や宇宙兵器をめぐるものにはとどまらないだろう.ものすごく多岐にわたる技術でお互いに張り合うことになるはずだ.エネルギー,AI,ドローン,ワクチン,そして民生用・商業用に波及するありとあらゆる分野も,熾烈な米中競争の焦点になるだろう.すでに,「終わりなきフロンティア」法案を通す理由に中国との競争が持ち出されている.この法案は,連邦政府の研究助成を拡大するものとして大いに必要とされている.

というわけで,技術進歩を駆動するために国際競争が必要なければ結構なことではあるものの,少なくとも,国際競争は次の10年でイノベーションと研究について楽観的になる理由をもうひとつ加えてくれる.

結びに

前へ,そして高みへ! 科学だ,もっと科学をよこせ! なにもかも発見しつくせ! 2010年代は背後に置き去りにして,2020年代をテクノ楽観主義の10年にしてやろう.

ノア・スミス「移民がやってきても賃金が下がらない理由」(2020年12月30日)

[Noah Smith, “Why immigration doesn’t reduce wages,” Noahpinion, December 30, 2020]

証拠に耳をかしてもらえるわけじゃないけれど…

この記事では,移民がやってきても,その国で生まれ育った人たちの賃金が下がらない理由を解説する(ただし,一握りの特別な状況ではもしかすると少しばかり下がるかもしれない).ただ,その話に入る前に,ぜひ理解してほしいことがある:誰も,この記事で意見を変えないだろうってことだ.それには2つ,理由がある.
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