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オリヴィエ・ブランシャール 「フランスにおける『黄色いベスト運動』と『代議制民主主義の失敗』」(2018年12月3日)

●Olivier Blanchard, “The French “Yellow Vest” Movement and the (Current) Failure of Representative Democracy”(RealTime Economic Issues Watch, The Peterson Institute for International Economics, December 3, 2018)


フランスにおける「ジレ・ジョーヌ」(gilets jaunes;黄色いベスト)運動――抗議行動に参加している市民が揃って「黄色いベスト」を着用しているのにちなんでそのように名付けられている――の模様を収めた映像がメディアを賑わせている昨今である。「ジレ・ジューヌ」運動が広がりを見せているのはなぜなのか? その根っこにある原因は何かと突き詰めると共産主義の終焉にまで遡らねばならない。市場経済の代わりとして期待された計画経済が失敗に終わったことにまで遡る必要があるのだ。 [Read more…]

ジョセフ・ギャニオン「量的緩和懐疑論者たちは言い過ぎている」

●Joseph E. Gagnon, “QE Skeptics Overstate Their Case”(RealTime Economic Issues Watch, The Peterson Institute for International Economics, July 5, 2018


著名な経済学者4人(デビッド・グリーンロー、ジェームズ・ハミルトン、イーサン・ハリス、ケネス・ウェスト。頭文字をとってGHHW)は、今年初めに、従来の研究でのコンセンサスでは量的緩和(quantitative easing:QE)が長期金利に与える影響を過大に言い過ぎていると主張して、大いに注目を集めた。だが、GHHW論文や関連データを注意深く読むと、彼らの結論自体も言い過ぎであることがわかる。確かに量的緩和の第1ラウンド(QE1)の研究の中には、債券利回りに対して、危機的でない状況で予測される以上の効果があった可能性を指摘していた研究もあったのは事実だ。しかし、証拠の示唆するところによれば、FRB(連邦準備銀行)のスタッフが近年採用しているようなより低い穏健な推定値は、平常時における量的緩和の効果の信頼できる尺度になっている。

GHHW論文では、(1)QE1の持続的な効果は一部の有名な推定値の半分ぐらいだったかもしれない、(2)量的緩和の残りのラウンドの効果は、一時的もしくは無視できるものだ、と結論している。GHHW論文では、量的緩和の効果を測定する際に、「イベント・スタディ」という方法に頼っている。イベント・スタディでは、政策が経済変数に与える効果を、その政策に関連するニュース前後の短い期間(イベント・ウィンドウ)の変数の変化を集計することにより測定する。イベント・スタディの基本的な前提は、(1)対象となる政策はニュースとなった出来事(イベント)以前には予測されていない、(2)その政策に関する市場の期待が変化するのは、ニュースとなった出来事があった時だけ、(3)そのような期待の変化は、すべてその出来事のイベント・ウィンドウの中で起こる、(4)イベント・ウィンドウ内で該当する経済変数に影響を与えるのはその出来事だけ、ということだ。

このような前提は多分、QE1関連の主要ニュースに関しては不合理ではないが、それ以後の量的緩和のラウンドに対しては明らかに当てはまらない。QE1が最初に発表される以前は、FRBが今後長期債を購入するだろうという市場の期待は、おそらく相当低かった(原注1)。QE1の間、特に最初の数カ月は、おそらく、FRBの今後の債券購入の主な情報源はFRB自身の発表だった。このような状況では、QE1の発表前後の金利の変化を集計することは、QE1が金利に与える全体的な効果を測定するための合理的な方法だ。

筆者とマシュー・ラスキン、ジュリー・レマチ、ブライアン・サック共著の2011年の論文(頭文字をとってGRRS論文)では、QE1に関するニュースを含むFRBの発表後8日間の10年債の利回りの変化を集計して、合計91ベーシス・ポイント(0.91%)低下していることを発見した(原注2)。筆者たちはさらに、出来事の集合(イベント・セット)を拡大してQE1プログラムの全期間(2008年11月25日~2010年3月31日)の連邦公開市場委員会(FOMC)の声明や議事録の公開まで取り入れてみたところ、低下の合計は55ベーシス・ポイント(0.55%)になった。イベント・セットを大きくすると変化の合計が小さくなることは、追加された期間では利回りが上昇する傾向があったという事実を反映している。

似たような計算はGHHW論文でも行っており、FOMCの全声明や議事録公開だけでなくさらにFRB議長の金融政策に関連する全発言を加えて、QE1プログラム全期間の利回り低下の合計が17ベーシス・ポイント(0.17%)であることを発見している。だが筆者は、GHHW論文の著者たちとのやりとりの中で、この推定値では、ニュースとなった重要な出来事2つを無視していることを発見した。それは、2008年11月25日のQE1の最初の購入の発表と、2008年12月4日のFRB議長ベン・バーナンキの住宅ローン市場に関する発言だ(原注3)。この2日間の利回りの変化を加えると、GHHW論文の合計は累積で49ベーシス・ポイント(0.49%)の低下となる。GHHW論文では、FRBの政策が債券利回りの変化の背後にある重要な要因である、とロイター通信社が報じた日に基づく別の合計も計算している。QE1の全期間内のロイター報道のあった日の10年債利回り低下の合計は48ベーシス・ポイント(0.48%)だった。

量的緩和の効果は、特に金融ストレスのある期間で大きくなる見込みが高い。このことは特に、GRRS論文その他の一部の研究で基本イベント・セットの中心となっていた、QE1の最初の発表時の10年債利回りに対する影響の大きさを説明できる可能性がある。このような効果の一部は、金融ストレスが和らぐとともに消え去った見込みが高い。このような初期の大きな効果の消失が、FRBのニュースのあった日だけに起こるという説得力のある根拠はないが、上で言及したようなQE1の最初の数か月より後に起こった出来事の日まで含めた累積効果(50ベーシス・ポイント程度)が、後で説明するまったく異なる方法で求めたQE1の推定効果にかなり近いことは、注目に値する。いずれにせよ、債券利回りの大幅な低下が数か月後に反転したことは、QE1の景気刺激効果を打ち消すものではまったくない。QE1は、企業や投資家の自信の支えとなり、先に日本で起こったようなデフレへの突入を防ぎ、債券利回りの若干の回復を可能にした、というのがより正しい解釈だ。

QE1以降の量的緩和プログラムに関しては、イベント・スタディの方法ではあまり有益な情報は得られない。QE2が終わってから「満期延長プログラム(Maturity Extension Program:MEP)」が始まるまでの期間に、債券利回りは大幅に低下したが、これは経済の回復が驚くほど弱いことを反映しており、このことがさらなる量的緩和による債券購入の期待を高めた。このような債券利回り低下のほとんどは、FRBでニュースになるような出来事がない日に起こっていたので、イベント・スタディではこれを量的緩和の効果としては勘定していない。FRBでニュースになるような出来事のあった日の債券利回りの変化には、QE3が始まってからしばらくするまで、ほとんど累積効果がなかったが、このことはFRBの政策が市場の期待に近かったという事実を反映している。言い換えれば、イベント・スタディが教えてくれるのは、FRBの量的緩和による債券購入が如何にして債券利回りに影響したのかではなく、QE1によって量的緩和の前例が確立された後の、量的緩和による債券購入が市場の期待とどの程度違っていたのかということだ。

2013年のテーパー・タントラム(訳注:量的緩和の縮小を発表したことによる市場の混乱)は、量的緩和による債券購入への期待が突然変化することが、平常時の市場の債券利回りに著しい影響を及ぼすということを示している。GHHW論文の計算によると、2013年3~9月のFRBで出来事があった日の10年債利回りは40ベーシス・ポイント(0.4%)近く上昇しており、これはおそらくQE3による債券購入全体に対する期待の低下を反映している(原注4)。

GRRS論文では、量的緩和が債券利回りに与える効果を推定する別の方法も追及している。それは、10年債の利回りや期間プレミアム(訳注:長期債を短期債と比べたときの金利の上乗せ分)と政府による長期債の純供給を含むさまざまな因子との間の時系列回帰分析を利用する方法だ。この回帰分析の対象期間は1985~2008年なので、量的緩和プログラムはまったく含まれていないし、著しい金融ストレスの時期もあまり含まれていない。だが、量的緩和による債券の購入は長期債の供給を減らし、その利回りに対する影響は、回帰分析から推定された供給係数を使って計算することができる。GRRS論文では、QE1と同等の規模の債券購入は、10年債の利回りを40~80ベーシス・ポイント(0.4~0.8%)低下させると期待されていたことを発見した。中心傾向は約50~60ベーシス・ポイント(0.5~0.6%)だった(原注5)。GHHW論文の著者の一人(ハミルトン)も、別の共著者との別の論文で、多少異なる回帰分析法を使って同様の推定値を求めている。FRBのスタッフも、量的緩和のマクロ経済への影響をモデル化したときに、回帰分析に基づいてこの範囲の推定値を利用している。FRBのスタッフの推定によると、FRBのあらゆる量的緩和プログラムの債券利回りに対する効果のピークは2013年後半で、10年債利回りを約120ベーシス・ポイント(1.2%)低下させている。

回帰分析に基づくQE1の推定値は、イベント・スタディによる当初の推定値よりは小さいものの、量的緩和が債券利回りに対して実質的に効果があることを支持しており、それは金融ストレスの時期に限られない。

著者注:発言に関するデータや情報を集めてくれたクリス・コリンズに感謝する。


(原注1)GHHW論文では、2008年11月10日に発表された「 ブルー・チップ経済指数 」(訳注:Blue Chip Economic Indicators。Aspen Publishersが月刊で発行しているアメリカのマクロ経済の予測集)によると、調査対象となったエコノミストの54パーセントが、FRBがただちに何らかの量的緩和を行うことを期待していた、と指摘している。だが、この調査の質問では明示的に日本の事例に言及しており、日本で行われたのは、マクロ経済への影響がほとんどない比較的短期の債券購入だったので、この調査の回答では、FRBが最終的に採用したような種類の量的緩和に対する市場の期待を過大評価していた可能性がある。

(原注2)1ベーシス・ポイントは1パーセント・ポイントの100分の1。

(原注3)この発言では、住宅ローンの利率や利用しやすさについて論じ、FRBの量的緩和による債券購入は、住宅ローン市場の現状を改善することを目指している、と言及した。GRRS論文の対象になった出来事のあった日の中で、FRB議長の発言があったのは12月1日だけだった。これはFRBの官僚が長期債購入の可能性を初めて提起した日だった。

(原注4)この幅の債券利回りの上昇に、FRBのスタッフのベンチマーク推定値(後述)を適用すると、FRBからの(訳注:量的緩和縮小の)情報は、QE3プログラムの長さに関する市場の期待を、月850億ドルとして12カ月分減らしたことを示唆している。

(原注5)筆者の2016年のサーベイ論文によれば、アメリカ以外の諸国でも幅広く同等の効果が見られた。

Simeon Djankov:通貨が崩壊するとき

Simeon Djankov: When Currencies Collapse, (PIIE Realtime Economic Issues Watch. December 30th, 2015)

12月の終わり頃、アゼルバイジャンの通過であるマナトは1日でその3分の1の価値を失うことになった。それは、中央銀行が米ドルに対し固定相場制を取っていたマナトを変動相場制に変更する、と決定した後に起こったことだ。この一連の動きは国民を怒らせることになったが、それに止まらずコーカサス地方にまたがって波紋を広げることとなった。その直後に、隣接するグルジアで首相が辞任することとなり、通貨価値の変動はその突然の辞任の一因である、として引き合いに出された。これはコーカサス地方における痛みを伴う金融改革期の始まりに過ぎないのかもしれない。

 

2月初頭の平価切り下げと合わせて、アゼルバイジャンはその通貨価値を2015年中に対ドルで55%下げることとなった。その最大の原因は、主要な輸出品である石油とガスの価格の下落である。国家予算のこれらの産品への依存度は非常に大きいため、2015年における財政赤字はGDPの10%近くに達する見込みだ。アナリストたちはアゼルバイジャンの銀行部門における混乱を予想している。多くの企業及び一般家庭は、米ドルで多額の借り入れをしており、それをマナトを基準とした収入から返すことになるからだ。

 

他の国々もまた、同様の問題を抱えている。カザフスタンの通貨であるタンゲは2015年に対ドルで47%価値を下げ、グルジアの通貨価値は25%、ロシア通貨ルーブルは24%、トルクメニスタン・マナトは19%、それぞれ価値を下げた。これらの国々はどこも過去10年にわたる高い経済成長を享受しており、それは燃料の輸出とその運輸税に依っている。そして幸運な時代は終わりを告げた。

 

通貨価値が崩壊したとき、政府は何をすべきか。短期的には、過去の計画に沿った政府支出が可能である。たとえそれが大幅な財政赤字状態であったとしても。実例を見るならば、グルジアとロシアの2015年における財政赤字はGDPの3%を超え、アゼルバイジャンではそれよりもさらに大きい。そして長期的には、公共支出の削減による赤字の解消という難しい決断が迫られる。

 

通常では、公共部門の給与及び年金の凍結が最初に発効される。多くの消費者向け製品が海外からこれらの国々に輸入されることを考え合わせるならば、この凍結は国民が貧しくなる方向へといきなり方向転換することを意味する。二番目に行われることが、教育及び医療といった公共部門への支出の削減である。これらの部門では、以前と同等の業務水準が求められるのに、少ない予算でやりくりせねばならないことになる。そして三番目に、公共設備投資の削減が求められる。ロシアでは2018年のワールドカップ予算は据え置かれるものの、以前に計画されていた設備投資計画の60%の削減がすでに発表されている。さらに同様の発表がロシア以外の政府からも出されることが予想される。

 

民主主義社会では上記のような公告は政権交代、そしてしばしば選挙へとつながる。上記4カ国のうち唯一の民主主義国家であるグルジアではすでに政府内部の入れ替えが見られる。その他の国々では、個々の大臣が政府の支持率を上げるための犠牲となっている例が見受けられるものの、政権そのものは維持されている。ただし、それが維持できるのも通貨価値が下落し続けない限り、だ。

 

ギャニオン: QEの財政へのメリットはコストを上回る

Joseph Gagnon, “QE’s Fiscal Benefits Outweigh Any Fiscal Costs”, PIIE Realtime Economic Issues Watch.


Joseph GagnonはPeterson Institute for International Economics (PIIE) の上席研究員である。米財務省や米国の大学で教鞭をとった後、FRB金融政策局の外部副局長、国際金融局の副局長などを歴任した。スタンフォード大学よりPh. D. を授与。


今週のキャピトル・ヒルでの証言で、FRB議長のバーナンキは下院議員からいくつかの重要な質問を受けるだろう。その中でも答えるのが最も簡単な質問は量的緩和(QE)がFRBのバランスシートにリスクをもたらすかどうかである。バーナンキは潜在的な将来の損失の政治的影響について懸念するかもしれないが、そのような損失を十分相殺する以上の利益を財務省にもたらし、QEは我が国の負債を間違いなく減らすということを彼はよく知っている。

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ジョセフ・ギャニオン 「『流動性の罠』なんてない! ~21世紀版金融政策の理解に向けて~」

●Joseph E. Gagnon, “There Is No Liquidity Trap: Understanding 21st Century Monetary Policy”(RealTime Economic Issues Watch, The Peterson Institute for International Economics, July 19, 2013)


現在主要先進諸国では短期名目金利がゼロ%近辺に張り付いている状況だが、そのような状況を受けてブロガーや専門家の口々から「我々は今や『流動性の罠』に陥っており、もはや金融政策を通じては総支出ならびに経済活動を刺激することはできない」との主張が発せられている。「流動性の罠」仮説にも妥当性がないわけではない。しかしながら、「流動性の罠」仮説が妥当性を持つのは、金融政策のオペレーションを短期のリスクフリー(無リスク)債券の売買に狭く限定する場合に限ってのことであり、金融政策をそのように狭く限定して捉える見方を支える経済学的な根拠(理屈)もなければ、歴史的な先例もないのである。金融政策をもっと広く捉える見方に立てば、現在我々は「流動性の罠」からは程遠い状況にあるとともに、「流動性の罠」に陥る可能性を想像することは困難であることが示唆されるのである。

金融政策を定義すると、様々な資産を購入するために貨幣を刷ることとまとめることができよう。金融政策の目的がFF金利(政策短期金利)を引き下げることにあろうと、住宅ローン金利を引き下げることにあろうと、あるいはその他の利回り(金利)を引き下げることにあろうと、この定義は同様に妥当する。一方で、財政政策は、財を購入したり、減税を行ったり、移転支出を増やしたりするために、資産(訳注;国債等)を売却することと定義することができよう(フリードマンによるかの有名な「ヘリコプターマネー」は金融政策と財政政策の組み合わせであると言える)。追加的な需要(訳注;中央銀行による買い入れ等)を通じてその価格を引き上げ得る(言い換えれば、その利回りを引き下げ得る)資産が存在する限り、金融政策は有効であり続け、それゆえ経済は「流動性の罠」に嵌っていないことになる。特定の状況においては財政政策が金融政策の有効な代わりとなったりあるいは金融政策を補う役割を果たす可能性もあるが、短期のリスクフリー金利がゼロ%であったとしても必然的に財政政策が金融政策の代わりとなるわけではない。

中央銀行は常日頃より長期債券や民間銀行への貸出、金、外貨準備などのリスク資産を保有している。株式や不動産を保有している中央銀行も中には存在する。短期名目金利がゼロ%近辺にある状況でさらなる金融緩和に臨む上では、中央銀行はこれまで以上に大きなリスクを負う必要があるが、そのような必要がある(さらなるリスクを負う必要がある)と言ってもあくまでも程度の違いの問題であって質的な違いではない(訳注1)。私の(ピーターソン国際経済研究所での)同僚であるアダム・ポーゼンが力を込めて語っているように、中央銀行は手元にある幅広い政策手段を放棄するべきではなく、インフレを低く抑えつつも安定的な経済成長を実現するために利用可能なあらゆる手段の行使を念頭に置いた戦略を練るべきなのである。

ここ最近の一連の研究によると、中央銀行は長期債券の利回りや住宅ローン金利に対して大きな影響を及ぼし得る能力を持っていることが確認されている(原注1)。そのことからすると、中央銀行による株式や不動産の購入が株価や地価に大きな影響を及ぼし得ることを疑う理由はない。実際、アジア金融危機の最中の1998年に香港金融管理局(Hong Kong Monetary Authority)は香港証券取引所の安定化(株価の安定化)に乗り出し、見事な成功を収めたのである。

一連のマクロ経済モデルによると、中央銀行による長期債券やその他のリスク資産の購入はマクロ経済に対して大きな刺激をもたらし得ることが示唆されている(原注2)。さらには、本ブログの過去のエントリーで論じたように、長期債券をはじめとしたリスク資産の購入に伴って中央銀行が背負うことになる損失のリスクは、リスク資産の購入に伴う全体的な財政上の便益と比べれば小さなものだと考えられる。こういった事情を考え合わせると、短期名目金利がゼロ%近辺であったとしても、マクロ経済に対して刺激をもたらす手段としては財政政策よりも金融政策の方がずっと魅力的であると言えるだろう。

残る唯一の疑問は、どうして主要先進諸国の中央銀行はこれまで自らのパワーの行使にそこまで臆病で、インフレ率が目標値を下回る―アメリカに関しては、インフレ率と雇用が目標を下回る―状況を許してきたのか(原注3)、ということである。


【原注】

(原注1)以下の論文の「appendix table 2」を参照のこと。“Unconventional Monetary Policies—Recent Experience and Prospects [pdf]”

(原注2)例えば、ジャネット・イェレンFRB副議長の最近の講演を参照のこと。

(原注3)イングランド銀行は大きな例外である。ここ数年のイギリスのインフレ率は平均的に見て目標値を上回っている。


【訳注】

(訳注1)中央銀行は元来よりリスク資産を購入しているわけであり、それゆえ「さらなるリスクを負う」=「より」大きなリスクを負う、という意味(程度の違いの問題)であって、「さらなるリスクを負う」=まったくリスクを負っていない状況からリスクを負う状況へと移行する(リスク資産の購入にはじめて乗り出す)、という意味(質的な違い)ではない、ということ。