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アレックス・タバロック「価格差別VS医療ツーリズム」

Alex Tabarrok”Price Discrimination Versus Medical Tourism” Marginal Revolution April 2, 2019


私たちが書いた経済原論の教科書で,タイラーと私は価格差別に関する章を次のように幕開けをしている。

数か月に及ぶ捜査の後,インターポールの警察はベルギーのアントワープ郊外で活動していた国際薬物シンジケートへ急襲をかけた。このシンジケートはヨーロッパ中に売りさばくためにケニア,ウガンダ,タンザニアから薬物を密輸していた。密輸はシンジケートに数百万ドルの利益をもたらした。密輸された薬物は何かって?ヘロイン?コカイン?いいやそれよりももっと価値があるもの,コンビビルだ。抗HIV薬であるコンビビルはヨーロッパで製造されて合法的に販売もされているのに,なぜアフリカからヨーロッパへ違法に密輸されたんだろうか。

その答えは,コンビビルはヨーロッパでは1錠12.50ドル,アフリカではそれよりもずっと原価に近い約50セントで売られているからだ。アフリカでコンビビルを買ってヨーロッパで売った密輸業者は,1錠あたり約12ドル稼ぐことができたし,彼らは数百万錠も密輸した。

ヨーロッパへ薬物を密輸する代わりに,ヨーロッパやアメリカの患者を外国に送ることも可能だ。たとえばギリヤド社のソバルディは,C型肝炎の治療に用いられるとても効果のある薬だ。アメリカではひととおりの治療に約85,000ドルかかるけれど,ギリヤド社と途上国のジェネリック製薬業者との協定により,エジプト,インドといった途上国,そして多くの先進国では1,000ドルもかからなかったりする。”Four Reasons Drugs are Expensive, of Which Two are False(薬が高価な理由4つ,そのうち2つは間違い)”という優れた記事で,ジャック・スキャンネルは裁定業者と医薬品企業との戦いを描き出している。

[価格差は〕医薬品ツーリズムという夢を湧きあがらせている。「12週間の大旅行を楽しみましょう。ギザの荘厳なピラミッドや謎めいたスフィンクスを眺め,ツタンカーメンの宝物を探り,ルクソールの眺めに息をのみつつ,アメリカでは夢でしか手の届かない持続的ウイルス陰性化を得ることができます。」これを夢見る人もいるだろうが,ギリヤドはお見通し済みで,リゾート先で寝そべろうという人に対してその椅子はわが社のお客様専用ですよというかの如く待ったをかけている。エジプト人はソバルディを買うのに身分証明書を提示しなければならない。旅行者はお呼びではないのだ。

転売を防ぐためにギリヤドは身分証明書を要求するとともに国外で販売されたすべての瓶を追跡している

[患者の身分証明書は]識別バーコードを瓶に付すのに用いられ,患者が受け取る瓶には自分の名前やその他の情報が記されている。バーコードはその国の居住者だけが薬を手に入れることを確実にするために使われるだけでなく(略)患者は新しい瓶を受け取る際には持っている瓶を返さなければならないと規定されており,それによって患者が処方薬の瓶を一度に一つだけしかもらえないようにしている。しかし,患者が複数の瓶を手に入れることができれば「患者や医療従事者の負担は和らぐ」と国境なき医師団は述べている。

国境なき医師団はこうした規制に憤っているようだが,タイラーと私が解説しているように,それ以外の選択肢は途上国では販売しないか単一の世界価格にすることだ。そして単一の世界価格にするのであれば,その価格はエジプト価格じゃなくてアメリカ価格になるだろうと思って間違いない。

アレックス・タバロック 「恒等式の扱いにはご注意を」(2019年5月15日)

●Alex Tabarrok, “Identity Economics is Bad Economics”(Marginal Revolution, May 15, 2019)


アイデンティティ経済学は悪い経済学なり1・・・と言葉巧みに訴えるのは偉大なるニック・ロウ〔optical_frog氏による全訳はこちら〕。

数多いる動物(Animals)は肉食動物(Carnivores)か非肉食動物(Non-Carnivores)のいずれかに分類できる。すなわち、A = C + NC. ・・・であるからして、羊(NC)の群れが住まう島に数匹のオオカミ(C)を連れ込めばその島に棲息する動物(A)の総数は増えることになる。

「いや、そうとは限らない」と反論するのは容易い。オオカミが羊を襲っちゃう(食い殺しちゃう)かもしれないからね。でも、オオカミや羊の生態について詳しくない(オオカミが羊を食べるなんて知りもしない)御仁には「羊の群れが住まう島に数匹のオオカミを連れ込めばその島に棲息する動物の総数は増える」という議論は説得的に聞こえることだろう。しかし、だ。A = C + NC という式は我々の眼前に広がる「世界」について一切何も教えちゃくれないのだ。件の式は定義によって常に正しい(常に成り立つ)会計恒等式であり、眼前に広がる「世界」をいくつかの要素(部分)に切り分けるとこうなります・・・と報告しているだけに過ぎないのだ。それでもって「世界」をいくつかの要素(部分)に切り分けるやり方は無数にあり得るのだ。

無数にある中から二つほど例をば。

1. Y = C + I + G + X – M.2 ・・・であるからして、政府支出(G)が増えるとGDP(Y)は増える。

2. Y = C + S + T.3 ・・・であるからして、増税される(Tが高まる)とGDP(Y)は増える。

どっちの議論に違和感を覚える? 段違いで二番目の議論・・・でしょ? おそらく一番目の議論(政府支出が増えるとGDPは増える)はどこかで目にしたことがあるだろうけれど、二番目の議論(増税されるとGDPは増える)は初耳なんじゃない? しかしね、式に関する限りはどちらも正しいことに変わりはないのだ。だって会計恒等式だからね。でもね、式の後に続く〔右辺のいずれかの変数の値が高まるとそれに応じて左辺の値も高まると説く〕議論はどちらも同じくらい眉唾物なのだ。

ロウも指摘していることだが、恒等式は思考に枠をはめることになる。その枠が現実をうまく捉える助けになるかどうかを確かめるには恒等式を別のかたちに書き換えてみるべし。

  1. 訳注;「アイデンティティ」(“Identity”)には「恒等式」という意味もある。アイデンティティ経済学は悪い経済学なり=恒等式だけを頼りに何かを言おうとしても見当違いに陥りやすい、といった意味が込められているのであろう。こちらの「アイデンティティ経済学」を揶揄しているわけではないので誤解なきよう。 []
  2. 訳注;GDP=消費+投資+政府支出+輸出-輸入 []
  3. 訳注;GDP(総所得)=消費+貯蓄+税金 []

アレックス・タバロック「アメリカの都市は住めたものじゃない.お金持ちのリベラルのせいだ」(2019年5月23日)

[Alex Tabarrok, “America’s Cities Are Unlivable. Blame Wealthy Liberals,” Marginal Revolution, May 23, 2019]

ファラド・マンジューが『ニューヨークタイムズ』に書いた記事で議論を提起している:
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アレックス・タバロック「ソ連捕鯨:20世紀屈指の環境犯罪」(2019年5月22日)

[Alex Tabarrok, “One of the Greatest Environmental Crimes of the 20th Century,” Marginal Revolution, May 22, 2019]

これほど急激に乱獲がなされた例は歴史上にも数えるほどしかない――しかも,全てがほぼ秘密裏になされていた.ソビエト連邦は,1946年の国際捕鯨取締条約の加盟国だった.この条約では,各国が1年当たりに捕鯨できる数量が割り当てられていた.商業捕鯨が1986年に禁止されるまでに,ソ連は南半球でザトウクジラを累計2,710頭を捕獲したと報告していた.実際には,ソ連の船団はその18倍近くのクジラを捕らえていたうえに,ザトウクジラ以外のクジラも数千頭捕獲していた.これは,周到かつ大胆不敵な欺瞞だった:ソ連船団の船長たちは船を偽装し,科学データを改竄し,国際的な監視・取り締まり当局を数十年にもわたって欺いていた.海洋生物学者 Yulia Ivashchenko, Phillip Clapham, Robert Brownell による推計によれば,「20世紀でも最大級の環境犯罪と目される」という.

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アレックス・タバロック「無秩序は社会主義よりも悪い」

Alex Tabarrok “Anarchy is Worse than Socialism” Marginal Revolution May 19, 2019


社会主義は悪い。これは私にとっては自明だ。しかしベネズエラの崩壊は,社会主義だけによる影響よりももっとずっと悪いものだ。

ニューヨークタイムズ:(略)マデューロ政権下におけるベネズエラの経済産出の下落は,少なくとも1975年以降戦争下にない国の中でもっとも急激なものだ。

今年末のベネズエラのGDPは,2013年の景気後退入り時点から62%縮小するとされる。

ベネズエラからは山々すら越えて人々が逃げ出しているため,過去2年間で総人口の10分の1がいなくなり,南米において過去最大の難民危機を引き起こしている。

IMFによれば今年のベネズエラのハイパーインフレーションは1000万パーセントに達すると予測されており,物価が統制を外れて上昇している期間としては1990年代のコンゴ民主主義共和国以来最も長いものだ。

国際金融協会の副チーフエコノミストであるセルギ・ラナウは,「これは事実上消費の完全な崩壊といえる」と述べる(略)

何がこの驚異的な経済活動の下落を引き起こしているんだろうか。皮肉なことに,これは政府が過剰なためではなく小さすぎるせいだ。 [Read more…]

アレックス・タバロック「貧しい眠りは家も貧しくする:インド標準時のコスト」

Alex Tabarrok “Poor Sleep Makes People Poor: The Costs of India Standard TimeMarginal Revolution, February 5, 2019

独立後,インドは国土全体に単一の時間帯を採用した。インドは東西1,822マイルにまたがり,これは経度で29度に相当する。15度ごとに時間帯を分けるという慣習にインドが従っていれば,インドには少なくとも2つの時間帯があったことになる。時間帯が1つしかないことで,東では一番西よりも二時間早く日が昇るということがあり得る。

モーリク・ジャグナニは,その独創的かつ驚きの論文の中で,インドの単一の時間帯は睡眠の質,特に貧しい子供のそれを下げており,それによって彼らの教育の質を下げていると主張している。なぜ名目の変化が実質変数に影響を及ぼすのだろうか。学校はインド全土で大体同じ時刻に始まるが,日が沈むのが遅い場所では子供たちが床に就くのも遅い。そのため,西にいる子供たちは東にいる子供たちよりも睡眠が短く,これが彼らの教育水準,後々には彼らの賃金にさえ響くのだ! [Read more…]

アレックス・タバロック「字幕>吹替え」(2019年1月15日)

Alex Tabarrok, “Subtitling > Dubbing“(Marginal Revolution, January 15, 2019)

テレビ番組の翻訳技術が英語スキルに影響するか全世界的規模の分布を調査した。字幕付きオリジナル版の放送は大きなプラス効果があるのに対し、吹替え版では反対であることが、英語能力試験の点数において認められた。各国がどちらの翻訳方法を選択したのか歴史的背景を分析し、字幕指標の可能な内生性を説明するのに使用した。スキルタイプ別に分けると、テレビ番組は特にリスニング能力に有効なことがわかった。我々の論文は、外国語学習の上達方法として政府が字幕番組を推進することを提言している。

これは「テレビか否か:字幕の英語スキルへの影響( TV or not TV? The impact of subtitling on English skills)」からである。有益な調査結果を載せている賢い研究だ。

私たちのマージナル・レボルーション大学(Marginal Revolution University, or MRU)(教科書のリンクはこちら)のミクロ経済学原理およびマクロ経済学原理の動画は、英語、スペイン語、ヒンディー語、アラビア語、その他諸言語の字幕が付いているので、経済学のみならず語学を学ぶ手助けにもなるかもしれない、と私は言わずにはいられないのだ。

アレックス・タバロック「メキシコ国境沿い犯罪率」(2019年1月8日)

Alex Tabarrok, “Border Crime“(Marginal Revolution, January 8, 2019)

ケイトー研究所のアレックス・ナウラステ氏は、メキシコ国境沿いに位置する郡の犯罪率は、全米のその他地域と比較して低いと述べている。

もしアメリカ全土の犯罪率が国境沿い地域の2017年のものと同等であったならば、殺人事件は33.8%、窃盗事件は2.1%、そして暴力事件は8%低かっただろう。

もちろん、国境沿いの郡は国境に接していない郡に比べるとずっと田舎であるなどの違いがある。とはいえ、違法移民とアメリカ国民(American Blood)についての激しいレトリックに比べると、いくつかの事実は衝撃的だ。

アレックス・タバロック「FBIは取り調べを録画していない」(2018年12月24日)

Alex Tabarrok, “Why doesn’t the FBI videotape the interviews?“ (Marginal Revolution, December 24, 2018)

マイケル・ラパポート氏は、ロー・アンド・リバティー誌で次のように書いている。

取り調べ中に取り調べを受けている人物が嘘をついていると思ったら、政府に対して偽証したとしてFBIはその人物を起訴することができる。刑罰はかなり重い。合衆国法典第18編第1001条のもと、連邦政府に対するいかなる偽証も5年間の実刑の対象とされている。随分と長い刑期だ。

FBIはどうやって偽証を証明しているのだろうか?ビデオ録画していると思われるかもしれない。録画は偽証をしているかどうか証明するのに最高の証拠だ。だが、あなたがそう思っているとしたら、とんでもない間違いだ。

FBIは取り調べを録画していない。取り調べの録画を禁止するFBIガイドラインがあるらしいのだ。代わりに、FBIはもうひとり捜査官を取り調べに立ち合わせる。そして立ち会った捜査官は、取り調べ中に自分が取ったノートをもとに、第302書式Form 302)というレポートを提出する。

ここでは何が起こっているのだろうか?なぜFBIは録画を禁止して、代わりに取り調べの概要に頼るのだろうか?最も明らかな理由はFBIを贔屓してはくれないものだ。取り調べを録画していないなら、FBI捜査官は取り調べ対象の人物が偽証しているというFBI独自の見解で議論することができる。(被告人が法廷で証言したとしても)被告人よりもFBI捜査官のほうが信用されやすいので、この取り調べのやり方はFBIにとって有利である。逆に録画があると、裁判官や陪審員は偽証があったかどうかを自分で判断できてしまう。

現行法においてこれは憲法違反だという意見を持つひともいる。正当な法の手続き条項(the Due Process Clause)の解釈を巡って争われたマシューズ対エルドリッジ事件では、より正確な判断をもたらし、費用をかけるに値する別の方法があるならば、〔録画なしの取り調べは〕違憲であるとしている。録画の費用の低さを考えれば、正確さのために録画するのは便益が費用を上回るのは明白だろう。

バービー・シルバーグレイト氏のこちらの素晴らしい記事も参照されたし。

アレックス・タバロック「2018年の記事ベスト10」

Alex Tabarrok “The Top Ten Marginal Revolution Posts of 2018” Marginal Revolution, December 20, 2018


ページビュー数で測った場合,本ブログMarginal Revolutionの記事で今年最も人気があったのは,警官とそれ以外の人たちでは違った法律が適用されているという話だ。「刑務所釈放カード(Get Out of Jail Free Cards)」

2位は「タイラー・コーエンの人生のための12のルール(Tyler Cowen’s 12 Rules for Life)」だ。7番目のルールの「自らを傷つけるものから学ぶ術を学びなさい」に今日は目を引かれたが,リスト全体を通して多くの知恵に溢れている。

3番目に人気があったのは,タイラーでも私でもゲスト投稿者ですらない本ブログの読者からのコメントだ。「主要IT企業で働くことに関してとある頭の良い人の見解(One smart guy’s frank take on working in some of the major tech companies)」

お気に入りの記事のうちの一つが4位に入った。「”The Profit”からの教訓(Lessons from “The Profit”)」 The Profitの新シーズンが始まったが,いまだに面白い。産業組織論の経済学者なら必見だ。

5位もお気に入りの一つだ。 [Read more…]