サイモン・レン-ルイス 「緊縮という強迫観念を理解する」2016年3月2日

Understanding the austerity obsession (Mainly Macro, Wednesday, 2 March 2016)

Posted by Simon Wren-Lewis

よく言われる,ケインズをちょっと真似た言葉: 経済学者は医者のようであるべきだ.

マーティン・ウルフが書いている.「緊縮という強迫観念は,借り入れコストがこんなに低い時でさえも(原文ママ)気違いじみている.」 IMF, OECD, そしてちゃんとわかっている人たちはみんな賛成である.ところが,この緊縮強迫観念にかられている人たちこそが公共投資に関する決定権を持つ階層の人々なのである.米国で,ドイツで,英国で.興味深い質問が一つ浮かぶ.この人々が罹患しているのはみな同じ病気なのだろうか?

米国共和党の症例における診断はかなり明白である.生き残っている大統領候補者と議会の行動から判断すると,経済学的な目標は減税 — 特に超富裕層への減税である.減税のためには,遅かれ早かれ,公共支出を減らすことが必要になる.公共投資を増やすと,米国経済の全員(富裕層も含めて)が助かるという証拠があるのに? 問題は,このグループが,経済をよくする唯一の手段が富裕層への減税であり,国家という「獣を飢えさせる」ことだという妄想に罹患しているという点である.ネオリベラルイデオロギーというウィルスに感染した患者の典型的な症例である.

一方,ドイツの支配層における状況は診断がずっと難しい.ドイツの医師の中には,シュヴァーベン症候群という病名を挙げたものもいる.簡単に言うと,国家経済は家計と全く同じようなもので,収支を均衡させることが不可欠だという病気のことである.ただ,これは病気を説明しているというよりもレッテルを貼っているだけのように思える.また,アレルギーも関わっているかもしれない.ケインズ主義,およびケインズ主義を思わせるものすべてに対する嫌悪症である.しかし,さらなる公共投資を支持するミクロ経済学的論拠も強力である.ドイツの道路の修理状況は米国ほどひどい状態ではないが,ドイツの公的資本ストックは10年以上も縮小し続けている.可能性の一つとしては,年金を心配する高齢化した人口によってシュヴァーベン症候群が活性化したのかもしれない.最近の,難民というワクチンの注入によってこれがどういう影響を受けるか興味深く見守ろう.

このように,ドイツの病気の性質は米国のそれよりも謎に満ちている.不幸なことに,ドイツ高官とその他のヨーロッパの高官は頻繁に接触しており,この病気 — 何の病気かはさて置き — の症例は非常に多く,他の場所にも広がっており,特にある症例(ギリシャ)の患者は重篤な状態が継続している.また,この病気は事故の後にやっかいな症状を引き起こす.フィンランド(現在,集中治療を受けている)がそうした例である.

英国の保守党もシュヴァーベン症候群と類似した症状を呈しているように思われる.ドイツと同様,アウトブレークは2010〜2011年ごろにピークに達した.ある時点で,英国の症状は快方に向かったように思われたが,昨年新たなアウトブレークを観測した.ただ,実は保守党は仮病を使って選挙に勝とうとしているだけだと言うものもいる.一方,検査によって(ネオリベラル)イデオロギーウィルスの形跡が明白になったというものもいる.

現在までに明らかになったのは,緊縮強迫観念に対する伝統的な治療法 — よく訓練された経済学者にときどきカウンセリングを受けるという方法 — にほとんど効果が見られないということである.また,金融危機ショック療法はネオリベラルウィルスの繁殖力をいっそう強めるだけであることがわかっている.広範な治療のみが,このウィルスを治癒する唯一の知られている手段である.シュヴァーベン症候群への対処と同様,我々が望みうる最良の対処法は,これらの病気がもたらす帰結が明らかになるにつれて,公衆が徐々に病気への免疫を身につけることかもしれない.

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