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アレックス・タバロック「今年のノーベル経済学賞はバナジー,デュフロ,クレマーが受賞」

Alex Tabarrok “ The Nobel Prize in Economic Science Goes to Banerjee, Duflo, and KremerMarginal Revolution, October 14, 2019

今年のノーベル経済学賞は,開発経済学でのフィールド実験を理由にアビジット・バナジーエステル・デュフロマイケル・クレマー(リンク先は各人のホームページ)に与えられた。デュフロはジョン・ベイツ・クラーク賞,マッカーサー「天才」賞を受賞し,今やノーベル経済学賞を受賞した史上2番目の女性で,これまでの受賞者の中で群を抜いて一番若い(これまで一番だったのはアロー1 )。デュフロとバナジーは夫婦なのでノーベル経済学賞を受賞した最初の夫婦ということになるが,ノーベル賞を受賞した最初の夫婦というわけじゃない。過去に夫婦でノーベル賞を受賞してそのうち片方がノーベル経済学賞受賞者だった夫婦がいる。さて,どの夫婦かわかるかな?2

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  1. 訳注;アローの受賞は51歳のとき,デュフロは46歳 []
  2. 訳注;正解はhicksian氏訳の過去記事を参照。 []

アレックス・タバロック「モンティ・ホール問題の直観的にわかりやすいバージョン」(2019年9月19日)

[Alex Tabarrok, “The Intuitive Monty Hall Problem,” Marginal Revolution, September 19, 2019]

いろんなパズルは,ある角度から眺めたときには解きにくいのに視座を変えてみたらかんたんになることがよくある.Q&Aサイトの StackExchange に,モンティ・ホール問題と本質は同じで正解を切り替えるかどうかの正しい選択が一目瞭然なものはなにか,という質問があがっている.ジョシュア・B・ミラーが,見事な回答を寄せている.おさらいしておくと,もともとのモンティ・ホール問題では,3つ並んだドアのうち1つにすてきな賞品が待っていて,回答者がどれか1つを選ぶと,司会者のモンティ・ホールが残り2つのうち1つを開けてハズレなのを見せる(開けるのは必ずハズレの方だ).これを見たあとで,ドアの選択を切り替えるか,それとも最初に選んだままにしておくか? たいていの人は,切り替えるべき理由を見出さない.あのポール・エルデシュですら,切り替えない派だった.さらに,切り替えると答える人も,たいていは,直観的にわかりにくいベイズの確率計算をやってその結論にたどり着く.

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アレックス・タバロック「アクティブ・ラーニングは機能するけれど学生のお気には召さない」(2019年9月9日)

[Alex Tabarrok, “Active Learning Works But Students Don’t Like It,” Marginal Revolution, September 9, 2019]

一貫して同じ学生と教員を対象にして注意深く実施された実験により,アクティブ・ラーニング〔能動的学習〕の授業の方が学生たちはより多く学ぶものの,このスタイルの授業を学生は嫌い,学ぶものがそれほど多くないと考えていることが明らかになった.べつにものすごく意外な結果ではない――アクティブ・ラーニングは難しくて,学生はまるで自分がバカなような思いをしてしまうものだ.それよりも,イスにふんぞり返ってご立派な講師が巧みな講義でなにもかも単純なように思わせてくれるのを楽しんでいる方がずっとラクだ.

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アレックス・タバロック「女子の読解における比較優位は数学関連分野での男女格差をだいたい説明する」

Alex Tabarrok “Girls’ comparative advantage in reading can largely explain the gender gap in math-related fields” Marginal Revolution, September 3, 2019


前に「男子の方が数学・科学に比較優位がある?(optical_frog氏による訳)」という記事で,男子は女子よりも読解がずっと下手だから数学に比較優位があることを示す証拠をご覧に入れた(男子が数学に大きな絶対優位をもつわけではないのだ)。みんなが自分の比較優位に特化するとすると,このことが女子よりも多くの男子が数学教育課程に入ることを容易に促してしまう。たとえ女子に男子と同じかそれ以上の才能があったとしてもだ。このことは以前書いたとおり。

さて,これで生徒たちにこう告げたらどうなるだろう――「得意なことをやってごらん!」 大雑把に言えば,状況はこんな具合になるだろう:女子はこう言う――「歴史と国語は A で科学と数学は B だから,長所をもっと伸ばして歴史や国語と同じ技能を活かすことにしよっと!」 一方,男子はこう言う――「科学と数学は B で歴史と国語は C だから,長所をもっと伸ばして科学や数学がからんでることをやろっと!」

米国科学アカデミー紀要(PNAS)に掲載されたブレダとナップの新論文は,この比較優位仮説についてもっと多くのことを見出している。ブレダとナップは,学習到達度調査(PISA)を受ける最大30万人の世界各地の学生の数学を勉強する意欲を調べた。

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アレックス・タバロック「平均の終焉: 新聞編」(2019年8月1日)

[Alex Tabarrok, “Average is Over: Newspaper Edition,” Marginal Revolution, August 1, 2019]

新聞でも平均の時代が終わったのをLAタイムズのジョシュア・ベントンが例証している

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アレックス・タバロック「年齢で重み付けした投票方式はいかが?」(2019年7月24日)

[Alex Tabarrok, “Age-Weighted Voting?,” Marginal Revolution, July 24, 2019]

今日なにかの議会で政策が可決されたとして,その政策の効果を誰よりも長く経験するのは若者たちだ.言い方を変えると,(利己的な)年長世代の有権者たちの時間視野は短いので,これがバイアスとなって,赤字支出や地球温暖化の対応先送りといった近視眼的な政策に偏っているかもしれない.哲学者の MacAskill が代替案として年齢で重み付けした投票方式を提案している.

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アレックス・タバロック 「核戦争が起こる確率はどのくらい?」(2019年7月1日)

●Alex Tabarrok, “What is the Probability of a Nuclear War?”(Marginal Revolution, July 1, 2019)


「核戦争のリスクは相変わらず世界が直面している一番大きな問題だ。いつか近いうちにやって来るかもしれない差し迫ったリスクであるようには見えないとしてもね」とはコーエンの言だが、私も同意見だ。

核戦争が起こる確率を予測するというのは難題も難題だが、ルイーザ・ロドリゲス(Luisa Rodriguez)がEffective Altruism Forumで核戦争が起こる確率を探る難業に乗り出している各種の試みを念入りに概観している。その道の専門家にしても超予測者(superforecaster)1にしてもいずれもが「かくあれかし」との世人の願いよりもずっと高い確率で核戦争が起こると予測しているようで面食らってしまったものだ。本エントリーの末尾に掲げた表にあるように、核戦争が起こる確率は1.17%(.0117)と見積もられているが、この数値は「1年間のうちに」核戦争が起こる確率であることに注意願いたい。ということはつまり、たった今生まれたばかりの赤ん坊が例えば75歳まで生きるとすれば、その赤ん坊が75歳で死ぬまでの間(一生のうち)に核戦争が起こる確率はおよそ60%(=1-(1-.0117)^75)ということになるのだ。思いがけないアクシデントが原因で1年間のうちに(米露間で)核戦争が起こる確率はというと0.9%(.009)。ということは、先の赤ん坊が75歳で死ぬまでの間に思いがけないアクシデントが原因で(米露間で)核戦争が起こる確率はおよそ50%(=1-(1-.009)^75)ということになる。ロドリゲスも触れているし、エリック・シュローサー(Eric Schlosser)の『Command and Control2でも詳しく取り上げられているが、ノースカロライナ州で起きた核爆弾落下事故をはじめとして(思いがけないアクシデントが原因で)核戦争一歩手前までいったケース3というのはギョッとするほど多いのだ。

60%に50%。クレイジーで馬鹿げてるとは思わない。クレイジーな高さだとは思うけどね。最後にロドリゲスによるまとめを引用しておこう。

歴史上の証拠(事実)に専門家の見解、そして超予測者による見積もり。これらすべてをひっくるめることにより、核戦争がどのくらいの確率で起きそうかを大まかに推定するとっかかりを得ることができる。ただし、一つひとつの推定結果を過度に重視しないように注意すべきだろう。というのも、確率を推定するための素材として利用されたデータはどれもそれぞれに重大な欠点を抱えているからである。とは言え、一定の限界は抱えつつも、これまでの議論を踏まえると次のように考えてもよさそうだ。1年間のうちに核戦争が起こる確率はおよそ1.17%であり、1年間のうちに米露間で核戦争が勃発する確率はおよそ0.39%と見積もられる。

  1. 訳注;「超予測者」についての詳細は次の本を参照されたい。 ●フィリップ・E・テトロック &ダン・ガードナー(著)/土方 奈美(訳)『超予測力――不確実な時代の先を読む10カ条 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)』 []
  2. 訳注;本書の概要については本サイトで訳出されている次の記事も参照されたい。 ●アレックス・タバロック 「『覆面経済学者の逆襲』、『アメリカにおける財産の歴史』、『コマンド&コントロール』 ~お気に入りの3冊~」(2017年8月28日) []
  3. 訳注;この話題については本サイトで訳出されている次の記事も参照されたい。 ●アレックス・タバロック 「事実は小説よりも奇なり ~行方不明の核爆弾~」(2017年8月26日) []

アレックス・タバロック「連邦犯罪者になる方法」(2019年6月20日)

[Alex Tabarrok, “How to Become a Federal Criminal,” Marginal Revolution, June 20, 2019]

秀逸な Twitter フィード @CrimeADay を流してるマイク・チェイズが,イラスト入りのハンドブックを出した.題名は『連邦犯罪者になる方法』だ (How to Become a Federal Criminal).実のところ,このハンドブックを読まなくても,連邦犯罪者になるのはすごくかんたんだったりする.
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アレックス・タバロック「価格差別VS医療ツーリズム」

Alex Tabarrok”Price Discrimination Versus Medical Tourism” Marginal Revolution April 2, 2019


私たちが書いた経済原論の教科書で,タイラーと私は価格差別に関する章を次のように幕開けをしている。

数か月に及ぶ捜査の後,インターポールの警察はベルギーのアントワープ郊外で活動していた国際薬物シンジケートへ急襲をかけた。このシンジケートはヨーロッパ中に売りさばくためにケニア,ウガンダ,タンザニアから薬物を密輸していた。密輸はシンジケートに数百万ドルの利益をもたらした。密輸された薬物は何かって?ヘロイン?コカイン?いいやそれよりももっと価値があるもの,コンビビルだ。抗HIV薬であるコンビビルはヨーロッパで製造されて合法的に販売もされているのに,なぜアフリカからヨーロッパへ違法に密輸されたんだろうか。

その答えは,コンビビルはヨーロッパでは1錠12.50ドル,アフリカではそれよりもずっと原価に近い約50セントで売られているからだ。アフリカでコンビビルを買ってヨーロッパで売った密輸業者は,1錠あたり約12ドル稼ぐことができたし,彼らは数百万錠も密輸した。

ヨーロッパへ薬物を密輸する代わりに,ヨーロッパやアメリカの患者を外国に送ることも可能だ。たとえばギリヤド社のソバルディは,C型肝炎の治療に用いられるとても効果のある薬だ。アメリカではひととおりの治療に約85,000ドルかかるけれど,ギリヤド社と途上国のジェネリック製薬業者との協定により,エジプト,インドといった途上国,そして多くの先進国では1,000ドルもかからなかったりする。”Four Reasons Drugs are Expensive, of Which Two are False(薬が高価な理由4つ,そのうち2つは間違い)”という優れた記事で,ジャック・スキャンネルは裁定業者と医薬品企業との戦いを描き出している。

[価格差は〕医薬品ツーリズムという夢を湧きあがらせている。「12週間の大旅行を楽しみましょう。ギザの荘厳なピラミッドや謎めいたスフィンクスを眺め,ツタンカーメンの宝物を探り,ルクソールの眺めに息をのみつつ,アメリカでは夢でしか手の届かない持続的ウイルス陰性化を得ることができます。」これを夢見る人もいるだろうが,ギリヤドはお見通し済みで,リゾート先で寝そべろうという人に対してその椅子はわが社のお客様専用ですよというかの如く待ったをかけている。エジプト人はソバルディを買うのに身分証明書を提示しなければならない。旅行者はお呼びではないのだ。

転売を防ぐためにギリヤドは身分証明書を要求するとともに国外で販売されたすべての瓶を追跡している

[患者の身分証明書は]識別バーコードを瓶に付すのに用いられ,患者が受け取る瓶には自分の名前やその他の情報が記されている。バーコードはその国の居住者だけが薬を手に入れることを確実にするために使われるだけでなく(略)患者は新しい瓶を受け取る際には持っている瓶を返さなければならないと規定されており,それによって患者が処方薬の瓶を一度に一つだけしかもらえないようにしている。しかし,患者が複数の瓶を手に入れることができれば「患者や医療従事者の負担は和らぐ」と国境なき医師団は述べている。

国境なき医師団はこうした規制に憤っているようだが,タイラーと私が解説しているように,それ以外の選択肢は途上国では販売しないか単一の世界価格にすることだ。そして単一の世界価格にするのであれば,その価格はエジプト価格じゃなくてアメリカ価格になるだろうと思って間違いない。

アレックス・タバロック 「恒等式の扱いにはご注意を」(2019年5月15日)

●Alex Tabarrok, “Identity Economics is Bad Economics”(Marginal Revolution, May 15, 2019)


アイデンティティ経済学は悪い経済学なり1・・・と言葉巧みに訴えるのは偉大なるニック・ロウ〔optical_frog氏による全訳はこちら〕。

数多いる動物(Animals)は肉食動物(Carnivores)か非肉食動物(Non-Carnivores)のいずれかに分類できる。すなわち、A = C + NC. ・・・であるからして、羊(NC)の群れが住まう島に数匹のオオカミ(C)を連れ込めばその島に棲息する動物(A)の総数は増えることになる。

「いや、そうとは限らない」と反論するのは容易い。オオカミが羊を襲っちゃう(食い殺しちゃう)かもしれないからね。でも、オオカミや羊の生態について詳しくない(オオカミが羊を食べるなんて知りもしない)御仁には「羊の群れが住まう島に数匹のオオカミを連れ込めばその島に棲息する動物の総数は増える」という議論は説得的に聞こえることだろう。しかし、だ。A = C + NC という式は我々の眼前に広がる「世界」について一切何も教えちゃくれないのだ。件の式は定義によって常に正しい(常に成り立つ)会計恒等式であり、眼前に広がる「世界」をいくつかの要素(部分)に切り分けるとこうなります・・・と報告しているだけに過ぎないのだ。それでもって「世界」をいくつかの要素(部分)に切り分けるやり方は無数にあり得るのだ。

無数にある中から二つほど例をば。

1. Y = C + I + G + X – M.2 ・・・であるからして、政府支出(G)が増えるとGDP(Y)は増える。

2. Y = C + S + T.3 ・・・であるからして、増税される(Tが高まる)とGDP(Y)は増える。

どっちの議論に違和感を覚える? 段違いで二番目の議論・・・でしょ? おそらく一番目の議論(政府支出が増えるとGDPは増える)はどこかで目にしたことがあるだろうけれど、二番目の議論(増税されるとGDPは増える)は初耳なんじゃない? しかしね、式に関する限りはどちらも正しいことに変わりはないのだ。だって会計恒等式だからね。でもね、式の後に続く〔右辺のいずれかの変数の値が高まるとそれに応じて左辺の値も高まると説く〕議論はどちらも同じくらい眉唾物なのだ。

ロウも指摘していることだが、恒等式は思考に枠をはめることになる。その枠が現実をうまく捉える助けになるかどうかを確かめるには恒等式を別のかたちに書き換えてみるべし。

  1. 訳注;「アイデンティティ」(“Identity”)には「恒等式」という意味もある。アイデンティティ経済学は悪い経済学なり=恒等式だけを頼りに何かを言おうとしても見当違いに陥りやすい、といった意味が込められているのであろう。こちらの「アイデンティティ経済学」を揶揄しているわけではないので誤解なきよう。 []
  2. 訳注;GDP=消費+投資+政府支出+輸出-輸入 []
  3. 訳注;GDP(総所得)=消費+貯蓄+税金 []