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『民族優遇主義:それはアフリカに限った事象ではない』 ジアコモ・デ・ルカ、ローランド・ホルダー、ポール・ラスキー、ミケル・ヴァルセッキ

Ethnic favouritism: Not just an African phenomenon “Giacomo De Luca, Roland Holder, Paul Raschky, Michele Valsecchi, Vox, 21 July 2016.

民族優遇政策はアフリカにおける事象、もしくは脆弱な政治制度を持った国に限られた事象だと、広く考えられている。この記事では夜間照明の明るさに関する資料を使いこの既成概念への反論を試みる。民族優遇政策はアフリカ以外でも同様に蔓延しており、貧困国や独裁国家に限られたことでもない。むしろ、選挙での再選への欲求がその事象を生む主要因の一つと考えられるのだ。

サハラ以南のアフリカでは政治指導者が自らの民族的出身地を優遇し多額の資金を投入する政策が行われていることは、一般に認められている。ケニヤはその典型である。カレンジン族を偏重したダニエル・アラップ・モイ大統領、キクユ族を偏重したムワイ・キバキ大統領、両者による政府とも、利益供与、汚職、自民族優遇政策を行い、それは2013年に至るまで35年間続いた(Wrong 2009)。

自民族優遇とアフリカにおける政策の関係性については多くの立証研究が行われ多くの文献が記されている一方で、ほとんどの研究は一国とひとつの政策のみに焦点を当てたものとなっている(その傑出した例外としてFranck and Rainer1, 及びKramon and Posner2は挙げねばなるまい)。そして地球規模で自民族優遇策の蔓延具合と決定要因を検証したものは見当たらない。

私達は自身の研究の中で地球規模の民族優遇主義の範囲とその動機の検証を行った(De Lucaと共著者)。ここで私達が用いた新手法は世界中の多民族国家を対象とした膨大で多岐にわたる二つの統計標本を基としている。さらに、多種多様な政策による分配の効力を捉えるための測定装置として夜間照明の明るさを用いた。

地球規模で民族優遇主義を測定する

世界中では政治指導者は在職中に自らの民族的出身地を優遇しているのだろうか、それが私たちが明らかにしようとしていることだ。そこで私達は140ほどの多民族国家で1992年から2013年の期間における民族編成地域(民族構成を同じくする地域)の資料を用いることにした。

民族編成の資料のために、私達は現在得ることのできる最も著名な二種の民族編成地図を基に二種の統計標本を構成した。その民族編成地図のうち第一のものはWorld Language Mapping System及びEthnologue(Gordon 2005)による、現在知られている全世界の使用言語を網羅した言語地図である。第二のものはGeo-Referencing of Ethnic Group(GREG)計画(Weidmanと共著者2010)による、古典とされるソビエト人民世界地図帳(Soviet Atlas Narodov Mira)のデジタル版地図である。Ethnologueを基とした統計標本は141の多民族国家から7653の民族編成地域(平均して一国あたり54の地域)を抽出し、GREGからは137の多民族国家から2032の民族編成地域(平均して一国あたり15の地域)を抽出した。

民族編成地域ごとでGDPを測定した資料は得られないので、Hendersonと共著者(2012)に倣い、アメリカ空軍気象衛星より得られる夜間照明の明るさの資料を使った。地域に即したデータの得やすさ、そしてGDPと正の相関を持つその性格により、夜間照明の明るさは国家より小さい単位での行政地域及び民族編成地域の研究をする際、経済活動と発展を計測するための資料として広く用いられるようになってきた(例としてMichalopoulos and Papaioannou 2013, 2014, Hodler and Raschky 2014a, 2014b, Alesinaと共著者2016)。

次に挙げることが私たちが精査する課題である。在職中の政治指導者の民族的出身地に当たる民族編成地域は他の地域よりも夜間照明は明るいのだろうか。政治指導者の民族的出身地と夜間照明の明るさの間に正の相関があれば、それは民族優遇主義の証拠と私達は解釈する。更には、この事象の範囲と決定要因、そして考えられうる政治指導者にとっての動機を考察する。

民族優遇主義は世界中で見られる事象である

私達は民族優遇主義の有力な証拠を見付け出すことができた。現職にある政治指導者の民族的出身地では7~10%高い夜間照明の明るさを享受しており、GDPはそれに対応させるなら2~3%高いことになる。更には、政治指導者と言語的に近い関係にある民族集団に対しても民族優遇主義を見ることができた。

最も顕著なこととしては、民族優遇主義はアフリカ域外でも域内と同様に見ることができる。この事実は、民族優遇主義が主として、あるいは全般に、サハラ以南のアフリカで見られる事象、という既成概念を覆す。例を挙げるなら、ボリビアでは大統領がヨーロッパ系とクリオロと呼ばれる中南米生まれのスペイン系住民が多い地域を優遇する傾向があった。そしてその支出の多くを受け持っているのは先住民族である。先住民族であるアイマラ族出身のエボ・モラレスが選任された後、先住民族の居住地域の照明は確実に明るさを増して行った。特筆すべきは、批評家たちがアイマラ族の利得に特別な配慮をするよう、そしてその支出を他の先住民族に負わせるよう、モラレスに提言したことである(例を挙げるなら、Albro 2010, Postero 2010)。

民主化は万能薬ではない

更に私たちの研究の結果から言えることは、民主制度が民族優遇主義を減少させる傾向は弱く、それゆえ民主制度の影響は小さい。特に独裁制から脆弱な民主制への移行は民族優遇主義を減少させているようには見えない(そして、増大させることもありうる)。

この事象は、政治指導者が民族優遇主義に関与する動機から幾分か説明できる。政治指導者が自ら争わねばならない選挙の期間には事業が増大することが見て取れる。このことから、指導者は自民族への愛着心からだけではなく、再選の可能性を高めるために民族的出身地への優遇策を執ることが考えられる。選挙対策として政治指導者が民族優遇策を執るとすれば、民主制が抑止に有効ではないことに説明がつく。

加えて、民族優遇主義による恩恵が一時的なものであり長期にわたる発展をもたらすことは無い、という事象が見て取れる。これについても政治指導者の選挙への懸念によって説明できる。他の民族出身の政治指導者が選出され交代が起こると、前任者の民族的出身地で明るさを増した夜間照明は二年のうちに民族的推移と共に通常へと戻ってしまう。これは政治指導者が民族的出身地に公共資金を投入するとき、社会基盤への設備投資よりも一時的な消費に回しているためと考えられる。利益供与を得られるのは政権が続くかどうかにかかっている、それゆえ同族者が政治指導者への支援を止める訳にはいかない、その利益供与と支援の関係を保つための方策としては時期限定的な消費は理にかなっている(Padró i Miquel 2007)。

結論

私たちは研究を通して全く新しい見解を得ることができた。従来は、民族優遇主義は主としてアフリカで見られる事象であり経済の発展と民主化によって抑止できるもの、とされてきた。しかし民族優遇主義は世界中で、いわば標準的に見られる事象であり、それは富裕国、貧困国に関わらず存在し、正当な政治制度による抑止力は限定的である。

そこから、民族優遇主義を減少させる政治構造を見付け出すこと、それにも増して民族を超えた協調を引き出すことの必然性が見えてくる。ここで引き合いに出したいのがスイスの例である。スイスは高い度合いで民族分離社会である一方で、民族優遇主義は見られない。それは排他性の無い政府と、異なる政党と民族の間を持ち回る連邦大統領制に依っていると考えられる。

 

References

Albro, R (2010) “Confounding cultural citizenship and constitutional reform in Bolivia,” Latin American Perspectives, 37: 71-90.

Alesina, A, S Michalopoulos and E Papaioannou (2016) “Ethnic inequality,” Journal of Political Economy, 124: 428-488.

Franck, R and I Rainer (2012) “Does the leader’s ethnicity matter? Ethnic favouritism, education and health in Sub-Saharan Africa,” American Political Science Review, 106: 294-325.

De Luca, G, R Hodler, P A Raschky and M Valsecchi (2016) “Ethnic favouritism: An axiom of politics? [5]”, CEPR Discussion Paper 11351.

Gordon, Jr, R G, (2005) Ethnologue: Languages of the World, Dallas, TX: SIL International.

Henderson, V J, A Storeygard and D N Weil (2012) “Measuring economic growth from outer space”, American Economic Review, 102: 994-1028.

Hodler, R and P A Raschky (2014a) “Regional favouritism”, Quarterly Journal of Economics, 129: 995-1033.

Hodler, R and P A Raschky (2014b) “Economic shocks and civil conflict at the regional level”, Economics Letters, 124: 530-533.

Kramon, E and D N Posner (2013) “Who benefits from distributive politics? How the outcome one studies affects the answer one gets”, Perspectives on Politics, 11 : 461-474.

Michalopoulos, S and E Papaioannou (2013) “Pre-Colonial ethnic institutions and contemporary African development”, Econometrica, 81: 113-152.

Michalopoulos, S and E Papaioannou (2014) “National institutions and subnational development in Africa”, Quarterly Journal of Economics, 129: 151-213.

Padró i Miquel, G (2007) “The control of politicians in divided societies: The politics of fear”, Review of Economic Studies, 74: 1259-1274.

Postero, N (2010) “Morales’s MAS government: Building indigenous popular hegemony in Bolivia”, Latin American Perspectives, 37: 18-34.

Weidmann, N B, J Ketil Rod and L-E Cedermanv (2010) “Representing ethnic groups in space: A new dataset”, Journal of Peace Research, 47: 1-9.

Wrong, M (2009) It’s our turn to eat: The story of a Kenyan whistleblower, London: Fourth Estate.

 

訳者より: この記事はぜひ、以前の摂訳、『世界に於ける地域偏重主義Regional favouritism across the world“ と一緒に読んでいただきたい

  1. 2012 []
  2. 2013 []

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