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ノア・スミス「インフレ退治で供給側政策に頼ってはいけないよ(2021年8月14日)

[Noah Smith, “Don’t rely on supply-side policy to fight inflation,” Noahpinion, August 14, 2021]

モノを安くするのは結構.でも,インフレでほんとに大事なのはそこじゃないよ.


〔アメリカでの〕インフレが永続的なものなのか一時的なものなのかをめぐる論争が続いてる.論争の軸になっているのは,このところの物価水準上昇が全般的上昇なのか,それとも,木材や自動車などごく一握りの品目の上昇なのかって点だ(これが全般的な上昇だとしたら,いま政府が経済にお金を注ぎ込みすぎているのだと多くの人は考えてる.他方で,一握りの品目だけが上昇してるのだとしたら,おそらくはパンデミック後の各種供給ボトルネックが生じてるだけなんだろう).この論争での掛け金は,すごく高くつくかもしれない.いまみんながいるのが70年代型の状況だとしたら,FRB は金利を引き上げる必要があるし,議会は赤字支出を削減する必要が出てくる.そうなれば,バイデンの社会変革的な経済運営が台無しになるかもしれない.でも,いまのインフレがほんのいっときの上昇にすぎないとしたら,そうした削減はとてつもない失敗になってしまう.
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サイモン・レン=ルイス「サド・ポピュリズム」(2021年8月21日)

[Simon Wren-Lewis, “Sado-populism,” Mainly Macro, August 21, 2021]

「サド・ポピュリズム」は,ティモシー・スナイダー(イェール大学歴史学教授)の用語だ.2017年に公開された連続ミニ講義の第4回で用いられた.おそらくこの講義はトランプ当選に触発されている.最近になって,The New European の  Alastair Campbell によって,この用語はイギリスで広まってきている.彼は,「サド・ポピュリズム」を EU離脱とジョンソンに当てはめている.この記事では,金権政治ポピュリズムに関する私じしんの議論にサド・ポピュリズムの概念を関連づけたい(金権政治ポピュリズムについては,たとえばここを参照).
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サイモン・レン=ルイス「新古典派対抗革命のあとにマクロ経済学の古いアイディアを学び直す」(2021年8月3日)

[Simon Wren-Lewis, “Relearning old ideas in macroeconomics after the New Classical Counter Revolution,” Mainly Macro, August 3, 2021]

Chris Dillow が書いた記事への補足として,今回の記事を書いている.Dillow はマクロ経済学について,2つの論点を述べている.これを理解するには,主流経済学と異端経済学の区別をおさえておく必要がある.両者の線引きを定義するのは難しい(これを試みて論文や書籍の章が書かれている).だが,いくらかの所見は述べられる.大学の学部に所属する経済学者の大半は主流で,異端系の経済学者たちはそれとはちがった各種学校の多くに属している.もう一点はなにかと言うと,異端系の経済学者たちがやっていることを,主流の経済学者たちがほぼ完全に無視している,ということだ.なお,「異端系の経済学者たちはみんな左派で,主流経済学者たちはそうではない」という見方は,事実と異なる.
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タイラー・コーエン「ポール・サミュエルソンのマクロ経済学はどれくらいよかったんだろう?」(2021年8月13日)

[Tyler Cowen “How good was Paul Samuelson’s macroeconomics?” Marginal Revolution, August 13, 2021]

ニコラス・ウォプショットの新著クルーグマンの書評 (NYT) を読んでみて,ちょっとばかり楽観的すぎるように思えた.そこで,マクロ経済学者としてのポール・サミュエルソンをあらためて考えてみた.残念ながら,いいお知らせは報告できない.というか,サミュエルソンはマクロ経済学者としてまるっきりお粗末だった――なんなら酷いと言ってもいい.

たとえば,1970年代序盤に,ニクソン大統領の賃金・物価統制をめぐる論争があった.サミュエルソンが実際にとっていた立場については,見解の相違が多少ある.ウォプショットの主張では,サミュエルソンはニクソンによる賃金・物価統制に反対していたそうだけれど (p.152),事実とはちがっているようだ.たとえば,Los Angels Times では,サミュエルソンがこんな意見を表明していたと伝えられている: 「賃金・物価制御によって,彼[ニクソン]はより急速な短期的な経済回復を確実にし,1972年選挙の圧勝を確保した.」 もしかすると,全面的に支持していたわけではないのかもしれない.でも,1971年8月17日に ABC Evening News でサミュエルソンがこう発言しているのを考えてみよう: 「90日間の〔賃金・物価〕凍結でインフレ問題が解決されるとは,思いませんね.ただ,なんらかの所得政策への第一歩ではあるでしょう.穏やかに黙殺しても,うまくはいきませんでした.大統領が指導力を発揮するときです(…).先週の金曜よりも,この月曜の方がマシになっています.金曜の状況は支持できるものではありませんでした.」 [1]

本当に?

サミュエルソンや当時の多くのケインジアンたちにとって,〔当時のインフレの〕大半は賃金プッシュ型インフレだった.さて,ぼくだったら当時どう言ったでしょう?――「賃金・物価統制はミクロ経済政策としてもマクロ経済政策としてもよくない.」 サミュエルソンは,これにいくらかでも似てる発言をしなかった.1971年10月に,サミュエルソンはこう主張している――ドルの金兌換停止と賃金・物価統制を含むニクソンの NEP[New Economic Policy; 新経済政策]は「必要」だったし,賃金・物価統制は予想よりもうまくいっている.[2]

1971年10月に,サミュエルソンはこうも主張している――FRB はマネーサプライの増加が続くにまかせるべきだ.そうすることで,ベトナム戦争にえんえんとアメリカが関与することで誘発される流動性危機のリスクをどうにか回避するべきだ(なんですと?? ブレトンウッズ体制崩壊を恐れていたんだったら,発行するお金を減らすべきでしょ.ブレトンウッズ体制を終わらせるのがいいと考えていたのなら話は別だけど).大統領による「指標」で物価インフレ率を4パーセントから3パーセントに下げるのがのぞましいと,サミュエルソンは言った.他方,明示的な賃金・物価統制は,好まなかった.そこまでの「急を要する」状況ではないというのが,その理由だった.賃金・物価統制にサミュエルソンが反対していたと言っても,この程度だ――よくいっても生ぬるいし,原則として反対しているわけではない.これは,かつての立場と矛盾している.それに,もっと広範に貨幣経済学の理解がおそまつなのも露呈している.景気拡大期にマネーサプライ増加を継続しつつ大統領による「指標」を示して物価インフレ率を下げようっていうのは,単純に間違った見解だ.

1974年に書かれた文章でも,かつてと同じようにサミュエルソンはこう主張している――当時のインフレはコストプッシュ型インフレであってマネーサプライに後押しされたものではなかった.さらに,完全雇用と物価安定は両立しないとも断定している(証拠もなしに).1971年の文章では,完全に間違った刮目すべき断定をしている: 「(…)アメリカの人口と生産性が伸びているなかで,失業率を一定して高い水準に維持するには4パーセントの実質成長率が必要だ.」[3]

本当に?

つまり,サミュエルソンのモデルはすっかり間違っていたわけだ.もっと一般的に言えば,Newsweek に連載された当時のサミュエルソンのコラムでは,基礎になっているモデルが健全なわけでもないのに,大して謙虚にもならず,繰り返し,教条的かつ恣意的にマクロ経済の各種変数をくさしている.

たしかにミルトン・フリードマンはマネーサプライについて過度に単純化しすぎた見解をもっていた.それは,多くの人たちが批判しているとおりだし,スコット・サムナーも追認してくれるだろう.でも,マクロ経済学者としてのフリードマンは,ポール・サミュエルソンよりも,はるかに,はるかに先を行っていた.

フリードマンが登場する前のマクロがどれほどダメだったか,お忘れなく.


[1] Los Angeles Times については,Hiltzi (1994) 参照.また,右も参照されたい: “Questions and Answers: Paul A. Samuelson,” Newsweek, October 4, 1971. また,ABC News での発言は,Nelson (2020, volume 2, p.267) を参照.

[2] “Questions and Answers: Paul A. Samuelson,” Newsweek, October 4, 1971 を参照.

[3] Paul Samuelson, “Coping with Stagflation” Newsweek, August 19, 1974 を参照.また,1971年の発言は右を参照: “How the Slump Looks to Three Experts” Newsweek, Oct.18, 1971. 4パーセントの主張については,Paul A. Samuelson, “Nixon Economics,” Newsweek, August 2, 1971 を参照.

タイラー・コーエン「「優」売ります――これって正しい市場価格なのかな?」(2021年8月6日)

[Tyler Cowen, “Is this the correct market price?,” Marginal Revolution, August 6, 2021]

全面的に不道徳な一件ではあるんだけど,ここにある需要の弾力性についてちょっと思いめぐらせてる:
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タイラー・コーエン「パウエルと FRB に関するデイビッド・ベックワースの評言」(2021年8月6日)

[Tyler Cowen, “David Beckworth on Powell and the Fed,” Marginal Revolution, August 6, 2021]

同僚のデイビッド・ベックワースが『ニューヨークタイムズ』に新しく寄稿してる.ちょっとだけ引用しよう:
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アレックス・タバロック「ワクチン接種の現状バイアス」(2021年8月4日)

[Alex Tabarrok, “Status Quo Bias,” Marginal Revolution, August 4, 2021]

ワクチン追加接種に関する CNN のリード文に,こう書かれていた:
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サイモン・レン=ルイス「景気後退時の量的緩和(お金の創出)はいいことだ,ただし効果的な財政刺激をともなっているかぎりで」(2021年7月27日)

[Simon Wren-Lewis, “Quantitative Easing (creating money) is fine during a recession, as long as it goes alongside effective fiscal stimulus,” Mainly Macro, July 27, 2021]

誰もが知っているように,イングランド銀行のような中央銀行はお金を創出している.このことを指して,「中央銀行がお金を刷る」と言ったりもする.だが,現実に中央銀行がお金を創出したいとのぞんだ場合には,市中銀行が保有する「準備金」という
一種の電子的なお金を中央銀行がつくりだすことで,それをなしとげる.量的緩和とは,中央銀行が準備金を創出して自国政府の債券を買う場合を言う.
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アレックス・タバロック「オリンピック・チャーター都市」(2021年8月3日)

[Alex Tabarrok, “Olympic Charter Cities,” Marginal Revolution,  August 3, 2021]

Max から,おもしろいアイディアが出てる.このところ,オリンピック開催のホストになる都市を見つけるのがいっそう難しくなってきている.オリンピック・チャーター都市は,チャーター都市を立ち上げてコストを分担するのにうってつけの手段になるかもしれない.
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タイラー・コーエン「フランスの財政政策はマンガ文化政策」(2021年7月30日)

[Tyler Cowen, “The manga culture that is French fiscal policy,” Marginal Revolution, July 30, 2021]

フランス政府がスマートフォン・アプリを立ち上げて,書籍・音楽あるいは展覧会や公演のチケットなどの文化的購入に使える300ユーロを18歳の人々全員に渡したところ,大半の若者はプルーストの長編小説を買って読みたいとも,プルーストの芝居を見に行きたいとも思わなかった.

かわりにフランスのティーンエイジャーたちがこぞって群がったのが,マンガだ.

「ほんとにいい取り組みだと思います」と Juliette Sega は言う.フランス南東部の小さな街に暮らす彼女は,これまでに40ユーロ(約39,000円)を使って,日本の漫画単行本とディストピア小説の『メイズ・ランナー』を購入している.「ずっと小説やマンガを買っては読んでいます.今回のお金は購入費の足しになってます.」

今月の時点で,5月の全国で導入されてからこれまでにフランス政府のアプリで購入されたものの 75パーセント以上を書籍が占めている――そして,その書籍のおおよそ3分の2がマンガだという.この数字は,同アプリを運営している Culture Pass によるものだ.

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