タイラー・コーエン 「宿願達成に燃える金正日総書記」(2009年3月17日)/「改革に燃える金正恩第一書記」(2012年9月4日)

●Tyler Cowen, “A market in something, every now and then”(Marginal Revolution, March 17, 2009)


あれにもこれにも時としてマーケットができる。今回は北朝鮮版だ。そのマーケットとは・・・「ピザ」のマーケットだ。

ついにである。北朝鮮が総書記の宿願であるプロジェクトに乗り出すに足るだけのテクニックをついに体得したのだ。10年近くを要した一大事業である。「本格的な」ピザを提供する同国初のイタリアンレストランがこのたび開店に漕ぎ着けたのだ。

金正日(キム・ジョンイル)総書記の指示によりコックの一団がイタリアのナポリやローマに派遣されたのは昨年(2008年)のこと。本場でピザ作りの正しいテクニックを学ばせるためである。それまでにもピザの模倣に向けた努力は地道に続けられてはいた。しかしながら、金総書記によって「国産」のピザには「間違ったところ」があるとの判定が下され、本場での修業が必要ということになったのであった。

1990年代後半に遡るが、金総書記の指示によってイタリアからピザ職人の一団が北朝鮮国内に招かれたこともある。部下の将校らにピザの作り方を伝授してもらうためである。北朝鮮ではピザはぜいたく品の一つ。国内で暮らす2400万人の多くが食うに困る状態に置かれている中、ピザを堪能できるのは一部のエリート層だけ。

国内では食糧不足が続いているものの、いつでも「完璧なピザ」が作れるように取り計らうために本場のイタリアから小麦や小麦粉、バター、チーズ(いずれも高品質)といった(ピザを作るために必要となる)材料が買い付けられているという。

東京に本社を置く朝鮮新報がこのたび平壌(ピョンヤン)で開店したばかりのイタリアンレストランの支配人に取材したところ、金総書記が語った言葉を引用するかたちで次のようなコメントを口にしたという。「我が人民も世界的に有名な料理を楽しめるようにすべきだ」。

同じく朝鮮新報によると――同紙は共産主義体制(たる北朝鮮当局)の意見を代弁する機関紙としばしば見なされているが――、件のイタリアンレストランは昨年の12月に開店して以来大人気を博しているという。

同紙はレストランを訪れた女性のコメントとして次のような言葉も報じている。「ピザやスパゲッティが世界的に有名な料理だということはかねてよりテレビや本を通じて知ってはいましたが、実際に食べてみたのは今回が初めてでした。独特な味がしますね」。

「首都(の平壌)で本格的なイタリア料理が味わえるようにしたい」との金総書記の長年の夢が叶えられたとのニュースが届く中、北朝鮮当局は「ロケットの発射実験を行うぞ」との脅し――そのロケットはアメリカ本土を射程に収める能力を備えているのではないかとアメリカ国内では信じられている――を続けている。

この話題に気付くきっかけをくれたLeonard Monasterioに感謝する。

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●Tyler Cowen, “What counts as progress in North Korea”(Marginal Revolution, September 4, 2012)


(父である金正日の後継者であり)新たな国家指導者である金正恩(キム・ジョンウン)第一書記が躊躇なく現状批判を行う様を目にして驚いたと語るアナリストもいる。そのような姿が特に顕著に見られたのは金第一書記が部下を引き連れて4ヶ月前に国内の遊園地を視察した時のことだ。

北朝鮮の国営メディアでは「北朝鮮=社会主義の楽園」として描かれる決まりになっているが、金第一書記が遊園地を視察した時の報道は一味違った。金第一書記が遊園地を巡回しながらその惨状に不平を漏らす様を包み隠さず報じたのだ。(遊具の)塗料のはがれ、亀裂の入った舗道、あちこちに生える雑草。金第一書記の目に飛び込んでくる荒廃した遊園地の姿。国営メディアの報道によると、金第一書記は「イライラした顔つき」で近くの雑草を次々に引き抜いていったという。

どうしてこんな有様になるまで放っておいたのか。「時代遅れでイデオロギーに縛られた」考え方が招いた結果なんじゃないのか。金第一書記は視察の最中にそのように部下をたしなめていたという。さらに、金第一書記は遊園地の改修工事を監視する責任者をその場で任命したという。

視察が終わってから2週間後に国営メディアが伝えた続報によると、「朝鮮人民軍は問題の遊園地を近代的なレクリエーション施設として蘇らせるべく全精力を注いでいる最中」ということだ。

全文はこちら(この記事では北朝鮮で進行中の農業改革のあらましも取り上げられている)。

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