ピーター・ターチン「ウクライナ戦争についての予測 その4:予測」(2023年7月22日)

(極端に)単純化されたモデルによって、紛争の経過を次のように予測できるだろう。

〔訳注:シリーズ記事の「その1」、「その2」、「その3」、「その5」、「その6」〕

今回の記事では、前回までで議論したアイデアを用いて、予測(Projection)を立ててみたい。予測は、起こるであろう事態を予知(predict)しようとするものではないという点で、予言(forecast)ではない(むろん預言(prophecy)でもない)。予測(Projection)とは、特定の仮説や過程を前提した上で、何が起こるかを記述したものだ。通常は、異なる仮定をベースに、様々な予測を行う。そうすることで、異なる仮定がどのように異なる将来の起動をもたらすかについての複数のアイデアを得ることができる。

経験則としては、最も単純なモデルから始めるべきであるが、動的プロセスの最も重要な特徴を捉えているものであるべきだ。どの特徴に着目し、どの特徴を無視すべきか(少なくとも、最初の最も単純なバージョンの)選択は、科学と同じくらいアートでもある。私は、自分の直感に従うが、むろん他の人は私に反対してもらってかまわない。反対の立場に立つなら、明示的な代替案を提案し、それが予測にどのような影響を与えるのか示すべきだ。

一連の予測は、ウクライナでの紛争が消耗戦として続き(そして終結)するのを前提としている。戦争の性質が変われば、むろん賭けは全て外れてしまうだろう。この点については、最後に再度軽く触れ、次回以降の記事でさらに詳しく取り上げる予定だ。

消耗戦では、最終的な結果を決定する2つの重要なプロセスがある。まず、兵士が敵に殺されたり、重症を負ったり、捕虜になれば、各軍は縮小する。次に、こうした損失が生じれば、有限の新兵のプールから補充される。先に新兵を使い果たしたほうが、その時点で敗北する。

この2つのプロセスを短絡化し、各陣営についての一つの方程式だけからなるダイナミクスにまとめる。この方程式は、補充不可能な損耗によって新兵のプールがどのように減少するのかを追跡するものだ。このアプローチでは、各軍の規模は追跡していない。なぜなら、各陣営は、新兵のプールがある限り、損耗を新兵プールから補充し、戦線での十分な兵力を維持できると想定されているからだ。このアプローチでは、領土の増減が無視されている、重要なのは土地ではなく、新兵の不足にあるからだ。

次に必要なのは、〔兵士の〕損耗率の推定だ。このシリーズの第2回で見たように、〔兵士の〕損耗は、主に、横断、地雷、神風ドローンのような投射物によって引き起こされる。ロシア軍が、1日2万発=月60万発の一定割合で砲弾を投射すると仮定しよう。砲弾50発ごとに1人の戦死者が出るとすると、全体の損耗率(重症者と捕虜を含む)は少なくともこの2倍になる。これは月2,4000人の死傷者を出す計算となる。ウクライナ軍は1日あたり5,000発の砲撃の投射を続けており、砲弾1発あたりの死傷者は同じとなる。

最後に、新兵のプールの規模を推定する必要がある。このツイッターのスレッドでは、この数量について考える際の有用な方法を提案している。著者のアームチェア・ワーロードはロシア側に立った主張をする傾向があるが、彼の主張は透明性があり、〔ロシア側〕バイアスの影響を受けていない。ワーロードは、第二次世界大戦では、ドイツの国家総人口8,000万人のうち、死傷者が300万人に達した時点で崩壊が始まったと指摘している。彼によると、ウクライナ側の死傷者・捕虜が75万人に達した時点で同じ状況に陥るとのことだ。ワーロードのツイートへのコメントの中には、彼のウクライナの基本人口数(2,000万人)の推定は少なすぎると主張しているものもある。一方で、ウクライナには20代から30代の男性という軍適齢の人口動態に大きな穴があると指摘もされている。よって、予測としては、75万人というのが最適な見積もりだ(この数値を変化させて、予測の終結にどの程度影響するかを見てみよう)。

この(極端に)単純化されたモデルによって、紛争の経過を次のように予測できるだろう。

上記グラフの実線は、双方の累積死傷者のダイナミクスを追跡したものだ。〔上の水平の〕茶色の破線は、ウクライナの新兵プールの大きさを示している。

この予測によれば、ウクライナ側の損耗は、紛争開始から32ヶ月後には、新兵プールを上回る(水平の茶色の破線が茶色の実線を超える)ことになる。つまり、2023年7月の時点では、終結までまだ半分ということだ。

しかしむろん、これは精度としては正確ではない。人員削減率と新兵プールの全体的なサイズを変化させると、終結が速くなるか、遅くなる。

上のグラフでは、ウクライナの軌跡だけを見ている。ロシアの軌跡が〔新兵プールを超過する〕危険領域に入ることはないからだ。2022年秋の部分的な大量動員による約30万人もの兵士を使い果たすには、相当の月(と砲弾)が必要だろう。さらに、その後に10万人以上の志願兵が追加されている(ロシア国防省によると、これは現在進行中のプロセスである)。

この予測から、惰性的な消耗戦のシナリオでは、ウクライナの敗北が示唆されている。唯一の問題は、敗北までどのくらいの時間がかかるかだ。

この結果が覆される可能性としては、以下の2つの大きな前提が変更された場合を挙げられる。

第一に、この計算では、ロシアがこの戦争を終結させるまでに必要な時間、大量軍需物資の支出を維持できることを前提としている。この匿名ブログ「シンプリシウス」による詳細な分析では、「砲弾と装甲について:持続可能な戦争」として実際にこの〔ロシアの維持が〕可能としている。事実、ウクライナが1日に5,000発の砲弾を投射し続けられるとする前提は成り立たないようだ。繰り返すが、この議論は、親ロシア派を自称するブログ「シンプリシウス」によるものだが、その主張と数値は理にかなっているように見える。

第二に、この予測は、紛争のマクロ構造が急激に変化しないことを前提としている。ロシアは間違いなく、政治的・経済的に大きな負担を強いられており、ロシアが何らかの形で内部から崩壊する可能性を示唆している識者もいる。他に想定できるシナリオとしては、NATOか、NATO加盟国の一部による「地上軍の投入」があるだろう。こうした出来事が起これば、こうした予測はまったく無意味なものとなるだろう。

まとめると、これらの予測が無意味となる可能性は大量にある。しかし、全体的な結論としては、現状推移のシナリオ、つまり停滞した消耗戦では、振り子はロシアの勝利に振られるということだ。

追記:私は休暇中であり、コメント欄は閉鎖している。

〔Peter Turchin, “War in Ukraine IV: Projections” Cliodynamica, JULY 22, 2023〕

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