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ピーター・ターチン「アフガニスタンの国家崩壊と、ガニ大統領の『国造りの書』」(2021年8月15日)

State Collapse and Nation Building in Afghanistan
August 15, 2021 by Peter Turchin

 本日、アフガニスタン・イスラム共和国が崩壊した。アシュラフ・ガニ大統領以下、政権幹部は逃亡した。軍の一部は消え去り、一部はタリバンに鞍替えした。警官が持ち場から脱走したため、カブールでは略奪が行われているとの報がある。これは古典的な国家崩壊だが、空白がタリバンによってすぐ十分に埋められるのは明らかだ。報道によると、彼らは数日内にカブールの大統領宮殿で自分たちの国家を宣言する予定だという。

大統領宮殿、カブール 引用元:Wikimedia

 この事態にはいくつもの皮肉が含まれているが、私個人にとっては主にアシュラフ・ガニが国家崩壊と国造りを研究する学者としてキャリアを始めた点がそれに相当する。2008年、私はネイチャー誌で、ガニとクレア・ロックハートが書いた本『失敗国家の直し方』の書評を書いた。内容は決して優しいものではない。私のコメントの1つでは、著者たちについて以下のように記していた。

4つの事例――[第二次]大戦後の欧州、シンガポール、合衆国南部、アイルランド――は、荒廃と混沌、そして凝り固まった貧困に直面した国々でも、グローバルなコミュニティーの成功し安定したメンバーに変化できると証明している、というのが彼らの見解だ。だがシンガポールを除くと、これらは国家崩壊の事例ではない。1945年の欧州が荒廃していたのは国家間戦争によるものだ。アイルランドは経済的な奇跡を達成する前は貧しかったが、崩壊した国ではなかった。そして合衆国が弱いと考えたものは少数しかいなかっただろう。

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ピーター・ターチン「構造的人口動態危機の際に、金融はどんな役を演じるのか」(2017年8月28日)

The Role of Finance in Our Structural-Demographic Crisis
August 28,2017 by Peter Turchin

 過去における多くの危機の事例について勉強した後で、実際に構造的人口動態危機を経験している社会1 で生きるのは奇妙なものだ。残念ながらこの危機は主に古典的なパターンに従って進展している。政治的な両極化の度合いは(第一次)南北戦争以来、最も高いレベルにある。エリート内の内輪揉めは共和国を引き裂いている。既に少なくとも1人の犠牲者が生まれている(私の投稿である怒りの日々2 参照)。全体として事態は私の想像より早く瓦解している。だが政治的暴力の急増においてはこれが当然だ。それは地震のようにゆっくりと、そして大いに予想可能な形で圧力が高まるが、実際に揺れるタイミングについて何らかの正確性をもって予想するのは極めて困難(おそらくは不可能)だ(こちらにある私の説明参照)。

 10年前に行なった、2020年代初頭に暴力の急増がピークに達するという私の予想は、構造的でゆっくりと展開していく原動力に基づいている。最も基本的な構造的人口動態圧力は労働力の過剰供給で、それは大衆の困窮化と(タイムラグをおいて)エリートの過剰生産を推進する。これらのトレンドは既に、かつて我らの最初の不和の時代(こちらのグラフ参照)に達していたレベルにある。だがこれらのトレンドは作られるのも低下するのも数十年かかる。では私はどうやって危機の時期が2020年代初頭であると正確に示すことができたのだろうか?

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  1. 現在の米国 []
  2. Days of Rage []

ピーター・ターチン「アメリカ大衆の貧困化」(2018年8月21日)

Population Immiseration in America
August 21, 2018 by Peter Turchin

 昨年、私はある人物と興味深い会話を交わした。彼女をワシントン・インサイダーと呼ぼう。彼女は、おそらく2020年代に政治的暴力の大流行でピークを迎えるであろう米国の不安定性の増加を、私の構造的人口動態モデルが予測した理由について尋ねた。私は3つの主要な力に基づく説明を始めた。大衆の貧困化、エリート内競争、そして政府の脆弱性。だが彼女が質問してきたため、それ以上は説明できなかった。貧困化とは何か? 何の話をしているのか? 今ほど暮らし向きのいい時代はない。世界的な貧困は減っているし、小児死亡率は低下し、暴力も減少している。過去の世代と比べれば奇跡のような水準のテクノロジーにアクセスできる。マックス・ローザー1 が集めた大量のデータを見よ。物事がいかにうまく行っているかはっきり理解できるスティーブン・ピンカーの本2 を読めばいい。

 このバラ色の見方には、それを支える3つのバイアスが存在する。第1は世界的な課題への着目だ。だが中国における貧困の減少(中国の人口はあまりに大きいため、これが世界の貧困減少を推進している)や、アフリカにおける小児死亡率の低下は、アメリカの労働者には関係ない。どんな場所でも人々は、遠い地域の誰かとではなく、両親の家で経験した生活水準と今の自分とを比べるものだ。そしてアメリカ大衆の大半は、(以下で見るように)多くの重要な面で両親より自分たちの暮らしの方が悪くなっていると見ている。

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  1. 原文はMax Rosenとなっているが正確にはMax Roser、Our World in Dataの創設者 []
  2. 暴力の人類史(上)(下) []

ピーター・ターチン「起業家は非合理的なのか?(結論:その通り――標準的な経済理論によれば)」2018年7月22日

Are Entrepreneurs Irrational? (According to Standard Economic Theory)
July 22, 2018 by Peter Turchin

 私にとってヴィクター・ウォンとグレッグ・ホロウィットの「熱帯雨林:次のシリコン・バレーを作り上げるための秘密」1 で最も目から鱗だったのは、自身でイノベーション企業を立ち上げるのが徹底して非合理的な決断であるという認識だ2 。投資することになる努力(及びしばしば自身の資金)の量と、極めて低い成功確率を考えるなら、企業を立ち上げるのは単純に道理に合わない――成功を金で測る限り。著者たちがあるところで書いている通り、「スタートアップ企業を立ち上げるプロセスは、ローラーコースターに乗るのと多くの類似点がある。極めて非合理的な行動だ」。

 熱帯雨林の224ページには、ベンチャーが成功するために機能しなければならない構成要素を説明した便利な図がある。

  • テクノロジーが機能する
  • 製品が機能する
  • 顧客が購入する
  • 製造工程が機能する
  • ビジネスモデルが機能する
  • 十分な資本がある
  • チームがすべての物事に対処できる
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  1. The Rainforest: The Secret to Building the Next Silicon Valley []
  2. ピーター・ターチン「資本主義は協調を破壊するのか?」参照 []

ピーター・ターチン「資本主義は協調を破壊するのか?」(2018年7月10日)

Does Capitalism Destroy Cooperation?
July 10, 2018 by Peter Turchin

 私が文化的マルチレベル選択(CMLS)理論の賛同者となった主な理由の1つは、それが競争と協調の間にある関係を見事に明確化したからだ。

  • グループ間競争(上は全社会にまで至る)はグループ内の協調を発展させる
  • グループ内競争(メンバー同士の)は協調を破壊する

 ウルトラソサイエティ1 について2行でまとめるなら、上記のようになる。

 複雑な社会の進化に関する研究に、私はこれらの原則を当てはめてきた(今やSeshatデータバンクが十分に成長し、大量の実証結果――学術的な発表は石臼で引くがごとくとっても遅いため、見られるようになるのは1年か2年後だ――を生み出し始めているため、さらに多くの取り組みが行える)。

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  1. Ultrasociety、ターチンの2015年の著作 []

ピーター・ターチン「“食物連鎖の下層を食べること”の闇の側面」(2021年3月6日)

The dark side of “eating lower on the food chain”
March 06, 2021
by Peter Turchin

9年前、私は人生において最も重大な決断を下した――いわゆるパレオダイエット1 に切り替えたのだ(「パレオ」は、少し誤解を表現だと過去のエントリで説明している)。もし切り替えていなければ、アメリカの肥満統計の上昇に私は貢献していたに違いない。パレオダイエットに切り替えてから、半年も経たないうちに、体重が20ポンドも減り、平均値は今の体重に落ち着いた。もっとも、体重は実際にはさほど重要でない。よりもっと重要なのが、切り替えてからの数ヶ月後に、総体的な健康状態の劇的な改善を私が経験したことにある。今、私は10年前より気分が良い、(間違いなく)10歳老化したにも関わらずだ。

大きく変えたのが、食物連鎖の最上位のものを食べるようになったことだ。純粋な菜食ベースの食事において、タンパク質を接種する唯一の方法は、穀物や豆類、つまり小麦や豆を食べることである。しかし、これら食品の排除がまさに、私の健康の改善に繋がっている。レストランで食事を食べた時、(小麦を使用しないでくれとハッキリと懇願してるのにも関わらず)シェフがソースに製粉小麦を使用すれば、私は知らず知らずのうちに少量の小麦を食べてしまう。翌日になって、私は毒が盛られことに気付く。 [Read more…]

  1. 訳注:狩猟採集民に倣って、肉や野菜を中心に食べ、穀物をなるべく接種しない食事方法 []

ピーター・ターチン「ブルース・ブエノ・デ・メスキータは新たなるマキャヴェリである『独裁者のためのハンドブック』が駄本である理由:その1」(2018年6月4日)

The New Machiavelli
June 04, 2018 by Peter Turchin

私が長期的に関心をもっているものの1つに、指導者と追随者がどう制度化されるかの動態がある。大規模な社会や他の大きな人間集団(企業を含む)は、完全な平等主義にはなりえない。別のエントリで書いたように、人間は蟻ではない

協力を大規模に組織するには、指導者が必要だ。必然的にエリート(社会学的に中立な意味で「社会権力を掌中化する人口の極一部」)と平民(人口の残り)が出現する。大きな問題となっているのが、(程度の差はあれ)社会学の最も基礎的な法則の一つである寡頭政治の鉄則(簡単に言えば「権力の腐敗」)を、(一部)人間組織はいかにして回避、あるいは緩和するかだ。

なので、私はブルース・ブエノ・デ・メスキータとアラスター・スミスによる『独裁者のためのハンドブック:悪行がほとんどの場合に良い統治となる理由』を非常に期待して読んでみた。著者らとは大きな見解の相違があるような気はしていたが、同意できずとも、学びがあるのを楽しみにしていたのだ。

私の勘違いであった。この本は、理論的論拠でも、実証的論拠でも失敗、いや酷い失敗をしでかしている。あまりにも酷いので、私は書評しないことにした。ところが、この本は、非常に大きな成功を収めている。多くの部数が発行され、アマゾンで200以上のレビューを集めており、レビューのほとんどは熱烈に肯定的だ(5点満点で平均評価値は4.6点となっている)。また、CGP Greyでも非常に人気ある情報動画(600万以上のビュー)として影響を与えている。

なので、これが駄本である理由を説明するのが、私の公的義務ではないかと思う。 [Read more…]

ピーター・ターチン「主流派経済学によるとパンデミックでインフレになるらしい:ペストとインフレーション」(2017年4月6日)

The Black Death and Inflation
April 06, 2017
by Peter Turchin

マーク・コヤマのツイッターに誘導されて、スコット・サムナーのブログに辿り着いたが、そこで、異端派経済学が、伝統経済学の牙城American Economic Reviewを侵略しつつあることを私は知った。サムナーはノーベル賞受賞者のロバート・シラーの〔異端派的内容の〕論文を、猛烈に糾弾している。エイプリルフールの投稿なのに、サムナー、クソ真面目のようである。

以下、シラーの論文の要旨からの引用である:

人間の脳は、いかなる時も、経路依存的な行動を正当化するため、事実に基づいていようといまいと、好意的な「物語化」チューニングを行ってしまう。これは、支出や投資といった基礎的な行動ですらそうなのだ。物語化によって、〔人は〕活動を動機・関連付け、価値観や要求を深く感じ入るのである。物語が「バイラル化」すれば、経済的な影響を伴い、世界規模にまで広がっていく。

シラーの論文そのものは読んでいないのだが、シラーは、正当化経済学の関心があまりに狭くなっていて、テンプレ化してしまっているので、経済学の活動を感化できるなら感化して、〔学問〕領域の拡張を提起しているようだ。この件については、私もブログで喚起してきている(例えば、ここ〔本サイトでの翻訳版はここ〕)。興味深いのは、ノーベル賞学者であっても、〔このような喚起を行えば〕異端派の烙印から逃れられないことだろう。 [Read more…]

ピーター・ターチン「経済学は、不平等が(時に)なぜ減少するのか答えられない」(2015年11月1日)

Economics Can’t Answer Why Inequality (Sometimes) Declines
November 01, 2015 by Peter Turchin

9月、私はオーストリアのウィーンで開催された国際カンファレンス「持てる者と持たざる者:グローバル・ヒストリーにおける富と所得の不平等を探求する」に行ってきた。この会議については、前回のブログ・エントリで言及しているが、この会議で学んだことの1つが、「経済学者は、不平等が増加したり減少したりする理由を本当に分かっていないんだな。特に減少については」ということだ。

トマ・ピケティから取り掛かってみよう。『20世紀の資本』(いや“Das Kapital”と言うべきか?)は今や不平等を研究する学者の「バイブル」となっているからだ。 [Read more…]

ピーター・ターチン「構造的人口動態理論の予測能力」(2018年2月4日)

Is Structural-Demographic Theory Predictive?
February 04, 2018 by Peter Turchin

 先週、ジャック・ゴールドストーンの本、近代初期世界の革命と反乱1 の25周年を記念したクリオダイナミクス最新号2 に載っているジャックの序文について書いた。本日の記事では同様に興味深いオスカー・オートマンズと共著者の論文について議論したい。

 オートマンズらの論文における中心課題は、構造的人口動態理論3 に予測能力があるかどうかだ。序論において彼らはよく知られた革命研究者、ティマー・クーランによるゴールドストーンの書評(Kuran, T. 1992. Contemporary Sociology 21:8-10)を引用している。クーランによればSDTは単に「例外的な事例を調和させる」ための道具にすぎず、「予測の道具としては失敗する」運命にあるそうだ。

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  1. Revolution and Rebellion in the Early Modern World []
  2. Cliodynamics: The Journal of Quantitative History and Cultural Evolution []
  3. Structural-Demographic Theory (SDT) []