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サイモン・レン=ルイス「敵対的環境:移民政策とネオリベのやりすぎ自滅」(2018年4月23日)

[Simon Wren-Lewis, “A hostile environment,” Mainly Macro, April 23, 2018]

移民に関する通説では,こんな風に考える――イギリスにやってくる移民が増加したことに国民の間で懸念が高まったことで連立政権は移民受け入れの上限目標を設定することとなり,その目標を達成するための方策を実施した.移民を抑止する「敵対的環境」をつくりだすのは,こうした対策の一環だった.ウィンドラッシュ世代の移民〔1948年にイギリス領植民地から本国への移住・定住が合法化されてイギリスにやってきた世代〕やその子孫たちは,目標達成に熱心すぎたりやたら官僚主義的だったりする当局の不運な犠牲者となっているのだ――

こういう通説は,ほぼすべてが間違っている.これまでずっと移民はよく思われてこそいなかったが,世論調査に反映された積極的な懸念は高まっている.こうなったのは,保守党がこの問題をとりあげて当時の労働党政権を攻撃する手段に使って以後のことであり(ヘイグ:「外国をお見せしよう」〔労働党政権がさらに続いたら移民のせいでイギリスがどうなるか,という趣旨の演説の一節〕,ハワード:「思いは同じですか?」〔2005年選挙での保守党のスローガン.荒廃したイギリスのイメージを連ねた映像の最後に表示される〕),また,さらに重要な点として,移民や庇護を求める亡命者たちを否定的な描き方でとりあげる右派系新聞の記事が増加して以後のことでもある.大半の人たちは,移民が自分の地元で問題になっているとは思っていなかったが,それでも,イギリス全体では問題なのだと受け止めていた.移民に関する懸念をいちばんよく予測する要因は,『メイル』『イクスプレス』『サン』の購読だった.

ネオリベラルのやりすぎ自滅について書いたポストで,2010年連立政権がネオリベラルな目標を達成しようとやり過ぎて失敗した事例に緊縮と移民を挙げた.緊縮とは,私に言わせれば赤字詐欺だ:赤字に関するおそろしげな話を使って国を縮小させるのが緊縮だ.〔移民の流入上限として〕数万人の目標を掲げて移民をことさらにとりあげたのも,詐欺だ.政権の大半は,そんな目標を達成するつもりなどなかったのだから.敵対的環境をつくる政策は,こうした詐欺の一環として衆目を集めようとした.「故国に帰れ」街宣バン〔画像〕は,移民ではなく国民が目にするよう狙っていた.政権の大半は,じぶんたちの移民上限目標を達成しようと本気で試みたら経済が打撃を受けるのを知っていたが,国民にそうと伝えずに,労働党やイギリス独立党 (UKIP) から票を奪い取るべくこの虚飾の見世物を続けた.

EU離脱国民投票のさなかに,この虚飾が保守党政権の仇になった.移民上限の目標を達成しようと努めているかのように見せかける政策を推し進めていたキャメロンが,それと同時にEU圏内の移動の自由がもたらす便益を〔残留支持に〕利用しようにも信頼をえられるはずもなく,失敗に終わった.その意味で,保守党の移民政策が EU離脱の災禍をつくりだしたと言える.

移民上限目標という虚飾の一環をなしていたのが,敵対的環境政策だった.閣僚のなかにも,この政策が「ナチドイツを彷彿とさせかねない」と正しくも示唆する声はあった.この政策の適用対象は違法移民に限られると言っていては,肝心のところを見失ってしまう:滞在する正当な権利があると証明できないかぎり――しかも証明する費用を捻出しないといけない――違法移民で有罪なのだとされた.有罪だとされれば仕事も住居も失うことになりかねない.内務省が間違ったときには,申込者の方でお金を出して是正しなくてはならなかった.その間違いが大きければ,裁判無しで拘留されうる.

さらに悪いことに,この政策は家主や雇用主や看護師たちも巻き込んで,この内務省体制の手先として振る舞うように仕向けられた.もしも間違いがあった場合の結果を恐れて,白人でない人物やイギリス英語のなまりがない人物は誰だろうと差別する誘惑を避けられなかった人たちもいる.その点で,この政策は差別を能動的に推奨していたわけだ.だが,保守党は気にかけなかった.サディク・カーン〔パキスタン系イギリス人,ロンドン市長〕へのイスラム嫌悪キャンペーンを張るのに疑問も覚えなかったときとまったく同じだ.

緊縮と同じく敵対的環境政策は人々の生活を破壊している.生活を破壊された人たちには,ウィンドラッシュ世代もいるしそうでない人もいる.この政策が無辜の人たちを巻き込んでいるという警告を2014年に内務省は受けていたが,なにもしなかった.ラッド〔内務相〕もメイも,無実なのにとらえられた人たちにこの政策がなにをしているか承知していながらなんら事態をあらためる試みをせず,世論に追い込まれてはじめて問題を認めた.[1]

緊縮と同じく,当初は移民に関心を集中する保守党のやり方は,有用な政治戦術になっているし支持基盤の外国人嫌い要素に働きかけているように思われた.緊縮と同じく,この政策も無辜の人々に現実の害を及ぼしはじめたが,首脳陣はこの政策を弱めたり放棄したりするそぶりも見せなかった.キャメロンやオズボーンには,移民上限がハリボテでしかないのを承知しつつ,その詐欺を知らない他人に目標達成の責任を与えた.いっそう悪いことに,テリーザ・メイはできもしないことを頑迷に追求して,それがどんな巻き添え被害をもたらそうととくに意に介してもいない様子だった.

緊縮と敵対的環境がいまなお続いているのは,大蔵大臣と首相それぞれがこの2つの政策に入れ込んでいるために継続している.どちらも,部分的な一時しのぎを余儀なくされないかぎり,政策の結果に無関心なように見える.だからこそ,私はこの2つをネオリベラルのやりすぎ自滅と言っている.かつての労働党首脳陣はこの2つの政策に同調しないと選挙で打撃を受けるにちがいないと不幸にも思い込んでいた.自由民主党は,この2つを実施した政府の一角だった.メディアはこの2つの政策が必要不可欠かのように思わせる物語をつくりあげやすくしたりその片棒を担いだりした.だが,労働党議員の中には少数ながら原則として両方の政策に反対した人たちがいたし,彼らはいまも反対している.その彼らがいま野党を率いているのに,なにか不思議があるだろうか? ネオリベラルのやりすぎ自滅を実施した政治とメディアの結託は,この人々が権力をとるのを妨害することならできるかぎりのことをするだろうことに,なにか疑問があるだろうか?

原註 [1]: この世論は,移民を制限する政策をもとめて大騒ぎしていたのと同じ世論だ.大半の人たちは移民してきた人々を嫌っているのではなく移民という動きを嫌っているのだとときに言われることがある.反移民政策が生身の移民たちにもたらした結果を(粘り強い強力なジャーナリズムのおかげで)つきつけられると,世論は後退する.政治的指導者たちの多くとちがって,国民の大半にはイデオロギー的な熱狂がなく,生の人間への影響に無関心なわけでもない.


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