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アレックス・タバロック「今年のノーベル経済学賞はバナジー,デュフロ,クレマーが受賞」

Alex Tabarrok “ The Nobel Prize in Economic Science Goes to Banerjee, Duflo, and KremerMarginal Revolution, October 14, 2019

今年のノーベル経済学賞は,開発経済学でのフィールド実験を理由にアビジット・バナジーエステル・デュフロマイケル・クレマー(リンク先は各人のホームページ)に与えられた。デュフロはジョン・ベイツ・クラーク賞,マッカーサー「天才」賞を受賞し,今やノーベル経済学賞を受賞した史上2番目の女性で,これまでの受賞者の中で群を抜いて一番若い(これまで一番だったのはアロー1 )。デュフロとバナジーは夫婦なのでノーベル経済学賞を受賞した最初の夫婦ということになるが,ノーベル賞を受賞した最初の夫婦というわけじゃない。過去に夫婦でノーベル賞を受賞してそのうち片方がノーベル経済学賞受賞者だった夫婦がいる。さて,どの夫婦かわかるかな?2

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  1. 訳注;アローの受賞は51歳のとき,デュフロは46歳 []
  2. 訳注;正解はhicksian氏訳の過去記事を参照。 []

タイラー・コーエン「エスカレーターを歩くのは非効率か」

Tyler Cowen “Is it inefficient to walk up the escalator?” Marginal Revolution, September 29, 2019


ロンドンでのとある調査によれば,74.9%の人は歩くよりも立ち止まることを選び,このことは特にエスカレーターが長いほど顕著だ。この「右側は立ち止まる用,左側は歩く用」ルールのせいで,通勤者の約25%の人に50%のスペースを与えていることになる。

ここで,ラッシュアワーで「立ち止まる用」の側にエスカレーターに乗ろうとしている人が列をなしている場合を考えてみよう。これは直観に反するように見えるかもしれないが,通勤時間を減らそうとしてエスカレーターを歩く人たちは,実のところそれ以外の全員を遅れさせているのだ。

効率性を脇においても,エスカレータを歩くことが良くないかもしれない理由がもうひとつある。安全性だ。エスカレーター事故は私たちが考えているよりもずっと身近なものだ。

CBCの調査によれば,モントリオールの地下鉄ではエスカレーター事故が2日に1度の割合で起きている。アメリカでは,毎年約10,000件エスカレーターに関係した怪我で緊急治療室に運び込まれている。

こうした被害者の多くがエスカレーターを歩いていたとみられる。東京でのとある調査では,2013年から2014年にかけて発生したエスカレーター事故の約60%が,歩いたり駆け上がったりといったことを含むエスカレーターの不適切な使用が原因だった。

ミシェル・ドーソン経由で知ったこの記事の全文はこちらから。だがしかし,エスカレーターを歩くことを選ぶ人たちが立ち止まることを選ぶ人たちよりも時間に対してはるかに高い価値をつけているのであれば,エスカレーターで歩くことは効率的になる。実際にそんな場合はありえるかな?

タイラー・コーエン「(特に日本の)経済学者はイデオロギーバイアスがあって権威に弱い?」

Tyler Cowen “Ideological bias and argument from authority among economists” Marginal Revolution, September 5, 2019 


と,いうのがモフセン・ジャブダーニとハジュン・チャンの新論文のテーマだ。以下は論文要旨からの抜粋。

19か国の経済学者に対してオンラインでのランダム化対照実験を行うことで,我々は経済学者たちの見解に対するイデオロギーバイアスの効果を検証した。我々は参加者に対して様々なテーマに関する有力な経済学者の言説を評価するよう求めるとともに,それぞれの言説の主張者の名前は参加者に知らせずにランダムに割り振った。各言説について,参加者は主流派経済学者の名前,イデオロギーの異なる非主流派ないしは主流派色の薄い経済学者の名前,名前なしのいずれかを提示された。我々は,イデオロギーの異なる非主流派ないしは主流派色の薄い経済学者の名前や,名前がないことが,言説に対して経済学者たちが同意を示すのを有意に減少させることを見出した。これは経済学者たちが自らに抱いているイメージとは相反する

以下は論文の本文内から

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マリ=アンヌ・ルキエ「フランシュ=コンテの白い黄金:塩の一歴史」

Marie-Anne Rouquier “L’or blanc de Franche-Comté : une histoire de sel” Bloc-notes-éco, Banque de France, le 11 avril 2019.

フランス銀行のブログであるBloc-notes-écoは,フランス銀行のネットワークを活用して地域に関する分析にも手を広げることにしました。そこで,Bloc-notes-écoは折に触れて産業,地域の経済機構,地元産品に関する分析をお届けします。今回の記事はその第一弾となります。


人間にとって不可欠な塩は,貴重な物資だ。歴史の中で取引用のお金や給料の媒体として用いられ,塩は19世紀まで経済の中心的な産品だった。その製塩場のおかげで,フランシュ=コンテ地域圏は地下に眠る「白い黄金」を採掘しつつ1000年以上も特筆すべき繁栄を享受したのだ。

アルケスナン製塩所 出典:Michel Pierre
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アレックス・タバロック「女子の読解における比較優位は数学関連分野での男女格差をだいたい説明する」

Alex Tabarrok “Girls’ comparative advantage in reading can largely explain the gender gap in math-related fields” Marginal Revolution, September 3, 2019


前に「男子の方が数学・科学に比較優位がある?(optical_frog氏による訳)」という記事で,男子は女子よりも読解がずっと下手だから数学に比較優位があることを示す証拠をご覧に入れた(男子が数学に大きな絶対優位をもつわけではないのだ)。みんなが自分の比較優位に特化するとすると,このことが女子よりも多くの男子が数学教育課程に入ることを容易に促してしまう。たとえ女子に男子と同じかそれ以上の才能があったとしてもだ。このことは以前書いたとおり。

さて,これで生徒たちにこう告げたらどうなるだろう――「得意なことをやってごらん!」 大雑把に言えば,状況はこんな具合になるだろう:女子はこう言う――「歴史と国語は A で科学と数学は B だから,長所をもっと伸ばして歴史や国語と同じ技能を活かすことにしよっと!」 一方,男子はこう言う――「科学と数学は B で歴史と国語は C だから,長所をもっと伸ばして科学や数学がからんでることをやろっと!」

米国科学アカデミー紀要(PNAS)に掲載されたブレダとナップの新論文は,この比較優位仮説についてもっと多くのことを見出している。ブレダとナップは,学習到達度調査(PISA)を受ける最大30万人の世界各地の学生の数学を勉強する意欲を調べた。

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クロディアナ・イストレフィ「金融政策決定者を選ぶ:Fedから学ぶ3つの教訓」

Klodiana Istrefi “Choisir les décideurs de la politique monétaire : trois leçons de la Fed” Bloc-notes Eco, Banque de France, 16 mai 2018

今日においては,金融政策は一般的に委員会によって決定されている。米国の連邦公開市場委員会(FOMC)の歴史は,経済に関するFed議長の信条及び金融政策に関する委員会の選好の重力中心が意思決定において重要であることを示している。

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クレマンス・ベルゾン「フランス労働市場の二重性」

Clémence Berson “La dualité du marché du travail en France” Bloc-notes Eco, Banque de France, le 19 décembre 2017

フランスでは,労働市場の柔軟性は本質的に任期付雇用契約(CDD)や臨時雇用による従業員に依拠している。彼らは給与待遇が低く,受ける訓練も少なく,正社員契約(CDI)1 を獲得するのも困難である。こうした労働市場の二重性は社会経済的な課題を生み出す。正社員への移行を容易にするには,公共政策の実施が考えられる。

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  1. 訳注;文字通りには「任期の定めのない雇用契約」であるが,理解の容易さのために正社員と訳出する。 []

ジェームズ・ハミルトン「Libra:Facebook暗号通貨の経済学」

James Hamilton “Libra: economics of Facebook’s cryptocurrency” Econbrowser, June 24, 2019


先週1 ,Facebookは新たな国際暗号通貨Libraの構想を発表した。このLibraという名前は,銀1ポンドに基づき中世を通じてフランスの貨幣だった”livre”と,ラテン語で「自由」を意味する”liber”の合成のように思える2 。Facebookは,従来の銀行にアクセスのない世界の17億人の成人に対してLibraが国境を越えて資金を簡単に転送する自由を与えると主張している。

お金は3つの特質によって定義される。すなわち,計算の単位(私たちが買うものは大抵ドルで値付けされている),交換の媒介(そうしたものを買う際には,売り手に自分のドルをあげて支払えばよい),価値の貯蔵(自分の富は支出したくなるまでドル現金で確保しておける)だ。

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  1. 訳注;2019年6月18日 []
  2. 訳注;ぱっと見ではLibraの名称について公式に解説した記事はなかったものの,ラテン語で”Libra”は天秤を指すとともに,重量の単位,銀貨を指した(フランスの重量・通貨単位livreの語源)。ただし,フランス語でLivreは英語のbookなので(重量・通貨単位のlivreと語源は異なる),Face”book”に通じると言えるのかもしれない。 []

タイラー・コーエン「世界各国の正直さ」

Tyler Cowen “Civic honesty around the globe” Marginal Revolution, June 22, 2019


旅行に出てて話題にちょっと乗り遅れてしまったけれど,とにかくもこの件を蒸し返してみよう。

市民の正直さは社会資本と経済発展の必須要素であるが,しばしば物質的な利己心と対立する。私たちは世界40か国355都市における実地実験を用い,正直さと利己心とのトレードオフを検討した。私たちは異なる金額が入った17000個以上の財布を公的機関や民間機関に届け出,財布を受け取った側が返却のために持ち主に連絡を取るかを計測した。ほぼすべての国において,入っている金額が大きいほど市民が財布を返却する可能性が高かった。この結果は非専門家及び専門家の双方が予想しえなかったものだ。追加的なデータは,私たちの主要な発見が利他的な配慮及び自分自身が泥棒であると見なしてしまうことへの忌避の組み合わさったものであることを示唆しており,後者は不正直であることによる物質的な利益が高まることで増大する。

以上がアラン・コーン,マイケル・アンドレ・マレシャル,デビッド・タンネンバウム,クリスティアン・ルーカス・ズンドの新論文の要旨だ。これを後だしで言うのは簡単だけれど,この結果は直感的にしっくりくるものだと思う。下の図が各所で話題になっている各国ごとの結果だ1

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  1. 訳注;なお,日本は調査対象に含まれていない。 []

アレックス・タバロック「価格差別VS医療ツーリズム」

Alex Tabarrok”Price Discrimination Versus Medical Tourism” Marginal Revolution April 2, 2019


私たちが書いた経済原論の教科書で,タイラーと私は価格差別に関する章を次のように幕開けをしている。

数か月に及ぶ捜査の後,インターポールの警察はベルギーのアントワープ郊外で活動していた国際薬物シンジケートへ急襲をかけた。このシンジケートはヨーロッパ中に売りさばくためにケニア,ウガンダ,タンザニアから薬物を密輸していた。密輸はシンジケートに数百万ドルの利益をもたらした。密輸された薬物は何かって?ヘロイン?コカイン?いいやそれよりももっと価値があるもの,コンビビルだ。抗HIV薬であるコンビビルはヨーロッパで製造されて合法的に販売もされているのに,なぜアフリカからヨーロッパへ違法に密輸されたんだろうか。

その答えは,コンビビルはヨーロッパでは1錠12.50ドル,アフリカではそれよりもずっと原価に近い約50セントで売られているからだ。アフリカでコンビビルを買ってヨーロッパで売った密輸業者は,1錠あたり約12ドル稼ぐことができたし,彼らは数百万錠も密輸した。

ヨーロッパへ薬物を密輸する代わりに,ヨーロッパやアメリカの患者を外国に送ることも可能だ。たとえばギリヤド社のソバルディは,C型肝炎の治療に用いられるとても効果のある薬だ。アメリカではひととおりの治療に約85,000ドルかかるけれど,ギリヤド社と途上国のジェネリック製薬業者との協定により,エジプト,インドといった途上国,そして多くの先進国では1,000ドルもかからなかったりする。”Four Reasons Drugs are Expensive, of Which Two are False(薬が高価な理由4つ,そのうち2つは間違い)”という優れた記事で,ジャック・スキャンネルは裁定業者と医薬品企業との戦いを描き出している。

[価格差は〕医薬品ツーリズムという夢を湧きあがらせている。「12週間の大旅行を楽しみましょう。ギザの荘厳なピラミッドや謎めいたスフィンクスを眺め,ツタンカーメンの宝物を探り,ルクソールの眺めに息をのみつつ,アメリカでは夢でしか手の届かない持続的ウイルス陰性化を得ることができます。」これを夢見る人もいるだろうが,ギリヤドはお見通し済みで,リゾート先で寝そべろうという人に対してその椅子はわが社のお客様専用ですよというかの如く待ったをかけている。エジプト人はソバルディを買うのに身分証明書を提示しなければならない。旅行者はお呼びではないのだ。

転売を防ぐためにギリヤドは身分証明書を要求するとともに国外で販売されたすべての瓶を追跡している

[患者の身分証明書は]識別バーコードを瓶に付すのに用いられ,患者が受け取る瓶には自分の名前やその他の情報が記されている。バーコードはその国の居住者だけが薬を手に入れることを確実にするために使われるだけでなく(略)患者は新しい瓶を受け取る際には持っている瓶を返さなければならないと規定されており,それによって患者が処方薬の瓶を一度に一つだけしかもらえないようにしている。しかし,患者が複数の瓶を手に入れることができれば「患者や医療従事者の負担は和らぐ」と国境なき医師団は述べている。

国境なき医師団はこうした規制に憤っているようだが,タイラーと私が解説しているように,それ以外の選択肢は途上国では販売しないか単一の世界価格にすることだ。そして単一の世界価格にするのであれば,その価格はエジプト価格じゃなくてアメリカ価格になるだろうと思って間違いない。