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ピーター・ターチン「二国物語:スウェーデンとデンマークを比較する」(2020年5月5日)

A Tale of Two Countries

May 05, 2020
by Peter Turchin

北欧の2国、スウェーデンとデンマークは、同じような言語を話し、文化と歴史の多くを共有している。しかし、両国はCOVID-19パンデミックへの対処において非常に異なるアプローチを採用した。デンマークは、学校やレストラン、他に美容院のような商業施設を閉鎖したヨーロッパでは最初の国の一つだ。対照的に、スウェーデンは、商業施設は営業を続けることを許可し、路上での移動を規制せず継続させている。従って、この2国は、コロナウィルスを制御するにあたって、ロックダウンの有効性を研究する自然実験を我々に提供してくれている。ロックダウンは社会・経済の両面で多大な混乱をもたらすので、〔ロックダウンの有効性は〕非常に重要な論点になっている。 [Read more…]

ピーター・ターチン「2020年」(2020年6月1日)

2020
June 01, 2020
by Peter Turchin

アメリカが燃えている。全米各地の数十の都市に、1968年のマーティン・ルーサー・キング・ジュニアの暗殺事件が原因となった暴動以来、観察されていなかったレベルでの夜間外出禁止令が出されている。ほとんどの解釈は、既に6日続いている暴力の波の直接的な原因に焦点を合わせている。実際、ジョージ・フロイドがゆっくりと絞め殺されていく映像を、怒りと悲しみを感じずに視聴するのは難しい。しかし、私の仕事は、いうなれば、事件の表層からは解しかねる、深い構造的原因を調べることだ。 [Read more…]

ピーター・ターチン「実質賃金の上昇が止まった理由Ⅲ:非市場影響要因の代替値」(2013年4月11日)

A Proxy for Non-Market Forces (Why Real Wages Stopped Growing III)
April 11, 2013
by Peter Turchin
labor, norms, structural-demographic

前回までの一連のエントリで、なぜ実質賃金は1970年代に上昇が止まったのか、そして労働需要と労働供給の長期の動向はこの疑問に応えることができるかどうかを問うてみた。このエントリでは、経済的影響要因より定量化が困難な「経済の領域外」(非市場)の影響要因に目を向けてみたい。

非市場的影響要因は、実質賃金へ潜在的に影響を与えている、多量のメカニズムから成り立っている。1つ挙げるなら、国家の経済統制(一部の人に言わせれば、国家による干渉)を起因とする政治的要因である。様々な関係者間の権力勾配の存在が影響をもたらしている。政治・立法的環境が労働組合に有利ならば、労働者は雇用者と団体交渉が可能になり、権力を得ることになる。逆の場合は、雇用者が優勢となる。 [Read more…]

ピーター・ターチン「エリート達の内輪での競争:複雑な社会の動態を理解するための重要な概念」(2016年12月30日)

Intra-Elite Competition: A Key Concept for Understanding the Dynamics of Complex Societies
December 30, 2016
by Peter Turchin
elites, norms, social change, structural-demographic

国家レベルの複雑な社会は、社会と政治の不安定性の大波という苦境に周期的に陥るが、これを説明する最重要要因の一つがエリート達の内輪での競争である。この考えは、約30年前にジャック・ゴールドストーンによって提唱された。ゴールドストーンは、イングランド内戦1 、フランス革命、17世紀のトルコと中国での内乱の構造的な前兆を分析することで、この考えを実証的に検証した。他の研究者達(セルゲイ・ネフェドフ、アンドレイ・コトラエフ、そして私を含む)はゴールドストーンの理論を発展させ、古代ローマ、古代エジプト、古代メソポタミア、中世イングランド、中世フランス、中世中国、1848年のヨーロッパでの諸革命、1905年と1917年のロシアでの革命、アラブの春の暴動のような異なる社会における、ゴールドストーンのこの考えを検証した。もっと身近だと、近代民主主義国家の安定性もまた、エリート間の過度の競争によって蝕まれることを最近の研究は示唆している(アメリカ史における構造人口動態分析に関しては“Ages of Discord(『不和の時代』)”を参照)。なぜエリート達の内輪の競争は不安定化の重要なトリガーになるのだろう? [Read more…]

  1. 訳注:イギリスで1641~1653年にオリバー・クロムウェル率いる議会派と王党派との間起こった内戦。『清教徒革命』とも呼ばれる。 []

ピーター・ターチン「コロナウィルスの長期的影響」(2020年4月20日)

Long-Term Consequences of Coronavirus
April 20, 2020 by Peter Turchin
cooperation, economics, elites, health, inequality, structural-demographic

我々は今COVID-19パンデミックの中盤にいる、現状とどこに向かおうとしているのかを詮索するのに良い時期だ。例えば、人口統計学的には、このパンデミックの影響は軽微であることが既に明らかになっている。人口の1%未満しか死亡しないだろうことと、コロナによる死亡者は既に定年退職した人に大きく偏っているからだ。アメリカ合衆国だけでも既に4万人がこの感染症で死亡しているが、これは総人口の観点からはたいして、もしくは何も変えないだろう。

中期(今後数年)の疫学的見通しはまだ不透明だ。我々はウィルスを絶滅に追い込むことができるのだろうか? それとも、風土病化し秋から冬にかけて毎年再来することになるのだろうか? 通常の〔風邪やインフルエンザの〕ケースのように、ウィルスは致死性の低い形態に進化するのだろうか? 私の見解では、今後2~3年中にコロナウィルスを駆除することは十分に可能だ。問題となっているのは、この駆除目的を達成するのに、我々がどこまで自身の生態を集合的に変更できるかどうかだ。全ての旅行者や他の伝染させる可能性がある保菌者を徹底的に検査し、ウィルス感染多発地域を積極果敢に検疫隔離し、自国内の感染症を制御するつもりがない、あるいは制御能力がない国を取り囲んでの衛生的閉鎖を行うことが必要になるだろう。

しかしながら、このブログは社会的動態に焦点を当てているので、今回のパンデミックが社会的健全性にどう影響を与えるのかについて論じてみよう。前回の投稿で論じたように、現在のグローバリゼーションと大衆の窮余化の度合いを考慮すれば、致死的なパンデミックが再来する可能性は非常に高い。つまるところ、COVID-19や将来の未知の病気は、世界システムの水準からは、内在的動態の一部なのだ。しかしながら、個々の国家レベル(国家に中心を絞った私の研究枠組み)の水準からは、COVID-19は外的ショックだ。COVID-19の長期的な影響は、影響を受けた社会的制度のレジリエンス(復元力)に何よりも左右される。 [Read more…]

ピーター・ターチン「伝染病と危機時代の相関関係」(2020年4月15日)

Correlation between Crisis Periods and Epidemics
April 15, 2020
by Peter Turchin

前回のエントリ『コロナウィルスと我らの不和の時代』を投稿してから、私は世界史における主要な伝染病の一覧を、ウィキペディアのような媒体と、学術論文の両方で目を通している。危機の時期と疫病の勃発には強い(ただ完全ではない)関連性があることを私は知っている(2008年の論文を見てほしい)。問題はこの相関関係がどのくらい強いかだ。

以下は、私が発見したデータを元にして纏めた表だ。ただこれは、主要な伝染病は不和の時代の間に勃発する傾向があるという仮説の決定的な分析ではない。以下の比較検証は、十分に体型立ったものではなく、非常に定性的なものであり、明確にヨーロッパ中心バイアス(すくなくとも西ヨーロッパ中心バイアス)がある。ただ、ここはブログであって、非常に高い厳密性が要求される学術論文ではない(Seshatの危機のデータベース1 が完全に構築された時には、我々は正規の研究を行う予定だ)。

いずれにしても、以下は私の暫定的なアイデアだ。コメントを歓迎する!

危機の時代 場所 伝染病とパンデミックの名称
青銅器時代後期の破局(紀元前12~11世紀) 地中海東部と中近東

エジプトの疫病

トロイでのアカイア人の間における疫病

疫病でよって人口が減少したクレタ島

ペリシテ の疫病

イスラエル王国とユダ王国の悪疫

ペロポネソス戦争(紀元前5世紀) 地中海東部・中部

アテネの疫病

ローマでの周期的な悪疫

ローマ帝国の危機(2~3世紀) ローマ帝国

アントニヌスの疫病

キプリアヌスの疫病

ギリシャ・ローマ古代期後期の危機(6世紀) 東ローマ帝国

ユスティニアヌスの疫病(第一次ペスト大流行)

オーマヤド・カリフ王朝の没落(8世紀)

奈良時代の天災(8世紀)

中東と地中海

日本

第二期ユスティニアヌスの疫病(746~747年にピーク)

 

735~737年の日本の天然痘の大流行

14世紀の危機 アフロ・ユーラシア 黒死病(第二次ペスト大流行)
17世紀の世界的危機 全世界

第二派黒死病(ロンドンとウィーンの大災禍を含む)

コロンブスの航海

アメリカ大陸の人口減少

ヨーロッパでの梅毒の大流行

革命の時代(1789~1919:「長い」19世紀) 全世界

コレラの大流行

第3次ペスト大流行

スペイン・インフルエンザ

アシュドド2 におけるペリシテ人の疫病:ピーター・ヴァン・ヘイレンによる油絵(1661年)

  1. 訳注:Seshatは全世界のアカデミアを繋いで、歴史の定量データを集めるために創設されたターチンが代表を務める研究機関。 []
  2. 訳注:イスラエル南部の都市 []

ピーター・ターチン「コロナウイルスと我らの不和の時代」(2020年4月5日)

Coronavirus and Our Age of Discord
April 05, 2020
by Peter Turchin

〔訳注:「不和の時代」とは本エントリの執筆者であるピーター・ターチンが創始した学問分野クリオダイナミクス(歴史動力学)に基づいて提唱されている時代区分のことである。ターチンは大規模な文明社会は、人口動態・エリートの過剰競争等が原因となり、内乱・内戦等を伴う「不和・諍いの時代」に至ると提唱している。そしてアメリカ合衆国は2020年前後から「不和の時代」を迎えると10年以上前から予測している。〕

このブログの読者ならよく知っているだろうが、私は自分を預言者とは主張していない。なんにせよ預言は過大評価だと思う。ただ私は予測を行う。なんらかの科学的予測は、預言のようなものではない。科学的予測は未来についてではなく、理論に基づいている。それは、世界がどう機能しているのかについて、我々の理解がどのくらい優れているのかを明らかにする方法だ。2013年に投稿した『科学的予測≠預言』で詳しく解説している。

この考え方の一般例として、私が2008年に公開した論文で最後の段落に書いたものを以下で紹介してみよう。 [Read more…]

ピーター・ターチン「イタリアは峠を超えた:公衆衛生政策はCOVID-19を止めるのにどのくらい効果的か? その2」(2020年4月1日)

Italy Turns the Corner
Posted by Peter Turchin on April 01, 2020

〔訳注:本エントリはコロナ危機を分析しているピーター・ターチンによる一連のエントリの第2回目のエントリである。分析の基礎なっているモデルは第1回目のエントリ「公衆衛生政策はCOVID-19を止めるのにどのくらい効果的か」で説明されている。最初のエントリを読んでない読者は、このエントリを読む前に第1回から順番で読むことを推奨する。〕

先週、私はイタリアにおけるCOVID-19の流行を分析したが、非常に気が滅入るような結果が出た。政府があらゆる政策を行ったにもかかわらず、その政策が変化をもたらしている兆候が見られなかったからだ。感染症の流行はまだ指数関数的に拡大しており、感染症がもたらした総死亡者数に悲惨な影響を及ぼしていた。

様々な国におけるCOVID-19の動態を追跡している私のアプローチは、専門的な公表文献で解説しており、専門的でないものとしてはブログの前回のエントリ「公衆衛生政策はCOVID-19を止めるのにどのくらい効果的か」で解説を行っている。

イタリアは、より最近のデータ(3月31日まで)で分析を再度行うことで、非常に楽観的な結果が得られる。今やイタリアは峠を超えたハッキリとした兆候が見られる。結果は以下のとおりである。

変化の最も目立つ兆候は、新規感染者の減少だ。あまり目立たないが、他のグラフの曲線も下降を開始している。この動態の変化は、主に病気の伝染率の低下によってもたらされている。

流行の開始時(2月初旬)では、感染率(beta)はほぼ0.4であり、これは感染者数が日々ほぼ40%増えていたことを意味している(しかしながら、この爆発的な上昇率は一般の人々や政策当事者には見えていなった。下記参照)。感染率(beta)の低下は非常に緩慢でゆっくりしたものだった(グラフの変曲点は3月13日だ)。これは、国民の行動を変えるたために、イタリア政府は勧告を行ったが、行動が変わるまで時間がかかったことが示唆されている。このことは、逸話的にも知られている。3月21日になっても、中国紅十字会の孫碩鵬副会長は「ここミラノでは(中略)、公共交通機関は運行を続け、人々は動き回り、ホテルではディナーやパーティーが続き、マスクもしていない。皆、なにを考えているのか理解できない」と話したと報じられている。さらに面白いのが(このような困難な時期にはユーモアが必要だ)、イタリアでは小さな都市の市長たちが、ロックダウンに逆らう市民に怒り狂っている動画が、最新のYoutubeでバズっている。疑いようもなく状況が深刻になったことは(今日の時点で13,000人の死者が出ている)やっとのことでイタリア人を自覚に至らせている。感染率は低下してきているーーゆっくりとだ、それでもイタリアは正しい方向に向かっている。

2番目のグラフ(右側)に注目してほしい。我々皆が知っていることが、定量的に示されている:初期検出率(認知された感染者の確率)は低位から始まり、その後上昇している。これが意味しているのは、報告された数値を単に使用するだけでは、流行の動態を正確に追跡できない、ということだ。検出率の上昇(最初に、流行の渦中にあると人々が幅広く認識したことが原因となり、引き続いて無症状の人を対象にした大規模な検査が行われた結果)で、新規患者数が増加することになり、感染率が人為的に上昇する。実際に何が起こっているのかを観察するためには、この検出率の変化を除去する必要がある。私のモデルはこの除去作業を行っている。

追加のデータが入り次第、分析結果の報告を続ける予定だ。実は、ニューヨークのデータを扱いたかったのだが、ジョンズ・ホプキンス大のチーム(データを纏めて更新してくれている彼らには大いに感謝している)がアメリカのデータの報告方法を変更したので、昨日は扱うことができなかった。

ピーター・ターチン「公衆衛生政策はCOVID-19を止めるのにどのくらい効果的か」(2020年3月23日)

[Peter Turchin, “How Effective Are Public Health Measures in Stopping Covid-19?“, Cliodynamica, March 23, 2020]

読者の多くが知っているように、私はウィーンにあるComplexity Science Hub (CSH)で研究グループのリーダーの地位を引き受けることになった(同時に引き続きコネチカット大学の教授でもあるので、今私はコネチカットにいる)。

1週間前、オーストリア政府はCSHにCOVID-19の流行に対応するより良い政策を策定する助けになるような研究を行うように依頼した。それに、私は政府が実際に科学者に手助けを求める(そして、そのような手助けをすぐに行うことができる研究機関をもっている)ことはとても素晴らしいことに思える。いずれにせよ、CSHは一旦他の研究をやめて、全ての研究能力を我々の社会が直面するコロナ危機に対処することに用いることにした。

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ピーター・ターチン「実質賃金の上昇が止まった理由Ⅱ:経済的影響要因の絡み合いを切り開く」(2013年8月7日)

Cutting through the Thicket of Economic Forces (Why Real Wages Stopped Growing II)

前回のブログのエントリ〔訳注:本サイトでの翻訳はここ〕で、私は、1970年代に実質賃金の上昇が止まった原因について問題提起を行った。経済学者や政治評論家によって、多くの解き明かしが論じられている(ただ、彼らは所得と所得不平等の関係性について焦点を絞る傾向がある)。例えばデビッド・レオンハルトはここ10年間の所得低迷の原因に、14の可能性をリストアップしている。ティモシー・モアも以前に一連の記事で1970年代以降の所得不平等の上昇の理由として似たたようなリストを挙げて論じている。

上記画像引用元

前回のブログのエントリで言ったように、よくあるアプローチは可能性がある要因をそれぞれ個別に検討するものだ。しかしながら、このアプローチでは、要因の相対的重要性を計量することができない。その上、社会は複雑な動態システムとなっており、様々な要因が非線形フィードバックの網を経由して相互に関連している。これを平易な言葉に翻訳するなら、あらゆる事象は他の全ての事象に影響を与える可能性がある、との意味だ。これは考慮せなばならない。賃金と所得の動態を理解するには、我々は最終的に経済学の領域を超える必要がある。

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