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ピーター・ターチン「実質賃金の上昇が止まった理由Ⅲ:非市場影響要因の代替値」(2013年4月11日)

A Proxy for Non-Market Forces (Why Real Wages Stopped Growing III)
April 11, 2013
by Peter Turchin
labor, norms, structural-demographic

前回までの一連ののエントリで、なぜ実質賃金は1970年代に上昇が止まったのか、そして労働需要と労働供給の長期の動向はこの疑問に応えることができるかどうか問うてみた。このエントリでは、経済的影響要因より定量化が困難な「経済の領域外」(非市場)の影響要因に目を向けてみたい。

非市場的影響要因は、実質賃金へ潜在的な影響を与えているが、多量のメカニズムから成り立っている。1つ挙げるなら、国家の経済統制(一部の人に言わせれば、国家による干渉)を起因とする政治的要因である。様々な関係者間の権力勾配の存在が影響になっている。政治・立法的環境が労働組合に有利ならば、労働者は雇用者と団体交渉が可能になり、権力を得ることになる。逆の場合は、雇用者が優勢となる。 [Read more…]

ピーター・ターチン「エリート達の内輪での競争:複雑な社会の動態を理解するための重要な概念」(2016年12月30日)

Intra-Elite Competition: A Key Concept for Understanding the Dynamics of Complex Societies
December 30, 2016
by Peter Turchin
elites, norms, social change, structural-demographic

国家レベルの複雑な社会は、社会と政治の不安定性の大波という苦境に周期的に陥るが、これを説明する最重要要因の一つがエリート達の内輪での競争である。この考えは、約30年前にジャック・ゴールドストーンによって提唱された。ゴールドストーンは、イングランド内戦1 、フランス革命、17世紀のトルコと中国での内乱の構造的な前兆を分析することで、この考えを実証的に検証した。他の研究者達(セルゲイ・ネフェドフ、アンドレイ・コトラエフ、そして私を含む)はゴールドストーンの理論を発展させ、古代ローマ、古代エジプト、古代メソポタミア、中世イングランド、中世フランス、中世中国、1848年のヨーロッパでの諸革命、1905年と1917年のロシアでの革命、アラブの春の暴動のような異なる社会における、ゴールドストーンのこの考えを検証した。もっと身近だと、近代民主主義国家の安定性もまた、エリート間の過度の競争によって蝕まれることを最近の研究は示唆している(アメリカ史における構造人口動態分析に関しては“Ages of Discord(『不和の時代』)”を参照)。なぜエリート達の内輪の競争は不安定化の重要なトリガーになるのだろう? [Read more…]

  1. 訳注:イギリスで1641~1653年にオリバー・クロムウェル率いる議会派と王党派との間起こった内戦。『清教徒革命』とも呼ばれる。 []

ボールドウィン & エヴェネット「COVID-19 と通商政策: pt.7」(2020年4月29日)

[Richard Baldwin & Simon J. Evenett, “Introduction,” in COVID-19 and Trade Policies. VoxEU, April 29, 2020]

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グローバル化の潜在的な貢献は,政府どうしが協力したときに増幅される

「国際貿易や生産拠点の国外移転,ひいてはグローバル化全般は,COVID-19 パンデミックを乗り越える国民衛生の自主的な行動を阻害する」と考える人たちがいる.典型的に,自国単独の政策選択肢しか考慮していないときに,この結論が引き出される.だが,歴史を見れば,生産の急拡大には国際協力が必須なのがわかる.第二次世界大戦での生産努力は,まさにそうやって機能した.
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ピーター・ターチン「コロナウィルスの長期的影響」(2020年4月20日)

Long-Term Consequences of Coronavirus
April 20, 2020 by Peter Turchin
cooperation, economics, elites, health, inequality, structural-demographic

我々は今COVID-19パンデミックの中盤にいる、現状とどこに向かおうとしているのかを詮索するのに良い時期だ。例えば、人口統計学的には、このパンデミックの影響は軽微であることが既に明らかになっている。人口の1%未満しか死亡しないだろうことと、コロナによる死亡者は既に定年退職した人に大きく偏っているからだ。アメリカ合衆国だけでも既に4万人がこの感染症で死亡しているが、これは総人口の観点からはたいして、もしくは何も変えないだろう。

中期(今後数年)の疫学的見通しはまだ不透明だ。我々はウィルスを絶滅に追い込むことができるのだろうか? それとも、風土病化し秋から冬にかけて毎年再来することになるのだろうか? 通常の〔風邪やインフルエンザの〕ケースのように、ウィルスは致死性の低い形態に進化するのだろうか? 私の見解では、今後2~3年中にコロナウィルスを駆除することは十分に可能だ。問題となっているのは、この駆除目的を達成するのに、我々がどこまで自身の生態を集合的に変更できるかどうかだ。全ての旅行者や他の伝染させる可能性がある保菌者を徹底的に検査し、ウィルス感染多発地域を積極果敢に検疫隔離し、自国内の感染症を制御するつもりがない、あるいは制御能力がない国を取り囲んでの衛生的閉鎖を行うことが必要になるだろう。

しかしながら、このブログは社会的動態に焦点を当てているので、今回のパンデミックが社会的健全性にどう影響を与えるのかについて論じてみよう。前回の投稿で論じたように、現在のグローバリゼーションと大衆の窮余化の度合いを考慮すれば、致死的なパンデミックが再来する可能性は非常に高い。つまるところ、COVID-19や将来の未知の病気は、世界システムの水準からは、内在的動態の一部なのだ。しかしながら、個々の国家レベル(国家に中心を絞った私の研究枠組み)の水準からは、COVID-19は外的ショックだ。COVID-19の長期的な影響は、影響を受けた社会的制度のレジリエンス(復元力)に何よりも左右される。 [Read more…]

ボールドウィン & エヴェネット「COVID-19 と通商政策: pt.6」(2020年4月29日)

[Richard Baldwin & Simon J. Evenett, “Introduction,” in COVID-19 and Trade Policies. VoxEU, April 29, 2020]

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ボックス記事 #1: 輸出制限は裏目に出る

3M は保護マスクの世界的な製造業者で,ヨーロッパ・アジア・ラテンアメリカ・合衆国に工場をもっている.2020年1月時点で,COVID-19 の発生を見た 3M は N95保護マスクの生産能力を年間11億枚にまで倍増させた.合衆国内では,3M は生産を 40% 増やすことを目指している.2020年6月までにN95保護マスクを月間 5,000万枚生産する見込みだ.
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ビル・ミッチェル「日本式Q&A – Part 5b」(2019年12月5日)

Bill Mitchell, “Q&A Japan style – Part 5b“,  Bill Mitchell – Modern Monetary Theory, December 5, 2019

Part 1 Part 2 Part 3 Part 4 Part 5a

これは通貨発行権のある政府による様々な債券発行オプションの帰結に関しての、2部構成の議論の最終パートである。基本的な現代金融理論(現代貨幣理論、MMT)の立場は、通貨発行権のある政府における不必要な債務発行の慣行(これは固定為替レート、金本位制の日々からの残滓[hangover]である)の放棄だ。通貨発行権のある政府は、その能力を利用して全般的な幸福を促進するべきであり、金融市場における投機的行為のリスクを下支えして軽減することで企業の福祉に寄与することには何の正当な理由もない。ただし、現実世界の層(政治など)を導入すると、一部の純粋なMMTタイプのオプションが使用できないことが分かる。以下の質問はまさに日本におけるそうしたケースを紹介したものである。政治的制約を考えると、政府が債務を発行する場合、中央銀行の行動には次の2つのオプションのいずれかを選択する必要がある。(A)流通市場(既発債券市場)ですべて購入する。 (B)債務を非政府部門に残す。この最終パートでは、その選択に影響し得る考慮事項をいくつか論ずる。

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ボールドウィン & エヴェネット「COVID-19 と通商政策: pt.5」(2020年4月29日)

[Richard Baldwin & Simon J. Evenett, “Introduction,” in COVID-19 and Trade Policies. VoxEU, April 29, 2020]

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内向きに転じてもうまくいかない

本 eブックの論考がそろって発しているとくに重要なメッセージのひとつはこれだ:保護主義は COVID-19 パンデミックのさなかにうまくいっていない.」――お好みならこう言い直してもいい:「外国の利害よりも国内の利害を優先した政府の行動は,うまくいっていない.」 そうした保護主義は COVID-19 に苦しむ外国の犠牲者たちを害し,外国での公衆衛生介入の効果も低下させてしまうばかりでなく,自国でもパンデミックに対抗する行動をほぼ利さないのだ.
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ボールドウィン & エヴェネット「COVID-19 と通商政策: pt.4」(2020年4月29日)

[Richard Baldwin & Simon J. Evenett, “Introduction,” in COVID-19 and Trade Policies. VoxEU, April 29, 2020]

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さまざまなショック,さまざまな保護主義

保護主義をとりたくなる誘惑は,さまざまなかたちをとって現れうる.「保護主義」という用語には〔よくない印象の〕負荷がかかっている.さらに,「保護主義」というともっぱら輸入制限ばかり連想されることも多い.そこで,もっといいアプローチをとりたい.それは,〔ある国の〕政府の行動が外国の通商に関わる利益関係者に反する差別となるパターンを網羅することに傾注するアプローチだ [n.9].そうした利害関係者には,輸入者・輸出者・製造業者・外国投資家・知的財産の外国の朱勇者・外国の労働者・外国データの所有者がいる.
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ジョセフ・ヒース「ナオミ・クライン、追記その2」(2015年4月12日)

Naomi Klein postscript no. 2
Posted by Joseph Heath on April 12, 2015 | environment

これがすべてを変える』を読んで、私はどこかノスタルジックな気分なった。今から10年以上も前の古き良き時代だ。当時、『ブランドなんかいらない』や『アドバスターズ1 』が大流行しており、〔アドバターズの編集長〕カール・ラースンは「『カルチャー・ジャミング2 』は、我らの時代の、60年代の公民権運動、70年代のフェミニズム、80年代の環境保護活動になるだろう」と宣言していた。アンドルー・ポターと一緒に「こいつら全部クソだぜ!」と叫んで楽しんでいたことを思い出した。 [Read more…]

  1. 訳注:カナダに本拠を置くカウンターカルチャーに大きな影響を持っている雑誌。「ウォール街を占拠せよ」で有名なオキュパイ運動等を先導している。 []
  2. 訳注:アドバターズによって提唱されている反資本主義運動。資本・大企業の洗脳に対抗するために、一般市民が資本・大企業のブランド広告等に対して文化的撹乱攻撃を仕掛けて認知不協和的を作り出し対抗しよようとする試みである。例えば、ナイキのスニーカーやヴィトンのバッグの代わりに、自前の「クール」なスニーカーやバッグを使用することで、ブランドによる洗脳価値観を錯乱・転倒させるようとする試みである。 []

ボールドウィン & エヴェネット「COVID-19 と通商政策: pt.3」(2020年4月29日)

[Richard Baldwin & Simon J. Evenett, “Introduction,” in COVID-19 and Trade Policies. VoxEU, April 29, 2020]

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保護主義の誘惑と,自由主義貿易体制への恐れ

景気後退は保護主義の召使いだというのが通説だ.すでに述べたように,1930年代序盤の経験という歴史の実例を見れば,この通説にもなっとくがいく.その帰結は,陰惨だった.傑出した経済史家たち Barry Eichengreen と Douglas Irwin はこう論じている:「大恐慌にはいまなお論争が続いている側面が多々ある.だが,それでもただひとつ,諸説が一致している点がある.それは,制限的な通商政策を採用したのは破壊的で逆効果だった,という点だ.」(Eichengreen & Irwin 2009).

2008年と同じく,今日も世界の指導者たちは過去の教訓にならわない陥穽を警戒している.世界銀行の David Malpass 総裁は,先日こう発言している――「諸国は踏み込んでこう発言する必要があります,『我々はこの危機を利用して自国市場を閉じたり自国市場を囲い込んだりする口実にはしません』と」(Malpass 2020).IMF のチーフエコノミスト Gita Gopinath 教授は,保護主義の難点を正しく見定めている:「グローバル化の利得を逆戻りさせてしまう未来を招かないことが非常に重要です.」[n.5] だが,指導者たちがもれなくこのように考えているわけではない.

保護主義は勝手に空から降ってくるわけではない――苦境につけこんで保護主義を主張する人々がいてはじめて存在するのだ.もちろん,保護主義を唱える人々も,内向きに閉じようという切り口で自説を述べたりはしない.供給を確保するといった主張で保護主義を唱えるのだ.2020年2月に,医療用品の供給が不足しそうな見通しに触れて,トランプ大統領補佐官のピーター・ナヴァロはこう主張した: [n.6]

「長年にわたって密かに合衆国の経済と国民の安全を脅かしていた問題にいよいよ目覚めてとりかかるときがきたのです(…).今般のコロナウイルスや2009年の豚インフルエンザ H1N1 から我々が学んだことがあるとすれば,それは,必要不可欠な物品は,マスクからワクチンにいたるまで,その供給を他国に必ずしも依存するわけにはいかないということです.たとえ関係の深い同盟国といえども,それは同じです.」

これほどあからさまではないまでも,もっと穏やかな〔保護主義的な〕心情は,他の高官たちも表明している.そうした表明は,必ずしも経済なしょなりすむと結びついてはいない.欧州委員会の保健衛生担当委員ステラ・キリアキデスは,問題をこう述べている:「中国をはじめとする諸国に対する EU の依存という問題は(…)COVID-19 以前は議題にのっておりませんでした」「[今回の危機によって]この問題が大きく浮かび上がり,これに目を向ける必要が生じています.他国への依存を減らす必要があります.」[n.7] キリアキデスの同僚で欧州委員会の域内市場委員のティエリー・ブルトンは,産業政策をはじめとする職務を担当している.彼は次のような意見を述べている:「グローバル化は行き過ぎています.」 さらに,こうも述べている:「今回の危機以後,我々と世界との関係はいままでとちがったものとなると確信しています.」[n.8]

これまでのところ,新たな産業政策・貿易差別などの具体的な提案は出ていない.だが,反貿易の地域主義が勢いを得るのは容易に予想がつく――欧州復興開発銀行 (EBRD) のチーフエコノミストをつとめる Beata Javorcik 教授が,この eブックへの寄稿で指摘しているとおりだ.

pt.4 に続く


原註

[5] Rappeport & Smialek (2020) での引用.
[6] Politi (2020) での引用.