●Tyler Cowen, “How U.S. Economists Won World War II”(Marginal Revolution, June 20, 2011)
今回紹介するのは、ジム・レイシー(Jim Lacey)の新著だ。タイトルは、『Keep from All Thoughtful Men』。副題は、「経済学者は第二次世界大戦でのアメリカの勝利にいかにして貢献したか」(“How U.S. Economists Won World War II”)。内容の一部を引用しておこう。
第二次世界大戦が勃発するほんの50年ほど前までは、米政府内で働いていた経済学者はわずか一名しかいなかった。その肩書は、「経済鳥類学者」(“economic ornithologist”)。第一次世界大戦をきっかけにして、ワシントンにある「政策の現場」で働く経済学者の数はいくらか増えはしたが、その影響力は依然としてごく限られていた。価格統制や物資の輸送についてアドバイスを送るくらいで、戦時動員計画の立案にはほとんど影響を持たなかったのである。何百という(そして、ゆくゆくは何千という)数の経済学者の一団がワシントンにある「政策の現場」になだれ込むきっかけを作ったのは、大恐慌である。第二次世界大戦が勃発した頃には、連邦政府内で働く経済学者の数は5000名近くにまで膨れ上がっていたと見積もられている。
デビッド・ウォーシュ(David Warsh)による書評はこちら。
読んでいて退屈に感じた箇所もあったが、大いにためになる箇所もあった。全体的な評価としては、「一読の価値あり」だ。戦時動員が米国内の消費者に対して課した負担――その多くは、耐久財の購入を控えさせるというかたちをとった――は、驚くほど軽かったというのがレイシーの言い分で、ヒッグス(Robert Higgs)の評価と真っ向から対立している。
「経済鳥類学」 [1] … Continue readingの第一人者の評伝はこちら(pdf)。私も初耳だったのだが、「経済鳥類学」の実地試験が試みられたことがあるらしい。
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●Tyler Cowen, “Keep from All Thoughtful Men: How U.S. Economists Won World War II”(Marginal Revolution, July 15, 2012)
クリフトファー・タサヴァ(Christopher Tassava)がレイシーの『Keep from All Thoughtful Men:How U.S. Economists Won World War II』を書評している。優れた書評だ。その一部を引用しておこう。
・・・(略)・・・著者のレイシー(米陸軍の元将校で、現在は軍事評論家)が本書で描き出しているのは、文民の経済専門家と軍人スタッフとの激しいぶつかり合いである。ヨーロッパで戦争(第二次世界大戦)の火蓋が切って落とされた時点では、アメリカ経済は戦争の準備がほとんどできていなかった。戦争に本格的に乗り出すために必要な軍需品を安定的に生産する体制をどこまで整えることができるか? それにはどのくらいの時間がかかるか? この問題をめぐって、官僚機構の内側で文民の経済専門家と軍人スタッフとが激しくぶつかり合ったのである。本書で語られる物語の中心人物は、3人の経済学者だ。アメリカ経済にどれだけの戦争遂行能力が備わっているかを前もって正確に見抜いていた3人でもある。そのうちの一人は有名だ。サイモン・クズネッツ(Simon Kuznets)である。残りの二人は、忘れ去られようとしている。ロバート・ネイサン(Robert Nathan)とステイシー・メイ(Stacy May)である。
アメリカ経済の成長余力はどれくらいか? アメリカ経済をフル稼働状態にまで持っていくには、どれくらいの時間がかかりそうか? アメリカ経済は、米軍や連合軍のためにどれくらいの軍需品を供給できそうか? レイシーが公文書や二次史料を巧みに駆使して描き出しているように、社会科学の手法(とりわけ、統計学的な手法)を使ってこれらの問いへの答えを導き出したのが、クズネッツ&ネイサン&メイのトリオであり、官僚機構に集った少数の文民(の経済専門家)グループだった。『民主主義の兵器廠』(“arsenal of democracy”)たるアメリカがヨーロッパ戦線に本格的に参戦できるようになる――そのために必要な軍需品を十分に用意できるようになる――のは、1944年6月 [2] 訳注;1944年6月というのは、ノルマンディー上陸作戦が決行されたタイミングにあたる。。レイシーが根拠を挙げて明らかにしているように、クズネッツ&ネイサン&メイのトリオは、1942年後半の時点――真珠湾攻撃が起きてから1年が経過していない時点――でそのように予測していたのである。
References
↑1 | 訳注;「経済鳥類学」というのは、鳥類が人間社会(特に農業、園芸、スポーツなど)とどんな関わりを持っているかを調査する学問分野を指しているようだ。詳しくは、(本文で言及されている論文に加えて)次の論文を参照されたい。 ●Theodore S. Palmer, “A Review of Economic Ornithology in the United States”(pdf) |
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↑2 | 訳注;1944年6月というのは、ノルマンディー上陸作戦が決行されたタイミングにあたる。 |