経済学101は主に皆様の寄付によって賄われています。温かい支援をお待ちしています

タイラー・コーエン「資本注入して延命させるとしたら?」(2021年8月31日)

Tyler Cowen “The capital life extension queryMarginal Revolution, August 31, 2021

アルジャン・ナラヤンのコメントより:

このブログの読者とタイラーの記事1 の別バージョンについて考えてたんだけど、あまりにも早く資本を使い果たしてしまった人や団体に(彼らがその生涯で備えた資本と)同じだけの額の資本をさらに与える力があったとしたら、誰を選ぶ?

反事実的な想定をしてみると分かりやすいと思う。イーロン・マスクは2008年にほとんどのお金を使い果たして、ダイムラーによって救済された。これがなければいくつかの面では今よりもずっと悪いことになっていただろう(リチウムイオンの生産だけでなく、全ての自動車会社が輸送の電力化問題にこれだけ切迫感をもって取り組むこともなかった)。時をさかのぼって同様に救済すべきは誰だろう?

[Read more…]
  1. 訳注;若くして死んだ芸術家を延命させるとしたら、誰が一番生産性の観点から適切かという趣旨の記事 []

タイラー・コーエン「見せびらかし腐敗」(2021年9月5日)

[Tyler Cowen, “Conspicuous corruption,” Marginal Revolution, September 5, 2021]

特定の財を消費したりや経験を購入したりすることで,人々はみずからの地位を顕示することがある.これを「顕示的消費」という.顕示的消費は広く見られる営為で,ヴェブレン財という種類の財全体の市場に見られる特徴がこれで説明される.ヴェブレン財の需要は,その価格と軌を一にして上昇する.こうした地位財の価値は,人口全体での分布にある――つまり,稀少であればあるほど,その財はいっそう望ましくなる.同時に,おうおうにしてより高い地位と結びついている高所得は,非倫理的行動と関連づけて研究されている.本稿では,特定のヴェブレン財・違法な行動・財産がどう結びついて,地位シンボルとしての違法性誇示を産み出すかを示す.違法に入手された財が地位に関わる目的で消費される特定の形態の証拠を,国レベルで大規模に収集した.ギリシャでは,自らカスタムしたヴァニティ・プレート〔自動車のナンバープレートを好みの文字・数字の組み合わせにしたもの〕を当局は発行できない.この発展した中所得国で,人々は独自のプレートナンバーを入試して,これをヴァニティ・プレートの代用にしている.我々の研究では,そうしたナンバープレートがより多く見られる自動車は,エンジンがより大きいものや高級ブランドのものであることが見出された.法律を遵守したナンバープレート割り当てでは,このパターンは説明ができない.したがって,収賄などの違法な活動の結果として生じているにちがいない.ここからは,「顕示的腐敗」のパターンがうかがえる.顕示的腐敗において,人々は法を犯して手に入れたものを地位シンボルに用いる.違法行為が明白に立証し得ないかぎりにおいて,そうしたシンボルが法律違反をほのめかすのを承知のうえで,そうするのである.

Panos Louridas & Diomidis Spinellis 論文へのリンクはこちら.via 才人の Kevin Lewis

タイラー・コーエン「ポール・サミュエルソンのマクロ経済学はどれくらいよかったんだろう?」(2021年8月13日)

[Tyler Cowen “How good was Paul Samuelson’s macroeconomics?” Marginal Revolution, August 13, 2021]

ニコラス・ウォプショットの新著クルーグマンの書評 (NYT) を読んでみて,ちょっとばかり楽観的すぎるように思えた.そこで,マクロ経済学者としてのポール・サミュエルソンをあらためて考えてみた.残念ながら,いいお知らせは報告できない.というか,サミュエルソンはマクロ経済学者としてまるっきりお粗末だった――なんなら酷いと言ってもいい.

たとえば,1970年代序盤に,ニクソン大統領の賃金・物価統制をめぐる論争があった.サミュエルソンが実際にとっていた立場については,見解の相違が多少ある.ウォプショットの主張では,サミュエルソンはニクソンによる賃金・物価統制に反対していたそうだけれど (p.152),事実とはちがっているようだ.たとえば,Los Angels Times では,サミュエルソンがこんな意見を表明していたと伝えられている: 「賃金・物価制御によって,彼[ニクソン]はより急速な短期的な経済回復を確実にし,1972年選挙の圧勝を確保した.」 もしかすると,全面的に支持していたわけではないのかもしれない.でも,1971年8月17日に ABC Evening News でサミュエルソンがこう発言しているのを考えてみよう: 「90日間の〔賃金・物価〕凍結でインフレ問題が解決されるとは,思いませんね.ただ,なんらかの所得政策への第一歩ではあるでしょう.穏やかに黙殺しても,うまくはいきませんでした.大統領が指導力を発揮するときです(…).先週の金曜よりも,この月曜の方がマシになっています.金曜の状況は支持できるものではありませんでした.」 [1]

本当に?

サミュエルソンや当時の多くのケインジアンたちにとって,〔当時のインフレの〕大半は賃金プッシュ型インフレだった.さて,ぼくだったら当時どう言ったでしょう?――「賃金・物価統制はミクロ経済政策としてもマクロ経済政策としてもよくない.」 サミュエルソンは,これにいくらかでも似てる発言をしなかった.1971年10月に,サミュエルソンはこう主張している――ドルの金兌換停止と賃金・物価統制を含むニクソンの NEP[New Economic Policy; 新経済政策]は「必要」だったし,賃金・物価統制は予想よりもうまくいっている.[2]

1971年10月に,サミュエルソンはこうも主張している――FRB はマネーサプライの増加が続くにまかせるべきだ.そうすることで,ベトナム戦争にえんえんとアメリカが関与することで誘発される流動性危機のリスクをどうにか回避するべきだ(なんですと?? ブレトンウッズ体制崩壊を恐れていたんだったら,発行するお金を減らすべきでしょ.ブレトンウッズ体制を終わらせるのがいいと考えていたのなら話は別だけど).大統領による「指標」で物価インフレ率を4パーセントから3パーセントに下げるのがのぞましいと,サミュエルソンは言った.他方,明示的な賃金・物価統制は,好まなかった.そこまでの「急を要する」状況ではないというのが,その理由だった.賃金・物価統制にサミュエルソンが反対していたと言っても,この程度だ――よくいっても生ぬるいし,原則として反対しているわけではない.これは,かつての立場と矛盾している.それに,もっと広範に貨幣経済学の理解がおそまつなのも露呈している.景気拡大期にマネーサプライ増加を継続しつつ大統領による「指標」を示して物価インフレ率を下げようっていうのは,単純に間違った見解だ.

1974年に書かれた文章でも,かつてと同じようにサミュエルソンはこう主張している――当時のインフレはコストプッシュ型インフレであってマネーサプライに後押しされたものではなかった.さらに,完全雇用と物価安定は両立しないとも断定している(証拠もなしに).1971年の文章では,完全に間違った刮目すべき断定をしている: 「(…)アメリカの人口と生産性が伸びているなかで,失業率を一定して高い水準に維持するには4パーセントの実質成長率が必要だ.」[3]

本当に?

つまり,サミュエルソンのモデルはすっかり間違っていたわけだ.もっと一般的に言えば,Newsweek に連載された当時のサミュエルソンのコラムでは,基礎になっているモデルが健全なわけでもないのに,大して謙虚にもならず,繰り返し,教条的かつ恣意的にマクロ経済の各種変数をくさしている.

たしかにミルトン・フリードマンはマネーサプライについて過度に単純化しすぎた見解をもっていた.それは,多くの人たちが批判しているとおりだし,スコット・サムナーも追認してくれるだろう.でも,マクロ経済学者としてのフリードマンは,ポール・サミュエルソンよりも,はるかに,はるかに先を行っていた.

フリードマンが登場する前のマクロがどれほどダメだったか,お忘れなく.


[1] Los Angeles Times については,Hiltzi (1994) 参照.また,右も参照されたい: “Questions and Answers: Paul A. Samuelson,” Newsweek, October 4, 1971. また,ABC News での発言は,Nelson (2020, volume 2, p.267) を参照.

[2] “Questions and Answers: Paul A. Samuelson,” Newsweek, October 4, 1971 を参照.

[3] Paul Samuelson, “Coping with Stagflation” Newsweek, August 19, 1974 を参照.また,1971年の発言は右を参照: “How the Slump Looks to Three Experts” Newsweek, Oct.18, 1971. 4パーセントの主張については,Paul A. Samuelson, “Nixon Economics,” Newsweek, August 2, 1971 を参照.

タイラー・コーエン「「優」売ります――これって正しい市場価格なのかな?」(2021年8月6日)

[Tyler Cowen, “Is this the correct market price?,” Marginal Revolution, August 6, 2021]

全面的に不道徳な一件ではあるんだけど,ここにある需要の弾力性についてちょっと思いめぐらせてる:
[Read more…]

タイラー・コーエン「パウエルと FRB に関するデイビッド・ベックワースの評言」(2021年8月6日)

[Tyler Cowen, “David Beckworth on Powell and the Fed,” Marginal Revolution, August 6, 2021]

同僚のデイビッド・ベックワースが『ニューヨークタイムズ』に新しく寄稿してる.ちょっとだけ引用しよう:
[Read more…]

タイラー・コーエン「フランスの財政政策はマンガ文化政策」(2021年7月30日)

[Tyler Cowen, “The manga culture that is French fiscal policy,” Marginal Revolution, July 30, 2021]

フランス政府がスマートフォン・アプリを立ち上げて,書籍・音楽あるいは展覧会や公演のチケットなどの文化的購入に使える300ユーロを18歳の人々全員に渡したところ,大半の若者はプルーストの長編小説を買って読みたいとも,プルーストの芝居を見に行きたいとも思わなかった.

かわりにフランスのティーンエイジャーたちがこぞって群がったのが,マンガだ.

「ほんとにいい取り組みだと思います」と Juliette Sega は言う.フランス南東部の小さな街に暮らす彼女は,これまでに40ユーロ(約39,000円)を使って,日本の漫画単行本とディストピア小説の『メイズ・ランナー』を購入している.「ずっと小説やマンガを買っては読んでいます.今回のお金は購入費の足しになってます.」

今月の時点で,5月の全国で導入されてからこれまでにフランス政府のアプリで購入されたものの 75パーセント以上を書籍が占めている――そして,その書籍のおおよそ3分の2がマンガだという.この数字は,同アプリを運営している Culture Pass によるものだ.

『ニューヨークタイムズ』の記事全文はこちら

タイラー・コーエン「どうしてメキシコの書店では本にシュリンクをかけたまま販売してるの?」(2021年7月25日)

[Tyler Cowen, “Why do they keep the books wrapped in Mexican bookstores?” Marginal Revolution, July 25, 2021] 

そう,透明なビニールで包装したままってこと.だから,店頭でページをめくれないし,中身がどんな感じか眺めるのもかなわない.いくつか仮説が思いつく:
[Read more…]

タイラー・コーエン「スウェーデンでは,ワクチン接種した人にお金をあげるんですって(実験で)」(2021年7月26日)

[Tyler Cowen, “Sweden will pay people to get vaccinated,” Marginal Revolution, July 26, 2021]

少額の現金インセンティブでワクチン接種が改善できるかどうかを検証するヨーロッパ最大規模のテストで,スウェーデンのボランティアたちは免疫化に1人当たり17ポンド支払われる(…)

ルンド大学の経済学教授 Erik Wengstrom が主導するスウェーデンの研究では,もっと穏当な手法が用いられている.

今後数週間にわたって,60歳以下でワクチン未接種の人々 8,200名が複数のグループにわけられる.一部のグループは,ワクチンを接種すれば,たいていの店舗で利用できる200スウェーデンクローナ(およそ2,550円)相当のバウチャーが渡される.

このお金は,他国で検討中の金額に比べて数割だが,Wengstrom によれば,せいぜい25ドルも払えば人々にワクチン接種をなっとくさせられるという証拠がアメリカで得られているという.

Wengstrom は言う:「みんな,ワクチン接種を受ける意思ならもちあわせているのに,ほんのちょっとした面倒があったりいつも都合がつかなかったりしているのかもしれません.だったら,少額のインセンティブが役に立ちます.」

他のグループの参加者たちは,「ナッジ」手法の対象となる――ナッジとは,特定の選択肢に誘導することで人々の行動に影響を及ぼそうとする試みのことだ.

ワクチンの便益と副反応に関するリーフレットをもらう人たちもいるし,ワクチンを接種するよう他人を説得する最良の論証を考えるように頼まれる人たちもいる.そして,3つ目のグループは,自分の最愛の人たちのリストを書くように頼まれる.「ようするに,ワクチン接種で他人がどんな風に守れるかもしれないか考えるように後押ししているわけです」と Wengstrom は言う.

London Times の記事全文はこちら

タイラー・コーエン「どうして女性が STEM 系の広告を目にする機会は男性より少ないの?」(2021年7月26日)

[Tyler Cowen, “They modeled this — why women might see fewer STEM ads,” Marginal Revolution, July 26, 2021]

科学・テクノロジー系の各種職業に手引きする広告を女性が目にする機会は,男性よりも少ない.だが,企業が選り好みして男性を対象に広告を展開しているからではない――そうではなく,どうやら広告販売の経済事情の結果としてそうなっているらしい.
[Read more…]

タイラー・コーエン 「『精神病的傾向』が高いのは『保守派』ではなく『リベラル派』? ~社会科学の悲しき現状~」(2016年7月15日)

●Tyler Cowen, “How social science got the “psychoticism” factor wrong”(Marginal Revolution, July 15, 2016)


「『保守派』は『精神病的傾向』(を測る尺度の値)が高い傾向にある」との結果を得た論文1には統計データの処理で誤りがあって、本来は「『リベラル派』は『精神病的傾向』(を測る尺度の値)が高い傾向にある」というのが正しかった・・・ってな話があったのは覚えてるだろうか? そもそもの話として、いかにして誤りが起きたんだろうか? 誤りが修正されるまでに長い時間がかかったのはどうしてなんだろうか? この件についてジェシー・シンガル(Jesse Singal)がスクープを報じている。少しだけ引用しておくと、 [Read more…]

  1. 訳注;本サイトで訳出されている次のエントリーで紹介されている論文がそれ。 ●タイラー・コーエン 「パーソナリティーと政治意識の複雑な関係」(2021年7月19日) []