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マリアンヌ・バートランド, マチルダ・ボンバルディーニ, レイモンド・フィスマン, フランチェスコ・トレッビ 「税を免除されたロビイング活動: 政治的な働き掛けの手段としてみた企業社会貢献」(2018年9月3日)

Marianne Bertrand, Matilde Bombardini, Raymond Fisman, Francesco Trebbi, “Tax-exempt lobbying: Corporate philanthropy as a tool for political influence“, (VOX, 03 September 2018)


特殊利害関係者は寄付を使って政治過程に働き掛ける。本稿が明らかにするところ、合衆国における社会貢献活動は、少なくとも部分的には、議員への働きかけに標準を合わせている。影響力の有る政治家がいる区ほど、また非営利団体のなかでもその役員に政治家がいるものほど、多くの寄付を受け取っているのである。これは問題をはらんでいる。PACをつうじた寄付やロビイングと異なり、慈善活動をとおした働き掛けは公衆が観察しにくいからだ。

ドナルド・トランプの就任は 「沼の汚水を抜く (drain the swamp)」 という彼の公約に一部を負っていた  他人に頼らなくともよいだけの財力をもつアウトサイダー候補である彼ならば、それまでワシントン政治を腐敗させてきた特殊利害関係者の働き掛けからも遮断されているのではないか。この点では、トランプもひとつの長い伝統を踏襲している。およそ政府なるものが現われてからというもの、それに腐敗せしものとのレッテルを張りつつ、我こそこの問題を清算する者なりと売り出す改革者は絶えないのである。

だが反汚職改革を試みる者は程なく直面することになる。特殊利害関係者は数多くの働き掛け手段を持っているという現実に。そのうち或る物は非合法だが (例えば近年ドイツとブラジルで主導的な政党・政治家を苦しめた運動資金スキャンダルなど)、全面的に透明とはいえないにせよ、全面的に合法ではあるような経路からも、政治家に揺さぶりをかけることはできるのだ: 合法的なキャンペーン献金、職を辞したのちに就く旨味のある勤め口やコンサルティング職の約束、友人や家族への優遇措置などだ。

働き掛けとしての社会貢献

政治における特殊利害関係者の制約に幾らかでも希望を持てるようにするには、政策への働き掛けを望んでいる者が意のままに操れる手段の全体をまず認めておくことが重要だ。本研究で我々が実証したのは、 なんとも皮肉なことに  企業の社会貢献活動が、少なくとも部分的には、議員への働き掛けに奉仕している可能性である。そうした働き掛けは、公益ではなく株主利益に奉仕するような法律や規制の獲得をめざすものと推察される。

企業は政治目的のため自己の慈善金を戦略的に出捐しているかもしれないとの所見を述べたのは、我々が初めてではない。2008年 New York Times に掲載された記事に、「お気に入り慈善活動への贈り物に議員達はご満足 (Gifts to Pet Charities Keep Lawmakers Happy)(Hernandez and Chen 2008) と題されたものがある。そこでは例えばジェネラル・ダイナミクス社やノースロップ・グラマン社といった防衛企業からペンシルヴァニア州のジョンズタウン交響楽団に送られた太っ腹な寄付について記載されているのだが、このオーケストラは偶然にもジョイス・マーサという女性をパトロンとしている。この人の夫はジョン・マーサ下院議員という、下院軍事委員会の一員だった人物。(繰り返されるクリントン財団の資金調達めぐる紛議は、これと同じ対価関係 (quid pro quo) が国レベルでも機能しているかもしれないことを示唆する。ヒラリー・クリントンの国務長官としての任期中、同財団には外国および外国組織から数百万ドル級の小切手がいくつも振り出されたのだった)

我々のフォーカスは合衆国の事例に置かれているが、以上はアメリカ独特の現象などとは間違ってもいえない。例えば英国では、反贈収賄法 (Anti-bribery Act) が英国企業に対し慈善活動への海外での寄付行為について警告を与えているが、それはこうした活動が潜在的に帯びうる政治的な対価関係に鑑みたものだ。またイスラエルの歴史で最も大きなスキャンダルのひとつにホーリーランド事件 (Holyland Case) というのがあるが、これにはエルサレム市長だったウリ・ルポリャンスキーの設立した (合法の) 慈善団体に対し、土地用途見直しの確保をめざして或る不動産デヴェロッパーがおこなった寄付が関わっていた。

慈善財団はPACの後を追う

我々が新たなワーキングペーパー (Bertrand et al. 2018) で示すのは、ジャーナリストやアクティビストがこれまで掘り起こしてきた幾つかの逸話が、じつのところ或るより一般的なパターンを体現するものであったこと、そしてこのパターンは政治的優遇措置をせがむために企業が自らの財団 (foundations) を使っていると考えれば最もうまく説明できることである。明らかになったのは、企業の慈善財団からの寄付が辿るパターンが、よりあからさまな形での政治的働き掛け  各社の政治活動委員会 (PAC: political action committee) 支出  にみられるパターンと著しく似通っていることだ。両者は同じ議会選挙区に流れ込む傾向があり、どちらも区からの合衆国議会議員が該当企業の事業利益にとって重要な委員会に着任している時に増加する。我々は政治家を企業財団の金と結び付けるより個人的な繋がりにも注目した。結果、議員が役員に就いている非営利団体ほど多くの企業財団の金を獲得する傾向があり、とりわけ該当政治家が当該事業と関連性の有る委員会に就任している場合にそれが殊更あてはまることが判明した。ざっと計算しただけでも、政治的動機からくる企業の慈善活動は一年あたり10億ドルを優に超えているようであり、従って企業PAC資金の規模を圧倒することが示唆される。

政権への働き掛けに、例えば選挙キャンペーン資金やロビイング活動などではなく、交響楽団への寄付をもちいる理由はなにか? 第一に、PAC寄付には半世紀近くも前から幾つも制限が設けられてきたのだが、慈善寄付については何ら制限が無い。それに加え、例えばゴールドマン・サックスPACが、ニューヨークからの合衆国議会議員シーン・マロニー (民主党ニューヨーク州) に2016年の議会期以降、幾ら渡したのかを調べることなどは、割合簡単なのだ。1970年代に議会を通過したルールのもと、この種の寄付はすべて公に開示されねばならないことになっている (同議員は10,000ドルを得ている)。だがゴールドマン・サックス財団からマロニー下院議員に渡った金銭の追跡には、もっと探偵的な仕事が関わってくる。最後に、PACの悪名は  – 〔ロビイストが群居する〕 Kストリートのことは措くとしても、少なくとも 〔一般的アメリカ人の象徴たる〕 メインストリートでは 知れ渡っているが、企業の社会貢献ならば、事業がコミュニティに親善感情を醸成しながら、しかも同時に政府契約の発注や規制画定を監督するかもしれない議員を喜ばせるなどということができてしまうのである。

企業の寄付と立法上の利害関係とのあいだの潜在的な繋がりを掘り起こすべく、我々はS&P 500Fortune 500のリストに掲載されている企業の財団が提供した助成金に注目した。これらリストは合衆国株式市場に上場している企業のうち最大規模のものから構成される。こうした助成金は納税申告書で開示しなければならなくなっているので、殆どの寄付を具体的な非営利団体とリンクさせることができた。つづいて非営利団体の詳細な地理的所在地を確定できた。ここまできてようやく、非営利団体を具体的な合衆国議会選挙区と関連付けることができた。(企業のPAC寄付に関する情報の獲得は数段容易である  作業は全てOpensecrets.orgで済ませることができる)

我々が示すところ、諸般の議会期をつらぬき、企業の財団からの助成金には、PAC資金の受領が多い区にシフトしてゆく傾向がみられる。これは、一部の慈善寄付が政治的動機からきていることを、少なくとも示唆している。

我々はさらにこれら両タイプの資金の動きを駆動している政治的考慮事項のなかには、同じものが幾つかあることも明らかにしている: 政治家が該当企業の事業の利害にとって重要な委員会に加入する場合 (ジョン・マーサの軍事委員会加入とノースロップ・グラマン社の関係を想起されたい。同委員会に対するロビイングに同企業は大金をかけている)、該当合衆国議会選挙区に対する企業財団とPAC資金のフローはともに増加している。同様にして、合衆国議会議員が職を辞する際には、該当区に流れ込む企業慈善金とPAC資金の両方に短期的な落ち込みがみられる。これは影響力の有る議員が新人に取って代わられる場面にあたる。

政治家の利害関係を個別慈善活動にリンク付ける別の方法として、政治家の年次財務情報開示から得た役員身分に関する情報も活用している。結果、政治家が役員に就いている場合、非営利団体は企業財団から助成金を受領する可能性が四倍以上も高くなることが示せた。これは該当非営利団体のある州およびその規模・部門に関するきめ細かな測定値を考慮したうえでのものである。合衆国議会議員が役員に就いている非営利団体ほどより多くの企業資金を獲得できるだろう理由には様々あるが、我々は 〈金銭の流れの増加の少なくとも一部は、政治的なものである〉 旨を示すエビデンスも提示している。ここでも再び、該当企業によるロビイングの対象とされることの多い委員会に該当政治家が就任している場合、財団はその政治家と繋がりのある非営利団体に寄付する可能性がより高くなることが判明したのだ。

企業にとっての政治家の重要性が、PAC寄付のほうとより強く繋がっている可能性はたしかにある。しかし企業慈善活動をとおして流れ込む金銭の総額と比べれば、PAC支出はまるで大人と子供である。例えば2014年合衆国議会選挙からの議会期では、年間PAC支出は46400万ドルだったが、対する年間企業寄付のほうはほぼ180億ドルにもなる。我々の計算が示すところ、多くの企業慈善活動の非政治的性格を考慮したあとでさえ、依然として政治的要素はPAC寄付を圧倒する可能性が非常に高い。

なぜ関心をもつべきなのか

では我々は、企業慈善活動と政治について何に関心をもつべきなのか? 或いはあなたはこんな風に考えてはいないだろうか。「どうでもよくない? 奴らは利益誘導をしているわけだけど、少なくともコミュニティの利益になるような仕方でやってるんだから」。

もしそうなら、我々は強く反対する。最も重要な点だが、PAC寄付やロビイングと異なり、慈善活動による働き掛けは公衆にとって (メディアと投票権者の両方をふくむ) 観察しにくい。個別の逸話群にもとづきつつ一つの筋に纏め上げるのにさえ多大な労力が必要だが、ロビイングやPACの記録ならばウェブブラウザを開くだけで見つかる。我々の見解では、これは合衆国法の精神にも反する。合衆国法は、合衆国税法に対する1954年のジョンソン修正条項のもとで、501(c)(3) 慈善団体 (企業財団など) は次のことができないと規定している:

[い]かなる公職候補者についてであれ、その人の為に (またはその人に反対して) なんらかの政治キャンペーンに参加または介入 (声明の公表または配布をふくむ) すること(USGPO 2012, sec 2522)

この種の規定を設けることには良い理由がある。501(c)(3) 団体は租税免除ステータスを持っているので、これら団体による政治活動への参加を野放しにすることは、政治的発言力を露わにする企業に対する納税者からの補助金に等しいのである。

ここで明確にしておきたいのだが、我々は世界の為に善行をなすべく利潤を支出する企業に反対している訳では勿論ない。また企業が善行をなすことで良い成果をだせるような局面の存在は、多くの場合、慶賀すべきでこそあれ、非難すべきものではない。企業が環境を保護し、貧者を援助し、自らの顧客を喜ばせ従業員をより幸福かつ生産的にするために生活賃金を支払うならば、それは事業と社会にとって究極のウィンウィンとなろう。

同様に我々は企業の社会貢献に対する制限などは決して提案しまい  それは非政治的な企業寄付を削減させてしまうばかりか、既に我々が強調したように、企業は別の経路をつうじた働き掛けへと金銭と活動をシフトさせるだけだろうから。働き掛けとしての慈善活動の実証をつうじて我々が望んでいるのは、一般的な言い方になるが政治における金銭の流れを追跡する必要を浮き彫りにすることである。利益誘導の規制を試みるにしても、企業が影響力を購う際に用い得る数多くの経路を考慮に入れたほうが良いだろう。

我々が、全員一致で、支持することがあるとすれば、それは企業を資金源とする活動にかかる開示の拡大である。これは投票権者が、政治家と民間企業の関係が容認可能なものか判断し、理想的にはさらに、公益に反するようなあらゆる便宜交換を避けるよう政治家に圧力をかけるうえで、参考になる更なる情報を提供するものである。

編集者注本稿は企業統治と金融規制に関するハーバードロースクールフォーラムにおける先頃の投稿から取ったものです。

参考文献

Avis, E, C Ferraz, F Finan, and C Varjão. (2017), “Money and politics: The effects of campaign spending limits on political competition and incumbency advantage”, NBER working paper 23508.

Bertrand, M, M Bombardini, R Fisman, and F Trebbi (2018), “Tax-Exempt Lobbying: Corporate Philanthropy as a Tool for Political Influence”, NBER working paper 24451.

Eggers, A C, and J Hainmueller (2009), “MPs for sale? Returns to office in postwar British politics”, American Political Science Review 103(4): 513-533.

Hernandez R, and D W Chen (2008), “Gifts to Pet Charities Keep Lawmakers Happy”, New York Times, 18 October.

USGPO (2012), Internal Revenue Code, US Government Publishing Office.

エリック・ヒルト, ウェンディ・ラーン 「所有者社会と投票行動」(2018年9月2日)

Eric Hilt, Wendy Rahn, “The ownership society and voting behavior“, (VOX, 02 September 2018)


政治評論家が論じてきたところ、金融資産の所有は家計によるビジネスフレンドリーな政党の支持を誘発するという。本稿では、自由国債 – 第一次世界大戦中に合衆国家計向けに大量販売された – の所有が、 1920年代の投票行動にどのような影響を及ぼしたかを分析してゆく。投票権者はこの国債価格の変動に対し、それが下落した際は現職者を咎め、国債価格が持ち返すとこれに報いるという対応をみせた。自由国債は、 1920年代に共和党の得票差に有意な貢献をしたものの、これが決め手となったわけではなかったようである。

過去半世紀は、アメリカ世帯によるファイナンスの在り方の変容が目撃された時代だった。 1962年にはアメリカ家計のたった 19%しか企業株式を所有していなかったのだが、 1992年までにこの率は37.4%にまで増加、そして 2007年までにはアメリカ家計の優に 65%もが株式所有者となっていた (Poterba and Samwick 1995, McCarthy 2015)。研究者も政治評論家もともに、アメリカ家計の財産的関心にみられる根本的変容は、アメリカ家計をして自らを投資階級と自己規定させるとともに、共和党の支持増化に貢献したと論じてきた (Duca and Saving 2008)。この理論はかなり影響力を持ってきたもので、社会保障の民営化 (privatise) を呼び掛ける、ブッシュ政権の2005年提案も部分的にはこれに触発されたのだった。また株式所有のさらなる拡張をつうじて、民間社会保障勘定が恒常的な共和党マジョリティの創出を後押ししてくれるのではないかとも期待されている (Conlan 2008)。

だが、金融資産の所有を拡大するような公共政策改革の政治効果は、そう単純ではないかもしれない。金融資産の所有は、それが本当に投票権者をして投資階級との自己規定をなさしめるとしても、同時にかれらを金融市場の変動に曝すものでもあるのだ。その様な変動に対応して、金融資産を所有する投票権者は、金融市場が不調の場合には現職者を咎め、高い収益に対してはかれらに報いるといった、回顧的投票行動 (retrospective voting behaviour) モデルと整合的なパターンを示すかもしれない。その様なモデルは、投票権者の選択は政権が現職者の任期中にどれほど良い業績を残したかに関する、バックワード-ルッキングな評価に駆動されると主張する (例: Achen and Bartels 2016, Healy et al. 2017)。ビジネスフレンドリーな政党への支持という単純なことではなく、金融資産の所有は、投票権者に現職者の就任期間中における金融市場パフォーマンスに注目させる誘因となるかもしれないのだ。

我々の最近の論文では、何千万ものアメリカ家計に国債を購入させる誘因となった、第一次世界大戦の自由国債キャンペーンについて、それがもたらした選挙面での帰結を研究している (Hilt and Rahn 2018)。これら自由国債キャンペーンにさきだつ時期、銀行口座以外になんらかの金融資産を保有するアメリカ人は比較的僅かだった。それにもかかわらず自由借款キャンペーンは、大規模に展開されるとともに、可能なかぎり広範囲な参加の誘引がめざされた。それは戦争遂行に対する世論的支持を強化する努力の一環として行われたのである。一般市民はこのキャンペーンに対し異常に高率の引受を以て応えた。そして 1919年までに、自由国債を所有するアメリカ家計の割合は、現代のアメリカ家計のうち株式を所有するものの割合よりも大きくなっていたと見込まれる。

「世界で最も安全な投資 (safest investment in the world)」 として販売された自由国債だったが、その価値はかなり移り気であることが明らかになった。 1919年後半、戦中戦後にみられた信用と物価の成長を制限しようとする努力を皮切りに、連邦準備制度は相当な金利引き上げを繰り返し敢行した。これが自由国債の価格の下落を惹起し、何百万ものアメリカ家計がキャピタルロスを被った。その後 1921年になって連邦準備制度が金利の引き下げを始めると、こちらは自由国債の増加を惹起した。こうした変動は、政府政策により金融資産の保有を誘発された投票権者が、そうした資産の価格の変動にどう対応するかについて検証する機会を与えてくれるものだ。

金融政策の変化に誘発されたヴォラティリティ

下に図示したのは、連邦準備制度の政策変化、そしてそれが自由国債所有者にもたらした帰結である。図 1は連邦準備の割引率を示す。同割引率は 1919年前半をとおして4%に維持されていたが、それは自由国債がその発行時に提示せざるをえなくなるだろう金利を低く抑えるためでもあった。その後、1919年後半から1920年前半になると、連邦準備制度は金利を劇的に引き上げ、割引率は 7%に上昇するが、1970年代になるまで、これほどの水準に至ることは二度となかった。

 割引率 (ニューヨーク連邦準備銀行)

第四自由国債は最も広く保有された自由国債だが、図2はその価格に何が起きたかを示している。これら自由国債の利回りが実勢利率に見合った水準にまで上昇するため、自由国債の価格は引受価格の約 85%にまで下落したうえ、1921年後半をとおしてそれに近い水準に留まった。

 価格 (第四自由借款)

自由国債保有者が獲得した累積リターンを図3に示す。価格低下に由来するキャピタルロスは、自由国債保有者が受領した4.25%の年間利息支払いを遥かに上回っていた。これは、1920年代中頃には自由国債所有者の受領した累積リターンが、名目でみても実質でみても、急激にマイナスになっていたことを意味する。

 累積リターン (第四自由借款)

1921年中頃、産出量の急激な縮減と物価水準の下落を受けた連邦準備制度は、金利緩和に着手した。実勢金利の下落は自由国債価格の回復、そしてその累積リターンの増加につながった。1924年までは、1919-21年に経験された損失の影響も強力なキャピタルゲインにより払拭されていた。

選挙での反動

我々は自由国債引受率に関する郡レベルのデータを活用し、以上の変動が大統領選挙の結果に及ぼした効果を調べた。なお、1920年代は共和党が大統領政治を支配していた時期で、ハーディング、クーリッジ、フーヴァーは、1920年・1924 年・1928年の一般投票・選挙人投票ともに相当の多数派票を勝ち取っている。さて結果だが、1908-1916年期の選挙における投票パターンと比較すると、自由借款の引受率が高い郡ほど1920年と1924年の選挙で反民主党に急速に転じていたことが明らかになった。そしてこれは1920年選挙にさきだつ時期の自由国債の減価 (民主党が大統領職を握っていた時期)、および1920 年代前半における自由国債の増価 (共和党大統領の政権下) に対する反応だったのである。これら結果が示唆するところ、自由国債キャンペーンは幾つかの意図せざる政治的帰結をもたらしたようだ – つまり戦争への支持を高めようとする努力が、その生みの親たる政党に対する選挙での反動に力添えすることになったのである。

無論、自由国債の引受は、歴史的な投票パターンに反映されていない未観測の郡-属性から影響を受けていたかもしれず、それが翻っては1920年代の投票行動に影響を与えていたこともありうる。この可能性に対処するため、我々は1918年インフルエンザ流行に関する地域毎の予測深刻度の測定値を、自由国債引受の操作変数として用いた。この流行の波で最も致命的だったのは 1918年10月に発生したものだったが、これは偶然にも自由借款キャンペーン第四弾と同時期に起きている。インフルエンザ流行の予測深刻度について我々が用いた尺度は、大規模軍事訓練キャンプからの郡の距離にもとづく。これら軍事訓練キャンプは合衆国の民間人口 (civilian population) 内部における流行の発生源である可能性が最も高いのだ。軍事訓練キャンプからの距離の大きさは、第四借款の引受と強く相関しているが、これはインフルエンザの流行自体と、流行拡大を抑制する活動の双方から、自由国債キャンペーンが阻害されたためだ。自由国債所有が民主党の得票率に及ぼした効果に関する我々の操作変数推定値は、郡の自由国債引受率が 1標準偏差上昇すると、大統領選挙における民主党の得票率が1920-32年期の平均で3.3%ポイントの減少につながっていたことを示す。

自由国債が選挙面でもたらした効果が決定的なものかを評価すべく、我々は同じ実証モデルを州レベルのデータを用いて推定した。我々は1920年大統領選挙にフォーカスしている。同選挙で民主党のジェームズ・コックスが勝ち取ったのはたった12州のみだったのに対し、ハーディングは 37州で、選挙人票の総数でみると127対404となっている。1920年大統領選挙での民主党得票率に関して州毎にみた反実仮想推定値が示すところ、自由国債が不在であったならば、民主党はさらに12州を勝ち取っていただろうが、それでもやはり選挙人投票で敗北することになっていたようだ。ここから、本分析において自由国債に帰属させた効果は、共和党の得票差に相当な寄与をしたものの、これが決め手となったとまではいえなさそうであることが覗われる。

結論

家計の所有する資産の構成はその政治行動に影響を与えうること、とはいえそれは必ずしも所有者社会の理論と整合的な形での影響ではないこと。本結果は以上を明朗に示すエビデンスである。我々の文脈に引き付けていえば、国債の所有によって、一般アメリカ家計のファイナンスは、金融市場の変化に対しより敏感になった。それは家計をして、資産価格低下期に就任していた現職者を拒絶し、また財政の安定性と国際価格の上昇をもたらしたと称する政治候補者を支持する方向に導いた。これは回顧的投票行動の 「個人指向的 (pocketbook)」 な見方と整合的である。

さらに本結果は、社会保障を民間勘定群からなる制度に転換しようとするブッシュ政権の 2005年提案が実行されていたとしても、その意図通りの政治的効果がえられなかったかもしれないことを示唆する。自分の社会保障給付を、諸般の金融資産に投資した勘定への貯蓄をつうじてファイナンスするよう誘導されていたのなら、投票権者は金融市場の変動にかなり敏感になったはずである。そうした場合、金融危機と結び付けられる2008年の急激な資産価格下落は、同年の大統領選挙において、共和党に対するこのうえなお強烈な反動に結実していただろうと考えても、不合理ではない。

参考文献

Achen, C H and L Bartels (2016),  Democracy for Realists: Why Elections Do Not Produce Responsive Government, Princeton University Press.

Conlan, T J (2008), “Federalism, the Bush Administration, and the evolution of American politics,” in Morgan and Davies (eds), The Federal Nation: Perspectives on American Federalism , Palgrave MacMillan, 11–25.

Duca, J V and J L Saving (2008), “Stock ownership and congressional elections: The political economy of the mutual fund revolution,” Economic Inquiry 46(3): 454–79.

Healy, A J, M Persson and E Snowberg (2017), “Digging into the pocketbook: Evidence on economic voting from income registry data matched to a voter survey,” American Political Science Review 111(4): 771–785.

Hilt, E and W Rahn (2018), “Financial asset ownership and political partisanship: Liberty Bonds and republican electoral success in the 1920s,” NBER Working paper 24719.

McCarthy, J (2015), “ Little change in the percentage of Americans who own stocks,” Gallup, 22 April.

Poterba, J and A Samwick (1995), “Stock ownership patterns, stock market fluctuations, and consumption,” Brookings Papers on Economic Activity 2: 295–3.

 

バインダー&ハジャルマーソン「さっきも有罪にしたから次も有罪でいいや:陪審員の意思決定の経路依存性」

Anna Bindler, Randi Hjalmarsson “Path dependency in jury decision makingVOX.EU, September 2, 2018

裁判官や陪審員団の意思決定が,メディアへの露出や陪審員団の人口的要素といった数多くの外部要因によって影響を受けていることが研究によって次々と示されている。本稿では,18世紀におけるロンドンのオールドベイリー中央刑事裁判所の陪審評決を用い,直前の裁判の評決と特徴という新たな要因について検討する。直前が有罪評決だった場合,その次が有罪評決となる確率を6.7%から14.7%引き上げることが見出された。これは歴史的な文脈ではあるものの,この発見は連続的な決定に関わる様々な状況に重要な意味を持つ。


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スコット・サムナー「なぜオーストラリアは26年間不況を経験していないのか」

[Scott Sumner,”Why Australia hasn’t had a recession in 26 years,” The Money Illusion, July 18th, 2017]

 

過去の投稿において、私は、オーストラリアは名目GDPを適切に成長させ続けることによって26年間不況を回避してきたことを指摘した。コメント者の中には、オーストラリアは金融政策ではなく、むしろ鉱業ブームによって恩恵を受けている“ラッキーな国”である、と示唆するものもいた。その理論は意味をなさない。なぜなら経済が非常に不安定な商品の輸出に輸出している場合、大規模かつ高度に多様化した経済を伴った国に比べてより不安定なビジネスサイクルになるだろうからである。いずれにせよ、近年のデータは完全にその説を棄却している。

ステファン・キッチナーは、かつてオーストラリア準備銀行の役人であったウォーウィック・マッキビンの見解について議論している非常に興味深い記事に私を導いた。

元オーストラリア準備銀行役員のウォーウィック・マッキンビンは、世界の中央銀行は、家計や政府の巨額の債務負担が安全に解消されるよう、名目所得の伸びを目標とする公的金利のシステムに切り替えるべきだと述べている。

“インフレーションは、価格の期待を縛り、中央銀行が資産を引き下げないという自信を人々に与えたため、良い中間段階になった”と、彼は水曜日のシドニーでの主要な経済会議で語るだろう。

1970年代や80年代、それに90年代の初期と同様に、“高いインフレ率の時にはそれが重要なのだ。”

“しかし、本当に成長とインフレーションである非常に明示的な所得ターゲットがあるなら、同じ信用度をもつことができる”、と彼は言う。

彼は、オーストラリアでは、そのことは、準備銀行は名目GDP——本質的には、どのくらいその経済がその経済の生産した財やサービスに支払われているかの尺度——の成長を約6%に保とうと試みようとしていることを意味すると示唆している。

オーストラリアは人口増加率が1.4%であるので、オーストラリアの名目GDPの成長率がアメリカ(人口増加率=0.7%)や日本(人口減少中)の名目GDPの成長率より高いのは不思議ではない。それにもかかわらず、私は、6%は少し高いので、オーストラリアには5%にいくぶんか近い成長率を勧めたい。一方で、6%でさえ2008年以降連邦銀行や欧州中央銀行、日本銀行によって実施されている一連の政策に比べればはるかに良いだろう。

オーストラリア国立大学クロフォード校出身のマッキビン教授は、公式の2%から3%のインフレターゲットは“サイクル全体”にしか適用されないので、実際に準備銀行はすでに“曖昧な名目の”所得ターゲットを追求している、と認める。

このことは、オーストラリアは大恐慌[1]の間、隠れて名目GDP目標を行っている国であったと示唆してきた様々な市場のマネタリストの主張を裏づけしている。

私は、日本のような国にとって名目所得ターゲットの最大の利点は、それが公的債務の負担を減じうるということであると主張した。マッキビンは同様の議論を行っている。

”高い公的および私的な所得に占める負債の割合の持続可能性は過去以上に高い名目所得の成長を必要とするので、今後数十年にわたって問題になるであろうことは、名目所得の成長であろう。”

興味深いことには、6%のターゲットでさえいますぐに金融引き締めが必要なように思われることである。

彼の提唱した所得ターゲットのスキームによれば、1.5%というこんにちの準備銀行のキャッシュレートは、第一四半期に前の3か月に比べて名目GDPが2.3%上昇したことと、1年前に比べて7.7%上昇したことを考慮すればおそらく低すぎる。“現在、中央銀行は名目所得基準による緩やかな金融政策を取っているだろうし、名目所得の伸びが急速に高まっているため、このルールに従って政策を強化することを期待している。”

待ってほしい。それが正しいはずはない。私の批判者は、オーストラリアは鉱業ブームから恩恵を受けている単にラッキーな国だった述べている。いまや鉱業開発が衰退しつつあるのだから、うまくいっているはずがない。それとも私が何か間違っているのだろうか?

エコノミスト誌は賢い国がいかにして再分配を扱って斜陽化する部門からはずすかを説明している。

鉱業ブームがしりすぼみになると、準備銀行はベンチマークの“キャッシュ”レートを2011年の4.75%から1.5%に下げた。オーストラリアドルは急速に下落した(6年前のピーク時には1.10ドルだったのに対し、現在では0.76ドルの価値である)。安い通貨と低い利子率によって、より高齢化が進んでいてより人口の多いニューサウスウェールズ州とヴィクトリア州は経済が賑わった。不動産開発業者はより多くの家を建てる、農家はより多くの食糧を輸出し、外国人(留学生と観光客の両方)がより訪れた。たとえば、オーストラリアは昨年、過去最高となる120万人の中国人を迎え入れた。

再配分が不況を引き起こすのではなく、金融引き締めが引き起こすのだ。

かつて、私はオーストラリアは名目GDPよりむしろ被雇用者の合計の補償を目標にしたい可能性があると主張した。それはなぜなら、労働市場に大きな影響を与えることなく鉱物の輸出価格の変動は名目GDPにおける大幅な変動を生じうるからである。過去12か月、被雇用者への保障は1.4%しか増えなかったが、これは名目GDPの7.7%の上昇をはるかに下回る。この類の不一致はアメリカにおいては見られない。それゆえに恐らくオーストラリアは金融引き締めを必要としないのだろう。)

 

追伸 デーヴィッド・ベックワースがNGDPと政策立案者の直面している知識の問題についての新しいポリシーペーパーを書いている。いつもどおり、デーヴィッドはいくつかの良いグラフィックを用いている。

[1]本文では“the Great recession”と表記されている。もちろんこれは1929年に端を発する大恐慌のことではなく、2008年のリーマンショックに端を発する不況のことである。

下層住宅地の高級化は犯罪を減らすか?

David Autor, Christopher Palmer, Parag Pathak, “Does gentrification reduce crime?”(VoxEU.org, 16 November 2017)

 

公共の安全を含め、ジェントリフィケーション(下層住宅地の高級化)や近隣のアメニティ(快適環境)に関しては、原因を効果と区別することが難しいとされている。本稿では、アメリカマサチューセッツ州ケンブリッジの家賃統制制度が突然終了した事例を取り上げ、ジェントリフィケーションが犯罪に影響を及ぼすかどうか、また、その影響はどの程度なのかについて研究する。賃貸管理制度の終了直後の数年間に、賃貸料の管理の程度が大きかった区域では犯罪が大幅に減少した。一方で、こうした区域は、居住者の入れ替わり率が最も高かった。このことが示すのは、こうした地域に元々住んでいた賃借人は賃料が高額すぎたために住んでいた不動産から追い出されていて、ジェントリフィケーションの恩恵を受けていないということだ。

 

ジェントリフィケーションをめぐっては、原因と結果を区別することが非常に困難であるとされている。コーヒーショップやヨガスタジオは、新しい住民の要望を受けてある区域にできるのか? それとも、こうした高所得者向けの施設ができたことを受けて新しい住人が現れるのか?

 

最も重要な近隣のアメニティの1つは、公共の安全だ。1980年代に都市犯罪が増加したことで郊外化が加速し(Cullen and Levitt 1999)、その後2000年代に都市犯罪が減少したことがジェントリフィケーションに寄与した(Ellen et al. 2017)。こうした傾向から次のような疑問が出てくる。地元の犯罪の変化が近隣の住民の入れ替わりに影響を与えるならば、近隣の構成の変化は犯罪に影響を与えるのかという問題だ。理論的には、ジェントリフィケーションは犯罪を増加させる可能性もあるし、減少させる可能性もある。比較的裕福な住民が流入することで、より魅力的なターゲットができ、犯罪が増加する可能性がある。また、近隣の住民の入れ替わりによって社会的一体性が減少し、犯罪が増加する可能性もある(e.g. Wilson 1987, Sampson et al. 1997)。一方、別の要因によって、ジェントリフィケーションが犯罪を減少させる場合もある。割れ窓理論では、ジェントリフィケーションの最中に一般的に起きることだが、明らかな衰退の兆候を和げる(例えば、割れた窓を修理する)ことで、犯罪活動が抑止される可能性があるとされている(Wilson and Kelling 1982)。裕福な住民が住んでいることによって、間接的に地方財産税の課税標準が増え、自治体が犯罪対策を優先するようになり、警報システムといった犯罪を抑止するための民間の警備対策への投資が行われるようになるかもしれない(Farrell et al. 2011)。最後に、賃料の上昇によって転居せざるを得ない地元の犯罪者がでてくることで、ジェントリフィケーションが犯罪を減らす可能性がある。また、地方の経済活動が増加することにより、犯罪者だった人が合法的に雇用されるようになるかもしれない。

こうしたあいまいな理論予測を反映しており、また、そうした状況下で因果関係を区別するのが難しいため、犯罪と近隣の変化の関係に関する既存の経験的証拠には様々なものがある(McDonald 1986, Taylor and Covington 1988, Covington and Taylor 1989, Lee 2010, Van Wilsem et al. 2006, Papachristos et al. 2011, Aliprantis and Hartley 2015)。

我々は最近の論文で、ジェントリフィケーションが犯罪に影響を及ぼすかどうか、その影響はどの程度なのかについて研究した(Autor et al. 2017)。我々は、厳しい家賃統制体制が急速かつ予期せぬ形で終了した際に起きた、意図せず行われた政策実験における近隣の変化について分析を行った。この家賃統制体制では、マサチューセッツ州ケンブリッジの住宅用賃貸物件の約3分の1について、市場価格をはるかに下回る水準に家賃を維持していた。1995年以前は、ケンブリッジの賃貸住宅の多くは家賃統制を受けていて、家賃はユニット固有の最大額で制限されていた。州規模で行われた住民投票によって、マサチューセッツ州での家賃統制は1995年1月1日に終了した。この住民投票により、家賃は市場レベルまで上昇し、ケンブリッジで近隣の変化の波が起きた。我々の以前の論文では、規制緩和直後の数年間で、家賃統制を受けていた物件の割合が最も多い区域では住民の入れ替わりが20%増加し、家賃統制が少なかった区域と比べて不動産価値が大幅に増加したことを示した(Autor et al. 2014)。

政策体制が急激に変化することによって、犯罪行為全体に影響を及ぼす都市全域の要因が保たれたまま、近隣の変化がどのように犯罪に影響するのかを調査することが可能になった(逆の場合はそうはならない)。我々はケンブリッジの警察のアーカイブから、1992~2005年のジオコード化された詳細な犯罪事件レベルのデータを収集した。その後、統制終了後の時期に家賃統制の集中度合いが高かった区域と低かった区域が経験したことを対比させるために、ケンブリッジを小さく分割して地理的に厳密に比較することで、犯罪活動の変化を追跡した。図1は、我々の主な研究結果をまとめたものだ。家賃統制終了後の数年間に、統制の程度が高かった区域では犯罪が大幅に減少した。1996年までに、高級化している区域(当初、1標準偏差より高いレベルで家賃統制が行われていたブロック)の犯罪全体は、家賃統制のレベルが比較的低かった地域と比べて16%減少した。表1は、通報された犯罪のカテゴリー別にどのように影響が異なるかを示している。犯罪事件の通報数が最も減少したのは窃盗犯罪だが、犯罪が減少したことにより回避できた損害額の大部分は暴力犯罪が占めている。

 

図1 通報された犯罪に対するジェントリフィケーションの影響(年毎)

注:図は、家賃統制集約(RCI)の標準偏差が1増加することがエリアごとの犯罪総数に与える影響のイベントスタディ係数(1992~2005年)を示している。RCIでは、1995年以前に賃貸管理を受けていた物件の地域ごとの集約度を測定している。図に示された推定は、1,000平方メートル当たりの犯罪総数を従属変数としたイベントスタディ回帰から導き出されたRCI × Year(年)変数の係数。仕様には、年及び街区の固定効果が含まれる。1994年がRCI x Yearの欠落カテゴリとなる。ロバスト標準誤差は、街区レベルでクラスター化されている。1994年のところにある縦線は、家賃統制が解除される前の年を示している。

 

表1 通報された犯罪に対するジェントリフィケーションの効果(犯罪カテゴリー別)

注:表は、マサチューセッツ州ケンブリッジにおいて、1995~2005年の期間の間に、賃料の規制緩和にさらされた度合いが平均から1標準偏差高くなるごとに、犯罪カテゴリーごとにどれだけ犯罪が減少するかの推定を示している。これには、近隣ブロックの固定効果と年の固定効果、国勢統計区の線形傾向が考慮されている。犯罪の平均コストには、Cohen and Piquero(2009年)による様々なタイプの犯罪の直接コストの総額の頻度加重平均の推定を使用している。この推定は、被害者、刑事裁判のコスト、犯罪者の生産性に関する犯罪の影響を金額に換算したもの。回避できた犯罪の価値は、各カテゴリーに対するケンブリッジの犯罪の年間の減少を、5%の割引率を用いて現在価値で推定したもの。

 

単純に1990年代にアメリカ全土で起こった都市ルネサンスが原因で、こうした地域で犯罪が減った可能性はあるのか? 2つの重要な事実がそうではないということを示している。第1に、規制緩和後に大幅な転居が起きた地域では、規制緩和前の3年間に犯罪は特異的に減少していなかった(図1)。第2に、規制緩和の効果は、犯罪の初期レベルが高い地域での公共の安全の改善といった、規制撤廃に先立って発生した犯罪に関する他の地理的傾向を考慮してもなお存在する。

 

ジェントリフィケーションによってケンブリッジの犯罪は全体として減少した。このことは、FBI統一犯罪統計報告書を用いてケンブリッジの経験したことを同規模の自治体を比較することで確認された。我々の以前の研究では、規制緩和後の10年間でケンブリッジの住宅用不動産の市場価値の評価が20億ドル上昇したことが示されている。そうした価値の増加のどの程度が、同時に起きた犯罪の減少によって引き起こされたものなのか? 我々は、犯罪減少の経済的価値を測るために犯罪学の文献でよく使用される犯罪の金銭的・非金銭的コストの推定(Cohen and Piquero 2009)を用いる。この方法で、公共騒乱に分類される平均的な犯罪のコストは、住民に対するディスアメニティ(快適ではない環境)の点で約5,000ドルかかる一方で、平均的な暴力犯罪では、関連するディスアメニティの価値が60,000ドルを上回る(表1参照)。犯罪の減少を合算し、Cohen and Piquero(2009年)の推定を用いて評価したところ、ケンブリッジの犯罪の年間の減少は、都市住民に対して年間約1,000万〜1,500万ドルの価値があることが分かった。公共の安全の改善は安定しており、永続性があるように見えるため(図1参照)、このケンブリッジの犯罪の変化が物件の価値をどれだけ高め得たかを推定することができる。我々は、5%の割引率を用いて、規制緩和によって誘発された公共の安全の改善の価値を約2億ドル、つまり、家賃の統制の解除によって生み出された不動産価値の増加全体の10~15%と見積もっている。

 

ジェントリフィケーションは不動産価値を高めるが、勝者と敗者の両方を生み出す可能性がある。ケンブリッジの経験も例外ではない。賃料統制の撤廃により、犯罪の総数は16%、年間の通報件数で1,200件が減少した。その効果の大部分は窃盗事件の減少によって生じている。この犯罪の全体的な減少は、ケンブリッジ市で2億ドル分の経済的価値を創出した。こうした推定は、公共の安全の向上がジェントリフィケーション・プロセスの重要な部分であるという厳密な証拠を提供している。同時に、そのプロセスが必ずしも全ての住民に利益をもたらすわけではないことを示唆している。1995年以前に最も賃貸管理を受けていた地域で管理終了後の転居が最も多くなっており、これは、管理されたユニットの賃借人にとって、既存のユニットは高額すぎることを意味している。こうした住民の多くがケンブリッジを離れ、より費用のかからない自治体に移った可能性が高い。その後、新しい賃借人が流入したことで、税収と家主の純利益はおそらく増加したが、ジェントリフィケーションによって転居した人々は、必ずしも近隣の安全やその他のアメニティの改善から利益を得たわけではない。

【参考文献】

Aliprantis, D and D Hartley (2015), “Blowing it up and knocking it down: The local and city-wide effects of demolishing high concentration public housing on crime”, Journal of Urban Economics 88: 67–81.

Autor, D H, C J Palmer, and P A Pathak (2014), “Housing Market Spillovers: Evidence for the End of Rent Control in Cambridge, Massachusetts”, Journal of Political Economy 122(3): 661–717.

Autor, D H, C J Palmer, and P A Pathak (2017), “Gentrification and the Amenity Value of Crime Reductions: Evidence from Rent Deregulation”, NBER Working Paper No. 23914.

Cohen, M A and A R Piquero (2009), “New Evidence on the Monetary Value of Saving a High-Risk Youth”, Journal of Quantitative Criminology 25(1): 25–49.

Covington, J and R B Taylor (1989), “Gentrification and Crime: Robbery and Larceny Changes in Appreciating Baltimore Neighborhoods during the 1970s”, Urban Affairs Review 25(1): 142–172.

Cullen, J B and S D Levitt (1999), “Crime, urban flight, and the consequences for cities”, Review of Economics and Statistics 81(2): 159–169.

Ellen, I G, K Horn, and D Reed (2017), “Has Falling Crime Invited Gentrification?”, Census Bureau Center for Economic Studies Paper No. CES-WP-17-27.

Farrell, G, N Tilley, A Tseloni, and J Mailley (2011), “The crime drop and the security hypothesis”, Journal of Research in Crime and Delinquency 48(2): 147–175.

McDonald, S C (1986), “Does gentrification affect crime rates,” Crime & Justice 8: 163–201.

Papachristos, A V, C M Smith, M L Scherer, and M A Fugiero (2011), “More Coffee, Less Crime? The Relationship between Gentrification and Neighborhood Crime Rates in Chicago, 1991 to 2005”, City & Community 10(3): 215–240.

Sampson, Robert J, Stephen W. Raudenbush, and Felton Earls, “Neighborhoods and Violent Crime: A Multilevel Study of Collective Efficacy”, Science 277(5328): 918–924.

Taylor, R B and J Covington (1988), “Neighborhood Changes in Ecology and Violence”, Criminology26(4): 553–590.

Van Wilsem, J, K Wittebrood and N D De Graaf (2006), “Socioeconomic dynamics of neighborhoods and the risk of crime victimization: A multilevel study of improving, declining, and stable areas in the Netherlands.” Social Problems 53(2): 226-247.

Wilson, J Q and G L Kelling (1982), “Broken Windows,” The Atlantic Monthly, March: 29–38.

Wilson, W J (1987), The Truly Disadvantaged: The Inner City, the Underclass, and Public Policy, University of Chicago Press.

マリファナへの課税

Benjamin Hansen, Keaton Miller, Caroline Weber, “Taxing marijuana

”(VoxEU.org, 04 November 2017)

税収は歴史的に、マリファナの合法化を擁護する論拠の1つだった。このコラムでは、課税が産業と消費者行動にどのように影響を与えるのかを探るため、ワシントン州のマリファナ税制の改正について取り上げる。総収入税はある種の租税回避として垂直統合を促し、期待税収を減少させる。また、何に対して課税するかという選択(収益か重量か)も同じく、市場がどのように進化するかについて重要な意味を持っている。

 

2015年に行われた調査で、何らかの形でマリファナを合法化するのを支持したアメリカの成人が初めて過半数を超えた(Motel 2015)。嗜好用マリファナの市場が既に存在する、あるいは近いうちにできる州は8つ(全米の人口の21%)ある。カナダやコロンビア、オランダ、スペイン、南アフリカ、ウルグアイも、何らかの形で嗜好用マリファナを合法化している。課税によって税収を得られるということは、マリファナの合法化を擁護する主な論拠の1つとなっている(Miron and Zwiebel 1995)。しかし、この論文は闇市場のマリファナについて取り上げているため、合法的なマリファナ市場における行動についてはほとんど分かっていない。そのため、税収創出や社会福祉のための最適政策は何かも同じく分かっていない。実際、それぞれの州の議員らは様々に異なる政策を実施している。コロラド州は小売業者に対し、販売する製品の80%を自ら栽培するよう求めているが、ワシントン州は小売業者が栽培を行うことを禁じている。税率に関しても、ワシントン州の現在の税率は37%だが、メイン州は10%になっている。

 

ワシントン州の事例

我々は最近の論文で、2014年7月8日から小売店で嗜好用のマリファナを入手できるようになったワシントン州の市場を研究することによって、政策と関連する重要な行動に関する新たな証拠を示している(Hansen et al. 2017)。我々は、州が集めた包括的な「種から販売まで」のデータ、つまり、州内で生産された全てのマリファナの栽培・生産・販売プロセスを追跡したデータを用いた。また、我々は、ワシントン州の市場で入手できるマリファナ製品の価格や品質、種類を調査した。一方、マリファナ産業に関する先行研究では、調査や当局の押収によって分かった価格、インターネット上のデータを通して違法市場の研究が行われている(e.g. Jacobi & Sovinsky 2016)。

 

我々の研究では、ワシントン州の税制改正の事例を取り上げている。同州の2015年7月1日以前の税制では、サプライチェーンの中で行われる全ての取引と小売の時点で、取引毎に25%の総収入税が課されていた。税制改正により2015年7月1日以降は、小売の時点で37%の消費税が課されるだけとなった。重要なのは、この改正が市場関係者にとって突然の出来事だったということだ。改正案がワシントン州議会特別会を通過したのは2015年6月27日で、知事が署名したのは6月30日だ。我々は、この外因性の変化が市場で行われる決定に及ぼす影響を推定する。

 

税制が垂直統合に与える影響

ワシントン州のマリファナは、法定された3つのプロセスを通して生産される。生産者が大麻草を育て、加工業者がそれを「使えるマリファナ」に加工し、最終的に小売業者が小さく個包装して消費者に販売する。改正前の税制では、マリファナを栽培・加工する垂直統合された業者は、栽培業者と加工業者の間の取引について通常課される25%の総収入税を回避することによって競争利益を得ることができた。

 

我々は、改正前の税制が合法的なサプライチェーンの間の垂直統合を促進していたことを明らかにした。小売されているマリファナ製品の由来を調査することによってこの行動を捉えたのだ。改正前は、図1の上のパネルから分かるように、卸売のマリファナ取引の94%が垂直統合された生産者と小売業者の間のものだった。一方改正後は、垂直統合された生産者に由来する取引は約90%になった。一方で、図1の下のパネルから分かるように、垂直統合されていない事業者が生産したマリファナの重量は42%増加した。こうした結果から分かることは、改正前の総収入税が、同税の廃止後にも残るサプライチェーンの非効率性を生み出したということだ。我々はこの仮説を検証するため、新規参入する生産者が最初の1週間に行った取引に絞って分析を行った。つまり、参入に必要な固定費を払う前に事業者が行う垂直統合に関する決定を明らかにするということだ。我々は、垂直統合された取引の減少率が4倍の16%になる一方で、垂直統合されていないマリファナの重量の増加率が2倍の105%になっていたことを明らかにした。

 

経済学者は何年もの間、総収入税が垂直統合につながると論じていたが、我々は初めて、こうした行動の証拠を提示した。いくつかの州がこうした税を検討、あるいは実施しているため(Kaeding 2017)、このことは今日の政策にとって、これまで以上に大きな意味がある。

図1 垂直統合

注:図中の数値は、税制改正と連動した垂直統合の傾向と体制移行を示している。

 

マリファナが合法化されている8州のうち7州には、売上税あるいは消費税があるが、一部の州は栽培税も課している。我々の研究では、栽培税は垂直統合に向けたインセンティブに直接影響を与え得るということが示されている。さらに、アラスカ州とカリフォルニア州の栽培税は重量のみに基づいて課され、コロラド州の卸売税は州内で販売されるマリファナのグラムあたりの平均価格に基づいて課されている。こうした州での税額は、マリファナの卸売価格と無関係に設定される。こうした税金は、低品質で効き目が低くなりがちな安価なマリファナにとっては相対的に高くなる。従って、アラスカ州とカリフォルニア州、コロラド州の税制は、供給業者がより高価で効き目のあるマリファナの生産へと向かう誘因となる可能性がある。

 

消費者の価格感応性 

税を定める政策当局にとって、需要の価格弾力性と税負担が第一の関心事だが、製品が多岐にわたることにより分析が複雑になっている。典型的な小売業者はいつでも多くの製品を取り扱っている。我々は、消費者が異なる製品を代用するようになることを説明し、同じ製品に消費者が払う税込価格が2.3%増加したことを明らかにした。また、購入量が0.95%減少したことも分かったため、推定は荒いが、短期の価格弾力性は-0.43となる。しかし、時間が経つにつれて反応量の大きさは著しく増加していき、我々の推定では、改正から2週間の需要の価格弾力性は約マイナス1となっている。我々は、マリファナに対して全米で最も高い税を課しているワシントン州は、ラッファー曲線の頂点近くにあるため、さらに税率を高くしてもおそらく税収は増えないと結論づけた。

 

図2は、1グラムあたりのマリファナの平均税込小売価格の内訳をまとめたものだ。左右の棒グラフはそれぞれ、税制改正前と後の小売価格の内訳を示している。我々は、加工業者に渡る額や小売にかかる税額、生産者の元に残る額がそれぞれどれくらいなのかを考察している。税制改正前については、価格と税(ドル)は全て、改正の1か月前の全事業者の平均価格に基づいている。改正後の数値については、改正前の平均に我々が推定した価格反応を適用して計算している。これにより、市場の構成を一定に保つとともに、価格の長期的傾向と消費者の消費パターンの変化を除外している。

図2 市場全体のマリファナ1グラムあたりの平均価格及び税負担

注:この図は、税制改正前と後について、マリファナ1グラムあたりの平均小売価格を示している。我々はその後、加工業者に渡る額や小売にかかる税額、生産者から購入するのに必要な額がそれぞれ平均でどれくらいなのかを考察している。税制改正前については、価格と税(ドル)は全て、改正の1か月前の平均価格に基づいている。改正後の数値については、改正前の価格を、改正によって生じると推定した変化に基づいて調整したものになっている。これにより、市場の構成を一定に保つとともに、価格の長期的傾向を除外している。

 

税率の変更、及び小売業者の限界原価の調整(加工業者に課せられる税が変わったことを受けて加工業者の価格が変化するため)を考慮すると、消費者は小売税の負担の約44%を負うことが判明した。この結果は、タバコやガソリンの税負担に関する文献とは対照的だ。そうした文献では一般的に、消費者が税負担の圧倒的多数を負担している (Harding et al. 2012, Kopczuk et al. 2016)とされていて、消費者に転嫁される税の割合が1を超えることすらある(Barnett et al. 1996, Kenkel 2005)。この違いについてもっともに思える1つの説明は、我々が推定したマリファナの中期的な需要の価格弾力性が、タバコやガソリンについて定説となっている推定より高いということだ。あるいは、ワシントン州のマリファナ市場における厳しい所有制限や量的制限が、こういった他の市場と比べて特異なマーケットパワー効果や摩擦につながっている可能性がある。この違いは、総収入税から消費税への切り替えに際し、一部の小売業者については支払う見込みだった連邦所得税の額が減少したことによっても説明もできる。

 

最適性に関するより広範な見方

消費税の税収最大化をめぐってシンプルな分析を行うと、マリファナを合法化した全ての州の中で最も高い税率を課しているワシントン州は、おそらくラッファー曲線の頂点近くにあり、さらに課税を行えば、州の限界収入が減少するおそれがある。我々はまた、課税の種類が重要だということを強調した。生産者に課される総収入税は、ある種の租税回避として垂直統合を促し、その結果期待税収を減少させる。さらに、税の種類と併せ、何に対して課税するか(例えば収益や重量)の選択が、市場構造や販売される製品の種類の面でマリファナ産業がどのように進化するかということに対して重要な意味を持っている。これは特に、急速に成長しているマリファナ産業の未熟な性質と関係している。

 

税収は歴史的に、マリファナ合法化を擁護する多くの論拠の1つだったが、より広範な社会的意味でマリファナ政策の影響を評価すること(及び、最適政策を組み立てること)には、さらなる考察が必要だ。1つは、マリファナ消費の公衆衛生の面での外部性がはっきりしていないことだ。同様に、合法的なマリファナ消費と、アルコールやたばこといった他の「罪な」商品の消費の間の関係もはっきりしていない。もし、マリファナを擁護する多くの人が主張するように、マリファナ消費が公衆衛生の観点からアルコールやタバコの消費より「良い」ということが本当なら、マリファナの最適課税は、こうした他の市場における反応も考慮に入れて考案されるべきだ。同様に、過度な課税を行えば、合法のマリファナで置き換えようとしている非常にブラックな市場を下支えする可能性がある。当局がマリファナ合法化を検討する際、また最適政策のあり方について議論する際、こうした兼ね合いを研究し、考慮すべきだ。

 

参考文献

Barnett, P G, T E Keeler and T W Hu (1995), “Oligopoly structure and the incidence of cigarette excise taxes”, Journal of Public Economics 57(3): 457-470.

Hansen, B, K Miller and C Weber (2017), “The taxation of recreational marijuana: Evidence from Washington state”, NBER, Working paper 23632.

Harding, M, E Leibtag and M F Lovenheim (2012), “The heterogeneous geographic and socioeconomic incidence of cigarette taxes: Evidence from Nielsen Homescan Data”, American Economic Journal: Economic Policy 4(4): 169-198.

Jacobi, L and M Sovinsky (2016), “Marijuana on Main Street? Estimating demand in markets with limited access”, American Economic Review 106(8): 2009-45.

Kaeding, N (2017), “The return of gross receipts taxes”, Tax Foundation, 28 March 2017.

Kenkel, D S (2005), “Are alcohol tax hikes fully passed through to prices? Evidence from Alaska”,American Economic Review 95(2): 273-277.

Kopczuk, W, J Marion, E Muehlegger and J Slemrod (2016), “Does tax-collection invariance hold? Evasion and the pass-through of State diesel taxes”, American Economic Journal: Economic Policy8(2): 1-36.

Miron, J A and J Zwiebel (1995), “The economic case against drug prohibition”, The Journal of Economic Perspectives 9(4): 175-192.

Motel, S (2015), “Six Facts about Marjuana”.

リヴァイ・ボクセル 「インターネット・ソーシャルメディア・政治分極化」 (2017年10月1日)

Levi Boxell, “The internet, social media, and political polarisation” (VOX, 01 October 2017)


インターネットは、近年の政治の分極化について相当な汚名を着せられてきた。合衆国のデータを用いつつ本稿が主張するのは、政治分極化の強まりという少なくとも1970年代まで遡れる一般動向について、インターネットはじつのところ何ら重要な役割を果たしてこなかったこと、これである。本研究結果は、都合のよい物語をとおした説明にとどまらない視点をもつことの重要性、そして政治的気分をうみだす諸要因をより深く理解することの必要性を照らし出す。

合衆国選挙民のあいだで近年政治の分極化が進んでいる旨を示唆する文献が増えている (例: Abramowitz and Saunders 2008, Iyengar et al. 2012)。1994年、政党支持者 (party affiliates) のおよそ20%が反対政党について 「強く不支持 (very unfavourable)」 の見解をもっていた。2016年までに、この数字は55%超に高まり、現在も減速の兆しは全くみられない (Pew Research 2016)。1994年から2014年にかけて、政治ポリシーにかんする質問群をとおし強固に一貫したイデオロギー的見解をもつアメリカ人の割合は、2倍以上に膨らんだ – すなわち10%から20%超に増加した (Pew Research 2014)。

政治分極化にたいする関心のほうも空前の高まりをみせている。Google Trendsが示すところでは、合衆国における政治分極化に関連した検索の件数は2016年の11月、2004年のモニター開始以降のいずれの選挙月をも上回るものとなった1。Gentzkow (2016) も、1950年から2008年にかけてのGoogle Books Ngram Viewerデータにおける政治分極化への言及について、同様の結果を得ている。

政治分極化の強まりの説明としてよく引用される仮説の1つは、インターネットとソーシャルメディアを主たる要因とするものだ。Cass Sunstein (2007) の次のような言葉は、この議論の標準型を示している:

インターネットのおかげで甚だしく容易になったのは自分の見解の後押しとなる膨大な資料を渉猟し … [なおかつ] それと反対の趣旨をいう資料のいっさいを排除することだ … このセルフ-ソーティングがもたらす重要な帰結に、飛び地の過激主義 (enclave extremism) とでも呼びうるものがある。同好の士からなる飛び地にゆき着いた人々は、通例そこからさらに極端な地点に向かってゆくものだ

よく知られたEli Pariser (2011) や Cass Sunstein (2001, 2009, 2017) の著作は、インターネットが 「フィルターバブル」 ないし 「エコーチャンバー」 の役割をはたすというこの考えについて詳説したものだ。

個人は、インターネット上で同好の士的な情報源をじじつ見い出しており、またソーシャルメディア上でも同好の士的な個人と繋がる傾向が比較的強いこと、これについては強固な実証データが存在する。既存研究は、政治ブログ上でのリンク (Adamic and Glance 2005)、ウェブサイト訪問 (Gentzkow and Shapiro 2011)、Twitter上の政治的リツイート (Conover et al. 2011)、ソーシャルメディア上の記事シェア・クリック (An et al. 2014, Bakshy et al. 2014, Flaxman et al. 2016)、Twitter上の政治的同類性 (Colleoni et al. 2014, Gruzd and Roy 2014, Halberstam and Knight 2016) などにおける住み分け (segregation) を明らかにしてきた。

図1 メディアと交流形態でみたイデオロギー的住み分け

出典: Gentzkow and Shapiro (2011).

しかしながら、オフラインの情報源とオンラインの情報源を比較する段になると、諸研究はどちらにも同程度の分節化レベルを見い出している。図1はGentzkow and Shapiro (2011) から取ったものだが、ウェブサイト訪問にかんする分節化をみると、これは全国紙にかんする分節化ほどではないが、地方紙にかんする分節化よりも激しいといった具合になっている。Halberstam and Knight (2016) もTwitter上の政治ネットワークを調べて、Twitter上の政治ネットワークとオフラインの政治ネットワークの分節化が同程度であることを明らかにしている。なお付言しておくと、インターネット上の情報源にかんする分節化はたしかに示唆的であるが、これはインターネットが分極化を促したという命題の必要条件でもなければ十分条件でもないのである。

図2 標準化した政治分極化の指標の動向 (1972–2016)

出典: Boxell et al. (近刊).

最近の論文で私は共著者らとともにインターネットと政治分極化の関係を調査している。そのさい 「全米選挙研究 (American National Election Studies)」 のサーベイデータを用いることで、オンライン情報へのアクセスで異なる人口学的諸集団をとおしてみた分極化動向の比較をおこなった (Boxell et al. 近刊)。研究における発見が個々の政治分極化基準によって左右される程度を減らすため、我々はこれまで関連文献で用いられてきた8つの基準をもとにあらたに1つの標準化指標を作成した。なおこれまでの尺度とは、Abramowitz and Saunders (2008) のイデオロギー整合性の尺度、Mason (2015) の党派的ソーティングの尺度などをさす。図2には、我々の指標の1972年から2016年にかけての動向を示した (1996年に値が1となるように標準化した)。本期間をとおし分極化には安定した上向きの動きがみられる反面、インターネットの勃興に対応する変節点を示す兆候はまったく確認できない。1996年以前の動向だけみても、政治的分極化の説明においてインターネットが果たし得る役割は限られていそうだ。

くわえて図3が示すように、分極化は1996年から2016年にかけて高齢者 (65+および75+の年齢層) のほうが青年 (18-39の年齢層) よりも急激に進行した。さらに、予測インターネットアクセスを計る尺度として人種や教育といったその他の人口学的変数を取り入れたより包摂的なものを用いた場合、1996年においてインターネットアクセスを享受していた可能性が最も低い人口学的諸集団のほうが、1996年においてインターネットアクセスを享受していた可能性が最も高い人口学的諸集団よりも、大きな分極化の変化を被っていたことが確認できた。

図3 さまざまな年齢層の政治分極化 (1996-2016)

出典: Boxell et al. (近刊).

インターネットないしソーシャルメディアへの直接的なアクセスが政治分極化の主要要因であるとすれば、予想される動向はこれと正反対になるはずだ。高齢者 (65+) が選挙キャンペーンにかんする2016年のニュースをオンラインで視聴していた可能性は、青年 (18-39) のおよそ半分であり、ソーシャルメディアを利用していた可能性はさらに少ない。それにもかかわらず、最大の政治分極化を被ったのはこの相対的年長者の層なのだ。これら事実を念頭におけば、諸年齢層にわたるインターネットアクセスへの反応の大きな不均一性、あるいは諸年齢層にわたる相当な波及効果を考慮しないまま、インターネットないしソーシャルメディアが現在みられる政治分極化の主要要因であるとする物語を作り上げることはできなさそうだ。

以上の発見は、インターネットないしソーシャルメディアが政治分極化に及ぼす影響を否定し去るものではない。事実、インターネットが僅かながら影響をもつ可能性を示す実証データも存在する。Lelkes et al. (2017) は恐らくは外生的だと思われる管路敷設権立法 (right-of-way legistlation) の変化を援用しつつ、ブロードバンドの普及が対象カウンティにおける感情的分極化 (affective polarisation) を一定程度強めたとの主張をしている。ただ同著者らは 「我々は、ブロードバンドが党派的反感の強まりを引き起こした唯一の原因などと主張するものではない。あるいは主要な原因ですらないかもしれない … 感情的分極化は少なくともインターネット利用が始まる二十年前には強まり始めていた」 と述べ、自らの発見を穏当なものにとどめている。またこれら研究結果は、諸年齢層にわたる感情的分極化の違いを説明するものでもない。

ところで、2016年の選挙結果をインターネットおよびソーシャルメディアの責めに帰すよく似た物語がある。選挙後、ヒラリー・クリントン氏は、自身の敗北の一因はフェイクニュースとFacebookだったと仄めかした。我々の論文では、人口学的諸集団にわたり投票率を比較することで、2016年の選挙にインターネットが及ぼした影響についても調査している。ドナルド・トランプ氏がインターネット利用性向の相対的に高い人口学的諸集団から獲得した票の比率が、以前の大統領達よりも大きかった旨を示す実証データはまったく確認されなかった。じっさいのところ、我々の点推定値はそれと正反対の構図を示唆している – トランプ氏はインターネット利用性向の高い人や実際のインターネット利用者のあいだでは比較的振るわなかったようなのだ。トランプ氏の支持者に占めるソーシャルメディア利用者の割合、および人口学的諸集団をとおしてみた投票率の違いを調べたHampton and Hargittai (2016) も同様の結論に至っている。

今日の合衆国には諸政治集団のあいだに相当な断裂がさまざま存在し、しかもこれら断裂が埋まってゆく気配もみえない。政治分極化やポピュリスト的な大統領候補の席巻を理解しようと試みるさい、インターネットやソーシャルメディアをやり玉に挙げたくなる気持ちも分からなくはない。しかしながら、人口学的諸集団にわたる基本動向は、どちらの現象を説明するにしてもインターネットが大きな役割を与えるような物語を支持するものとはなっていない。メディア消費は従来型メディアを離れこうした新たなプラットフォームに向かうシフトを続けており、我々もまたこれらプラットフォームの利用形態およびその政治領域への影響を注視し続けてゆく必要がある。だが、前述の結論を覆す新たな実証データが現れるまでは、FacebookフィードやGoogle検索に代わる何かがあれば我々の直面している政治問題が解決されるなどと考えるべきではない。

参考文献

Abramowitz, A I and K L Saunders (2008), “Is polarization a myth?”, The Journal of Politics 70(2): 542—555.

Adamic, L A and N Glance (2005), “The political blogosphere and the 2004 US election: Divided they blog”, Proceedings of the 3rd International Workshop on Link Discovery: 36–43.

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Bakshy, E, I Rosenn, C Marlow and L Adamic (2012), “The role of social networks in information diffusion”, Proceedings of the 21st International Conference on World Wide Web: 519–528.

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Boxell, L, M Gentzkow and J M Shapiro (forthcoming), “Greater internet use is not associated with faster growth in political polarization among US demographic groups”, Proceedings of the National Academy of Sciences.

Colleoni, E, A Rozza and A Arvidsson (2014), “Echo chamber or public sphere? Predicting political orientation and measuring political homophily on Twitter using big data”, Journal of Communication, 64:317–332.

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Flaxman, S, S Goel and J M Rao (2016), “Filter bubbles, echo chambers, and online news consumption”, Public Opinion Quarterly 80(S1): 298–320.

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Gentzkow, M and J M Shapiro (2011), “Ideological segregation online and offline”, Quarterly Journal of Economics, 126(4): 1799–1839.

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Hampton, K N and E Hargittai (2016), “Stop blaming Facebook for Trump’s election win”, The Hill.

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Lelkes, Y, G Sood and S Iyengar (2017), “The hostile audience: The effect of access to broadband internet on partisan affect”, American Journal of Political Science 61(1): 5–20.

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Sunstein, C R (2009), Republic.com 2.0, Princeton, NJ: Princeton University Press.

Sunstein, C R (2017), #Republic: Divided democracy in the age of social media, Princeton, NJ: Princeton University Press.

Endnotes脚注

[1] See https://trends.google.com/trends/explore?date=all&geo=US&q=%2Fm%2F02shm1 を参照

経済学は何を研究しているのか?

経済学者は何を研究しているのか? From VoxEU

Christopher Snyder,  ダートマス大学経済学部教授

2017年8月12日

 

概要: メディアが経済学にネガティブな光を当て続けているなか、我々の分野が一般層にどのように語られているのかについて再考する価値はあるでしょう。このコラムは、経済学の基本的な原理ですら多くの人々が可能だと考えているよりも広い範囲の問題を説明する力があって非経済学者を驚かせることができることを説明します。

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ジョナサン・ハイト「クルーグマンは間違ってないかな? 私たちは保守ではないし、キレてないですよ」(2016年2月24日)

Krugman is wrong? We are neither conservative nor outraged by Jonathan Haidt | Feb 24, 2016 |

※訳注:本エントリは、アメリカの経済学者であるポール・クルーグマンが、リベラル派とされている新聞ニューヨーク・タイムズの2016年1月4日付けで寄稿したコラムへの、ジョナサン・ハイトの反論である。
経済学者のノア・スミスを通じてハイトらの『ヘテロドクスアカデミー』の活動を知ったクルーグマンは、「ハイトらの活動は、アメリカ市民の間で保守政党である共和党の支持が上昇している現象を、アカデミアへ反映させようとしている保守反動運動であり、アカデミアに左派が多い事実への怒りの反応である」とハイトらを揶揄・批判している。
『ヘテロドクスアカデミー』とは、本エントリの著者である心理学者ジョナサン・ハイトらが主催し、大学の多様性を目指す組織である。2007年3月段階で、主催者のハイト自身による展望と目標等を記した記事の翻訳は本サイトのココで読むことが可能。

【付記】以下の投稿は2016年の2月に書かれたものです。しかし、2017年の1月の時点で、私たちのヘテロドクスアカデミーの政治的な多様性に変化がありましたのでこの付記を冒頭に加えます。
ヘテロドクスアカデミーはどの教授たちに対しても門戸を開いていたので、会員数は363名に達し、政治的なカテゴリー配置もとても良くなりました。おそらく私たちは今現在、とても政治的なバランスが取れており、大学群の中で多様性を持つ組織と言えるでしょう。以下はヘテロドクスアカデミー会員の申し込み時における分類表です。
ハイト構成員2
【本文:以下は2016年の2月24日に書かれた最初の投稿です】
「保守派は大学でのリベラル派1 の切れ味鋭い運動を見て怒り狂った」とポール・クルーグマンはヘテロドクスアカデミーに最近反応しました。これに、私は2つの理由で愉快に感じました。

1つ目に、私たちは怒っているのではなく、心配しているのです。そこには大きな違いがあります。感情は理性を歪ませてしまいます。それが故に、怒りの感情は、学問的良識において常にふさわしくありません。(ちなみに、読者を常に怒りの状態に囃し立てるような書き方をする学者には注意すべきでしょうね。)
クルーグマンが反応した、このページの論調2 は、ヘテロドクスアカデミーのどのページとも同じように、冷静かつ計算されたものとなっています。私たちは大学で多様な見解を失うことを心配しているのです。なぜなら、多様な見解を失うことは「[大学における]制度化された批判思想」を失うことを意味する事に他なりません。さらに政治的にオーソドックスな訓練によって産み出された研究の質が失われてしまうことも心配しています。つまり、私たちは大学内で[多様性の確保等]の状況を改善するために活動しているのです。

2つ目に、私たちは保守派ではなく、多様派なのです。少なくとも私たち自身はそう思っていますが、実際には確認していませんでした。ある内部会合で、私たち自身が何であるのかを簡単に定義できない気付きました。会員数はその時点で27名に達していたので、私たちの定義を探すのに良い機会だと考えました。簡単な匿名形式のWEBアンケートを作り、全ての会員に配布し25名の回答を得ましたので、以下に示します。

質問:「大統領選と下院選のときに、あなたはどちらの政党に普段は投票しますか?」
下記の図に示されている通り、私たちは二つの政党に分かれました。9名(36%)だけが、いつも共和党に投票しています。
典型的投票先

質問:「どのイデオロギーがあなたの総体的な政治的認識や自画像に近いですか?」
下記の図に示されている通り、私たちのなかでは「中道派ないし穏健派」(36%)が最も多く、次いで「リバタリアンないし古典的自由主義者」(32%)となりました。さらに私たちの中で3人(12%)が「進歩派ないし左派」と自称しています。5人(20%)だけが「保守派ないし右派」と自身を位置づけています。つまり、どのような視点から考慮しても、保守派は5分の1以上もおらず、「怒れる保守派」と位置づけることは困難でしょう。
政治的アイデンティティ

メンバーに社会問題について尋ねた時には、非常に左寄りの傾向が示されました。5人(20%)だけが右寄りな回答に留まっています。
社会問題

メンバーに経済問題について尋ねた時には、グラフは反転しました。4人(16%)だけが左寄りな回答を示しました3
経済問題

結論として、ヘテロドクスアカデミーはとてもヘテロドクス(異端)です。社会科学や人文科学や法学の組織で、私たちのような多様な視点を持っている組織はどのくらいあるのでしょうか?
続けると、複雑で政治的でもある公的な思想や信条に関して、注意深く考えている人はだれでしょうかね? 典型的な学問組織? それとも私たち? 私たちを選びましょうね。もしそうで無いのなら、それこそキレちゃいますよ。

※訳注:訳者による補足、註釈の文面は基本的に[]で囲っている。
※訳注:本エントリは、氏が全訳し、WARE_bluefieldが代理で投稿している。なお、☆氏の許可の元、書体等の一部文章を訂正している。訳注も基本的に☆氏によるものである。

  1. 訳注:原文ではLeftwardとあるので、日本語の用法を使ってリベラル派とした。 []
  2. 訳注:このページでハイトらは、アメリカではリベラル派の多いベビーブーマー世代が大学ポストで主流になることで教育に偏りが生じており、ブランクスレート説(人間の精神は白紙の状態で生まれ、いかなるイデオロギーでも書き込み事が可能とする政治・哲学・心理学的思想)の生徒への押し付けなどが起きているとしている。また、その状況を改善するために多様性に基づいた改善活動を提唱している。 []
  3. 訳注:ここで言われている「経済的に右寄り」とは、本来的な意味(市場に任せて、政府の介入を避ける)を指していると思われる。いわゆる日本における経済的政策のねじれを含んだ意味ではないことに注意。 []

ジョセフ・ヒース『反リベラリズムの解剖学』(2017年02月19日)

The anatomy of anti-liberalism
Posted by Joseph Heath on February 19, 2017 | Canada, multiculturalism

protest-masjid-toronto

金曜日(17日)、カナダ市民は、醜悪な見世物に直面させられた。トロントにあるモスクのすぐ外で、ムスリム系移民の停止と、カナダにおけるイスラム教の禁止を訴える抗議活動が行われたのだ。報道によると、抗議活動の参加者は、総計でわずか15人だったようだ。なので、わざわざ騒ぎ立てることではない。しかしながら、この件が、103号動議1 に関してウソを付き続けている、あるいは馬鹿騒ぎを続けている、カナダ保守党の構成員全員に、自制を促す事にはなるべきだろう。

この件にこれ以上言及する必要は感じないが、CBCラジオによる、抗議活動の参加者の1人である、女性へのインタビュー(オンラインでは聞けないようだ2 )は、グレートですよこいつはァ、という感じであった。多くの人が、党派性に縛られないリベラル3 な社会認識を共用している、との今日の一般的見解がある。この見解は、まったく実情にそぐわない事を、私は多くの事例から知っている。ただそれにしても、反リベラル的見解が、ここまで簡潔で要を得て意思表示されているのを、見聞きできることは滅多にない。インタビュアーが、女性に「あなた方の抗議活動と、シナゴーグ4 前で反ユダヤ主義の抗議活動を行っている人との、違いは何ですか?」と根源的な問いを行っている。女性の返答は、おおよそになるが「ユダヤ主義は邪悪じゃないが、イスラムは邪悪」だった。

完璧な返答だ。彼女らはもはや信教の自由すら認めていない。単純に宗教をひとつづつ見比べた後に、『善』と『邪悪』を判別し、『善』だけを認めよう、というわけである。誰か、ケリー・レイッチ5 に教えてやるべきだ。 移民を『選別』する、よりよい方法として『善』なる人と『邪悪』なる人を単純に分けた上で、『善』なる人だけを残すのである。邪悪に仕える人を除けば、この選別政策に反対する人なんていないだろう?

この件は、人は本当に『リベラリズム』をどの程度受け入れているか、どの程度自分のものにしているかどうか、を測定する良いテストとして出題されている。[反イスラームの]抗議者達の主張を聞いた時の、あなたの率直な反応が「馬鹿馬鹿しい。イスラム教は邪悪じゃない」のようなパターンだったら、あなたはインタビューに答えていた女性とだいたい同じくらいリベラルだ。もし反応が「馬鹿馬鹿しい。個人の自由に関する問題群が、『善悪』かどうかだけの皮相的な判定に収まるわけがないだろう」のようなパターンだったら、主流派エリートの見解へようこそ!

※※訳注
訳者による補足、註釈の文面は基本的に[]で囲っている。

  1. 訳注:去年のカナダでのモスク襲撃事件を受けて与党・自由党の議員によって提出された、人種・宗教差別を批判する国会動議。カナダ保守党は、言論の自由の見地等を理由にこの動議に反対している。このブログ記事で詳しい日本語による解説を読むことができる。 []
  2. 訳注:現時点では、CBCの報道記事でインタビュー動画を見ることが可能。 []
  3. 訳注:ここでのリベラルは、「他者への寛容」といった意味で使われていると思われる。 []
  4. 訳注:ユダヤ教の教会。正式には『会堂』と呼ばれる []
  5. 訳注:「『反カナダ的価値観』を持った移民を排斥すべきである」と唱えている、去年、ヒースが批判した、カナダ保守党の政治家。 []