最近、ChatGPTやその他のMidjourneyのようなAIのツールで遊ぶのにかなりの時間を費やしています。
他の多くの人々と同じように、私が興味を持っていることの1つは、経済学やファイナンスにおいて行っていることを改善するために、AIをどの程度使うことができるかということです。
こうした質問に対する私の答えは、”かなり有用である”です。ChatGPTに経済学やファイナンスのことを聞いてもとりわけ感心させられることはありませんが、実のところそれは残念なことではないのです。
むしろ、私はChatGPTをより効率的に物事を進めるための優れたツールだと考えています。私が特に実感しているのは、すでに研究やアドバイザリー業務を行っている分野(一般経済学、金融政策論、財政学、スポーツの経済学)において、AIが新しいアイデアを生み出したり、新しい質問をするのに役立っているということです。
今日、初めてコードを書くのにChatGPTを使用してみました。Excelを主に使い、リサーチアシスタントを雇った結果、私のコーディングスキルは年々低下していると言わざるを得ません。
ここ数年、Pythonでのコーディングで少し遊んでいたのですが、なかなか再開することができず、それを使う機会は滅多にありませんでした。その結果、率直に言ってPythonをあきらめています。
しかしながら、私がよく使うのは、セントルイス連銀のFRED〔Federal Reserve Economic Data〕という経済・金融データを集めたデータベースです。これは素晴らしいリソースで、しかも無料です。
そこで今日、世界経済に関するいくつかの質問に答えるために、ChatGPT、Python、FREDを組み合わせてみるのはどうだろう、と思いつきました。
そしてもちろん、私は市場マネタリストとして、各国の名目GDPを見てみたかったのです。より具体的には、私がここで “名目GDPギャップ “と呼ぶものについて確認してみたかったのです。
そこで私は単に、ChatGPTに、FREDデータベースのデータに基づいて、米国、ユーロ圏、スウェーデン、デンマークの名目GDPギャップの時系列を作成するPythonのコードを書いてもらうことにしました。
私はChatGPTに、HPフィルター〔Hodrick-Prescottフィルター、データ平滑化手法の一つ〕を使って名目GDPのトレンドを算出し(ラムダ〔トレンドのなめらかさを示すパラメーター〕は四半期データで1600であるべきだとわかりました)、名目GDPギャップを実際の名目GDPの水準と名目GDPトレンドの水準の差の割合として計算したのち、そのグラフを作成するコードを書くように依頼しました。グラフに関する具体的なデザイン提案は求めませんでした。
その結果が、下のグラフです。
この結果はかなり喜ばしいものです。ChatGPT、Python、FREDを使って、たった数時間の作業でこれを達成できるとは予想していませんでした。
本当に時間がかかったのは、プログラム間の適切な「コミュニケーション」を確保することでした。それでも、最終的にはうまくいきましたし、次のプロジェクトでは、さらに時間がかからなくなることを確信しています。
しかし、なぜ私はこうしたことをしているのでしょうか。それは私がAIマニアだから、というわけではなく、質問して答えを見つけるのがより簡単に(そしてより時間がかからないように)なるからです。
経済学に話を戻すと、どんな面白い結果がこれによって得られたのでしょうか。グラフを見てください。2008年から2009年にかけての大不況は、上のグラフの全てに確かに現れています。2020年の「ロックダウン・ショック」も同様で、2020年から2021年にかけて非常に強力かつ迅速に回復をしたことが確認できます。最も重要なことは、4つの通貨圏すべてにおいて、大規模なオーバーシュートが発生し、名目GDPギャップが過去1〜2年の間に強くプラスに転じていることです。
このことは、特に私の母国であるデンマークで目立ちます。デンマークでは、名目GDPギャップが+6%に達しており、極めて緩い金融環境であることがわかります。これはまた、デンマークでインフレ率が2%に戻るまでに時間がかかる可能性も示唆しています。
また、ユーロ圏の名目GDPギャップはデンマークよりいくらか小さく、金融引き締めの必要性はユーロ圏よりデンマークの方が高いということも指摘できます。しかしながら、デンマークはユーロとのペッグ制を採用しているため、ユーロ圏にも関連してしまう金融引き締めを行うことは不可能です。もちろん、デンマーク・クローネをユーロに対して切り上げれば別ではありますが。今のところ、デンマーク政府もデンマーク中央銀行もそのようなことは検討の対象にしていませんし、提唱もしていません。しかし、この1年でインフレ率が急上昇したことで、ペッグ制を現状のまま維持すべきかどうかという議論が出始めています。
私見では、デンマークで名目GDPギャップがユーロ圏より大きくなった主な理由は、相対的な交易条件ショックによるものであると考えています。ドイツなどユーロ圏の多くの国が、欧州のエネルギー価格の上昇によってマイナスの交易条件ショックに見舞われているのに対し、デンマークは海運や製薬などの輸出価格が高騰しているのです。もしデンマークがクローネを変動させていたならば、ユーロに対して通過高になった可能性が高いです。その代わりに、今、デンマークのインフレ率が上昇し、実質的なクローネ高が進行しています。
とにかく、AIが私たち、少なくとももうすぐ52歳になる経済学者をもう少し生産的にしてくれる、あるいは少なくとも新しいツール(あるいはおもちゃ…)を使って身近な問題に答えてくれる、というのは読者の皆さんにとって興味深いことだと思います。
〔原文:“ChatGPT, Python, FRED and some NGDP gaps“(Lars Christensen, Tuesday, February 21, 2023)〕