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マーク・コヤマ「伝染病と国家:『健康』と『自由』のトレードオフは回避できるのだろうか?」(2020年8月28日)

Epidemic disease and the state
Words by Mark Koyama, Works in prgress, 28th August 2020

西洋民主主義国家は、COVID-19への対応で躓いているようだ。「健康」と「自由」の間には関係性が存在するが、これを解きほぐすことは可能なのだろうか?

アメリカ合衆国は2つのショックで動揺している。新規の伝染病が野放しで拡散していること。ジョージ・フロイドの殺害を受けて始まった抗議活動が制御不能になっていることだ。似たような抗議活動は、人種差別的な警察活動や警官の暴力といった問題ではアメリカと全く異なっているイギリスのような他の西洋国家にも波及している。国家と社会の関係性における危機を、パンデミックは増強することなっている。

これは、部分的であれ国家の有効性の危機だ。ある社会はCOVID-19への対応に苦戦し、また別のある社会は秀でているように見える。なぜだろう? [Read more…]

ブランコ・ミラノヴィッチ「不平等と新型コロナウイルス」(2020年9月15日)

Inequalities and Covid-19
Posted by Branko Milanovic on Tuesday, September 15, 2020

不平等というのは様々である。所得と富の格差だけではなく、性別、人種、年齢、国内の地域単位などにおいても不平等は存在している。ニューヨークのような街を散歩していると、あるエリアから別のエリアへと歩いただけで格差が見て取れる。

そのため、(様々な形で)不平等とパンデミックの影響にしばしば関連性が見られるのは特に不思議なことではない。私が思うに、これはアメリカにおいて非常に明白であるが、おそらく南アフリカやペルー、チリ、ブラジル、インドと言った甚大な被害を受けた他の国においても同じである。 [Read more…]

タイラー・コーエン「セックス労働違法化の意図せざる帰結」(2020年9月21日)

[Tyler Cowen, “Unintended Consequences of Criminalizing Sex Work,” Marginal Revolution, September 21, 2020]

本稿では,セックス労働違法化の影響を検討する.インドネシアの東ジャワにある地区で地域行政によってセックス労働が唐突に違法化された一方で,隣接する複数の地区では違法化されなかったのを,ここでは利用する.我々は,違法化前後での女性セックス労働者とその顧客たちからデータを収集した.生物学的検査による計測を検討したところ,違法化によって,女性セックス労働者のあいだで性感染症が 58パーセント増加していることがわかった.この増加を進めた要因は,コンドームの入手・使用が減少した点にある.また,違法化を受けてセックス労働をやめた女性たちの収入は違法化によって減少し,さらに,女性たちの子供が学校に通うのに必要な金銭を工面する能力が下がる一方で,子供たちが世帯所得を補うために労働しはじめる確率は高まった.性産業が永続的に縮小すれば人口当たりの性感染症発生数が改善する余地はあるが,違法化から5年間で市場は再び拡大に転じ,人口全体での性感染症罹患率は高まっている見込みが大きい.

上記は,Lisa Cameron, Jennifer Seager, & Manisha Shah による NBER ワーキングペーパーからの抜粋.

ジョセフ・ヒース「ポリティカル・コレクトネスについて付記」(2015年6月8日)

More on political correctness
Posted by Joseph Heath on June 8, 2015 | education

オタワ・シチズン紙に論説(『カナダの大学教授はなぜ学生を恐れないか』〔日本語訳はここで読める〕)を寄稿し今日掲載されたことで、どうやら私は今現在、ポリティカル・コレクトネスに関して無敵の人になっているようだ。そもそものきかっけは、アメリカの単科大学――特にリベラル・アーツ系の小さな単科大学(カナダだとノバスコシア州を除けばほとんど存在しないタイプの大学)――で何か馬鹿騒ぎが起こるたびに、概して「総合大学」が悪評を浴びる事態に、私が苛ついたことにある。カナダの総合大学に問題があるのを否定はしないが、アメリカで起こっている出来事は全て、カナダでも同じように起こっているに違いないと単純仮定するのは止めて、カナダの問題についてはカナダの総合大学に依拠して議論するのが良いんじゃないか、と。 [Read more…]

アレックス・タバロック「猿の子育て実験からわかること」(2020年9月2日)

[Alex Tabarrok, “Monkey Parenting Matters,” Marginal Revolution, September 2, 2020]

ジェイムズ・ヘクマンを含む経済学者グループが NBER で新しい論文を出した.複数世代を重ねる猿の子育て実験から得られたデータを分析して児童の発達を研究する流れに,これで経済学者も合流したわけだ.1950年代にハーロウがやった一連の実験で,母親なしで育てられた猿は子育てがあまりうまくないのはよく知られている.(またハーロウの実験は,「肌と肌での母子の接触」という例のマントラの由来でもある.) 今回の論文が独特なのは,母親に育てられる猿と保育所に育てられる猿を無作為に割り振り,これを2世代繰り返したところだ.というか,この新論文に出てくる猿の子供たちには,同じくヘクマンを含む著者たちの以前の論文に登場した子供たちが含まれているんじゃないかと思う.複数世代を重ねる実験を行うことで,不利・短所が後続世代に継承されるのか,不利・短所が緩和されるのかを研究者たちは検証できる.
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サイモン・レン=ルイス「増税は不可避になるか?」(2020年9月1日)

[Simon Wren-Lewis, “Will taxes have to rise?” Mainly Macro, September 1, 2020]

――という問いが,ジョナサン・ポーツとビル・ミッチェルの討議で取り上げられている.今回の議論は私から見て実にいらだつものだった.というのも,なにかもっと根本的な問題を論じているかのように見えて,実は中期的なインフレ予想をめぐって論議しているからだ.いまのパンデミックがもたらす財政コストを「まかなう」ために増税する必要がないという点は,ミッチェルもポーツも同意している.この超低金利の時代に,グローバル金融危機やパンデミックのような事態で対 GDP 比でみた債務にショックが発生しても,債務にかかる金利を経済成長率が上回っているかぎり,時間をかけて徐々に減少させていくのにまかせるべきだ.債務を減らそうとして財政赤字をゼロに近づけたり,それどころかオズボーンがやったように財政黒字にしようと図ったりすれば,景気の完全回復を妨げてしまう.
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ジョセフ・ヒース「左派の中心的課題は事前分配である」(2014年4月3日)

The central challenge for the left in Canada
Posted by Joseph Heath on April 3, 2014
「カナダにおける左派の中心的課題」

前回のエントリを読んだ人は皆、オンタリオ州におけるNDPの最近の政策(特にNDPが、切迫している集合行為問題の解決よりも、富の再分配を優先していること)に強い賛意を呼び覚ますのに、私が非常に苦労しているのに感づいたに違いない。前回の論題について考えたことで、私は最近読んだサミュエル・ボウルズの『不平等と再分配の新しい経済学』の冒頭の一節を思い出した。

社会主義、急進的民主主義、社会民主主義、その他平等主義運動が勃興を極めてきたが、こういった運動が成功したのは、希少性の問題へと取り組むのを可能としている経済戦略に、分配の公平性要求を組み込むのに成功した場合であった。土地の耕作者への再分配、社会保険、平等主義的賃金政策、中央司令型経済、適切な医療や学校教育を万人に提供すること、これらが魅力的になっていたとしたら、分配の強化による経済的見返りが、経済システム全体のパフォーマンス向上に結びつけられると約束されていた場合であった。

このボウルズの文章は、完全に明晰とではないにしても、中心的主張は非常に重要だ。平等を高めようと試みとした時、既存の社会的生産物を単純に取り上げてから、再分配が可能である、と考えるのは間違えている。なぜなのか? それは大きな社会的軋轢を産み、結局は水泡に帰してしまうからだ。左派が、平等をより大きく促進するのに成功している状況があるとすれば、社会生産物の促進を行いつつ、そこでの利益を(裏側で進行している市場での様式とは相対的な形で)より平等主義的な方法で分配するスキームを提示している場合である。私の考えでは、この最適事例は、社会保障だ。社会保障は、重要な効率性の向上を達成しつつ、より大きな平等を促進することになる。

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VoxEUアブストラクト「経済研究に最良のプログラミング言語はどれか:Juliaか,Matlabか,Pythonか,Rか」(2020年8月20日)

[Alvaro Aguirre & Jon Danielsson, “Which programming language is best for economic research: Julia, Matlab, Python or R?” VoxEU, August 20, 2020]

経済研究でとりわけ広く使われているプログラミング言語は,Julia, Matlab, Python, R だ.本コラムでは,3つの規準でこれらの言語を比較する:すなわち,利用できるライブラリの力,大規模データセットを取り扱う際にできることと速度,計算の負荷が大きいタスクでの速度と使いやすさ,この3点で比較する.R はよい選択肢ではあるものの,著者が一般的に推奨するのは Julia であり,著者が新規プロジェクトによく選ぶのもこの言語だ.

サイモン・レン=ルイス「コロナウイルス感染再拡大の政治経済と心理」(2020年8月11日)

[Simon Wren-Lewis, “The political economy and psychology of COVID rebounds,” Mainly Macro, August 11, 2020]

現状は,第二波と呼んでもいいし,第一波のぶり返しと呼んでもいい.どう呼ぶにせよ,ヨーロッパの一部の国々では,新規感染者数がいったん低下ないし安定した期間が長く続いたのちに,いまや,一貫して(ときに急激に)新規感染者数が増加している.
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VoxEUアブストラクト 「連銀と量的緩和:投資を促進するもインフレは抑える」(2020年8月30日)

[Gregor Boehl, Gavin Goy, Felix Strobel, “The Federal Reserve and quantitative easing: A boost for investment, a burden on inflation,” VoxEU, August 30, 2020]

重要な役割をもちながらも,量的緩和として知られる資産大規模購入がマクロ経済に及ぼす効果については,いまなお議論が決着していない.本コラムでは,グローバル金融危機のさなかに連銀が実施した量的緩和プログラムがマクロ経済にもたらした効果を構造的に検討してえられた知見を述べる.一般的な共通見解どおり,研究結果からは,資産購入が借り入れ条件を大幅に容易にし新規投資を促したことがうかがえる.投資の増加は生産能力の拡大につながり,それがさらに企業の限界コストを低下させた.しかしながら,インフレ〔を年率 0.25% 抑制する〕効果もあった.