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アレックス・タバロック「安全なセックスのためにもっとセックスしよう」

Alex Tabarrok ”More Sex is Safer SexMarginal Revolution, October 26, 2019

スティーブン・ランドバーグのMore Sex is Safer Sex[もっとセックスするほどもっと安全に](右のリンクは1997年のNew York Times掲載版,書籍版はこちら)は今年のノーベル賞受賞者のマイケル・クレマーの論文から着想を得ているというのを忘れていた。以下はその要約。

ありとあらゆるところで淫奔は罪であるというのを目にしてきたことだろう。ここでは自己抑制の罪について話してみたい。

あるところにマーティンという魅力的だけど割と慎重で少ないセックス履歴を持つ若い男性がいるとしよう。彼は職場の同僚のジョーンとよろしくやっている。先週のオフィスパーティーが迫るにあたって,ジョーンもマーティンもお互いに相談はしなかったけれども,パーティの後にどちらかの家で一緒に過ごすんじゃないだろうかと考えてはいた。不幸なことに,運命の女神がその手先であるアメリカ疾病予防管理センター(CDC)を通じて介入をしてきた。パーティーの朝,禁欲の美徳を説くCDCの中吊り広告がマーティンの目に入った。マーティンは反省し,パーティーに行かず家に留まることにした。マーティンが来なかったので,ジョーンはマーティンと同じくらい魅力的だけれど彼よりずっと慎重さを欠くマクスウェルと一夜をともにした。そしてジョーンはAIDSに罹ってしまった。

注意深いマーティンがセックス相手探しから手を引いてしまうと,ヤリチンのマクスウェルが不運なジョーンを美味しく頂くのを容易にしてしまう。電車の中吊り広告がマクスウェルよりもマーティンに対してより効果的である場合,そうした広告はジョーンの安全に対する脅威となる。そうした広告が,マーティンをより社会的に有益にするかもしれないカルバン・クラインの広告を押しのけてしまう場合にはより一層だ。

世界中のマーティンがちょっとだけ性に開放的になったならば,AIDSの拡散を遅らせることができる。もちろんやり過ぎれば良いってものじゃない。マーティンが開放的になりすぎると,マクスウェルと同じように危険になってしまう。しかし,性に保守的な人たちが性的活動を多少増やすのであれば,それ以外の私たちにとってそれはとても良いことだ。ハーバード大学教授のマイケル・クレマーは,年間2.25人未満のパートナーしかいない人たち全員がそれ以上のパートナーをもっと頻繁に得るようになれば,イングランドにおけるAIDSの拡散を相当程度遅らせることができると推測している。

クレマー(チャールズ・モーコム)の元々の論文はこちら。ランズバーグはこうした状況においてはコンドームに対する補助金が最適だと示唆している。全文を読んでみてほしい

追記:後になって気づいたけれど,クレマーのモデルはタイで起きたことに非常に良く当てはまるようだ。

アレックス・タバロック「大麻を吸うと頭がおかしくなるのか,頭がおかしいから大麻を吸うのか」

Alex Tabarrok “The Causal Effect of Cannabis on CognitionMarginal Revolution, November 3, 2019


大麻をたくさん吸うと頭がおかしくなるのか,頭がおかしいから大麻をたくさん吸うのか。大概は後者だ。Ross et al. (2019)は以下のように述べている

大麻が認知に機能障害を引き起こすと多くの研究者が結論づけているものの,別の説明もある。まず,認知機能が貧弱であることは薬物使用のリスク要因である。具体的には,幼年期に計測された実行機能は,その後の薬物使用及び薬物使用障害を占うものである(SUDs; Ridenour et al., 2009)。したがって,研究にあたっては事前の認知機能をコントロールする必要がある(Meier et al., 2012)。次に,貧弱な認知機能と大麻使用も関連している可能性があり,このことは一方が他方を引き起こしているのではなく,両者が社会経済的地位の低さという共通のリスク要因を共有しているからである  (Rogeberg, 2013) 。Lynskey and Hall (2000)は,早期の薬物使用は薬物使用グループへの加入,登校率の低さ,中退などによって尚早に大人の役割を演じることになるなどの社会的背景のもとで引き起こされる可能性が高く,そうした学業上の参加に関わる影響は後々の認知機能にも影響を与えうると提案している。

実際,遺伝子及び家族環境をコントロールした双子研究は,大麻が認知を低下させるとはしていない。

Lyons et al. (2004)は通常使用の後に20年にわたって使用状況の異なる一卵性双生児を調べ,両者の間で有意な差があるのは50以上の認知指標のうちたったひとつだけだったことを見いだした。また,Jackson et al. (2014)は,大麻使用の状況が異なる一卵性双生児において用量依存関係や認知の有意差について何の証拠も見つからないとした。同様に,Meier et al. (2017)は,大麻依存や使用頻度の異なる一卵性及び二卵性の双子からなるサンプルにおいて,認知機能の差に何の証拠も見つからないとした。したがって,双生児を使ってコントロールするようデザインした準実験においては,大麻が貧弱な認知を引き起こすという証拠はほとんど得られていないのである。

Ross et al.は類似の研究を行っているが,計画する,焦点を合わせる,衝動を抑える等の実行機能も検証している。これらはIQと関連しているものの別個のスキルであり,彼らは次のように結論している。

大麻使用が多い家庭ほど一般的な認知能力がより低いことが示された。しかし,家庭内において,より使用量の多いほうの双子がより低い認知スコアを示すことは稀だった。総合的に見れば,認知に対する大麻の因果効果についての証拠はほとんどなかった。

素晴らしい情報源のケヴィン・ルイスに感謝。

デュラント&ジュレロヴァ「政府に都合の悪いニュースは別のニュースでまぎらわそう:注意逸らしの政治学」

Ruben Durante, Milena Djourelova “The politics of distraction: Evidence from presidential executive ordersVoxEU, 17 November 2019  

政治家は,世論から厳しく見られるのを避けるため,異論の多い政策は戦略的にタイミングを見計らって発表していると疑われることがある。本稿では,アメリカの大統領令のタイミングの系統的な分析によって,そうした疑いは,少なくともアメリカ大統領令に限っては,正しいことを示す。大統領は大統領令,とくに世論の反発を生み出すとみらあれるものについてはメディアや世論の注意がそれるような重要なイベントとぶつかるように発出する傾向にある。

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プライス・フィッシュバック「アメリカにおける第二次世界大戦:支出,赤字,財政乗数,犠牲」

Price Fishback ”World War II in America: Spending, deficits, multipliers, and sacrifice” VoxEU, 12 November 2019

アメリカは大量の軍事物資を生産することで「民主主義の兵器工場」となり,それによって1940年から1945年までの間に実質GDPは72%上昇した。その一方,この政府支出の拡張による推定財政乗数は1を切る。国内各地域レベルでの幅広い研究は,軍事支出が一人あたりの活動に小さな影響しか与えていないことを示している。準計画経済における軍事支出は民間消費と投資をクラウドアウトし,人々を軍への入隊に押しやった。要するに,アメリカ人は戦争に勝利するために大きな犠牲を払い,同盟国はさらにそれ以上の犠牲を払ったのだ。

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パトリック・ブラントム&ロラン・ポール「中国の一帯一路構想:欧州にとっての機会と課題」

Patrick Branthomme et Laurent Paul “Les nouvelles routes de la soie : opportunités et défis pour l’Europe” le 15 octobre 2019, Bloc-notes Eco, Banque de France

2013年9月に中国政府が打ち出した「新シルクロード」はアジアとヨーロッパの連結を高めることを目指している。欧州は自身の経済的利益と多国間枠組みを最大限守らなければならない。融資の透明性,質の高いインフラ,環境・社会基準の遵守という原則を設定した最近のG20での進展がその助けとなりえるだろう。

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ホアン・コスタ=イ=フォント他「労働時間と肥満」

Joan Costa-i-Font, Belén Sáenz de Miera “Working hours and overweightVOXEU, 20 October 2019  

労働及びそれに関連する時間と仕事中に消費されるエネルギーの変化は人々の健康維持に大きな影響を及ぼしうる。しかしながら,こうした変化が健康的な行動や肥満に与える影響はあまりよく理解されていない。本稿では,2001年にフランスが全国的に行った労働時間削減の改革が従業員の肥満に与えた影響について検討する。労働時間の削減によって生まれた時間は,理論的には健康増進活動に使われうるものの,実際にはホワイトカラーとブルーカラーでその影響は異なる。労働時間を削減する政策のみでは,かならずしもすべての人の健康を増進するとは限らないのである。

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オリアナ・バンディエラ「2019年ノーベル賞:実験研究で貧困を減らす」

Oriana Bandiera “Alleviating poverty with experimental research: The 2019 Nobel laureatesVOXEU, 21 October 2019  

2019年のノーベル経済学賞は,「世界の貧困削減への実験的アプローチにより」,アビジット・バナジー,エステル・デュフロ,マイケル・クレマーが共同で受賞した。本稿では,今年の受賞者の考えや,持続する貧困や各国間における巨大な生活水準格差を理解し解決するという彼らの共通の関心について議論する。

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アレックス・タバロック「今年のノーベル経済学賞はバナジー,デュフロ,クレマーが受賞」

Alex Tabarrok “ The Nobel Prize in Economic Science Goes to Banerjee, Duflo, and KremerMarginal Revolution, October 14, 2019

今年のノーベル経済学賞は,開発経済学でのフィールド実験を理由にアビジット・バナジーエステル・デュフロマイケル・クレマー(リンク先は各人のホームページ)に与えられた。デュフロはジョン・ベイツ・クラーク賞,マッカーサー「天才」賞を受賞し,今やノーベル経済学賞を受賞した史上2番目の女性で,これまでの受賞者の中で群を抜いて一番若い(これまで一番だったのはアロー1 )。デュフロとバナジーは夫婦なのでノーベル経済学賞を受賞した最初の夫婦ということになるが,ノーベル賞を受賞した最初の夫婦というわけじゃない。過去に夫婦でノーベル賞を受賞してそのうち片方がノーベル経済学賞受賞者だった夫婦がいる。さて,どの夫婦かわかるかな?2

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  1. 訳注;アローの受賞は51歳のとき,デュフロは46歳 []
  2. 訳注;正解はhicksian氏訳の過去記事を参照。 []

タイラー・コーエン「エスカレーターを歩くのは非効率か」

Tyler Cowen “Is it inefficient to walk up the escalator?” Marginal Revolution, September 29, 2019


ロンドンでのとある調査によれば,74.9%の人は歩くよりも立ち止まることを選び,このことは特にエスカレーターが長いほど顕著だ。この「右側は立ち止まる用,左側は歩く用」ルールのせいで,通勤者の約25%の人に50%のスペースを与えていることになる。

ここで,ラッシュアワーで「立ち止まる用」の側にエスカレーターに乗ろうとしている人が列をなしている場合を考えてみよう。これは直観に反するように見えるかもしれないが,通勤時間を減らそうとしてエスカレーターを歩く人たちは,実のところそれ以外の全員を遅れさせているのだ。

効率性を脇においても,エスカレータを歩くことが良くないかもしれない理由がもうひとつある。安全性だ。エスカレーター事故は私たちが考えているよりもずっと身近なものだ。

CBCの調査によれば,モントリオールの地下鉄ではエスカレーター事故が2日に1度の割合で起きている。アメリカでは,毎年約10,000件エスカレーターに関係した怪我で緊急治療室に運び込まれている。

こうした被害者の多くがエスカレーターを歩いていたとみられる。東京でのとある調査では,2013年から2014年にかけて発生したエスカレーター事故の約60%が,歩いたり駆け上がったりといったことを含むエスカレーターの不適切な使用が原因だった。

ミシェル・ドーソン経由で知ったこの記事の全文はこちらから。だがしかし,エスカレーターを歩くことを選ぶ人たちが立ち止まることを選ぶ人たちよりも時間に対してはるかに高い価値をつけているのであれば,エスカレーターで歩くことは効率的になる。実際にそんな場合はありえるかな?

タイラー・コーエン「(特に日本の)経済学者はイデオロギーバイアスがあって権威に弱い?」

Tyler Cowen “Ideological bias and argument from authority among economists” Marginal Revolution, September 5, 2019 


と,いうのがモフセン・ジャブダーニとハジュン・チャンの新論文のテーマだ。以下は論文要旨からの抜粋。

19か国の経済学者に対してオンラインでのランダム化対照実験を行うことで,我々は経済学者たちの見解に対するイデオロギーバイアスの効果を検証した。我々は参加者に対して様々なテーマに関する有力な経済学者の言説を評価するよう求めるとともに,それぞれの言説の主張者の名前は参加者に知らせずにランダムに割り振った。各言説について,参加者は主流派経済学者の名前,イデオロギーの異なる非主流派ないしは主流派色の薄い経済学者の名前,名前なしのいずれかを提示された。我々は,イデオロギーの異なる非主流派ないしは主流派色の薄い経済学者の名前や,名前がないことが,言説に対して経済学者たちが同意を示すのを有意に減少させることを見出した。これは経済学者たちが自らに抱いているイメージとは相反する

以下は論文の本文内から

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