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ピーター・ターチン「伝染病と危機時代の相関関係」(2020年4月15日)

Correlation between Crisis Periods and Epidemics
April 15, 2020
by Peter Turchin

前回のエントリ『コロナウィルスと我らの不和の時代』を投稿してから、私は世界史における主要な伝染病の一覧を、ウィキペディアのような媒体と、学術論文の両方で目を通している。危機の時期と疫病の勃発には強い(ただ完全ではない)関連性があることを私は知っている(2008年の論文を見てほしい)。問題はこの相関関係がどのくらい強いかだ。

以下は、私が発見したデータを元にして纏めた表だ。ただこれは、主要な伝染病は不和の時代の間に勃発する傾向があるという仮説の決定的な分析ではない。以下の比較検証は、十分に体型立ったものではなく、非常に定性的なものであり、明確にヨーロッパ中心バイアス(すくなくとも西ヨーロッパ中心バイアス)がある。ただ、ここはブログであって、非常に高い厳密性が要求される学術論文ではない(Seshatの危機のデータベース1 が完全に構築された時には、我々は正規の研究を行う予定だ)。

いずれにしても、以下は私の暫定的なアイデアだ。コメントを歓迎する!

危機の時代 場所 伝染病とパンデミックの名称
青銅器時代後期の破局(紀元前12~11世紀) 地中海東部と中近東

エジプトの疫病

トロイでのアカイア人の間における疫病

疫病でよって人口が減少したクレタ島

ペリシテ の疫病

イスラエル王国とユダ王国の悪疫

ペロポネソス戦争(紀元前5世紀) 地中海東部・中部

アテネの疫病

ローマでの周期的な悪疫

ローマ帝国の危機(2~3世紀) ローマ帝国

アントニヌスの疫病

キプリアヌスの疫病

ギリシャ・ローマ古代期後期の危機(6世紀) 東ローマ帝国

ユスティニアヌスの疫病(第一次ペスト大流行)

オーマヤド・カリフ王朝の没落(8世紀)

奈良時代の天災(8世紀)

中東と地中海

日本

第二期ユスティニアヌスの疫病(746~747年にピーク)

 

735~737年の日本の天然痘の大流行

14世紀の危機 アフロ・ユーラシア 黒死病(第二次ペスト大流行)
17世紀の世界的危機 全世界

第二派黒死病(ロンドンとウィーンの大災禍を含む)

コロンブスの航海

アメリカ大陸の人口減少

ヨーロッパでの梅毒の大流行

革命の時代(1789~1919:「長い」19世紀) 全世界

コレラの大流行

第3次ペスト大流行

スペイン・インフルエンザ

アシュドド2 におけるペリシテ人の疫病:ピーター・ヴァン・ヘイレンによる油絵(1661年)

  1. 訳注:Seshatは全世界のアカデミアを繋いで、歴史の定量データを集めるために創設されたターチンが代表を務める研究機関。 []
  2. 訳注:イスラエル南部の都市 []

ピーター・ターチン「コロナウイルスと我らの不和の時代」(2020年4月5日)

Coronavirus and Our Age of Discord
April 05, 2020
by Peter Turchin

〔訳注:「不和の時代」とは本エントリの執筆者であるピーター・ターチンが創始した学問分野クリオダイナミクス(歴史動力学)に基づいて提唱されている時代区分のことである。ターチンは大規模な文明社会は、人口動態・エリートの過剰競争等が原因となり、内乱・内戦等を伴う「不和・諍いの時代」に至ると提唱している。そしてアメリカ合衆国は2020年前後から「不和の時代」を迎えると10年以上前から予測している。〕

このブログの読者ならよく知っているだろうが、私は自分を預言者とは主張していない。なんにせよ預言は過大評価だと思う。ただ私は予測を行う。なんらかの科学的予測は、預言のようなものではない。科学的予測は未来についてではなく、理論に基づいている。それは、世界がどう機能しているのかについて、我々の理解がどのくらい優れているのかを明らかにする方法だ。2013年に投稿した『科学的予測≠預言』で詳しく解説している。

この考え方の一般例として、私が2008年に公開した論文で最後の段落に書いたものを以下で紹介してみよう。 [Read more…]

ブランコ・ミラノヴィッチ「コロナ後の世界」(2020年3月28日)

The world after corona
Posted by Branko Milanovic on Saturday, March 28, 2020

パンデミックが世界の所得分配に与える影響について何か言えるだろうか? パンデミックがいつまで続くのか、どれだけの国が影響を受けるのか、人が何人死ぬことになるのか、社会機構が崩壊してしまうのかどうか、今はこれらになんら意味のあることは言えない。我々は真っ暗闇の中にいるのだ。今日言ったことのほとんどは、明日には間違いだったと証明されるかもしれない。もし誰か正しい人がいれば、それはその人が必ずしも賢明なのでなく、運がよかっただけだ。ただ、このような危機下では、運は大いに価値がある。 [Read more…]

ビル・ミッチェル「日本式Q&A – Part 4」(2019年11月11日)

Q&A Japan style part4
Posted by Bill Mitchell on Monday, November 11, 2019

このエントリは最近の私の日本旅行で提起された4部構成のQ&Aシリーズのラストである。このエントリでは、たった1つだけの質問に答えている。解答は、政府(の金融部門)と中央銀行の関係の核心に触れることで、〔中央銀行〕準備預金の複雑な会計処理を説明している。よって、学習のためには幾ばくかの前提知識が必要となっている。現代貨幣理論(MMT)に関する今回の一連の質問は、最近の私の日本旅行中に提起されていることを思い出して欲しい。日本におけるMMTに関する公での議論は(他国と比較すれば)相対的に進んだものとなっている。日本では、広範な政治領域にまたがって政治運動家達が、緊縮財政に反対を表明する有力な手段として、MMTを議論し宣伝している。MMTの基礎原理は、日本では他国と同じように十全に理解されているので、議論はより詳細な質問(特に政策への適用)に移行している。よって今回の来日の一端として、こうした論点に関するガイダンスを提供することを求められた。私は発表でこれらの論題を取り扱っている。しかしながら、誰もがMMTの理解を深められるよう、いくつかの分析を文面で提供することが生産的だと考えた。 [Read more…]

ピーター・ターチン「イタリアは峠を超えた:公衆衛生政策はCOVID-19を止めるのにどのくらい効果的か? その2」(2020年4月1日)

Italy Turns the Corner
Posted by Peter Turchin on April 01, 2020

〔訳注:本エントリはコロナ危機を分析しているピーター・ターチンによる一連のエントリの第2回目のエントリである。分析の基礎なっているモデルは第1回目のエントリ「公衆衛生政策はCOVID-19を止めるのにどのくらい効果的か」で説明されている。最初のエントリを読んでない読者は、このエントリを読む前に第1回から順番で読むことを推奨する。〕

先週、私はイタリアにおけるCOVID-19の流行を分析したが、非常に気が滅入るような結果が出た。政府があらゆる政策を行ったにもかかわらず、その政策が変化をもたらしている兆候が見られなかったからだ。感染症の流行はまだ指数関数的に拡大しており、感染症がもたらした総死亡者数に悲惨な影響を及ぼしていた。

様々な国におけるCOVID-19の動態を追跡している私のアプローチは、専門的な公表文献で解説しており、専門的でないものとしてはブログの前回のエントリ「公衆衛生政策はCOVID-19を止めるのにどのくらい効果的か」で解説を行っている。

イタリアは、より最近のデータ(3月31日まで)で分析を再度行うことで、非常に楽観的な結果が得られる。今やイタリアは峠を超えたハッキリとした兆候が見られる。結果は以下のとおりである。

変化の最も目立つ兆候は、新規感染者の減少だ。あまり目立たないが、他のグラフの曲線も下降を開始している。この動態の変化は、主に病気の伝染率の低下によってもたらされている。

流行の開始時(2月初旬)では、感染率(beta)はほぼ0.4であり、これは感染者数が日々ほぼ40%増えていたことを意味している(しかしながら、この爆発的な上昇率は一般の人々や政策当事者には見えていなった。下記参照)。感染率(beta)の低下は非常に緩慢でゆっくりしたものだった(グラフの変曲点は3月13日だ)。これは、国民の行動を変えるたために、イタリア政府は勧告を行ったが、行動が変わるまで時間がかかったことが示唆されている。このことは、逸話的にも知られている。3月21日になっても、中国紅十字会の孫碩鵬副会長は「ここミラノでは(中略)、公共交通機関は運行を続け、人々は動き回り、ホテルではディナーやパーティーが続き、マスクもしていない。皆、なにを考えているのか理解できない」と話したと報じられている。さらに面白いのが(このような困難な時期にはユーモアが必要だ)、イタリアでは小さな都市の市長たちが、ロックダウンに逆らう市民に怒り狂っている動画が、最新のYoutubeでバズっている。疑いようもなく状況が深刻になったことは(今日の時点で13,000人の死者が出ている)やっとのことでイタリア人を自覚に至らせている。感染率は低下してきているーーゆっくりとだ、それでもイタリアは正しい方向に向かっている。

2番目のグラフ(右側)に注目してほしい。我々皆が知っていることが、定量的に示されている:初期検出率(認知された感染者の確率)は低位から始まり、その後上昇している。これが意味しているのは、報告された数値を単に使用するだけでは、流行の動態を正確に追跡できない、ということだ。検出率の上昇(最初に、流行の渦中にあると人々が幅広く認識したことが原因となり、引き続いて無症状の人を対象にした大規模な検査が行われた結果)で、新規患者数が増加することになり、感染率が人為的に上昇する。実際に何が起こっているのかを観察するためには、この検出率の変化を除去する必要がある。私のモデルはこの除去作業を行っている。

追加のデータが入り次第、分析結果の報告を続ける予定だ。実は、ニューヨークのデータを扱いたかったのだが、ジョンズ・ホプキンス大のチーム(データを纏めて更新してくれている彼らには大いに感謝している)がアメリカのデータの報告方法を変更したので、昨日は扱うことができなかった。

ピーター・ターチン「実質賃金の上昇が止まった理由Ⅱ:経済的影響要因の絡み合いを切り開く」(2013年8月7日)

Cutting through the Thicket of Economic Forces (Why Real Wages Stopped Growing II)

前回のブログのエントリ〔訳注:本サイトでの翻訳はここ〕で、私は、1970年代に実質賃金の上昇が止まった原因について問題提起を行った。経済学者や政治評論家によって、多くの解き明かしが論じられている(ただ、彼らは所得と所得不平等の関係性について焦点を絞る傾向がある)。例えばデビッド・レオンハルトはここ10年間の所得低迷の原因に、14の可能性をリストアップしている。ティモシー・モアも以前に一連の記事で1970年代以降の所得不平等の上昇の理由として似たたようなリストを挙げて論じている。

上記画像引用元

前回のブログのエントリで言ったように、よくあるアプローチは可能性がある要因をそれぞれ個別に検討するものだ。しかしながら、このアプローチでは、要因の相対的重要性を計量することができない。その上、社会は複雑な動態システムとなっており、様々な要因が非線形フィードバックの網を経由して相互に関連している。これを平易な言葉に翻訳するなら、あらゆる事象は他の全ての事象に影響を与える可能性がある、との意味だ。これは考慮せなばならない。賃金と所得の動態を理解するには、我々は最終的に経済学の領域を超える必要がある。

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ジョセフ・ヒース「大学教授のうっかりはマウント行動」(2017年9月5日)

Absent-mindedness as dominance behaviour
Posted by Joseph Heath on September 5, 2017 | academia

父はむかし、私にある話をした。その何年も前に、父は大学教授としてサスカチュワン大学1 のセントトーマス・モア・カレッジで歴史学を教えていた。父は車を運転して仕事に行き、駐車して、授業を教えに教室へ向かったものだった。しかし家に帰る時、自分がどこに駐車したのか思い出せない事がしょっちゅうあった。サスカチュワン大学は縦横無尽に拡がっている広大な駐車スペースを有する大学の一つだったので、父は何度も自分の車を探してさまよう事を余儀なくされたものだった。

父の教授としての生活は、かつて望んでいたものと比べるとはるかに失望するものへと変わった。それに加えて、同僚とのあらゆる種類の軋轢に巻き込まれていることに父は気が付いた。軋轢があまりにひどくなったので、ある日父はやっとのことで大学を辞職した。辞表を出して駐車場に向かい、辺りを探し回って車を発見し、家まで運転し、二度と大学には戻らなかった。父の話で愉快なのがここからだ。その後の人生の中で、自分の車をどこに停めたのかを忘れたのはその時が最後だった、と父は断言したのである。 [Read more…]

  1. 訳者注:カナダ・サスカチュワン州にある州立大学。 []

ピーター・ターチン「繁栄の終焉:実質賃金は1970年代になぜ上昇が止まったのだろう?」(2013年4月4日)

The End of Prosperity: Why Did Real Wages Stop Growing in the 1970s?
Posted by Peter Turchin on April 04, 2013

1970年代に何かが起こっている。以下のグラフを見てみよう。

20世紀のほとんどの間――1970年代まで――アメリカにおいて労働者の賃金は、インフレよりも非常に速く成長した。1927年以降半世紀の間に、未熟練労働者の実質賃金は3.5倍、製造業労働者の賃金はインフレ調整したドル換算で4倍に上昇している。その後、折れたような低下が到来している。去年2012年だと、未熟練労働者と製造業労働者の実質賃金は1978年よりむしろ低下しているのだ。 [Read more…]

ジョセフ・ヒース「移民についてのカナダ特殊論」(2017年7月1日)

Canadian exceptionalism
Posted by Joseph Heath on July 1, 2017 | Canada, immigration, multiculturalism

先日のことになりますが、イギリスの選挙ではジェレミー・コービンが躍進し、フランスではマクロンが現象を巻き起こすことになりました。この両出来事を受けて、右派ポピュリズムの熱狂は崩壊し始めている、といった楽観論が見られます。こういった楽観論が現れたのは、ドナルド・トランプ、彼の存在がある程度は理由になっているでしょう。トランプの選挙とそれに引き続いた彼の言動は、醜悪なアメリカ人の完全な自己標本のようなものになっていました。このトランプの一連の言動は、他国の有権者に「トランプに権力を与えた熱狂を我々は克服しているのだ」と思わせ、これらの国におけるポピュリズムの趨勢に相当のダメージを与えたことは疑うまでありません。(思うにこのトランプの言動はフランスでの出来事において重要な要因になっていました。)

ほんの数ヶ月前だと、〔このような楽観論は全く存在せず〕様々な事情は全く異なって認識されていたのです。当時、カナダでは排外主義が勢いづくような兆候が〔諸外国と比べて〕例外的に観察されず、カナダは特殊なのではないのか、といった議論が国内に蔓延することになりました。私たちカナダ国民皆が見た、ジャスティン・トルドーが笑顔でシリア難民を空港で歓迎している写真が、世界中の新聞に転載されたのです。そして写真が掲載されたことで、カナダ人の多くが、我が国はなぜ特殊なんだろう、と不思議に思うことになりました。

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ジョセフ・ヒース「将来世代に負担を残すなと言っている人は、嘘を付いてる冷笑家? それともバカなだけ? 永遠の疑問」(2015年1月25日)

Cynicism or stupidity? the eternal questionPosted by Joseph Heath on January 25, 2015 | environment, politics

先日ダボスで、財務大臣のジョー・オリバーはカナダは均衡財政を維持する決意を表明した。オリバーは、均衡財政を世代間の公平性に関したよくある言い回しの「道徳的的問題」として説明してみせた。「我らの子供ら、孫らに、今日の我らが負っている歳出を負担させることは、間違えていると皆さんも考えているでしょう…」

しかしながら、学があるほとんどの人がご存じなように、これは経済的誤謬である。一家総出でレストランで食事して、食べ終えてから、親は勘定をばっくれて、子供たちに支払わせるようなものではない。政府がお金を借りた場合は、〔会計上の金融〕資産と負債が共に生み出され、このどちらもが将来世代に引き継がれることになる。つまり「我らの子供らや孫ら」を含めても状況はそのままなのだ(例えば、ある人がカナダの貯蓄債権を相続したとする。するとその人は〔債権から〕歳入を受け取る。一方で、別の誰かがその歳入への支払いに応じねばならない税負担を相続することになる)。これは、同一世代内での分配効果を持つことになるが、世代を跨いでの分配効果は持たない。唯一の世代を跨いだ問題は、我々が、今貯蓄するか、それとも消費すべきにあり、金利がゼロに近い場合は、この問いに答えるのはそれほど難しくない。 [Read more…]