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タイラー・コーエン「キミの政治思想はキミひとりのものじゃないよ」(2021年11月28日)

[Tyler Cowen, “Your political views are not your own,” Marginal Revolution, November 28, 2021]

30歳以上の養子・実子をもつ394組の家族という類例のない標本において, 生体測定モデリングにより,次の点を支持する有意な証拠が明らかとなった.すなわち,7項目の政治的態度の表現型の大多数で両親からの遺伝的・非遺伝的な継承がなされている.宗教心と社会自由主義でもっとも大きな遺伝的影響が見られる一方で,養育環境の影響がもっとも大きかったのは政治的な指向と平等主義だった.こうした発見からは,遺伝子・環境・遺伝子-環境の相関すべてが成人期の社会政治的態度に有意に寄与することが示される.こうした態度の原因や発達に関する知見は,急速に変化する今日の社会政治的な様相において,いっそう重要かもしれない.

Emily A. Willoughby et al. による論文の全文はこちら.Via Kevin Lewis 殿.

タイラー・コーエン「経済学業界の雇用市場を眺めた感想」(2021年11月14日)

[Tyler Cowen, “Economics job market observations,” Marginal Revolution, November 14, 2021 ]

覚えてる人もいるかもしれないけれど,〔博士課程を終えたりして〕新しく求職をはじめた人たちがどんなテーマに取り組んでいて,なにを提示してるのかを知るために,各種の雇用市場ウェブサイトを調べて回るのを,ぼくは毎年の習わしにしてる.多くの年とちがって,今年いちばん面白い論文や最良の論文を出したのはハーバードや MIT じゃなかった.ノースウェスタンUC デイヴィスがすぐれた学生を輩出してるように見える.もっと広い話をすると,経済学史への関心が引き続き増えてきてる.都市経済学・地域経済学・医療経済学も同様だ.5年~10年前にくらべて,マクロの論文は減ってきてる.金融〔貨幣〕経済学や暗号通貨の論文はほんのわずかしかない.理論論文はめったにない.全体として,男性よりも女性の方がより面白い研究に取り組んでるように思える.多くの大学は,例年よりも輩出してる学生が減ってるように見える.マディソンのウィスコンシン大学のウェブサイトは(いまのところ)どこよりも「代名詞」をたくさん並べてる〔※本人が he/she のどちらで呼ばれたいかを示しているらしい〕.今年の〔経済学雇用市場の〕調べ物は,例年よりもつまらないんじゃないかな.少なくとも,ぼくの好みにとってはつまらなかった.求職者たちとその研究主題が過剰に専門分化してしまっているせいだ.ぼくから見て最悪なのは,細分化されすぎて一般化の余地がないデータソースにもとづく論文かも.

タイラー・コーエン「結婚は通常財なのか? NBA ドラフトからの証拠」(2021年11月13日)

[Tyler Cowen, “Is Marriage A Normal Good? Evidence from NBA drafts,” Marginal Revolution, November 13, 2021]

〔※「結婚は通常財なのか?」とは,「所得が増えるほど結婚したいと思う人が増えるのか?」ということ.〕

男性の経済的地位と結婚するかしないかの結果との因果関係についてはほとんどわかっていない.これは,男性に生じる予期せざる永続的な所得ショックに関するデータが欠如しているためだ.本稿では,NBA ドラフトをめぐる自然実験を利用してこの問いに挑む.NBA では,大学バスケットボール選手や世界各国のバスケットボール選手を NBA チームが1位から60位まで指名して契約交渉権を獲得するドラフトを毎年実施している.選手のドラフト順位に関する専門家たちの予測は高品質であり,さらに,選手たちの初年度の給与はドラフト順位に応じて単調に上から下へと下がっていく.これをふまえて,本稿では,実際のドラフト順位と予測されていたドラフト順位の落差によって,外生的な所得ショックが生じることを示す.この状況のおかげで,新規な所得「処置」がもたらされる〔※対照実験での「処置群」に相当するものができあがる〕.この処置ではたんに多数で個々人が特定されているばかりでなく,〔所得ショックという処置が〕キャリア初期・成人期の初期に起こる.この年代の人々にとって,結婚に関する意思決定はとりわけ顕著だ.さらに,本研究では,選手たちの家族に関する主な意思決定を追跡した新規データセットを構築し,結婚が現に男性にとって通常財であることを初めて示す.他の条件が等しければ,2004~2013年の世代集団で初年度の5カ年給与が 10% 上昇すると,結婚の確率が 7.9% 上昇している.本研究結果は,男性人口全体の下限の推定を構成する.より低い方の推定給与ほど,効果量はより大きく有意になるためだ.

上記の抜粋は,トロント大学出身の Jiaqi Zou の論文から.彼女はいま求職中だ.彼女が研究目的に書いているこの一節がいい: 「人々が自分の人生でなにかを追究するのをはばむ障壁や信念を同定することにとりわけ関心がある」

タイラー・コーエン「『ポテンシャル』と男女の昇進格差」(2021年10月30日)

[Tyler Cowen, “Potential” and the gender promotion gap,” Marginal Revolution, October 30, 2021 ]

従業員の「ポテンシャル」の主観的評価は,広く利用されている.本研究では,この「ポテンシャル」評価が昇進と賃金の男女差に寄与していることを示す.大手小売りチェーンの管理職コース従業員 3万名のデータを用いた本研究では,業務実績の評価はより高いにもかかわらず女性のポテンシャル評価は大幅に低いことが見出された.ポテンシャル評価の差は,男女の昇進格差の 30%~50% を説明する.女性のポテンシャル評価の方が低いが,これは将来の実績の正確な予想にもとづいてはいないように見受けられる:すなわち,同じポテンシャル評価を与えられた男性・女性をみると,平均的な昇進でも昇進の上限でも,男性の方が女性を上回っている.だが,それまでに予想されていたポテンシャルを上回る実績を女性が上げてもなお,彼女たちがその後に与えられるポテンシャル評価は低いままにとどまっている.ここから,企業は女性従業員のポテンシャルを執拗に過小評価していることがうかがえる.

Benson, Li, & Shue による論文はこちら.Via 優秀なる Samir Varma.

タイラー・コーエン「どうして相対的に貧しい人たちほど再分配支持に傾いてるわけじゃないんだろう?」(2021年10月30日)

[Tyler Cowen, “Why Are Relatively Poor People Not More Supportive of Redistribution?” Marginal Revolution, October 30, 2021]

再分配の選好に関して広まっている諸説は,次の重要な想定に立っている.すなわち,相対的に貧しい人々こそ誰よりも再分配を支持するはずだと,想定されている.本研究は,この想定を検証する.10ヶ国で3万人以上の参与者で無作為化した調査実験を我々は実施した.参与者の半数には,国内の所得分布で本人がどの位置にあるかを伝えた.通説に反して,当人が思っているよりも相対的に貧しいと伝えられた人々は,格差を懸念する度合いがより低く,再分配をより強く支持することはなかった.この発見は,「人々はみずからの生活水準を『ベンチマーク』にして他人が享受するのを許容できるものを判断している」という知見と整合している.

上記は,Christopher Hoy & Franziska Mager が新たに出した論文からの抜粋.

タイラー・コーエン「アヘン戦争の経済的帰結」(2021年10月25日)

[Tyler Cowen, “The economic consequences of the Opium War,” Marginal Revolution, October 25, 2021]

――という NBER ワーキングペーパーが新しく出てる.著者は Wolfgang Keller & Caroline H. Shiue だ.アブストラクトを引用しよう:

本稿では,アヘン戦争(1839-42年)以後に西洋が中国に進出した経済的帰結を検討する.この時期に,西洋諸国による植民の影響が数十にのぼるいわゆる条約港に及びはじめている.本研究では,19世紀のあいだに中国の資本市場の性質に劇的な好転が生じていたことを立証する.アヘン戦争の前には沿岸部各地の都市は比較的に重要度が小さかった.それに対して,西洋の条約港システムによって,沿岸地域と国際貿易に注力し西洋の利益にかなった商売に従事する経済へと転換をとげている.本稿では,第一に,19世紀のあいだに西洋が中国経済にプラスの影響をもたらしたことを示す.この影響にともなって,地域の金利は押し下げられ,西洋の影響下にあった地域では産業成長と技術の取り込み進度の両方がペースを上げることになった.第二に,影響がおよぶ地理的範囲は港からはるか内陸にまで広がり,中国の大半に影響がおよんでいる.港の直近地域では金利が 25%以上も下がり,さらに,条約港から 450km の距離でも 10% 近く下げている.中国の発展を促進したものは,たんに 1800年以前のみずからの歴史だけでもなく,また,1978年以降の改革だけでもない.100年近く昔の準-植民地化によって,沿岸地域に注力した中国経済が形成されているのだ.

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タイラー・コーエン「含み益への課税」(2021年10月25日・26日)

Tyler Cowen “The tax on unrealized capital gainsMarginal Revolution, October 25, 2021

想定される計画がどのように働くと想定されているかを僕が理解できていないだけかな。含み損による税額控除はないんだよね?ということはもはや流動的な資産クラスを保有したくなくなるよね?価格が上昇していくらかの税金を払って、その後に価格が下落して損失域に入ってしまったと考えてみよう。それでも税金を払うんだよ!?還付は全くない。そもそもそうした資産を保有するのが悪くない考えとなるには、その価格が事前にどれだけ下落すればいいんだろうか、その正確な額が分かるんだろうか?それともこの税の対象になるお金持ちの投資家は市場価格を動かすような大した人たちじゃなくて、こうしたとてもリスクの高い資産クラスから単に彼らが追い出されるってこと?

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タイラー・コーエン「コルナイ・ヤーノシュと柔らかな予算制約」(2021年10月24日)

[Tyler Cowen, “Yanos Kornai and the soft budget constraint,” Marginal Revolution, October 24, 2021]

同書でもっとも発展されていた説は,こういうものだ――資本制経済はつねに供給超過(過剰生産)の状態にあるのに対して,中央計画経済はつねに需要超過(生産不足)の状態にある.コルナイは,この分析から導かれる事柄を細やかに述べている.大学で一般均衡の講義を受けていたときに,この本の論証を引いて議論を仕掛けたのを覚えている.当然ながら,教授は困惑していた.オリヴィエ・ブランシャールが,かつて同じような体験を語ってくれたことがある.世界を変えたいとのぞむ若い反抗的な経済学徒たちのあいだで,コルナイの本はきわめて人気が高かった.

1980年にコルナイの大著『不足の経済学』が世に出た.計画運営の経済学に関するコルナイのそれまでの研究は,大半が理論的なものだった(現実の計画立案・運営のあり方からそうした文献の内容はものすごくかけ離れていた).一方,同書は社会主義経済が実際にどういう仕組みで動いているかを系統的かつ力強く分析した内容だった.柔らかな予算制約(社会主義経済の国有企業は損失を出していても決して倒産しない)という概念から出発して,ここからどのようにして企業による需要引き上げにつながり,それにともなって価格のバリエーションに企業がかろうじて反応するようになるのかをコルナイは説明した.そうやって需要が引き上げられると,全般的な不足にいたり,これが企業経営陣・消費者・計画担当者の行動に深く影響を及ぼす.

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タイラー・コーエン「援助はエリートたちによって横取りされてる」(2021年10月12日)

Tyler Cowen “Elite capture of foreign aidMarginal Revolution, October 12, 2021

この証拠は海外の銀行口座から得られたものだ。以下は論文の要約。

エリートたちは外国の援助を横取りしているのだろうか。本論文は、援助に強く依存している国への援助金の拠出によって、秘匿性と個人資産管理で知られるオフショア金融センターにおいて銀行預金の急激な上昇が発生するが、それ以外の金融センターでは発生しないことを実証した。この推定は内戦、自然災害、金融危機などの同時期に起きたショックとは混同されておらず、事前に決定された援助コミットメントによる測定でも頑健である。示唆される漏洩率はサンプル中の中央値で約7.5%で、GDPに占める援助の割合に応じて高まる傾向にある。この発見は最も援助依存率の高く国における援助の横取りとも整合的である。


ケビン・ルイス御大の紹介による全文リンクはこちら。著者はヨルゲン・ジュエル・アンダーセン、ニールス・ヨハンセン、ボブ・リジカースで、誰でもアクセスできるバージョンはこちら

タイラー・コーエン「資本注入して延命させるとしたら?」(2021年8月31日)

Tyler Cowen “The capital life extension queryMarginal Revolution, August 31, 2021

アルジャン・ナラヤンのコメントより:

このブログの読者とタイラーの記事1 の別バージョンについて考えてたんだけど、あまりにも早く資本を使い果たしてしまった人や団体に(彼らがその生涯で備えた資本と)同じだけの額の資本をさらに与える力があったとしたら、誰を選ぶ?

反事実的な想定をしてみると分かりやすいと思う。イーロン・マスクは2008年にほとんどのお金を使い果たして、ダイムラーによって救済された。これがなければいくつかの面では今よりもずっと悪いことになっていただろう(リチウムイオンの生産だけでなく、全ての自動車会社が輸送の電力化問題にこれだけ切迫感をもって取り組むこともなかった)。時をさかのぼって同様に救済すべきは誰だろう?

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  1. 訳注;若くして死んだ芸術家を延命させるとしたら、誰が一番生産性の観点から適切かという趣旨の記事 []