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ノア・スミス「経済学概論のモデルでは労働市場はわからない理由」

[Noah Smith, “Why the 101 model doesn’t work for labor markets,” Noahpinion, April 14, 2017]

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「経済学101(概論)」の初歩的なモデルといえば,取引される財になんのちがいもない単一市場の供給-需要モデルだ.このモデルでは労働市場はわからない.でも,そこのところがどうにもわかりかねる人たちは多い.労働政策をめぐる論争にかかわる人たちのなかには,この理論がほぼ公理のようになっている向きもある――つまり,労働市場は「労働供給曲線」と「労働需要曲線」で記述できるに決まっていると考える人たちもいる.そういう人たちに向かって,「そりゃムリですよ」と言ったりすると,先方の脳みそは故障をおこしたみたいになる.「労働需要曲線がないなんてことがありうるかね? モノの価格と,みんながそいつをどれくらい買いたがってるかってこととの関係がないなんて,ありえないだろう?」
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ノア・スミス「ロボットが仕事とりよってん」

[Noah Smith, “Robuts takin’ jerbs,” Noahpinion, March 31, 2017]

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数学でモデルを書くといいことがある.まだ検証していないままでも,アイディアを具体的に詰められる.たとえば,最近ライアン・アヴェントとポール・クルーグマンがかわしたやりとりを考えてみよう.アヴェントが説明しようとしているのは,「生産性の向上が減速している最中にすらロボットが仕事を奪いうる」ということだ.この論は,これまでにいろんな人たちがめいめいのバージョンを語っている:「もしロボットがみんなの仕事を奪っているのだとしたら,いったいどうして生産性の向上がこうも鈍くなってるの?」 アヴェントの説はこんな具合:
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ノア・スミス 「【書評】アカロフ&シラー(著)『Phishing for Phools』」(2017年3月11日)

●Noah Smith, “Book review: Phishing for Phools”(Noahpinion, March 11, 2017)


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やっとだ。やっとのことでアカロフ&シラーの新著に最後まで目を通すことができた。二人の共著である『Phishing for Phools』を通読する時間がやっととれたのだ。アカロフは2011年にINET(新経済思想研究所)開催のカンファレンスで同名の講演を行っているが、本書はその講演のロングバージョンと言っていいだろう。

『Phishing for Phools』には一つの重要なアイデアが込められている。「騙し」(deception)は市場経済に付き纏(まと)う現象だ、というのがそれだ。「ある特定のモデル(理論)ではそういう結果が得られる」というわけでも「場合によってはそういう状況もある」というわけでもない。「騙し」は程度の差はあれ市場の中にいつでもどこにでも存在している、というのがアカロフ&シラーの主張だ。その理由はこうだ。企業は市井の人々を騙してお金を巻き上げるためのいい方法がないかと常に模索している。「情報の非対称性」や「限定合理性」、「人間の不合理性」、法の抜け穴等々に目をつけて市井の人々からお金を巻き上げようと必死に策略をめぐらしているというのだ。その結果としてどの市場にも程度の差はあれ「ペテン(騙し)」や「過ち」が必ず見つかるというわけだ。モニタリング(企業が「騙し」を行っていないかどうかを監視すること)にはコストがかかるためにそうなるわけだが(この点が本書の中でどこまで明示的に述べられていたかは覚えていないが)、アカロフ&シラーは市場が最終的に落ち着く状況(「ペテン」や「過ち」がそこここに見られる状況)を指して「フィッシング均衡」と呼んでいる。 [Read more…]

ノア・スミス 「こき下ろし論法の是非やいかに?」(2015年2月27日)

●Noah Smith, “Should you lambaste your intellectual adversaries?”(Noahpinion, February 27, 2015)


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Lambaste=Lam+`baste´
《他動詞》 1. ムチで殴りつける 2. こき下ろす、難詰する、激しい言葉でなじる

ポール・クルーグマンと言えば論争相手に激しい言葉を投げつけて口撃を加えることで有名だ(そして論争相手の多くも同じ調子でやり返してくるものだ)。どうしてそのような論争スタイル(論法)をとるんだろうか? クルーグマン本人はその理由を次のように語っている

まだ駆け出しで経済学者としてのキャリアを積むことに心を砕いていた頃のことだ。・・・(略)・・・優れたアイデアは概して世の中に受け入れられていくものだ。そう信じていた。貿易パターンであったり為替レートの変動であったりの説明を試みるために自分でモデルを作ってみてそのモデルがその他大勢のモデルよりも現実のデータとの当てはまりがよかったり、その他大勢のモデルでは解けないパズル(未解決の疑問)を解けるとしたら、その分野の専門家の大半とまではいかなくてもその多くに自分のモデルが受け入れられて当然だと当て込んでもよかったのだ。

経済学のほとんどの分野では今でもそうなっていると思う。しかしながら、今まさに一番大事なはずの分野では話がまったく違うのだ。「ケインズ主義なんてナンセンスだ(馬鹿げてる)。金融緩和は必ずや悪性インフレを招く」。2009年にそう高らかに宣言していたあの人もこの人もあれから6年が経過した今でもまったく同じ主張を繰り返している。この間にインフレは微動だにしなかったし、ケインジアンが警告したそっくりそのままのかたちで財政緊縮が景気の足を引っ張ったことを示す証拠がうず高く積み上がっているにもかかわらずだ。

専門家とは決して言えない変わり者のことだけを指しているわけじゃない。・・・(略)・・・ノーベル経済学賞受賞者も含まれているのだ。・・・(略)・・・学術的な(マクロ)経済学は今もなお開かれた知のアリーナであるかのように取り澄ましているが、実のところはかなり深いところまで政治化が進んでいるように思われるのだ。

経済学の世界は開かれた知のアリーナのはずであり、是非ともその一員になってみたい。そのような願いを胸に抱いたことのある人間は一体どう振る舞うべきなのだろうか?

・・・(中略)・・・

読者の注目をひきつけるようなやり方で論敵の間違いを指摘するという手もある。必要に応じて嘲りもし、皮肉も交える。きっちりと名指しで批判する。こうすれば読まれはするだろう。熱心な信者もつくだろうし、憎悪に狂う敵をたくさん作りもするだろう。しかしながら、このやり方ではどうにもならないことが一つある。頑迷な論敵の閉ざされた心を開けはしないのだ。

・・・(中略)・・・

こんな手(こき下ろし論法)に頼らずに済めばいいのだが、我々が現に住んでいる世界ではそうも言っていられない。そして前にも言ったことだが、いくらか報いもある。論敵をこき下ろすことには少々の楽しみも伴うものなのだ。

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ノア・スミス「人的資本の資本たるゆえんは」

[Noah Smith, “Why human capital is capital,” Noahpinion, February 25, 2017]

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経済学者は,「資本」という単語をゆるく使いがちだ.「資源を費やして構築でき,長期にわたって持続し,価値を生み出すのに使えるもの」ならなんでも資本とされる.なんとも広義だ.たとえば,社会そのものだって資本に該当しうる.また,典型的に,資本と言えば「人的資本」も含まれる.人的資本とは,人がもつ技能・才能・知識を指す.
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ノア・スミス「数学の天才における性別格差の崩壊」

[Noah Smith, “The collapsing math genius gender gap,” Noahpinion, November 2, 2016]

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Allison Schrager, Andy McAfee その他経由のネタ.SATスコア上位層の性別格差のグラフだ:
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ノア・スミス「貧困国の発展でおきた信じがたい奇跡」

[Noah Smith, “The incredible miracle in poor country development,” Noahpinion, May 30, 2016]

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世界のまずしい人たちの生活の質がすばらしく改善しているってことは,もう常識になってしかるべきだ.たとえば,いまや有名になった Branko Milanovic による「象グラフ」を見れば,近年,世界の所得分布のいろんな水準で所得が伸びているのがわかる:

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【▲ 1988年-2008年および1988年-2011年の実質所得成長(2011年の購買力平価に基づく)】
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ノア・スミス「書評を書いたよ:ベン・バーナンキ『危機と決断』」

[Noah Smith, “Review: Ben Bernanke’s ‘The Courage to Act,'” Noahpinion, May 13, 2016]

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ベン・バーナンキの新著『危機と決断』(The Courage to Act) の書評を,外交問題評議会に書いた (pdf).一節を抜粋しよう:
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ノア・スミス「社会科学は客観的な知識をもたらせる?」

[Noah Smith, “Can social science yield objective knowledge?” Noahpinion, June 1, 2016]

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サヨクちっくな* 社会科学の友だちとかなり長いことメールで議論してる.お題は,「社会科学は世界について客観的な知識をもたらせるのか?」だ.どうやら,サヨクちっくな* 社会科学と人文学の界隈では,「人間の研究はその性質からして主観的な企てであって物理学や科学や生物学 etc. がもたらすような知識はけっしてもたらさない」って考えが受け入れられてるらしい.

これを支持する論証は本質的に3つある.大幅にパラフレーズしてまとめよう:
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ノア・スミス「101イズムの実例:最低賃金編」

[Noah Smith, “101ism in action: minimum wage edition,” Noahpinion, April 9, 2016]

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しばらく前に,「101イズム」のやばさについて書き殴った.「101イズム」とはぼくの造語で,経済学101(概論授業)のいきすぎた単純化やただの誤解バージョンを使って政策論議をすることを指す.さて,その完璧な例をお見せしよう.しかも,容疑者の1人が当のぼくだったりする.
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