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Archives for 3月 2016

アレックス・タバロック 「運にも味方された我が学者人生」(2006年5月26日)

●Alex Tabarrok, “Getting Lucky on My Way to the Top”(Marginal Revolution, May 26, 2006)


私が大学院(ジョージ・メイソン大学)を卒業した(博士号を取得した)当時、経済学者を対象とする雇用市場はいわゆる買い手市場で就職先を見つけることが難しい状況だった。運良くもバージニア大学で客員のポスト(講師)をゲットし、その後しばらくしてインディアナ州マンシーにあるボールステイト大学でテニュアトラックの助教授の地位に就くことができたが、他に選択肢(採用のオファー)はほとんどない状態だった。ボールステイト大学の同僚たちは好人物ばかりだったが、そこで何年か過ごしているうちに次第に不満が募るようになり、「ええい、ままよ!」との思いでカリフォルニア州オークランドにある(シンクタンクの)インディペンデント・インスティテュートに身を移す決断を下したのだった。インディペンデント・インスティテュートでは研究部長のポストが用意されていたが、その当時は「私の学者人生はここで終わるのだろう」と考えていたものだ。

ところがそうはならなかった。インディペンデント・インスティテュートの創設者であるデビッド・セロー(David Theroux)の励ましもあって――私の学術的な研究がインディペンデント・インスティテュートの活動方針の一つ(研究活動の推進)に沿うものだと判断してくれたようだ――私はとにかく論文を書き続けた。そうこうしているうちにあれやこれやの出来事が重なって(中でもコーエンの助けもあって)何ともありがたいことにジョージ・メイソン大学に今度は教授として再び戻ってくることができたのだった。 [Read more…]

タイラー・コーエン「ジョナサン・ハイトとの会話(抜粋)」

[Tyler Cowen, “My conversation with Jonathan Haidt,” Marginal Revolution, March 28, 2016]

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書き起こしとポッドキャストだけで,動画はなし.このフォーマットでさらにシリーズを続けていく予定だ.ジョナサンは絶好調だった.ちょっとだけ抜粋しよう:
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マーク・ソーマ 「『運』 vs.『スキル』 ~人生での『成功』の背後にある要因とは?~」(2012年8月4日)

●Mark Thoma, “Luck vs. Skill”(Economist’s View, August 4, 2012)


市場での「成功」(success)を左右する上で「運」が果たす役割はこれまで一般的に思われていたよりも重要かもしれない。ロバート・フランク(Robert Frank)がそう語っている。

Luck vs. Skill: Seeking the Secret of Your Success” by Robert H. Frank, Commentary, New York Times:

リベラル派と保守派とが意見を違える話題は数あれど、「成功」と「運」との関係をめぐる議論ほど両者の間に深い溝をうがつ話題はないだろう。市場での成功は「才能」や「努力」の必然的な結果だといってほぼ間違いない。多くの保守派はそのように考えて成功者を讃える。一方でリベラル派はそのような見方に待ったをかける。どれだけ才能があって努力したとしても(一生懸命働いたとしても)その人自身には何の責任もない原因のせいで辛く厳しい生活(報われない生活)を余儀なくされる場合だってあるじゃないか、というのである。

・・・(略)・・・

(保守派とリべラル派の)どちらの見方も・・・公共政策に対して重要な意味合いを持っている。そのことを踏まえると、現実の世界で「運」が一体どれほど重要な役割を果たしているかを深く知ることは大事な問題だと言えるだろうが、生憎なことにこの問題は答えを見出すことが非常に難しい性質の問題である。しかしながら、市場での結果を左右する上で偶然(偶発的な出来事)が果たす役割はこれまで思われていたよりもずっと大きいかもしれないことが比較的最近行われたいくつかの実験を通じて示唆されている。

その種の実験を試みているのはいずれも社会学を専門とするダンカン・ワッツ(Duncan J. Watts)&マシュー・サルガニック(Matthew Sagalnik)&ピーター・ドッズ(Peter Dodds)のトリオだが、その実験の概要はワッツが2011年に上梓した優れた一冊『Everything Is Obvious* (*Once You Know the Answer)』(邦訳『偶然の科学』)の中でも紹介されている。彼らの実験ではオンラインマーケットが対象となっているが、彼らの実験結果はウェブ上のマーケットを超えてずっと幅広い範囲に及ぶ含意を備えている。彼らの実験結果によると、市場(ビジネス)で成功を収められるかどうかは製品の「質」に左右される面があることは確かだとしても、両者(ビジネスでの「成功」と(製品の)「質」)の間のつながりはかなり流動的であり不確かであることが示唆されている。質的に最も優れた製品が市場で勝利を収める(一番の売り上げを記録する・一番の人気を集める)とは限らず、質的に最も劣った製品でも時としてかなり健闘することがある。しかしながら、市場で成功を収められるかどうかが偶然によって左右されやすいのは質的に最も優れた製品でも(質的に)最も劣った製品でもなく、並みの(ほどほどの)質の大多数の製品であることが彼らの実験を通じて見出されている1

・・・(略)・・・

賢くて勤勉(あるいは努力家)であることはいいことであり、そのような資質を持ってこの世に生まれてくる(あるいは身の回りの環境に恵まれたおかげで賢くて勤勉な人間に育つ)というのは――ソマリアではなくアメリカで生まれ育つ機会に恵まれるのと引けを取らないくらい――それ自体大変幸運なことだということは今更言うまでもない話だろう。しかしながら、賢くて勤勉であったとしても市場で成功を収められるとは限らない。先に紹介した社会学者トリオの研究は賢くて勤勉な多くの人々が市場で大して成功できずにいる理由を解き明かす手がかりを与えてくれている。市場での成功を左右するランダムな要因の中でも「情報の流れ」に絡む偶然の要素こそが時として最も重要な役割を果たすのだ。

言うまでもないが、才能があって勤勉な人物がビジネスや社会生活で成功を収めたのであればこれまで通り讃えるべきだろう。しかしながら、先に紹介した社会学者トリオの研究は重要な道徳上の教訓を伝えている。「成功者たちよ、あなたの身を助けてくれた幸運の存在にもっと謙虚に向き合い給え」というのがそれだ。

  1. 訳注;ソーマの引用では省略されているが、フランクによる元の記事ではワッツらの実験(「ミュージックラボ実験」)の具体的な内容についても簡単ながら説明されている。「ミュージックラボ実験」の概要についてはGoogleブックスで『偶然の科学』の該当箇所を読むことができる。 []

タイラー・コーエン「これまで我が身に起きたことでいちばん統計的にありえなかったのは?」

[Tyler Cowen, “What is statistically the most improbable thing that has happened to you?” Marginal Revolution, March 25, 2016]

――という問いを,ロバート・フランクが近刊『成功と運:幸運と能力主義の神話
でなげかけている.この本の主眼は,運不運がぼくらの生活ではたす主要な役割を明らかにして,その事実から導かれる社会と政策にとっての含意を具体的にはっきりさせることにある.

ぼくの見解は,ボブの見解よりもシュトラウス的だ:つまり,〔事実による〕裏付けがあろうとなかろうと,能力主義の概念をぼくらは信じなくてはならない.(ひとつ留意してほしい.ボブもいくつかの章でこの論点の一バージョンをとりあげている.そうした箇所で,幸運のことを思い起こすと人々はもっと寛大で気前よくなると彼は論じている.それでも,ぼくの考えでは,社会は「功績,当然の賞罰」(desert) の強い感覚を必要とするし,寛大さ・気前よさは,ひとの幸運について虚偽のおおらかさをもつことからでてくることが多い.) ともあれ,ボブの本のご多分に漏れず,本書も深くて思考をうながす一冊だ.文章もいい.あと,この本を読むとボブの実におもしろい人生について多くを知れる.たとえば,心臓発作をどう生き延びたのか,どうやってコーネル大学のテニュアをぎりぎりまで引っ張ったのか,生みの両親のゆくえをどうして追いかけることに決めたのか,といった話が盛りだくさんだ.

本のホームページはこちら.第1章を PDF で読める.冒頭が例の心臓発作の話だ.

ともあれ,コメント欄は開放している:みんなの身に起きたことで,統計的にいちばんありそうになかったことはなんだろう?

タイラー・コーエン「なんで肥満そのものじゃなくソーダに課税するの?――屈辱,ソーダ税,減量」

[Tyler Cowen, “Humiliation, the soda tax, and deadweight loss,” Marginal Revolution, March 23, 2016]

キャサリン・ランペルがイギリスのソーダ税の是非を考察するすぐれたコラムを書いている.少し引用しよう:

なんでアウトプット〔の肥満度〕を標的にせず,インプットの一部をランダムに選んで標的にするんだろう? のぞめば肥満に課税だってできるというのに.あるいは,あんまり懲罰的に見えない方がいいというなら,太りすぎの人が減量したら税額控除を与えるかたちにしてもいい.肥満度を減らした度合いと課税を直接に対応させる方が,肥満を減らすという明言された政策目標を達成するうえで確実にずっと効率がいいだろう.

もちろん,減量に応じた税額控除というかたちをとったとしても,「脂肪税」だなんてひどく忌まわしいものに思える.そのワケは…よくわからない.

肥満ではなくあえてソーダに課税すると効率で劣る.たとえば,ソーダ常飲者が糖分の多い他の飲料に切り替えるかもしれないからだ.直接に課税して太りすぎの人たちに屈辱を与えてしまうのは気が進まないものだ.それで,ぼくらは他の政策を選ぶけれど,そっちは肝心の太りすぎの人たちを助ける効果で劣ってる.(この議論では,肥満者の消費行動を変えることで彼らの助けになると仮定しているけれど,本当に助けになるかどうかは議論がある.) ロビン・ハンソンが何度も語ったように,「政治は政策の問題ではない」ってやつで…

タイラー・コーエン「GPS で知覚はどう変わる?」

[Tyler Cowen, “How does GPS change our perceptions?” Marginal Revolution, March 21, 2016]

道に迷うのは,いつでも気が重い.文明が発達するまえは,死の宣告となることも多かった.いまでも,ときにそうなる場合がある.だが,近年の研究からこんなことがわかっている――ふだん GPS を使っている人たちに紙と鉛筆を渡して,移動した地域の地図を書いてもらうと〔GPSを使わない人たちより〕不正確で,近くを通ったランドマークについて覚えている詳細も少ないというのだ.逆説のようだが,そうなる理由は,GPS を使う人たちは行きたいところにいくときあまり間違わないためらしい.道に迷うと――もちろん,あとで戻ってこられたと仮定するが――自明ないいことがある:外界についてもっと広く学んで自分の視点を切り替える機会がえられるのだ.この見地からみると,GPS が提起する最大の脅威は,自分のいるところを正確にわからなくなる点にあるのかもしれない.

この一節は,『ニューヨーク・タイムズ』のキム・ティングレーによる興味深い長文記事から引用した.記事の題材は,マーシャル諸島住民がかつて利用していた航海の秘密だ.その仕組みの一端を少し引用しよう:

マーシャル諸島は,航海する者にとって厳しい難所だ:70平方マイルの地域に,5つの島と29の環礁がひしめき,数百年前に地下火山の周辺にできたいくつもの珊瑚礁の輪がいまでは浅瀬を囲んでいる.これらの点とドーナツがつらなって2つの列島をなし,南北に平行線を描いている.こうした諸島からいちばん近い隣人までは平均で100マイル離れている.アラスカや南極やカリフォルニアやインドネシアでうまれた大波は,数千マイルを旅して,ここマーシャルの低い砂嘴にやってくる.陸地にあたった大波の一部は弧を描いて反射する.ちょうど,スピーカーから広がる音波のようなものだ.他の波は環礁や島のまわりに渦をなしたり,風下にまぎらわしい三角波をつくりだしたりする.水先案内は,こうしたさまざまな波のパターンを感覚と視覚で読んでみせる技法だ.しろうとの目には洗濯機の渦のように無意味にみえるところにあれこれの微妙な差異を見いだすことで,「リメト」(マーシャル諸島の言葉で「海の人」)はいちばん近い陸地がどこにあってどれくらい離れているのかを視界に入るずっと前に判断できる.

おすすめ.

タイラー・コーエン「いたるところに市場あり:マイアミ編」

[Tyler Cowen, “Miami markets in everything,” Marginal Revolution, March 19, 2016]

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いずれ起こるべくして起こる運命だったのだ.マイアミがシャンペン・マシンガンを発明するまでこんなに時間がかかってしまったのがむしろ驚きだ.なにしろ,シャンペンもマシンガンもこの都市の形成で大きな役割を果たしたのだから.ともあれ,ついに本製品の登場だ.お値段はたったの459ドル.

発明の主は Jeremy Touitou だ.彼によると,これが「世界初のシャンペン銃」だという.

記事全文はこちら.この記事を教えてくれたダニエル・リップマンは,例の御仁の事実チェック記事も書いている.

訳者の註記:どんなものか気になる方は,こちらの動画を参照.

アレックス・タバロック「労働者たちが機会を求めて移動しなくなっている」

[Alex Tabarrok, “Not Moving to Opportunity,” Marginal Revolution, March 19, 2016]

【州をまたいだ移住】
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アメリカでは,労働市場の流動性〔人々の動きやすさ〕が低下している.州をまたいだ移住は下がっている(下記のグラフは Molloy, Smith, Trezzi and Wozniak から引用).州内部での移住も同様だ.とくに,あまり教育を受けていない人々で下がっている.かつては,ショックが発生すると機会を求めて人々は移動したものだったが,いまでは現状にとどまったままで早期に退職したり就業不能保険を受けとったりする傾向が強い.『ウォールストリートジャーナル』の Ben Leubsdorf が証拠をいくらか検討している
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タイラー・コーエン「アメリカ人は貿易を好機と思っているか脅威と思っているか」

[Tyler Cowen, “Do Americans see trade as an opportunity or a threat?” Marginal Revolution, March 18, 2016]

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【画像のキャプション】外国との貿易はアメリカにとってなにを意味するとアメリカ人は考えているか?

外国との貿易はアメリカにとってなにを意味すると思いますか?
外国との貿易は,どちらかというとアメリカからの輸出増加を通じた経済成長の機会でしょうか,それとも,どちらかというと外国からの輸入から生じる経済への脅威でしょうか?

好機! (この記事はジャスティン・ウォルファーズに教わった.)

訳者の註記:ウォルファーズのツイートからたどれるように,出典はギャラップの調査.この調査でもうひとつおもしろいのは,教育水準で貿易についての見方が大きくちがっているらしい点だ:

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教育水準が高いほど,貿易を「機会・好機」ととらえるようになるようだ.

タイラー・コーエン「注目の一冊:『ジハードのエンジニアたち』」

[Tyler Cowen”*Engineers of Jihad*,” Marginal Revolultion, March 18, 2016]

著者は Diego Gambetta と Steffen Hertoで,副題には「暴力過激主義と教育の奇妙なつながり」とある.本書は,興味深く重要な一冊だ.その核心をなすメッセージは実に単純だ:

イスラム主義者の[テロリストの]サンプルを検討したところ,高等教育を全うするか一時的に受けるかしていた231名のうち,207名の専攻分野がわかった.案の定,2番目に多かった38名のグループが選んでいたのはイスラム研究だった.だが,イスラム主義過激派でもっとも多かったのは,エンジニアのグループだった:207名のうち93名,つまり学位分野がわかっている者たちの44.9パーセントが工学を専攻していた.

そして,本書の結論にこうある:

専攻分野・性格の特徴・政治的な選好に関する我々の発見は,際だって一貫している.我々がえたとくに重要な結果は,さまざまな専攻分野での性格特徴の分布には,ほぼ正確に,好戦的グループにおける専攻分野の分布が反映されているという点だ.(…)社会科学者・人文系大学院生・女性がいないグループにはエンジニアがいる.そして,エンジニアたちには次のような性格特徴がある――人に愛想をつかしやすい傾向,閉じこもりたがること,内集団バイアス,そして(少なくとも暫定的な)過度の単純化(…)

ぜひ一読をすすめる.