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ダイアン・コイル 「経済学者よ、謙虚たれ」(2013年5月24日)/「体系の人」(2015年3月29日)

●Diane Coyle, “The humility of economists”(The Enlightened Economist, May 24, 2013)


間近に迫った講義の準備を進めている最中にふと手に取ったのはジェームズ・スコットの『Seeing Like A State: How Certain Schemes to Improve the Human Condition Have Failed』。1998年に出版された出色の一冊だ。

20世紀には数々の理想主義的な大規模実験が試みられた。旧ソ連における農業集団化やタンザニアにおけるウジャマー村構想(共同農場化)などがその例だが、本書ではかような実験が辿った破滅的な結末について詳しく取り上げられている。本書の結論部では数々の失敗(に終わった大規模実験の)例に共通するテーマが抉り出されている。いずれのケースでも未来(行く末)を取り巻く根本的な不確実性を看過するという過ちが犯されているというのだ。 [Read more…]

デイビッド・アンドルファット「年上の女を讃える」(2010年10月4日)

David Andolfatto, “In Praise of Older Women”1 , (Macro Mania, October 4, 2010)

どこで聞いてもアメリカの雇用情勢は悪いと言われる。だが、「悪い」とはどういう意味だろう?どれほど悪いかを証明する最もよくある方法は以下のような図表を使うことだ2

 (図表:不況期における民間雇用の急激な落ち込み)

ここも見て欲しい3 。これらは、景気循環ピークにある雇用水準を取り、ゼロを基準に合わせている。過去のいくつかの不況期が折れ線グラフになっているが、雇用の変化は各不況期の初めから見て取れる。そして今回の不況は悪そうだ。 [Read more…]

  1. 訳注:ハンガリー生まれカナダ人作家スティーヴン・ヴィジンツェイの恋愛小説の題名「年上の女を讃える」からと思われる。 []
  2. 訳注:残念ながらリンク切れだが、ダラスFedの統計だったと思われる []
  3. 訳注:残念ながらリンク切れ []

マリア・ヴィクトリア・アナウアティ, セバスチャン・ガリアーニ, ラミーロ・ガルベス 「経済ジャーナル階層の違いによる引用パターンの差異」(2018年10月9日)

Maria Victoria Anauati, Sebastian Galiani, Ramiro Gálvez, “Differences in citation patterns across journal tiers in economics” , (VOX,  09 October 2018)


経済学では、ごく限られた一流ジャーナルにおける発表がかなり重視されている。だが、ジャーナルの評判は必ずしも引用パフォーマンスに即応しない。本稿では、ジャーナル階層が違うと引用パターンも大幅に異なり、そこから論文の総引用数および引用ライフサイクルの双方にも影響が出ている実態を記述してゆく。とはいえ本結果が示唆するところ、トップファイブの座を占めるジャーナルは重視され過ぎているようだ。

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ジョセフ・ヒース「ワクチン接種は集合行為問題だ」(2015年2月5日)

Joseph Heath, “Vaccination is a collective action problem“, (In Due Course, February 5, 2015)

何週間か前、集合行為問題の理屈を理解することは多くの人にとって難しい、という投稿を書いた(ホッブズの難しいアイディア)。集合行為問題とは、人々のやりとりがよくない結果にいたるのだが、だれもそれを止める動機を持たない、という状況のことだ。

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ジョセフ・ヒース「ホッブズの難しいアイディア」(2014年12月15日)

Joseph Heath, “Hobbes’s difficult idea” (In Due Course, December 15, 2014)

ポール・クルーグマンの「リカードの難しいアイディア」は私のお気に入り論文のひとつである。そこでは、どうして人々が「比較優位」の概念を理解するのがこれほど大変なのかの理由が述べられてい。比較優位ほどひどい状況ではないとは言え、「集合行為問題」も理解が難しい概念であるということを最近思い知らされ。この概念は比較優位よりもう少し長い歴史があが、集合行為問題を「ホッブズの難しいアイディア1 」と呼んでも歪曲にはならないだろうと思っている [Read more…]

  1. 訳注:ホッブズは、人間が各人の欲望の赴くままに行動すると「万人の万人にたいする戦争状態」となって悲惨なことになってしまうので、人間は国家の支配に服して各人の権利が制限されることで逆説的により幸福になると考えた。この考えは集合行為問題の萌芽と言える。 []

ゼバスチアン・ドゥー, ホセ-ルイス・ペイドロ, ハンス-ヨアヒム・フォーツ 「銀行破綻はかくしてヒトラーに権力への道を敷いた: ドイツにおける金融危機と極右勢力, 1931-33」(2019年3月15日)

Sebastian Doerr, José-Luis Peydró, Hans-Joachim Voth, “How failing banks paved Hitler’s path to power: Financial crisis and right-wing extremism in Germany, 1931-33“, (VOX, 15 March 2019)

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ダイアン・コイル 「ジェームズ・スコット(著)『Seeing Like A State』を再読して」(2015年9月6日)

●Diane Coyle, “On Seeing Like A State”(The Enlightened Economist, September 6, 2015)


ステファノ・ベルトロ(Stefano Bertolo;@sclopit)がツイッターで慨嘆している。

sclopit:別のニュース。政策の立案を担当する若手官僚の面々と数日ほど一緒に過ごす機会があったのだが、誰一人としてジェームズ・スコット(James Scott)のあの本(http://t.co/vX6k4IxxNE)のことを聞いたこともない様子。

早速本棚に手を伸ばして(「あの本」こと)『Seeing Like A State』にざっと目を通す。何がテーマとなっているかは副題からある程度窺い知れる。「人々の暮らしを良くしようとして企てられたある種のスキーム(計画)が失敗するに至ったのはいかにしてか?」。本書では理想主義的な(トップダウン型の)国家主導のスキーム(計画)の数々が詳細に取り上げられている。ニエレレ大統領による(タンザニアの)ウジャマー村構想、ル・コルビュジエの唱える理想都市を範としたブラジリアの都市計画――ジェイン・ジェイコブズが讃える(自生的な成長を遂げる)有機的な都市とは正反対の例――、そして旧ソ連における農業集団化などなど。


『Seeing Like a State: How Certain Schemes to Improve the Human Condition Have Failed』 (The Institution for Social and Policy Studies)

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ダイアン・コイル 「公共政策について学ぶ:推薦図書リスト」(2016年9月16日)

●Diane Coyle, “Public policy reading”(The Enlightened Economist, September 16, 2016)


ツイッター上でフレデリコ・モレ(Frederico Mollet)から次のようなやりがいのある挑戦状が届いた。「公共政策について学ぶために大学院の修士課程に進学したばかりの学生が大局を掴む上で役に立つお薦めの書籍を挙げよ」。以下に私なりのお薦めを掲げるとしよう。合計で10冊1。読みやすさ重視。経済学の観点から公共政策に切り込んでいる書籍、経済政策の(理論的な)根拠に探りを入れている書籍を中心に選んでいる。毎度のことだが、何か意見があるようならお知らせ願いたい。歓迎する。特に、著者が女性の書籍で何かお薦めがあればお教え願いたいところだ。以下に掲げた書籍の著者は男性ばかりなものでね。

上から三冊は「私のお気に入り」の座に長年君臨し続けている代物。誰もが是非とも一読すべきだと思う。

*『Seeing Like A State』(「国家による一元化」) by ジェームズ・スコット(James Scott)

*『Reinventing the Bazaar』(邦訳『市場を創る-バザールからネット取引まで』) by ジョン・マクミラン(John McMillan)

*『Micromotives and Macrobehavior』(邦訳『ミクロ動機とマクロ行動』) by トーマス・シェリング(Thomas Schelling)

*『Who Gets What and Why』(邦訳『Who Gets What(フー・ゲッツ・ホワット)-マッチメイキングとマーケットデザインの経済学』) by アルビン・ロス(Alvin Roth)

*『What Money Can’t Buy: The Moral Limits of Markets』(邦訳『それをお金で買いますか』) by マイケル・サンデル(Michael Sandel)

*『Economics Rules』(邦訳『エコノミクス・ルール-憂鬱な科学の功罪』) by ダニ・ロドリック(Dani Rodrik)

*『Madmen, Intellectuals, and Academic Scribblers: The Economic Engine of Political Change』(「狂人、知識人、三文文士:政治変化の背後に潜む経済的な原動力」) by エドワード・ロペス(Edward Lopez)&ウェイン・レイトン(Wayne Leighton)

*『Poor Economics』(邦訳『貧乏人の経済学-もういちど貧困問題を根っこから考える』) by エステル・デュフロ(Esther Duflo)&アビジット・バナジー(Abhijit Banerjee)

*『The Idea of Justice』(邦訳『正義のアイデア』) by アマルティア・セン(Amartya Sen)

*『Other People’s Money』(邦訳『金融に未来はあるか-ウォール街、シティが認めたくなかった意外な真実』) by ジョン・ケイ(John Kay)

*『Economic fables』(邦訳『ルービンシュタイン ゲーム理論の力』) by アリエル・ルービンシュタイン(Ariel Rubinstein)

*『The Blunders of Our Governments』(「われらが政府によるヘマの数々」) by アンソニー・キング(Anthony King)&アイバー・クルー(Ivor Crewe)(イギリスの例しか取り上げられていないが、非常に愉快な一冊であることは間違いない)



  1. 原注;・・・のつもりだったが、あれもこれもと考えているうちに少々オーバーしてしまった。 []

ダイアン・コイル 「『公共政策の経済学』を教えるとしたら」(2013年12月9日)

●Diane Coyle, “What can economics contribute to public policy?”(The Enlightened Economist, December 9, 2013)


大学で「公共政策の経済学」をテーマとする講義を受け持っているのだが、どんな内容をカバーするのがベストだろうかとずっと頭を悩ましている。世間を賑わす「ビッグ・イシュー」(大きな争点)に対する学生たちのごく自然な興味・関心を満足させつつ、経済学徒たる彼らを公共政策(ないしは政府の決定)に明るい「事情通の市民」(well-informed citizen)へと涵養するには、あるいは、公共政策の世界に飛び込んでも活躍できる職業人に育てるにはどんな内容を教えたらよいだろうか? それに加えて、これまでに色んな講演の機会(例えば、こちらこちら)を通じてあれこれ論じてきたところでもあるが、「経済分析(経済学)は公共政策に対していかなる寄与をなし得るか?」というさらにどでかい問題も背後には控えている。

公共政策をテーマとする経済学の講義でどんな内容が教えられているのかネットで講義のシラバスなり課題図書リストなりを調べてみると、公共財の理論だったり公共選択論だったり取引費用経済学/新制度派経済学だったりといった理論的な思考枠組みの説明に重点を置いている向き(第一のアプローチ)があるかと思うと、具体的なトピック――教育問題絡み(授業料、バウチャー制度など)、環境問題絡み(環境の経済評価など)、独禁法をはじめとした競争政策などなど――の解説に重点を置いている向き(第二のアプローチ)もあるようだ。具体的なトピックを論じる場合には個別の事情(文脈)を踏まえざるを得ず、それゆえ課題図書リストには各国の事情を取り上げた文献が名を連ねている。その他には、伝統的な財政学の流儀に則って租税や財政支出、福祉国家などなどについて論じるという向きもある(第三のアプローチ)。私が学部時代(はるか昔)に受けた講義がまさにこのやり方(伝統的な財政学の流儀)に則って教えられた。マスグレイブ夫妻の『Public Finance in Theory and Practice』(邦訳『マスグレイブ財政学-理論・制度・政治-』)が教科書として指定されていたものだ。公共政策について教えるといっても色合いの異なる様々なアプローチがあるようで実に興味深いところだ。 [Read more…]

ダイアン・コイル 「経済学のお薦めの教科書」(2015年3月5日)

●Diane Coyle, “Preparation for a public policy degree”(The Enlightened Economist, March 5, 2015)


昨日のことだが、次のようなメールを受け取った。「私は××大学の学部生です。・・・(略)・・・公共政策について学ぶために大学院の修士課程に進む予定なのですが、その準備としてミクロ経済学およびマクロ経済学のお薦めの入門教科書をお教えいただけないでしょうか?」

学部で経済学を学んだ経験があるかどうかで答えは変わってくるのだが、件のメールではそこのあたりについて詳らかにされていない。そこでとりあえず経済学についてはまったくの初心者だと想定した上でアドバイスすると、まずは一般向けの啓蒙書を手に取ってみることをお薦めする。個人的な好みでいうと、ミクロ経済学についてはティム・ハーフォードの『The Undercover Economist』(邦訳『まっとうな経済学』)、マクロ経済学については同じくハーフォードの『The Undercover Economist Strikes Back』。それが済んだらその次はCOREプロジェクト監修の(無料の)オンライン教科書である『The Economy』に進めばいいだろう。


『The Undercover Economist』

 


『The Undercover Economist Strikes Back: How to Run or Ruin an Economy』

その次の段階だが、学部レベルのマクロ経済学の教科書だと『Macroeconomics: Institutions, Instability and the Financial System』(by ウェンディ・カーリン&デヴィッド・ソスキス)がお薦め。つい最近になって出版されたばかりの一冊だが、今般の金融危機がマクロ経済学に突き付けた課題についてもカバーされている。(学部レベルの)ミクロ経済学の教科書についてはマクロ経済学の場合ほどパッとは選べないのだが、個人的なお気に入りはハル・ヴァリアンの『Intermediate Microeconomics』(邦訳『入門ミクロ経済学 [原著第9版]』)。新版(第9版)も出たばかりだ。対抗馬として最近出たばかりのピーター・ドーマン(Peter Dorman)の手になる二冊(ミクロ&マクロ)の教科書(『Microeconomics』/『Macroeconomics』)を挙げておこう。


『Macroeconomics: Institutions, Instability, and the Financial System』

 


『Intermediate Microeconomics: A Modern Approach』

「これは激しくお薦め」という一冊がある。アングリスト(Joshua Angrist)&ピシュケ(Jorn-steffen Pischke)のコンビの手になる『Mastering Metrics』がそれだ。説明も非常に明快。テクニカルな細かい話は極力差し控えられているし、不必要だと感じたら読み飛ばすことも可能だ。計量経済学をはじめとした実証分析にまつわる知識は公共政策の研究を進める上で重大な土台となるものなのだ。ちなみに、本書ではミクロ計量の話題に焦点が合わせられており、時系列分析だとかマクロ計量の方面はまったくカバーされていないのでその点は注意。


『Mastering ‘Metrics: The Path from Cause to Effect』

最後に私事になるが、学部で「公共政策の経済学」をテーマとする講義を受け持っている。講義で使うのに何かいい教科書はないかとずっと探しているのだが、こちらの思惑にばっちりはまるような候補は未だ見つけられないでいる。ルグラン&スミス&プロパーの『The Economics of Social Problems』の中には講義で使うのにかなり重宝する章もいくつかあるが、社会政策に重点が置かれ過ぎているきらいがある。ジョセフ・スティグリッツの『Economics of the Public Sector』(邦訳『スティグリッツ 公共経済学』)だとかチャールズ・ウィーランの『Introduction to Public Policy』だとかも非常に役に立つ。どちらも私の意には沿わないところもあるが、公共政策について学ぶ上で全貌を俯瞰するには格好の書とは言えるだろう。

私なりのお薦めはこんなところだ。何か他にお薦めがあればコメント欄でお知らせいただきたいと思う。