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デイビッド・ベックワース「一時的 vs. 恒久的な貨幣注入に関するクルーグマンの議論」

[David Beckworth “Paul Krugman on Temporary vs Permanent Monetary Injections,” Macro Musings blog, February 27, 2018]

ポール・クルーグマンが過去20年のマクロ経済政策をふりかえって、彼じしんや他の誰が想像したのよりも1998年論文日本語版〕が物事を予見していたのを見出している。当時、観測筋の多くはこう想定していた。「中央銀行が――とくに日銀の面々が――物価水準を上げたければ、とにかくマネタリーベースを増やせばいい。」 こんな単純な話をしていたわけ。
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デビッド・ベックワース「パウエル議長が金融政策ルールに言及」

David Beckworth “Fed Chair Jay Powell on Monetary Policy Rules” Macro Musings Blog, February 27, 2018


本日2月27日,ジェイ・パウエルはFed議長としての初めての議会証言に臨んだ。それに加え,彼はFedの金融政策年次報告書を議会に提出した。彼の議会証言,それに続く質疑応答,そして年次報告書の論点は多岐にわたる。ここでは彼の証言のうち非常に興味深く,かつ重要なものともなりうる部分について取り上げてみたい。というのは,ジェイ・パウエルは金融政策ルールを承認(endorsement)したのだ。

議会証言録によれば,彼は次のように発言したとされている。 [Read more…]

タイラー・コーエン 「至る所に市場あり【ツアー編】」(2007年9月18日、2010年11月13日、2015年2月21日)/ デビッド・ベックワース 「南極アイスマラソンツアー」(2009年8月24日)

●Tyler Cowen, “I am so jealous”(Marginal Revolution, September 18, 2007)


至る所に市場ありロンドン発シドニー行きのバスツアーがあるようだ1。シドニーに着くまでに一体どんだけかかるねんとお思いかもしれないが、12週間かかるとのこと。

情報を寄せてくれたJoseに感謝。

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●Tyler Cowen, “Markets in everything”(Marginal Revolution, November 13, 2010)


Courtney Knappに教えてもらった情報だが、「ぬいぐるみツアー」なるものがあるようだ2

あなたからお預かりした大事なぬいぐるみをロマンチックな旅へお連れします。行き先はパリ。お値段は100ユーロから。

当社が責任を持ってあなたの小さなお友達にまるまる一週間かけてパリの絶景をお見せします。壮麗な歴史的建造物にお連れするだけではありません。美しい街路を一緒にお散歩もしますし、豪勢なフランス料理を一緒に満喫もいたします。あなたの小さなお友達をお連れする具体的な場所は以下の通りです。毎晩メールでその日の出来事をお伝えします(旅先でのお写真(30枚超)に渡航証明書、小さな小さなパリ土産もお渡しすることは言うまでもありません)。

あなたの大事なぬいぐるみをお連れする場所:エッフェル塔、シャンゼリゼ通り、エトワール凱旋門、その他多数。

プレミアコースまであるらしい。

あなたの小さなお友達がパリをもっと見たがっているご様子でしたら是非とも延長コースをご確認ください。滞在期間を4日間延長するコースを4タイプ取り揃えております。フランスの首都にある特別な場所へあなたのかわいいぬいぐるみをお連れいたします。

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●Tyler Cowen, “The Sacred Introvert Retreat Tour markets in everything”(Marginal Revolution, February 21, 2015)


今年の5月に「Sacred Introvert Retreat Tour」(内気な人間のためのリトリートツアー。内気な人間に癒しと解放を!)の第一弾が催される。発起人はリサ・エーヴベリー(Lisa Avebury)。ツアー参加者たちはグラストンベリーや南東イングランドの各地を10日間かけて旅する。宿泊地では各人に一部屋ずつあてがわれ、一日置きに「遠征日」が設けられる。「遠征日」には(パワースポットたる)グラストンベリー修道院の静謐な雰囲気の中でゆっくり体を休めて元気を取り戻すのだ。ツアーではストーンサークルやチャリスウェル――聖杯が隠されていると噂される井戸――といった神秘的で由緒あるスポットも訪れる。中世に建てられた教会やローマン・バスを訪れてリラックスしたり、やりたい人だけが集まってヨガで汗をかいたり、日が暮れると火のついた松明(たいまつ)を持って練り歩いたり焚き火の周りに集まったりもするという。

ツアーの発起人であるリサ・エーヴベリーは自分も内気な人間と語る。内気でおとなしい人たちに団体で旅行する機会――それも内気でおとなしい人たちのニーズに応えるような団体旅行の機会、喋らなくても気まずくなくて他人と交わるかどうかが自分で選べて義務付けられていない団体旅行の機会――を与えてやりたいと思ってツアー会社を立ち上げたという。ツアーのお値段は(飛行機代抜きで)米ドルに換算すると3795ドル。今回で終わりにするのではなくて第二弾、第三弾と続けていきたいというのがエーヴベリーの願いだという。

全文はこちら。情報を寄せてくれたMichael Rosenwaldに感謝。

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●David Beckworth, “An Inspiring Picture”(Macro Musings Blog, August 24, 2009)


いつもとは違った話題を取り上げるとしよう。まずは見ているだけで発奮させられるような写真を紹介しよう。

この写真は南極アイスマラソンのワンシーンを切り取ったものだ。南極アイスマラソンツアーの詳細は以下の通り。

第11回南極アイスマラソン(ハーフ&フル)の開催予定日は2010年3月7日。「これぞ自然」という地球の端を走っていると氷山にペンギンにアザラシにクジラが目と鼻の先を通り過ぎていく。南極へ向かう船の上では歴史学者や科学者が(南極についてあれこれと)講義をしてくれるだけではなく、アザラシの棲家やペンギンの繁殖地に近づいたり観測基地に到着するたびに野生動物観察ツアーのガイドを務めてくれる。

こういう風変わりなマラソンにはついつい惹きつけられてしまう。いつか走ってみたいものだ。南極アイスマラソンの他にも万里の長城マラソンだとかキリマンジャロマラソンだとかというのもある。今のところはヒューストンマラソンあたりで妥協してこれでも肺がんや消火器がんの予防に役立っているんだと満足しておくとしよう。

  1. 訳注;基本的にはバスで陸路を移動しながら各国の観光名所を回るが、海を渡るためにフェリーも使われる。 []
  2. 訳注;リンク切れ []

デビッド・ベックワース 「アベノミクスの経過報告」(2017年11月27日)

●David Beckworth, “Abenomics Update”(Macro Musings Blog, November 27, 2017)


「アベノミクス」――日本で継続中の金融政策の大実験――のこれまでを早足で振り返っておこう。

先月(2017年10月)行われた非常に重要な衆議院選挙で安倍晋三首相率いる自民党が勝利を収め安倍政権の続行が決まった。ということはつまり、日本銀行は2%のインフレ目標の達成に向けてこれまで同様にマネタリーベースの拡大を続けるとともに、10年物国債利回りを0%程度に誘導するイールドカーブ・コントロールを継続する見込みが高いということになる。

私は当初こそアベノミクスのファンだったが、次第に少しばかり懐疑的になってきている。「アベノミクスは成果を上げている最中だ」「アベノミクスの継続が決まって嬉しい」。そのように語る論者もいる。ノア・スミスが代表例だが、ウォール・ストリート・ジャーナル紙の記者であるマイク・バード(Mike Bird)もアベノミクスのファンの一人のようだ。日本銀行の政策のおかげで日本経済の実物サイドは順調そのもの。アベノミクスのファンの間からはそのことを示す筋の通った議論が聞こえてくる。

その通りかもしれない。しかし、日本経済の(物価や名目GDPといった)名目サイドはどうなっているだろうか? 結局のところ大事なのは(実質GDPや雇用情勢といった)実物サイドだというのはその通りだが、中央銀行が直接影響を及ぼせるのは経済の名目サイドに限られる。中央銀行の政策が実物サイドに対して何らかの影響を及ぼすとすれば、それはあくまでも名目サイドに対する影響の副産物としてに過ぎない。それに加えて指摘しておくべきことがある。累積する公的債務の実質的な負担を和らげるためにも経済の名目サイドの急拡大(インフレ率や名目GDP成長率の上昇)は欠かせないのだ。 [Read more…]

デビッド・ベックワース 「アベノミクスのこれまでの成果やいかに? ~ハウスマン&ウィーランド論文を読む~」(2014年3月21日)

●David Beckworth, “Abenomics at the Brookings Institution”(Macro Musings Blog, March 21, 2014)


本日(2014年3月21日)行われたブルッキングス研究所主催のBrookings Panel on Economic Activityでは幅広い話題にわたって興味深い報告がなされたが、今回はその中の一つである「アベノミクス」をテーマとした論文について取り上げることにしよう。その報告を行ったのはジョシュア・ハウスマン(Joshua K. Hausman)&ヨハネス・ウィーランド(Johannes F. Wieland)の2人。彼らの論文ではアベノミクスの中でも特に日本銀行による金融政策――2%のインフレ目標の達成に対するコミットメント、無制限の資産購入、マネタリーベースを倍増させる方針――に焦点が合わせられている。アベノミクスについてはこのブログでもしばしば話題にしているが、彼らも私と同様の結論に達している。

本論文での分析結果によると、アベノミクスは2013年中にデフレを終わらせ、長期的な予想インフレ率を高める効果を持ったことが示されている。さらに、アベノミクスは実質GDP成長率を0.9~1.7%ポイント上昇させる効果を持ったとの推計結果も得られている。金融政策単独の効果については主に消費の刺激を通じて実質GDP成長率を最大で1%ポイント上昇させたとの推計結果が得られている。

彼らの見立てでは、アベノミクスが成果を上げている理由は金融政策のレジーム転換に求められるということだ。つまりは、金融政策の新たなレジームへのコミットメントを通じて長引くデフレに苛まれた過去から信頼のおけるかたちで決別したことこそがアベノミクスの好調な結果を支えている理由ということだ。彼らも他の論者と同様にアベノミクスを1933年にフランクリン・ルーズベルト大統領が先導したレジーム転換のエピソードになぞらえているが、アベノミクスはこれまでのところはルーズベルト大統領によるレジーム転換に匹敵するだけの効果をまだ発揮していないという点についても注意が向けられている。その理由としては、実質金利に対する効果の面で違いが見られる(ルーズベルト大統領によるレジーム転換の方がアベノミクスよりも実質金利を一層大きく下落させる効果を持ったと予想される)という点に加えて、日本銀行によるインフレ目標の達成に対するコミットメントがマーケットから完全には信頼されていないという点が挙げられている。そして、日本銀行の(インフレ目標の達成に対する)コミットメントが完全には信頼されていない理由としては、金融政策の過去の失敗(物価に関する目標を達成できずに終わった前例があるために2%のインフレ目標の達成に対するコミットメントが完全には信頼されない結果となっている)に加えて、人口の高齢化に基づく政治経済学的な要因(高齢の年金受給者らによるインフレの嫌悪)が挙げられている。 [Read more…]

デビッド・ベックワース 「歴史の偶然の産物としての金本位制」(2014年3月5日)

●David Beckworth, “The Gold Standard Was an Accident of History”(Macro Musings Blog, March 5, 2014)


ルイス・レアマン(Lewis E. Lehrman)著の『Money, Gold, and History』の書評をナショナル・レビュー誌に寄稿したばかりだ。本書はレアマンがこれまでにあちこちで発表してきたエッセイを一冊にまとめたものであり、「国際的な金本位制へ直ちに復帰せよ!」というのが中心的な主張となっている。レアマンは金本位制の歴史についてかなり楽天的な見方に立っており、金本位制は今でもうまく機能すると考えているようだ。確かに1870年から1914年まで続いた古典的な金本位制に話を限ると比較的うまい具合に機能していたが、通貨としての「金」(ゴールド)の歴史はレアマンが本書の中で描いているよりもずっと微妙で複雑なものだ。私の書評の中からその点を突いている箇所を引用しておくとしよう。 [Read more…]

デビッド・ベックワース 「金本位制をめぐる反実仮想」(2010年9月14日)

●David Beckworth, “A Counterfactual Quesiton”(Macro Musings Blog, September 14, 2010)


タイラー・コーエンが自身のブログダグラス・アーウィン(Douglass Irwin)の興味深い論文を紹介している。仮にアメリカやフランスが自国に大量に流入してきた金を不胎化しなかったとすれば(金の流入に伴って生じるマネタリーベースの拡大をそのまま放置していたとすれば)、正貨流出入メカニズムがその魔力を存分に発揮して世界経済は1929年~1933年の破壊的なデフレーションを避け得たに違いない。アーウィンの件の論文ではそのような反実仮想的な(counterfactual)思考実験が試みられている。似たような議論はこれまでにもなかったわけではない。特に金本位制の支持者の間から次のような主張が語られるのをしばしば耳にするものだ。曰く、金本位制それ自体に問題があったわけではない。アメリカやフランスの金融政策当局が国際金本位制の「ゲームのルール」に従わなかったことに問題があるのだ(アメリカやフランスの金融政策当局は「ゲームのルール」を忠実に守って金の流入を不胎化すべきではなかったのだ)、と。いい機会だから私もアーウィンに倣って反実仮想的な思考実験を試みてみるとしよう。仮に国際金本位制の「ゲームのルール」が守られていたとしたら、その結果として1930年代の大恐慌が回避されていたとしたら、その後の歴史はどう変わり世界の現状はどうなっていることだろうか?

おそらく千通りもの異なる可能性があり得ることだろう(ピーター・テミン(Peter Temin)&バリー・アイケングリーン(Barry Eichengreen)の二人(pdf)が主張しているように、仮に国際金本位制の「ゲームのルール」が守られていたとしたらナチスがドイツで権力の座に上り詰めることもなかっただろうというのもそのうちの一つだ)。数ある可能性の中でもここでは一つの可能性に焦点を絞ってみたいと思う。金本位制が今もなお続いているという可能性がそれだ。もしそうなっていたとしたら戦後の貨幣史はどのように書き換えられることになっていただろうか? 1970年代のグレート・インフレーション(Great Inflation)は回避されていただろうか? もしも回避されていたとしたらポール・ヴォルカー(Paul Volker)は今そうであるように伝説のセントラルバンカーとして歴史に名を刻むようなことにはなっていなかったことだろう(彼が立ち向かうべきインフレという名の怪物がどこにもいないという話になるのだから)。金本位制が今もなお続いていたとすれば、2000年代の住宅バブルの発生にFedが手を貸すようなこともおそらくなかっただろう。金本位制が今もなお続いていたとすれば、Fedは今よりもこじんまりとしていてFedの議長の重要性は今よりも低いものとなっていることだろう(「マエストロ」の異名を持つ議長なんてどこにも見当たらないことだろう)。金本位制が今もなお続いていたとすれば、FOMCの会合でどんな決定が下されるだろうと勘ぐる必要もなくなることだろう(Fedの決定の多くは金本位制を通じて自動的に方向付けられることになるのだから)。金本位制が今もなお続いていたとすれば、「上院は何をぐずぐずしているんだ。大統領が指名したFedの新しい理事候補をさっさと承認すればいいのに」とやきもきする必要もなくなることだろう(誰が理事になろうと大勢に影響はないのだから)。つまりは、金本位制が今もなお続いていたとすれば、金融政策の行方をめぐって色んな意味で現状よりも見通しがよくなる可能性があるわけだ。その一方で、「金本位制が今もなお続いていたとすれば」という反実仮想――国際金本位制がうまく機能するようにすべての国が「ゲームのルール」に従い続けるという可能性――を信ずべき理由がないことも確かだ。貨幣需要ショック(貨幣に対する需要の突発的な変化)が起こったとしよう。その場合、金本位制の「ゲームのルール」に従うのであればそれと引き換えに痛みを伴う国内物価の調整を受け入れる必要があるが、一体いつまでそのような調整を政治的に耐え忍ぶことができるだろうか? いつまででも? その点はよくわからないところだ(物価調整の必要に頻繁に迫られるようであれば名目価格の伸縮性は高まることにはなるだろう)。つまりは、金本位制が続いていたとしたらどこかの時点で1930年代と同じような苦難に見舞われることになる可能性も十分に想定し得るわけなのだ。

デビッド・ベックワース 「第一次世界大戦の見過ごされがちな遺産 ~再建金本位制とヒトラーの台頭~」(2014年7月28日)

●David Beckworth, “The Other Important Legacy of World War One”(Macro Musings Blog, July 28, 2014)


第一次世界大戦がその幕を開いたのはちょうど100年前の今日(1914年7月28日)のことである。100周年ということもあって第一次世界大戦それ自体についてばかりではなく、あの戦争がその後の時代にどのような影響を及ぼしたかについてもあちこちで議論が沸騰している。NPR(ナショナル・パブリック・ラジオ)で放送されているOn Pointでもちょうど第一次世界大戦がテーマとして取り上げられており、移動のついでに先ほどまでずっと耳を傾けていたところだ。番組の司会を務めるのはトム・アシュブルック(Tom Ashbrook)。歴史家をはじめとした複数の専門家に話を聞くという作りになっているが、大変面白い内容で多くの事を学ぶことができた――例えば、現在の中東やウクライナが抱える問題の根源の一部は第一次世界大戦後に着手された国境線の画定にまで遡れるらしい――。移動のお供としてこれ以上のものは望み得なかったことだろう。

ところで、指摘しておきたいことがある。上で紹介した番組でもそうだったし、第一次世界大戦開戦100周年に絡めて語られるその他多くのコメントのどれにしてもそうなのだが、第一次世界大戦が国際通貨制度に刻み付けた重要な遺産のことがすっかり見過ごされているのだ。第一次世界大戦は1870年から1914年まで続いた国際金本位制(古典的な金本位制)を粉々に破壊することになったが、終戦を迎えるや世界各国は相次いで再び金本位制に復帰した。1914年以前までの国際金本位制は比較的うまい具合に機能していたが、戦後に再建された国際金本位制は大きな欠陥を抱えていた。1930年代の大恐慌(Great Depression)があれほど深刻なものとなり世界中を巻き込む国際的な現象ともなった原因は再建金本位制にある多くの論者〔拙訳はこちら〕が口を揃えて語っているのだ。それだけではない。1930年代の大恐慌はドイツにおいてナチス党を権力の座に押し上げる重要な触媒の役割を果たしたと語る歴史家もいる。例えば、バリー・アイケングリーン(Barry Eichengreen)&ピーター・テミン(Peter Temin)の二人は共著論文(pdf)の中で次のように語っている。 [Read more…]