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サイモン・レン=ルイス「右派ポピュリズムが成功する理由を理解する」(2019年7月6日)

[Simon Wren-Lewis, “Understanding why right-wing populism succeeds,” Mainly Macro, July 6, 2019]

このところ,『ロンドン・レビュー・オブ・ブックス』に掲載されたヤン=ヴェルナー・ミュラーの「ポピュリズムと人々」を読み返している(2019年5月).ごく簡潔ながらも,右翼ポピュリズムの台頭といういまの時代にもっとも懸念される政治の動きを慧眼で読み解いた文章だと私は思う.私が取り上げるのはトランプとファラージだが,ハンガリーのオルバーンも,トルコのエルドアンも,ポーランドのカチンスキも,インドのモディも,ブラジルのボルソナロも,共通点がある.それは:

ポピュリストの統治手法だ.その基礎をなしているのは(…)ナショナリズム(人種差別をしばしばにじませる)であり,国家をハイジャックして党派に忠実な人々の私物にすることであり,さらに,そこまで明白ではないが,経済を武器にして政治的な権力を確保することだ:つまり,文化戦争と身内びいきと大衆を相手にした政治的な恩顧主義の組み合わせが彼らの手法の基礎をなしている.

ただ,ひとつ気がかりなパラグラフがある.全文を以下に引用しておこう:

だが,これほど多くの人たちが本当に極右の見解に転向したのだろうか? 評論家たちやポピュリスト当人たちがよく述べているドミノ理論とは逆に――つまり,まず EU離脱があり,次にトランプがきて,さらにル=ペンその他もろもろが続いたという説とは逆に――西ヨーロッパや北米のどこにも,右派ポピュリストが保守本流エリートの協力なくして権力についた国はないという事実はいまも変わっていない.ファラージは彼ひとりで EU 離脱〔が国民投票で支持される結果〕をもたらしたわけではない.マイケル・ゴーヴ,ボリス・ジョンソンその他が有権者に「EU離脱はすばらしい考えだ」と請け合ってくれる必要がファラージにはあった.トランプにしても,よく決まり文句のように言われるのとはちがって,怒れる白人労働者階級による自発的な草の根運動の指導者として大統領に選ばれたわけではない.トランプは伝統的な上流階層の政党が認めた候補であり,クリス・クリスティやルディ・ジュリアーニ,ニュート・ギングリッチの支持を必要とした.こうした面々がそろってトランプにお墨付きを与えたのだ.2016年11月8日に起きたことは,ある意味ではごく凡庸な切り口で説明できる.共和党に共鳴する市民たちが家を出て投票日にすべきことをした:つまり,共和党に投票した.ここで起きたことはごく普通のことだ.いつもとちがったのは,票を投じられた候補の方はそれほど普通ではなかったという点だ.

右派が生き残るには極右に売り込みをかけるほかなく,右派には他の選択肢はなかった――これを当然視すれば,このプロセスは完璧に普通なことに見えうる.だが,元イギリス独立党のメンバーたちで自陣営が急速に膨らんでいき,そうした面々が「取り決め無用」に反対論を唱える候補者たちを非公認にしていく様を保守党がみすみす許したのは,べつに避けようのない事態ではなかった.キャメロンが EU離脱の賛否を問う国民投票を実施すると約束しつつ,離脱支持側がいったいどういうかたちの離脱を提案しているのか限定しないままにさせたのは,別に不可避な選択肢ではなかった.さらに,90年代後半から00年代前半にかけて野党の保守党とそれを支援する右派系新聞が移民問題を政治的な武器に利用しはじめたのも,べつにそうするしかなかったからではない.のちに EU離脱の下地を整える一因となった緊縮策をオズボーンが選んだのも,他に選択肢がなかったからではない.

これは,長期的にははるかに大きなコストをもたらすリスクをともなう短期的な利得を追求する選択肢だ.まちがいなく,保守党首脳部の誰かが,党員を拡大すれば有利にはたらくと考えたのだ.保守党が移民問題に注力したことで,のちにイギリス独立党の台頭につながる.そして,けっして達成されようのない移民制限目標を2010年に設定すると,これがイギリス独立党をさらに強化することとなった.キャメロンがのちに悪夢となる約束をすることになったのは,まさにこうしてイギリス独立党が強化されたからだった.オズボーンの緊縮策は労働党を悩ませ国家を縮小させた一方で,反移民の世論は強化した.

ただ,少なくともイギリスにかぎっていえば,これで話は終わらないだろう.BBC が極右を正常扱いする一方で,より広く中道が左派を悪者扱いするようになったという事情も働いている.政権とその支援新聞に圧力を受けた BBC が労働党よりも保守党に好意的な態度を取り始めたのは,周知の事実で異論の余地がない.もちろん,当の BBC は例外だが.ただ,同じくらい危険な極右の正常扱いにもこれはつながったと私は思う.極右の正常扱いは小さな事情がたくさん絡んで成り立っている:ブレグジット党立ち上げの無批判な報道,バノンとジョンソン外相のつながり〔辞任演説についてバノンがジョンソンに助言を与えた件〕に焦点を当てようとしないこと(ITV による報道はこちら),クライストチャーチのテロ襲撃事件直後に極右の代表を『ニュースナイト』に招いたこと,などなど.BBC ではさらに事態は悪いが,他の放送局にしても全面的に無罪な局はない.ブレスレット党は政党ではなく,誰も指導者を批判しない団体であり,その指導者は1930年代のファシストのイメージに通暁している人物だ.

中道が極右を正常扱いするのと組み合わさっているのが,保守党に対する主な対立勢力の悪者扱いだ.ゲイリー・ヤングを引用しよう

金融界や政界のエリート層と同じ階級を出自とするメディアエリートたちは,「選挙で選びにくい」ともっともらしく言われている労働党のリーダーシップ危機にこの間ずっと執心してきた.その労働党は,4年間同じ指導者に率いられてきた――そして,前回の総選挙では議席と得票率を伸ばしている.こうしたメディアエリートたちは,EU離脱からここ2回の選挙まで,なにか大きな政治的出来事がおこるたびにそれを不正確にとらえてきた.

50万人の党員を抱える政党で民主的に選ばれた指導者が〔メディアで〕不適格だと思われているとき,もう一方の主要政党が政治的に右へと移行するのを許すのが避けられない環境がうまれる.〔合意なき離脱への反対を回避する手として〕議会を閉会させるのを〔ボリス・〕ジョンソンが民主制への直接攻撃として除外せずにいるのを,全てのまともな報道機関はしつこく追求していてしかるべきなのに,そうしていない.一方の真実に対して嘘でバランスをとるのが理屈に合わないのと同じく,民主制への攻撃を許容するのは理屈に合わない.メディアと政治家からその種の擁護がなされないでいれば,ヤン=ヴェルナー・ミュラーがこれほど鋭く語っているポピュリズムへの移行は容易になってしまう.

タイラー・コーエン「いたるところに市場あり:日本のカーレンタル編」(2019年7月8日)

[Tyler Cowen, “Japanese car rental markets in everything,” Marginal Revolution, July 8, 2019]

車を借りるといっても,べつに運転するためじゃない場合もある:

同社の調査に回答した人のなかには,こんな人もいた.昼寝の場所にするために借りていったり,仕事場に使うために借りていく人たちがいましたよ.また,近くのコインロッカーが全て塞がっているときにカバンその他の手荷物を収納するために車を借りたという人もいる. 2011年の大震災と津波に見舞われたあと,レンタルカーは携帯電話の充電にも利用された. 「コンビニで買った弁当を食べるのに車を借りました.他に昼飯を食べられる場所が見つけられなかったもので.」 そう語るのは東京に近い埼玉県に住む会社従業員の31歳男性だ. 「いつもなら,うちのお客さんに会いに行くときに昼寝できる唯一の場所といったら駅前のネットカフェなんですが,車を借りて車内で寝てもほんの数百円で,ネカフェに行くのとほぼ同額ですみますね.」

アンドリュー・ホーキンスによる記事全文はこちら.via Samir Varma & Michael Rosenwald.

G.オッタヴィアノ「経済地理の逆襲:ヨーロッパの地域格差と選挙動向」(2019年7月3日)

[Gianmarco Ottaviano, “The economic geography of sovereignist Europe,” VoxEU, July 3, 2019]

経済地理が逆襲しつつある――グローバル化の時代に「距離は死滅する」とお手軽な論議が20年ほど続いてきたが,みんなの生活水準が上がっていく世界という約束は,各国内部の地域差のしぶとさによって突きつけられる挑戦はますます強まってきている.多くの人々や企業が地理的に流動的でないかぎり――おうおうにしてもっとも高技能で生産的な人々や企業が流動的でなかったりするかぎり――遠く離れた人々どうしのやりとりがさらに簡単になっても,集積の経済は弱められるどころか,むしろ強化される.この角度から見たとき,ヨーロッパで近年見られる選挙傾向は驚くほどよく理解できる.

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ブラッド・デロング「いまや『第二の金ぴか時代』に生きてるってことははっきりさせておこう」(2019年6月26日)

[Bradford DeLong, “Making it real that we live in the “second gilded age”…,” Grasping Reality with Both Hands, June 26, 2019]

このところ,いろんな人たちからこんなことを聞かされる.「ポール・クルーグマンが書いたこのコラムやその同類どもが書いた同趣旨の文章は血も涙もない話だし提案も成果を挙げないだろう」
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アレックス・タバロック 「核戦争が起こる確率はどのくらい?」(2019年7月1日)

●Alex Tabarrok, “What is the Probability of a Nuclear War?”(Marginal Revolution, July 1, 2019)


「核戦争のリスクは相変わらず世界が直面している一番大きな問題だ。いつか近いうちにやって来るかもしれない差し迫ったリスクであるようには見えないとしてもね」とはコーエンの言だが、私も同意見だ。

核戦争が起こる確率を予測するというのは難題も難題だが、ルイーザ・ロドリゲス(Luisa Rodriguez)がEffective Altruism Forumで核戦争が起こる確率を探る難業に乗り出している各種の試みを念入りに概観している。その道の専門家にしても超予測者(superforecaster)1にしてもいずれもが「かくあれかし」との世人の願いよりもずっと高い確率で核戦争が起こると予測しているようで面食らってしまったものだ。本エントリーの末尾に掲げた表にあるように、核戦争が起こる確率は1.17%(.0117)と見積もられているが、この数値は「1年間のうちに」核戦争が起こる確率であることに注意願いたい。ということはつまり、たった今生まれたばかりの赤ん坊が例えば75歳まで生きるとすれば、その赤ん坊が75歳で死ぬまでの間(一生のうち)に核戦争が起こる確率はおよそ60%(=1-(1-.0117)^75)ということになるのだ。思いがけないアクシデントが原因で1年間のうちに(米露間で)核戦争が起こる確率はというと0.9%(.009)。ということは、先の赤ん坊が75歳で死ぬまでの間に思いがけないアクシデントが原因で(米露間で)核戦争が起こる確率はおよそ50%(=1-(1-.009)^75)ということになる。ロドリゲスも触れているし、エリック・シュローサー(Eric Schlosser)の『Command and Control2でも詳しく取り上げられているが、ノースカロライナ州で起きた核爆弾落下事故をはじめとして(思いがけないアクシデントが原因で)核戦争一歩手前までいったケース3というのはギョッとするほど多いのだ。

60%に50%。クレイジーで馬鹿げてるとは思わない。クレイジーな高さだとは思うけどね。最後にロドリゲスによるまとめを引用しておこう。

歴史上の証拠(事実)に専門家の見解、そして超予測者による見積もり。これらすべてをひっくるめることにより、核戦争がどのくらいの確率で起きそうかを大まかに推定するとっかかりを得ることができる。ただし、一つひとつの推定結果を過度に重視しないように注意すべきだろう。というのも、確率を推定するための素材として利用されたデータはどれもそれぞれに重大な欠点を抱えているからである。とは言え、一定の限界は抱えつつも、これまでの議論を踏まえると次のように考えてもよさそうだ。1年間のうちに核戦争が起こる確率はおよそ1.17%であり、1年間のうちに米露間で核戦争が勃発する確率はおよそ0.39%と見積もられる。

  1. 訳注;「超予測者」についての詳細は次の本を参照されたい。 ●フィリップ・E・テトロック &ダン・ガードナー(著)/土方 奈美(訳)『超予測力――不確実な時代の先を読む10カ条 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)』 []
  2. 訳注;本書の概要については本サイトで訳出されている次の記事も参照されたい。 ●アレックス・タバロック 「『覆面経済学者の逆襲』、『アメリカにおける財産の歴史』、『コマンド&コントロール』 ~お気に入りの3冊~」(2017年8月28日) []
  3. 訳注;この話題については本サイトで訳出されている次の記事も参照されたい。 ●アレックス・タバロック 「事実は小説よりも奇なり ~行方不明の核爆弾~」(2017年8月26日) []

ジェームズ・ハミルトン「Libra:Facebook暗号通貨の経済学」

James Hamilton “Libra: economics of Facebook’s cryptocurrency” Econbrowser, June 24, 2019


先週1 ,Facebookは新たな国際暗号通貨Libraの構想を発表した。このLibraという名前は,銀1ポンドに基づき中世を通じてフランスの貨幣だった”livre”と,ラテン語で「自由」を意味する”liber”の合成のように思える2 。Facebookは,従来の銀行にアクセスのない世界の17億人の成人に対してLibraが国境を越えて資金を簡単に転送する自由を与えると主張している。

お金は3つの特質によって定義される。すなわち,計算の単位(私たちが買うものは大抵ドルで値付けされている),交換の媒介(そうしたものを買う際には,売り手に自分のドルをあげて支払えばよい),価値の貯蔵(自分の富は支出したくなるまでドル現金で確保しておける)だ。

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  1. 訳注;2019年6月18日 []
  2. 訳注;ぱっと見ではLibraの名称について公式に解説した記事はなかったものの,ラテン語で”Libra”は天秤を指すとともに,重量の単位,銀貨を指した(フランスの重量・通貨単位livreの語源)。ただし,フランス語でLivreは英語のbookなので(重量・通貨単位のlivreと語源は異なる),Face”book”に通じると言えるのかもしれない。 []

アレックス・タバロック「連邦犯罪者になる方法」(2019年6月20日)

[Alex Tabarrok, “How to Become a Federal Criminal,” Marginal Revolution, June 20, 2019]

秀逸な Twitter フィード @CrimeADay を流してるマイク・チェイズが,イラスト入りのハンドブックを出した.題名は『連邦犯罪者になる方法』だ (How to Become a Federal Criminal).実のところ,このハンドブックを読まなくても,連邦犯罪者になるのはすごくかんたんだったりする.
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ジョセフ・ヒース「将来世代に負担を残すなと言っている人は、嘘を付いてる冷笑家? それともバカなだけ? 永遠の疑問」(2015年1月25日)

Cynicism or stupidity? the eternal questionPosted by Joseph Heath on January 25, 2015 | environment, politics

先日ダボスで、財務大臣のジョー・オリバーはカナダは均衡財政を維持する決意を表明した。オリバーは、均衡財政を世代間の公平性に関したよくある言い回しの「道徳的的問題」として説明してみせた。「我らの子供ら、孫らに、今日の我らが負っている歳出を負担させることは、間違えていると皆さんも考えているでしょう…」

しかしながら、学があるほとんどの人がご存じなように、これは経済的誤謬である。一家総出でレストランで食事して、食べ終えてから、親は勘定をばっくれて、子供たちに支払わせるようなものではない。政府がお金を借りた場合は、〔簿記上の金融〕資産と負債が共に生み出され、このどちらもが将来世代に引き継がれることになる。つまり「我らの子供らや孫ら」を含めても状況はそのままなのだ(例えば、ある人がカナダの貯蓄債権を相続したとする。するとその人は〔債権から〕歳入を受け取る。一方で、別の誰かがその歳入への支払いに応じねばならない税負担を相続することになる)。これは、同一世代内での分配効果を持つことになるが、世代を跨いでの分配効果は持たない。唯一の世代を跨いだ問題は、我々が、今貯蓄するか、それとも消費すべきにあり、金利がゼロに近い場合は、この問いに答えるのはそれほど難しくない。

一方、読者は、本物の道徳的問題が提起されている案件を存じだろうか? 世代間の公平性における本当の問題だ? 気候変動である。私は、我らの子供らや孫らに、今日の我らが生成している炭素排出を負担させるのは間違えている、と思っている。そう、我々の会計的慣習によって将来世代に負担をかけているように見えるだけの政府債務と違い、大気汚染はリアルな将来世代への負担だからだ。おまけに、大気汚染では、我々は今の消費のコストを全て負担せずに、将来の世代に付けを回している明白な事例となっている。すると、オリバーの発言はどう解釈すればよいのだろう? 現政府は、世代間の公平性を含む「道徳的」問題に対して、即座に、しかも信念に基づいて行動することを約束している。そしてそれでいて、〔その政府を代弁する〕オリバーが関心を示している「道徳的」問題は、ほぼ完全に政府の会計的慣習による虚構にすぎないのだ。一方で、政府の一員であるオリバーは、我らの時代における世代間の公平性の最も差し迫った問題〔気候変動〕を完全に無視しているわけである。いやそれどころか、オリバーは、水面下でひたすらこの問題の解決策のあらゆる可能性を破棄することに邁進すらしている。

確実なのは、将来世代は、ほぼ間違いなく我らを呪うだろうし、もしかしたら我らの墓に唾を吐きかけたりさえするかもしれない。しかしながら、どうしてこんなことになっているのだろう? 将来世代を怒らせる可能性が高いのは、我らが残した財政赤字だろうか? それとも我らが、将来世代が幸せで生産的な生をこの惑星上で送るのが難しくなるように地球の大気組成を変えてしまうことだろうか? どちらなのだろう? この疑問が、ハーパー政権の行動とコミュニケーション戦略を熟考する時に、重要な論点として私に関心を向けさせることになり、いつも自問自答することになっている。オリバーは愚かなのだろうか?――つまり、彼は本気で公的債務の最も基礎的な特徴を理解していない可能性だ。それとも、オリバーは冷笑的なだけだろうか?――例えば、彼は、自身が文字通り真実でないことを話していることを理解しているが、ほとんどの人がそれを真実だと考えているので、こうするのが自身の立場を守る良い方法だと理解している可能性だ。

私は毎度、「冷笑・利己主義」こそが相応しい解釈とする考えに引き寄せられることになる。もしかしたら、こんな結論に至るのは、私が慈悲深いだけかもしれない。一方で、これがどれだけ並外れて冷笑・利己的なのか考えてるみるべきだ。オリバーは、世代間の公平性という観点では、政府の赤字は関係ないことを知っているわけである。 実際にオリバーにあるのは,政府を小さくすることを志向する確固たる決意だ。なので、政府の歳入が低下すれば、歳出をカットすることで、政府の規模を小さくする機会をオリバーに与えることになる。「赤字は不道徳」という考え方は、「小さな政府」論(これはアピールするのが難しい)を唱えることなく、政府規模の縮小を大衆にアピールする便利な手段になっているのだ。

これはすっかり当たり前のやり方になってしまっている。 非常に皮肉なのが、我々が実際に深刻な世代間公平性の問題に直面していることだ。気候変動という形で。 ハッキリ言おう。気候変動という形態を取った深刻な世代間の公平性の問題に、我々自身が向き合っている有り様のことである。我らは、 気候変動問題において子供らの為に正しい行いを行うのに失敗しているだけでなく、正反対なことをしてしまっている。 すなわち、我々の将来世代の厚生に関する道徳的関心が、ハーパー政権にとって何の重要性にもなっていないことは明白だ。もし我々が関心を持っているのなら、連邦政府の新しい炭素税によって産み出された全歳入をどう使うべきかについて議論をすることになっているだろう。これこそが、オリバーの凡庸な冷笑的発言を、より深い領域の冷笑性に至らしめているものである。

最後にちょっとした楽しい頭の体操。世の中には、気候変動について我らは特に心配しなくてよいと示唆している言説が多く存在している――そういった言説はどういうわけか物事は(何もしなくても)勝手にうまくいく、とされている。 「気候変動に対して何もしなくてもよい」との言説を何か1つ選んで、同じ理屈で「政府の赤字を無視してもよい」と言えてしまわないものを見つけてみよう。

ジョセフ・ヒース「タバロックへの返答」(2015年4月22日)

Response to Tabarrok Posted by Joseph Heath on April 22, 2015

〔『啓蒙思想2.0』本文の訳は、邦訳『 啓蒙思想2.0―政治・経済・生活を正気に戻すために』栗原百代訳, NTT出版, 2014年 より引用しました。〕

Marginal Revolution のアレックス・タバロックが最近、寛大にも『啓蒙思想2.0』の告知と、さらにはThe New Rambler での長い書評を(『資本主義は我々を愚かにするか?』という見出しで)書いてくれた。私はこの10年以上ずっと、 Marginal Revolution の熱心な読者でありファンだったので、これはとてもエキサイティングだった。書評ではまた、いくつもの興味深い問題点が提起されており、コメントしようかなと思った。

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タイラー・コーエン「世界各国の正直さ」

Tyler Cowen “Civic honesty around the globe” Marginal Revolution, June 22, 2019


旅行に出てて話題にちょっと乗り遅れてしまったけれど,とにかくもこの件を蒸し返してみよう。

市民の正直さは社会資本と経済発展の必須要素であるが,しばしば物質的な利己心と対立する。私たちは世界40か国355都市における実地実験を用い,正直さと利己心とのトレードオフを検討した。私たちは異なる金額が入った17000個以上の財布を公的機関や民間機関に届け出,財布を受け取った側が返却のために持ち主に連絡を取るかを計測した。ほぼすべての国において,入っている金額が大きいほど市民が財布を返却する可能性が高かった。この結果は非専門家及び専門家の双方が予想しえなかったものだ。追加的なデータは,私たちの主要な発見が利他的な配慮及び自分自身が泥棒であると見なしてしまうことへの忌避の組み合わさったものであることを示唆しており,後者は不正直であることによる物質的な利益が高まることで増大する。

以上がアラン・コーン,マイケル・アンドレ・マレシャル,デビッド・タンネンバウム,クリスティアン・ルーカス・ズンドの新論文の要旨だ。これを後だしで言うのは簡単だけれど,この結果は直感的にしっくりくるものだと思う。下の図が各所で話題になっている各国ごとの結果だ1

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  1. 訳注;なお,日本は調査対象に含まれていない。 []