ジョン・ダニエルソン「暗号通貨の終わりの始まり」(2022年11月29日)

暗号通貨はほんの10年で無名の存在から1兆ドル規模の価値にまで驚異の成長を遂げた。しかしながら本稿では、そうした成功に火を付けた要因が停滞することで暗号通貨は今や終わりの始まりを迎えていると論じる。世間では暗号通貨が気にされることはあまりないが、暗号通貨は強く必要とされていた改革を金融システムに迫ったという重要な功績を残すだろう。

暗号通貨はほんの10年で無名の存在から1兆ドル規模の価値にまで驚異の成長を遂げた。暗号通貨は世界の指導者から賛否両論を浴び、一部の国では法定通貨となった。

暗号通貨の短い生涯は2つの段階に分けられる。無名の存在からの急速な価格上昇期と、その後の国際的な認知、論争、激しく変動しつつも右肩上がりとはならなくなった価格を特徴とする長い期間だ。こうした特徴は、今や暗号通貨が最終段階、終末期を始めつつあることを示している。暗号通貨が重要な功績を残すだろう。たとえ暗号通貨の伝道師たちが約束したほどのものにはならなかったのだとしても。

暗号通期が最終段階に入った理由は、暗号通貨がうまくいった理由や暗号通貨が約束したけれども実現できなかったことと大きく関係している(Bindseil et al. 2022, Didisheim et al. 2022)。つまり政治信念、投機、効率性だ。

政治信念は暗号通貨の根幹をなす。腐敗した人間や組織に技術がとって代わる世界というのが暗号通貨の創設神話だ。超低金利と繰り返される量的緩和によって政府が恣意的に操る不換通貨の代わりに、公正となるようプログラムされたアルゴリズムが生み出し、管理するデジタル通貨を私たちは手に入れたというわけだ。

そうした暗号金融システムは、現代的なアルゴリズム、プログラミング言語に加え、コストがかかってエラーを起こしがちで腐敗した銀行システム(数世紀の間に積み重なった手法と、多くは半世紀以上前にCobolで書かれたものがIBMのメインフレームで動いているようなITシステムに半世紀以上にわたって施された段階的な変更を備えている)に代わるシステムによって、現在の金融システムよりも遙かに高い効率性をもたらすことを約束した。

暗号通貨の使命の3つめのお題目は投機だ。暗号通貨の政治や効率性側面を支持する人たちの数は少なく、この界隈において存在感を示すには圧倒的に小規模だ。そうした真の信奉者たちは暗号通貨のナラティブを形作るのに必要ではあるが、暗号通貨の成功も失敗もその大宗は4セントから今や16,000ドルにまで上昇したビットコインの劇的な価格上昇によって火の付いた投機によるものだ。

こうした創設神話は暗号通貨の成功のために必要不可欠なものだ。これがなければ暗号通貨が既存の金融秩序に取って代わる必要性がないばかりか、暗号通貨はポンジ・スキームと変わらなくなってしまう。

暗号通貨は有名になって多くの投機家に富をもたらした一方で、創設神話によって約束された成功を手にしてはいない(Danielsson and Macrae 2022)。それどころかそんな成功はありえないものかもしれない(Danielsson 2018)。結局、金融システムは今も旧態依然の不換通貨による金融制度にほとんどすべて基づいている。そして暗号通貨の高価格がその成功に賭けた投機家によるものであるため、成功を手にしていないということが問題となる。成功のためには、創設神話による約束が手の届くところにあるとみなされることが必要だ。そうでなければ投機家が落胆して暗号通貨を手放す可能性が高まり、それによって悪循環が生じるだろう。

政治信念と投機に関する最近の検証

まずは政治信念から手をつけよう。創設神話が信じるに足るものであるためには、暗号通貨が既存の秩序に対する信頼できる代替策であるとともにその政治的起源に忠実である必要がある。しかし、暗号通貨の世界はその政治信念を急速に放棄しつつある。旧来の金融規制当局によって課されたマネーロンダリング対策、KYC、制裁措置をほとんど全ての暗号通貨取引所が遵守している。旧来の金融当局は強力すぎるのだ。暗号通貨は主流派に合流しつつあり、暗号通貨の伝道者たちが暗号通貨に必要な進化について語る場合にマクロプルーデンス規制に関する話が口に出ることが増えている。

こうしたことによって創設神話が破壊されることはないものの、神話のメッセージを痛めつけ台無しにするものだ。暗号通貨は国家に支配されていないか、あるいは国家が設定した規範によって管理されてはいないか、とね。

創設神話における効率性の側面もまた傷ついている。暗号通貨は、旧来の金融システムよりずっと優れていると約束はするものの、プライバシー、一体性、効率性の間の困難なトレードオフのせいで暗号通貨は暗礁に乗り上げている。最も人気のある暗号通貨であるビットコインは本質的に非効率であり、経済が必要とする取引量のうちのほんの一部しか扱うことができない。次に人気があるイーサリアムはより効率的でスマートコントラクト向けに設計されている(スマートコントラクトは暗号通貨が主流派に合流した第一の理由だ)。しかし、イーサリアムは最近になって効率性と政治的な受容を求めるためにプルーフオブステークによるマイニングを放棄してしまった。このことは、環境被害をもたらすマイニングがなくなったことを意味するものであると同時に、イーサリアム投資家にタダでお金を刷ることを許す許可証であり、その創設神話を損なうものだ。その一方で、スマートコントラクトというイーサリアムの約束は金融当局と法制度によって大きな暗礁に乗り上げている。

旧来の不換通貨制度も立ち止まってはいない。金融当局と民間部門は暗号通貨による脅威によっても生き延び、強く必要とされていた改革を提案するばかりか実行にも移している。つまるところ、改革してしまうと既存制度にあるレントを損なってしまうがために改革がなされず、そのために金融仲介が非効率になってつけ込む余地があるという状態が暗号通貨にとってはチャンスとなる。そうした状態を防ぐために当局は対策をとっている。ブラジルのPIX [1]訳注;ブラジル中銀が導入した即時決済システム は圧迫を受けた旧来のシステムに何ができるかを示す好例だ。

その一方で、ビットコインが4セントから16,000ドルにまで上昇したときと比べると暗号通貨は投機家にとって魅力的ではなくなっている。ビットコインは5年前にも16,000ドルで、低いときには3,200ドル、ピーク時には67,000の値をつけた。暗号通貨は例えばAmazonやAppleへの投資などと比べてそれほど魅力的な投機対象ではなさそうだ。

おまけに一連のスキャンダルだ。暗号通貨の最大の問題点のひとつは、最高の技術的理解と断固たる決心を持った投資家以外は自分で暗号通貨を保有し、その鍵を管理するすることはできないということだ。ほとんどの投機家は暗号通貨を扱う金融機関を利用しなければならない。そしてそうした金融機関には他人のお金をくすねる習癖があるのだ。今月(訳注;2022年11月)にはFTXがデューデリジェンス、消費者保護やその他もろもろといった従来の慣行を盛大に破った。旧来のシステムにあるこうした慣行を新たな世界である暗号通貨界は備えていない。暗号通貨界の政治哲学は多くの腐敗を含んでいるのだ。金融システムはその一部に腐敗し能力もない銀行家を常に抱えてきた。そうした事情が暗号通貨界においては異なると考えるべき理由は何もない。問題なのは、不正によって投機家に多大な損失が生じてその損失が広く報道された場合に新たな投機へのためらいが生まれることだ。それによって暗号通貨の価格は下落し、TeslaやGamestopを買う方が良いのではないだろうかと投機家は考えるようになる。その一方で、システムの利用者を保護するためには旧来の制度が必要なのだというナラティブが強化され、それがさらに暗号通貨の創設神話の土台を揺るがす。

政治信念が損なわれ、効率性は未だ実現せず、投機家は損失を被っている。これらは暗号通貨がその最終段階、斜陽期を迎えつつあることを示唆している。もちろんそれはすぐには起きないだろうし、暗号通貨の価格がこれから回復する可能性は高い。しかし根本的なところに何らかの変化がない限りこれは終わりの始まりだ。インフレがますます金融当局の手に負えなくなることで暗号通貨の創設神話が強化されることはあるかもしれない。しかしそれで暗号通貨の終わりの始まりを回避できるとは思えない。暗号通貨の長所は分散性だが、それは同時に短所でもある。暗号通貨界はFTXのような悪質な企業が店を立ち上げるのを防げない。むしろ暗号通貨界は投機を促すために規制の手を離れた企業を必要とさえしており、そうした企業が破綻した際の影響を免れ得ない。その一方で、暗号通貨の熱狂的支持者たちは一人一派で別々のことを言うから結果としてメッセージは希薄になっている。

しかし、マクロプルーデンス的観点でもミクロプルーデンス的な観点でも暗号通貨には公共的な懸念はほとんどない。社会にとってシステミックな金融上の脅威をもたらすと示す証拠はほとんど示されていない。むしろ、大きすぎて破綻させられない旧来の銀行と違って小さすぎてシステミックになり得ないと言うべきか。

ミクロというのが金融システムにおける顧客の保護を含むのであれば、暗号通貨はミクロプルーデンス的な問題ではある。しかし、高いリスクをとることはその人の自由だ。喫煙しかり、バイク乗りしかり、宝くじしかり、スカイダイビングしかり、ギャンブルもしかり。そして高リスクで割引現在価値がマイナスの資産に投機することもそのひとつだ。したがって、こうしたリスクを当局が許しているのであれば、暗号通貨も問題視する必要はないはずだ。

これは暗号通貨の終わりの始まりではあるものの、既存システムにおける非効率性やレントについて警鐘を鳴らして当局や民間部門に改革を迫ったことで暗号通貨は多くの良い結果をもたらしてくれた。それこそ暗号通貨が残す功績なのだ。

参考文献

Bindseil, U, P Papsdorf and  J Schaaf (2022), “The Bitcoin challenge: How to tame a digital predator”, VoxEU.org, 7 January.
Didisheim, A, S Kassibrakis and L Somoza (2022), “The end of the crypto-diversification myth”, VoxEU.org, 21 July.
Danielsson, J (2018), “Cryptocurrencies don’t make sense”, VoxEU.org, 13 February.
Danielsson, J and R Macrae (2022), “Bitcoin isn’t much of a macro hedge”, VoxEU.org, 25 June.

[原文:Jon Danielsson “The beginning of the end for cryptocurrenciesVOX.EU, 29 Nov 2022]

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1 訳注;ブラジル中銀が導入した即時決済システム
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