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デビッド・ベックワース 「Fedは狙い通りの成果を上げている? ~『2%のインフレ目標』か、はたまた『1~2%のインフレ”回廊”目標』か~」(2015年12月14日)

●David Beckworth, “The Fed Gets What It Wants: A 1%-2% Inflation Target Corridor”(Macro Musings Blog, December 14, 2015)


利上げに向けて、遂に舵が切られようとしている。Fedがゼロ金利政策(ZIRP)に踏み出してからかれこれ7年が経過しているが、近日中にも短期金利(フェデラル・ファンド金利)の誘導目標が引き上げられる見込みとなっているのだ。エキサイティングな展開だとの意見もあるかもしれないが、どんな感想を抱くのであれ、是非とも心に留めておくべき大事なことがある。Fedによるこれまでの一つひとつの決定を背後で律してきた「原理」が急激に変わることはない、ということがそれだ。その「原理」に照らすと、Fedは、どんな場合であっても――ゼロ金利政策の舵取りをする場合であれ、量的緩和の舵取りをする場合であれ、フォワードガイダンスの舵取りをする場合であれ、財政政策のスタンスが変更される場合であれ、金融政策の正常化に乗り出す場合であれ――例外なく、PCEコアデフレーターで測ったインフレ率を1~2%の範囲内(「回廊」の内側)に収めようと試みるに違いないことが示唆されるのだ。 [Read more…]

デビッド・ベックワース 「Fedによるインフレ目標の実態 ~上限値としての2%~」(2013年9月27日)/「ECBよ、お前もか」(2016年1月26日)

●David Beckworth, “At Least the Fed Has An Inflation Target, Right?”(Macro Musings Blog, September 27, 2013)


この度の危機が勃発してから早5年が経過しているわけだが、Fedは未だに名目GDP水準目標(NGDPLT)を採用するには至っていない。とは言え、この危機の最中に、Fedは正式にインフレ目標の採用に乗り出した。その点についてはちょっとした慰みになる・・・でしょ? 違う? 2012年1月にインフレ目標の採用を正式に決定した際に、FOMC(連邦公開市場委員会)は、2%のインフレ目標という新目標の達成に向けて、真剣に取り組むつもりであることを以下のようにアピールしている。

長期にわたるインフレーションを決定づける主たる要因は金融政策であり、それゆえ、FOMCは、インフレーションの長期的な目標(ゴール)を具体的に(数値で)特定する能力を備えていると言える。この度FOMCは、長期的に見て、PCE(個人消費支出物価指数)ベースで年率2%のインフレ率が、Fedに課せられた法的責務に最も合致するものである、との判断に至った。このように国民に対して、インフレーションの長期的な目標(ゴール)が明瞭なかたちで伝えられることにより、長期的なインフレ期待の安定化につながるものと思われる。長期的なインフレ期待が安定することになれば、物価や長期金利も安定するだけではなく、経済的な攪乱が発生した場合にFedが雇用の最大化を図る能力が強化されることにもなるだろう。

これまでに何度も語ってきたように、経済が大規模な供給ショックにしばしば襲われるような場合には、インフレ目標は問題含みの政策枠組みであると言える(この点については、こちらこちらを参照)。その一方で、総需要ショック(総需要不足)が原因で景気の低迷がもたらされるような場合には、中央銀行がインフレ目標の採用に動くというのは朗報であるはずだ。インフレ目標の正式な採用は――インフレ目標があくまでも暗黙的な目標にとどまっていた場合に比べると、一段と力強く――Fedの尻を叩く格好となるはずだし、上掲の引用箇所で約束されている数々の素晴らしい結果の達成に向けて、あらゆる行動に打って出るようFedに迫る圧力となるはずだ。

それでは早速ながらではあるが、Fedによるインフレ目標の実態がどうなっているか点検してみるとしよう。「コアPCEで測って2%のインフレ率」という基準(Fedが自ら課した基準)に照らして、これまでの結果(実際のインフレ率の推移)はどうなっているだろうか? [Read more…]

デビッド・ベックワース 「マクロ経済政策に取り付けられたガバナー(調速機)」(2015年6月23日)

●David Beckworth, “The Penske View of Macroeconomic Policy”(Macro Musings Blog, June 23, 2015)


ペンスキー社のトラックを運転すると、マクロ経済政策について多くを学べる。ちなみに、私は3年前に運転済みだ。テキサス州からテネシー州へと引っ越すために、ペンスキー社のトラックをレンタルしたのだ。私がトラックを運転し、妻は我が家の車を運転して後ろに続いた。出発してすぐに気付いたのだが、トラックのエンジンにはガバナー(調速機)が取り付けられていて、最高でも時速65マイルまでしか出せない仕様になっていた。本来の能力を大きく下回る速度で走らざるを得ず、そのおかげで、実にストレスが溜まる旅を強いられることになった。特に厄介だったのは丘越え。丘に差し掛かるのに伴ってトラックの速度が落ちるのを防ごうとしても、ガバナーがあるおかげで、十分に勢いが付かない。やっとのことで丘を越えた後に、これまでの遅れを取り戻そうとしても、それは無理ときている。時速65マイルが上限で、それより速くは走れないからだ。私のノロノロ運転にイラついている様子の周囲のドライバー達。そのうちの一人が、(すぐ後ろで我が家の車を運転していた)我が妻。私よりもトラックをうまく操れると判断したらしく、運転を交代することに(私は我が家の車を運転して、妻が運転するトラックを追走することに)。その結果はどうだったかというと、確かに妻の方がトラックをうまく操ったと言えるかもしれない。・・・が、それでどれだけの違いが生まれただろうか? ほんの僅かの違いに過ぎない。というのも、妻もまた、私と同じ制約に従わねばならなかったからだ。時速65マイルという速度の上限に。結局のところ、当初の予定から大幅に遅れて目的地に到着ということになりましたとさ。

我ら夫婦が体験した以上のエピソード(「我らのペンスキー体験」)と、過去7年間(2009年~2015年)にわたるマクロ経済政策の運営実態との間には、似たところがたくさんある。アメリカ経済は――ペンスキー社のトラックと同様に――、本来の能力を大きく下回ったままの状態に長らく追いやられることになった。それは同時に、「完全雇用」という目的地にたどり着くまでには、大方の予想よりもずっと長い時間がかかるということを意味している。 [Read more…]

デビッド・ベックワース 「一体何が大恐慌を終わらせたのか? ~クリスティーナ・ローマーの論文を紐解く~」(2008年11月25日)

●David Beckworth, “Monetary Policy Ended the Great Depression…”(Macro Musings Blog, November 25, 2008)


大恐慌を終わらせたのは、財政政策ではなく金融政策。1992年にJournal of Economic History誌に掲載された論文(pdf)で、クリスティーナ・ローマー(Christina Romer)はそのように結論付けている。どうしてローマーの論文をわざわざ引っ張り出してきたかというと、タイラー・コーエンがこちらのエントリーで言及しているからだ。アレックス・タバロックエリック・ローチウェイ(Eric Rauchway)、それにポール・クルーグマンらを中心として、ニューディール政策をめぐって激しい論争が繰り広げられている最中だが、コーエンがローマーの論文に言及したのもその渦中でのこと。遅ればせながらではあるが、ローマーの論文の内容についていくらか詳しく掘り下げることで、私も論争に一枚噛ませてもらいたいと思う。

ローマーの発見をまとめると、次のようになるだろう。財政政策は、1930年代の前半から中盤にかけてだけではなく、1942年の段階においても、これといって重要な役割を果たさず仕舞いだった、というのがまず一つ目の発見だ。この発見は、第ニ次世界大戦に伴う財政政策1こそが大恐慌を終わらせたとする、よく聞かれる見解に疑問を投げ掛けるものである。次に二つ目の発見だが、大恐慌を終わらせた要因は、1930年代の中盤ならびに後半に生じた「マネタリーな動向」にあるというのがそれだ。この点については、ローマー本人の言葉を引用するとしよう。 [Read more…]

  1. 訳注;軍事支出 []

タイラー・コーエン 「一体何が大恐慌を終わらせたのか?」(2007年2月8日)/ デビッド・ベックワース 「一体何が大恐慌を終わらせたのか? ~ポール・クルーグマン vs. クリスティーナ・ローマー~」(2008年11月29日)

●Tyler Cowen, “What ended the Great Depression?”(Marginal Revolution, February 8, 2007)


ブラッド・デロング(Brad DeLong)のブログに寄せられたコメントより。

・・・(略)・・・財政政策と大恐慌の終息との間には、事実上何のつながりもない1。詳しくは、以下の文献を参照。

●E. Cary Brown, “Fiscal Policy in the Thirties: A Reappraisal”, American Economic Review vol. 46, no. 5 (1956): pp. 857-879.

●Larry Peppers, “Full Employment Surplus Analysis and Structural Change: The 1930s”, Explorations in Economic History vol. 10 (1973): pp. 197-210.

●Prosper Raynold, W. Douglas McMillin and Thomas R. Beard, “The Impact of Federal Government Expenditures in the 1930s”, Southern Economic Journal vol. 58, no. 1 (1991): pp. 15-28.

●Christina Romer, “What Ended the Great Depression?Journal of Economic History vol. 52, no. 4 (1992): pp. 757-784.

(一番最後に挙げられている)ローマーの論文を久しぶりに読み返してみた。大恐慌を終わらせた要因は何かというと、・・・金融政策、金融政策、金融政策とのこと。大いに信頼できる説だ。

ところで、デロングが(アーノルド・クリングとの論争から派生するかたちで)ニューディールに関するちょっとしたエッセイを物している。非常に興味深い内容だ。

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●David Beckworth, “Paul Krugman Versus Christina Romer”(Macro Musings Blog, November 29, 2008)


ポール・クルーグマンが「果たして大恐慌は、本当に貨幣的な現象だったのだろうか?」と疑問を投げかけている。どうやら彼は、クリスティーナ・ローマー(Christina Romer)の論文 “What Ended the Great Depression?”(「一体何が大恐慌を終わらせたのか?」)を見過ごしてしまっているようだ。1933年~36年の景気回復局面においてのみならず、1938年以降の景気回復局面においても、「マネタリーな動向」(monetary developments)がキーとなる役割を果たしたというのがローマーの論だ。「マネタリーな動向」というのは何を指しているかというと、「非伝統的な金融政策」のことだと言っていいだろう。具体的には、①ルーズベルト大統領による平価切り下げの決定、②海外からアメリカへの金の流入、③金の流入に伴うマネタリーベースの拡大を容認した(金の流入を不胎化しない方針に切り替えた)財務省の決定、の三つにまとめられる。ローマーの論文に関しては、「第二次世界大戦が大恐慌を終わらせた」とする説への疑念も含めて、こちらのエントリー〔拙訳はこちら〕で(①~③の「マネタリーな動向」が仮に生じていなかったとしたらどんな展開になっていたと予想されるかを描写した、実に印象深い図を中心に据えて)もう少し突っ込んで論じているので、あわせて参照してもらいたいと思う。

  1. 訳注;アメリカが大恐慌から抜け出す上で、財政政策は何の役にも立たなかった、という意味。 []

デビッド・ベックワース 「ECBの代役としてのFed」(2011年11月14日)

●David Beckworth, “The ECB Needs the Fed Now More Than Ever”(Macro Musings Blog, November 14, 2011)


ECB(欧州中央銀行)は、これまで以上に、Fedを必要としている。とは言っても、通貨スワップ協定を通じたドル資金の融通額を、今よりも増やす必要があるという意味ではない。ECBは、Fedを代役として必要としているのだ。その意味するところを、これから説明するとしよう。Fedは、マネタリー・スーパーパワーの地位に君臨している(pdf)。Fedは、世界の主要な準備通貨たるドルを管理しており、数多くの新興国は公式・非公式に自国通貨をドルにペッグしている。その結果として、Fedによる金融政策は方々の新興国に「輸出」されることになるのだ。それと同時に、その他の通貨大国たる、ユーロ圏にしても、日本にしても、米国の金融政策には無関心ではいられない。というのも、ECBも、日本銀行も、ユーロや円が、ドルに対してだけではなく、ドルにペッグしている通貨に対しても、高くなり過ぎないようにと注意を払わねばならないからである。そういうわけで、Fedによる金融政策は、ユーロ圏や日本にも、ある程度は「輸出」される格好となるのだ。 [Read more…]

デビッド・ベックワース 「大将の後を追え ~マネタリー・スーパーパワーとしてのFed~」(2009年9月9日)

●David Beckworth, “Follow the Leader”(Macro Musings Blog, September 9, 2009)


以下の図をご覧いただきたい。この図は、OECD(経済協力開発機構)が公表した最新(2009年9月版)の経済見通し(Economic Outlook)の中から借用したものだ。世界を代表する三つの中央銀行(Fed、ECB、日本銀行)が操作する政策金利の推移が2000年以降の期間を対象にそれぞれ跡付けられているが、何とも興味深い事実が窺える。ECB(欧州中央銀行)にしても、日本銀行にしても、政策金利を変更するにあたって、Fedの後追いをしているかのように見えるのだ。

「Fedはマネタリー・スーパーパワーなり」。上の図は、そのような見解ともしっくりくる。この点について、かつて私は次のように述べたことがある

Fedは、世界経済を牛耳る通貨王である。Fedは、世界の主要な準備通貨たるドルを管理しており、数多くの新興国は公式・非公式に自国通貨をドルにペッグしている。その結果として、Fedによる金融政策は、世界中のあちこちに「輸出」されることになるのだ1。それと同時に、その他の通貨大国たる、ユーロ圏にしても、日本にしても、米国の金融政策には無関心ではいられない。というのも、ECBも、日本銀行も、ユーロや円が、ドルに対してだけではなく、ドルにペッグしている通貨に対しても、高くなり過ぎないように(ドル安ユーロ高、ドル安円高が行き過ぎないように)と注意を払うだろうからだ。そういうわけで、Fedによる金融政策は、ユーロ圏や日本にも、ある程度は「輸出」される格好となるのだ。以上のことを踏まえると、2000年代の初頭から中頃にかけて世界経済を襲った「グローバル流動性過剰」の元凶がFedにあるやもしれぬことを理解するのは難しくない。2000年代の初頭から中頃にかけて、Fedは政策金利(フェデラル・ファンド金利)を実質値で測ってマイナスの範囲に留め置き、そのために、実質金利(実質値で測ったフェデラル・ファンド金利)が生産性の伸び率を一貫して下回る(言い換えると、実質値で測ったフェデラル・ファンド金利が自然利子率を一貫して下回る)結果となったのだ。

「マネタリー・スーパーパワー」たるFedは、名目支出の刺激を通じて、2000年代の初頭から中頃にかけて世界経済の過熱を後押しするだけの力を備えていた。そうも言い換えられるだろう。名目価格の粘着性の存在を踏まえると、Fedのせいで(Fedによる過度の金融緩和によって、世界経済全体の名目支出が大いに刺激されたせいで)、世界経済は一時的に(2000年代の初頭から中頃にかけて)自然産出量(潜在GDP)を上回るところまでいってしまった(世界経済の過熱が引き起こされてしまった)可能性があるのだ。

  1. 訳注;例えば、Fedが政策金利を引き下げるなどして金融緩和に乗り出すと、その他の国の中央銀行もその後を追って金融緩和に乗り出さざるを得なくなる、という意味。 []

デビッド・ベックワース 「マネタリー・スーパーパワーとしてのFed」(2012年8月23日)

●David Beckworth, “Further Evidence on the Fed’s Superpower Status”(Macro Musings Blog, August 23, 2012)


「Fedはマネタリー・スーパーパワー(monetary superpower)である」。これまで私は、幾度にもわたってそう訴えてきた。Fedがマネタリー・スーパーパワーたり得る理由は、ドルが世界各国における準備通貨として機能しており、新興国の多くが自国通貨を公式・非公式にドルにペッグしているからだが、そのために、Fedによる金融政策は、新興国の多くに「輸出」されることになるのである。加えて、ECBや日本銀行もまた、Fedの決定に影響されることになる。ECBにしても、日銀にしても、ドルとペッグした通貨だったりドルだったりに対して、自国通貨(ユーロ、円)があまりにも高くなり(為替レートが増価し)過ぎないように注意を払っているからである。かくして、Fedによる金融政策は、ユーロ圏や日本にも「輸出」されることになるのだ。

「マネタリー・スーパーパワー仮説」は、(金融危機に先立つ)住宅ブーム期に「グローバル流動性過剰」が発生した理由を説明する助けにもなるし、「グローバル貯蓄過剰」の幾分かはFedによる金融緩和がリサイクルされたに過ぎないものとの示唆を与えることにもなる1。また、「マネタリー・スーパーパワー仮説」によると、仮にFedが名目GDP水準目標(NGDPLT)に類する手段の採用に踏み切ったとしたら、アメリカ経済だけではなく、ユーロ圏経済が回復に向かう上でも大いに助けとなり得る〔拙訳はこちら〕ことが示唆されることにもなる。世界経済が目下のところ大いに必要としているのは、Fedが今すぐにも休眠状態から目覚めること、というわけだ。この点については、今年(2012年)のはじめに行われた学生向けの講演の一つで、ベン・バーナンキFed議長も認めているところである2

「マネタリー・スーパーパワー仮説」は、クリス・クロウ(Chris Crowe)との共同研究を通じて発展させられたものだが、その成果はつい最近出版されたばかりの私が編集した本にも収録されている。また、コリン・グレイ(Colin Gray)による最近の論文(pdf)では、合理的期待を組み込んだモデルを通じて、「マネタリー・スーパーパワー仮説」に理論的な検討が加えられており、「マネタリー・スーパーパワー仮説」のさらなる精緻化に取り組まれている。それだけではなく、件の論文では、実証的な面からも、「マネタリー・スーパーパワー仮説」を支持するような強固な証拠が提示されている。以下にグレイの論文のアブストラクト(要約)を引用しておこう。

2002年から2006年にかけて、アメリカの中央銀行であるFedは、広く知られた金融政策ルール3によって示唆される水準を大きく下回る水準に金利(政策短期金利)を抑えつけた。そのおかげで、(2008年に世界的な金融危機を招く一因ともなった)過剰な流動性の発生が促されたことを示す研究の蓄積が進んでいるが、Fedによるこの行動ほどにはよく知られていない事実がある。多くの他の中央銀行もまた、2002年から2006年にかけて、金利を(テイラールールによって示唆される水準よりも低い水準に;訳者挿入)引き下げたという事実がそれだ。ここで、重要な疑問が提起されることになる。他国の中央銀行が金融政策のスタンスを変更する上で、Fedはどのような役割を果たした(どのような影響を及ぼした)のだろうか? この疑問に取り組むために、本論文では、合理的期待モデルの枠組みを用いて、複数の中央銀行の政策行動の間でスピルオーバー効果(波及効果)が生じるメカニズムを理論的に探ることにする。加えて、アメリカにおける金融政策がその他の主要な中央銀行の行動――特に、政策金利の設定と為替介入――にどのような影響を与えたかを実証的にも明らかにする。実際のデータによると、Fedによる金利の引き下げ――金利の絶対的な水準の引き下げ+金融政策ルールによって示唆される水準以下への金利の引き下げ――は、世界全体のマクロ経済的なトレンドをコントロールした後においてもなお、金利の引き下げを促すなり、外国為替市場への介入を促すなりして、他国の中央銀行の行動に影響を持ったことが示唆されている。そして最後に、2000年代初頭において世界的に金利が低下したのも、各国の政府が保有する外貨準備高が大きく膨らんだ(増大した)のも――そして、その後に世界的な流動性ブームが引き起こされたのも――、Fedの行動に備わるスピルオーバー効果にその責任の一端があることも示す。

グレイによる本論文での発見は、さらなる討議に付してみるだけの価値があるであろう。例えば、次のような疑問にどう答えたものだろうか? マネタリー・スーパーパワーとしての地位を前提した場合に、Fedはどのように行動すべきだろうか? アメリカ一国だけではなく、世界経済全体がマクロ経済面で最大限の安定を手にするためには、Fedによる金融政策はどのように運営されるべきだろうか? そもそも、そのような術はあり得るだろうか? 世界経済の統合が進む中で、これら一連の疑問はこの先一層重要性を増すことになろう。

  1. 訳注;この点に関して、David Beckworth, “It’s 2012, Not 2002”(Macro Musings Blog, June 26, 2012)では、次のように説明されている。「『グローバル貯蓄過剰』の幾分かは、世界経済がFedによる金融緩和をアメリカにリサイクルした結果として生じたものと見なせる。というのも、ドルにペッグしている国々は、Fedによる金融緩和に伴って、(ドルとの固定レートを維持するために)ドルの購入を強いられることになったが、これらの国々は、手元に増えたドルをアメリカの債務(債券)の購入に回すことになったからである。正確には、ドルにペッグしている国々がドルの投資対象として欲したのは、アメリカの債務一般ではなく(アメリカの債務であれば何でもよかったというわけではなく)、安全なアメリカ債務であった。つまり、Fedによる金融緩和は、安全資産に対する需要を増やすことになったのである。公的な(政府が発行する)安全資産には限りがあったので、安全資産に対する需要の増加に対応するべく、民間部門においてリスク資産を安全資産に転換する動き(例.トリプルAの格付けを付与されたCDO)が生じたのであった。こうして、Fedによる金融政策が緩和されるほど、安全資産に対する需要はますます高まることになり、それに伴って、アメリカに還流してくる信用量も増大することになったのであった。」 []
  2. 原注;正確に言うと、バーナンキはこの点を明示的に認めているわけではない。しかしながら、中国の金融政策はアメリカの金融政策の影響を受けていると認めることで、密かにほのめかしてはいる(暗黙的に認めている)のである。 []
  3. 訳注;テイラールール []

デビッド・ベックワース 「名目支出の動きから世界経済の歴史を捉え直す」(2009年11月3日)

●David Beckworth, “Global Nominal Spending History”(Macro Musings Blog, November 3, 2009)


マクロ経済の安定化を実現する上では、インフレーション(物価)の安定を図るよりも、名目支出(総需要)の安定を図る方が重要だ、というのがかねてからの持論なのだが、その観点からアメリカのマクロ経済の歴史を眺め直してみたらどうなるだろうかと考えて、かつてこのブログでもそのことを話題にしたことがある。繰り返しになるが、名目支出の動向に着目すると、(1)1960年代中頃から1980年代初頭にかけての、いわゆる「グレート・インフレーション」(”Great Inflation”)(pdf)は「名目支出のばか騒ぎ」(”Great Nominal Spending Spree”)、(2)この度の危機に先立つ25年間の、いわゆる「大いなる平穏期」(”Great Moderation”)は「名目支出の大いなる平穏期(”Great Moderation in Nominal Spending”)、そして、(3)2008年後半から2009年初頭にかけての時期は「名目支出の大クラッシュ」(”Great Nominal Spending Crash”)と、それぞれ名付けることができるだろう。この点を図にまとめると次のようになる。

つい最近のことだが、OECD加盟国のうち25カ国を対象に、1960年第1四半期以降の名目GDP(PPPベース)のデータが4半期ごとに集計されていることを知った。その25カ国というのは以下の国々。オーストラリア、オーストリア、ベルギー、カナダ、デンマーク、フィンランド、フランス、ドイツ、ギリシャ、アイスランド、アイルランド、イタリア、日本、ルクセンブルグ、メキシコ、オランダ、ニュージーランド、ノルウェー、ポルトガル、スペイン、スウェーデン、スイス、トルコ、イギリス、アメリカ。この25カ国を合わせると、経済規模で見て、世界経済全体のおよそ半分ほどを占めており、それゆえ、世界全体の名目支出の動向を知る上で何らかのヒントを与えてくれるであろう。そこで、先ほどと同じように、名目支出の動向に着目して、世界全体のマクロ経済の歴史を眺め直してみた結果をまとめたのが次の図である。

二つの図を比べると、大変似通った動きを辿っていることがわかるが、この事実は、アメリカ経済の規模の大きさと影響力の強さを物語る証拠であるように私には思える。それに加えて、FRBの金融政策には、世界経済全体の流動性、ひいては、世界経済全体の名目支出を左右するだけの大きな力が備わっていることを物語っているようにも思える。

デイヴィッド・ベックワース「FOMC はインフレ目標をいくらか超過させてもいいと見てる」

[David Beckworth, “Why Yes, the FOMC Would Like Some Inflation Overshoot Now,” Macro Musings Blog, April 12, 2018]

連銀は,対称的な2パーセントインフレ目標をもっている.2017年と2018年の「長期目標と金融政策についての声明」で,FOMC はこう述べている:

2パーセントのインフレは(…)連銀の法定義務と長期的にもっとも整合するものというこれまでの判断を本委員会はあらためて確認する.インフレ率がこの目標を継続的に下回ったり上回ったりした場合,委員会はこれを懸念する.この対称的なインフレ目標を国民に明確に伝えることで,長期のインフレ予想が堅固に定着する一助となる(…)

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