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ラルス・クリステンセン 「グローバル社会の一員として生きる私の一日 ~自由貿易を讃えて~」(2015年5月27日)

●Lars Christensen, “A random day in my global life – a celebration of free trade”(The Market Monetarist, May 27, 2015)


今回のエントリーはパソコンを使って書いている。このパソコンをデザインしたのはアメリカ人だが、組み立てられたのはおそらく中国のどこかだろう。

今日携帯電話で話した相手はインド人一名にアメリカ人二名。携帯電話は日本製。電話相手の3名の住まいはそれぞれデンマークにポーランドにラトビア。

今日は移動するためにUber(ウーバー)――アメリカ発の見事なアイデア――を使って車を呼びもした。その車の運転手は男性でパキスタン生まれ。彼が流暢なデンマーク語で語るところによると、彼は既婚者で子供が4人いるとのこと。家の中では家族一同デンマーク語で会話し、妻と口論する時はスペイン語とウルドゥー語が飛び交うという(彼の妻はスペイン系パキスタン人)。

今は妻と娘と一緒に自宅にいるところだ。私の妻はデンマーク人だが、アフリカ育ちで流暢なラオス語の使い手でもある。息子は私の両親と一緒にスウェーデンにある別荘に滞在中だ。

もう少ししたらNetflix(ネットフリックス)――またぞろアメリカ発の見事なアイデア――で映画でも視聴しようかと思っている。もしかしたらMyHeritageもチェックするかもしれない。スウェーデン南部に起源を持つクリステンセン家の家系図の最新情報を確認するためだ(今朝のことだが、スウェーデン人の男性からこの件についてメールで有益な情報を教えてもらったのだ)。

今日一日を過ごすために必要となるお金は世界中にある企業や金融機関に労働サービスを提供して稼いだものだ。

財や資本、労働力の国境を越えた自由な移動に歯止めをかけよ。そのように主張する輩は私に今よりもずっとつまらなくてみすぼらしい一日を過ごさせようと迫っているも同然なのだ。

自由貿易万歳!

読者の皆さんも今日一日を私のようにグローバルな観点から振り返ってみてはいかが?

(追記)言い忘れたが、今日の昼食はメキシコ料理(フランス産のワイン付き)だった。

(追々記)同じく今日のことになるが、LinkedIn(リンクトイン)で世界各国に住む5~6名の人物からつながりリクエストを頂戴した。リクエストをくれた相手はインドに住んでいたりイスラエルに住んでいたりと住まいはバラバラだが、一人ひとりと知り合いになれて大変嬉しい限りだ。

スコット・サムナー 「イングラムの寓話の現実版?」(2013年1月17日)

●Scott Sumner, “Give that man the Bastiat Award!”(TheMoneyIllusion, January 17, 2013)


経済学の基礎を教える講義ではこんな感じの話が語られる。

ジェームズ・イングラム(James Ingram)が創作した寓話は自由貿易に伴っていかにして生産面での効率性の向上がもたらされるかを例証してもいる。イングラムが『International Economic Problems』(John Wiley, 1970)の中で物語っている寓話の主人公は「X氏」という名の秘密のベールに包まれた起業家。テレビに自動車、カメラ等々を安くで製造する驚くべき方法――穀物や石炭等々を原料としてテレビや自動車等々を作り出す方法――を発見した。X氏は世間に向けて公然とそう宣言すると早速ノースカロライナ州の沿岸部の広大な土地を買い取ってそこに工場を建設。企業秘密の厳守を条件に総勢5000名の従業員を雇い、穀物や石炭、各種機械の買い入れも開始。穀物や石炭を乗せた列車がX氏の工場になだれ込む一方で、テレビや自動車を乗せた列車がX氏の工場から全米の展示場へ向けて放たれる。「X氏はエジソンの再来だ!」、「いや、ベルの再来だ!」。X氏の名声は高まる一方。ウォール街の投資家たちの間でもX氏の会社は一目置かれる人気の会社へとのし上がっていくことに。

全米の消費者たちもX氏を称賛した。X氏の工場で作られる製品は従来のものよりもずっと安かったからだ。その一方で、同業のライバル他社がX氏を疎んじたことは言うまでもない。ライバル他社の間では議会に働きかけてそれぞれの工場に生産割り当てを課す法律を通そう(そうすることでX氏の工場の操業を縮小させよう)とする動きもあったが、その試みも水泡に帰する。「経済面での(痛みを伴う)調整は技術進歩に伴う避けられない副産物である」。そのように訴える某議員の議会演説は世間の語り草となったのであった。

そんなある日のことである。X氏の工場近くの海でとある少年がスキューバダイビングに励んでいた。買ったばかりの機材の調子を試すつもりで海中を泳いでいるうちにX氏の工場の周囲に張り巡らされている警戒網をたまたま潜り抜けてしまった少年はX氏の秘密を目の当たりにする。X氏の工場では何も作られてはいなかった。X氏の工場は輸出入品を積み降ろしするための巨大な倉庫に過ぎなかったのだ。X氏は穀物や石炭を海外に「輸出」して得られた代金でテレビや自動車を「輸入」する(海外から購入する)というかたちで穀物や石炭をテレビや自動車に変えていたのである。X氏の秘密はメディアを通じて暴露され、世間は一斉にX氏を糾弾、X氏の工場も閉鎖されてしまうことに。「アメリカ国民の生活が海外の安価な労働力に脅かされる危険から危機一髪のところで逃れることができた。アメリカ国内の産業技術の研究開発に向けてもっと公費を投入すべきだ」。議員連の間からはそのような訴えが口をついて出るのであった。

経済学の講義で学んだことを現実に応用するとその先にはどんな結果が待ち受けているかというと・・・1 

あまりに出来過ぎていて信じられないような話がネット上で広まっている。本当であって欲しい。是非とも本当であって欲しい。個人的にはそう思いたいところだ。ベライゾン社のブログによると、米国企業に雇われているソフトウェア開発者が自分の仕事を中国に外注しているのが判明したという。そして浮いた時間を使って何をしていたかというと、・・・YouTubeで猫の動画を見ていたというのだ。

・・・(中略)・・・

ベライゾン社の調査によると、ボブは自分が任されているプログラミングの仕事を(中国の)瀋陽を拠点とするソフトウェア専門のコンサルタントに外注し、社内ネットワークにアクセスするために必要な2段階認証のトークン(パスワード)もあわせて外注先に「郵送」してボブ名義のアカウントでログインできるように手を打っていたという。ボブは外注先に自分が受け取る6桁の給与の5分の1に相当する金額を支払い、浮いた時間を「その他の活動」に費やしていたという。

「その他の活動」の中身とは? 以下がそれだ。

午前9時 – 会社に到着。数時間ほどRedditの閲覧。YouTubeで猫の動画を見る。
午前11時30分 – 昼食
午後1時 – ebayに出没
午後2時頃 – Facebook、LinkedInの更新
午後4時30分 – 今日一日の業務の進捗状況をメールで上司に報告
午後5時 – 退社

カスタードクリーム入りのビスケットをひたすら満喫するかのような一日。天国のような一日だが、かといってボブの生産性に悪影響を及ぼすようなことにはならなかったようだ。とある情報によると、「ボブのプログラムは無駄がなくてよく書けている。納期もきちんと守る。人事評価で社内イチの開発者という評価も何度も受けている」とのこと。

The Registerが伝えるところによると、ボブは会社をクビになったそうだ。悲劇、大いなる悲劇だ。

昨日も漏らしたばかりだが、どうやら世間の皆々様方は経済学流の考え方が大いにお嫌いなようだ。

  1. 訳注;リンク切れ。代わりに例えばこちらを参照されたい。 []

アレックス・タバロック 「『自動車を作る小麦』に『鋼を作るビーバー』」(2018年2月4日)

●Alex Tabarrok, “How Do Beavers Make Steel?”(Marginal Revolution, February 4, 2018)


国際貿易に関するデイビッド・フリードマン(David Friedman)のものの見事な説明を一躍有名にしたのはスティーヴン・ランズバーグ(Steven Landsburg)の『The Armchair Economist』(邦訳『ランチタイムの経済学』)だ。「アイオワでの自動車の収穫」と題された章(pdf)での紹介がきっかけで一挙に有名になったのだ1

アメリカでは「二通りのテクノロジー」を頼りにして自動車の生産が行われているというのがデイビッドの発見だ。二通りのテクノロジーとは? デトロイトで「製造する」というのがまず一つ。アイオワで「栽培する」というのがもう一つ。デトロイトで「製造する」という一番目のテクノロジーについては誰もが知るところなので説明は不要だろうが、アイオワで「栽培する」という二番目のテクノロジーについてはいくらか説明させてもらうとしよう。まずはじめにやるべきことは小麦の種を蒔くことだ。これが自動車の「原料」になる。それからしばらく小麦の成長を見守る。数ヶ月ほど経って小麦が実ったら収穫して船に乗せる。小麦を積んだその船は太平洋を西に向かって突き進む。数ヶ月もするとその船は「トヨタの車」を積んで戻ってくるというわけだ。

つい最近ロバート・アレン(Robert Allen)の『Global Economic History』(邦訳『なぜ豊かな国と貧しい国が生まれたのか』)を読んで知ったのだが、どうやらデイビッド・フリードマンは300年以上も先を越されていたようだ。フランスの貿易商を相手にした毛皮貿易が隆盛を極めている最中にミクマク族の一介のインディアンが次のように語っているのだ2

我らが兄弟たる「ビーバー」は万事をうまく運んでくれる。我々のためにやかんに斧、剣、ナイフを作ってくれるだけではない。地面を耕すという苦労をせずとも食べ物も飲み物も与えてくれるのだ。3

  1. 訳注;以下の引用は拙訳 []
  2. 訳注;以下の引用は拙訳 []
  3. 訳注;フランスの貿易商に「ビーバーの毛皮」を売る(引き渡す)のと引き替えにやかんに斧、剣、ナイフ、飲食料を手に入れる、という意味。 []

マイルズ・キンボール 「自然状態における所有権」(2017年9月24日)

●Miles Kimball, “John Locke: Property in the State of Nature”(Confessions of a Supply-Side Liberal, September 24, 2017)


実は私は「イーグルスカウト」〔日本語版ウィキペディアでの説明はこちら〕の取得者の一人だったりする。母親に尻を叩かれて仕方無しにボーイスカウトに入団したのだが、最終的には「イーグルスカウト」の称号を手にするまでになったわけだ。ボーイスカウトも最近になってホモフォビア(同性愛嫌悪)の姿勢を見直した(同性愛者の入団を認めるようになった)ようで、今後は堂々と「私はイーグルスカウトの取得者です」と宣言できようというものだ。

ボーイスカウトに所属するとキャンプをしたりハイキングに出かけたりする機会が多くなるが、それは同時にジョン・ロックが言うところの「自然法」が適用される場に巡り合う機会が多いことをも意味することになる。みんなで連れ立って道を歩いていると目を引く物体が落ちているのに気付く。その物体を誰かが拾う時にジョン・ロックが言うところの「自然法」が適用されることになるのだ(ただし、道に落ちている物体を拾うのが法律(実定法)で禁じられていないことが前提なのは言うまでもない)。一人の少年(A君)が綺麗な石ころを拾ったとしよう。A君が拾うまではその石ころは「彼のもの」ではなかったわけだが、別の少年(B君)がA君の手から石ころを無理矢理奪い取ったとしたらその後にはどんな展開が待っているだろうか? 「B君が僕の石ころを盗んだ」。A君はそう訴えることだろうし、周りにいる他の少年たちもA君に味方することだろう。 [Read more…]

マイルズ・キンボール 「ジョン・ロックの所有権論 ~労働と所有権~」(2017年9月10日)

●Miles Kimball, “On John Locke’s Labor Theory of Property”(Confessions of a Supply-Side Liberal, September 10, 2017)


 

ジョン・ロックの『統治二論』「第二編 市民政府について」(第5章 「所有権について」)の第27節では所有権の帰属に関する興味深い原理が表明されている。

地上の自然もこの地に生きる下等なあらゆる被造物も全人類の共有物だとしても、誰もが自分自身に対しては唯一の所有権の持ち主である。私の身体に対する所有権の持ち主は私以外にはいない。さらには、私が身体を動かして行う「労働」の成果も私の手が行う「働き」の成果も同様に私のものであると言ってもよかろう。それゆえ、私が手付かずの天然の恵みの中から取り出した(取得した)ものは何であれ私の所有物となる。というのも、それには私の労働が混ざり合っており、私に帰属する何ものかが付け加わっているからである。全人類の共有物たる自然の中から手付かずの天然の恵みを取り出したのはこの私である。私が手にした天然の恵みには私の労働が付け加わっており、それゆえに最早全人類の共有物ではなくなる。労働の所有者は労働を行った当人であることは疑い得ず、私の労働の成果(私の労働が付け加わったもの)に対する所有権を主張し得るのは私以外にはいない。少なくとも私が手にしたのと同じくらい良質の天然の恵みがまだ手付かずのままで十分に残されている限りはそうなのだ。

ロックが議論の出発点に据えている主張は至極もっともなものに思える。

1. 人は誰もが自らの身体に対する所有権の持ち主である。
2. 各人には自らの労働の成果に対する所有権を可能な限り認めるべきである。

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アレックス・タバロック 「労働、所有権、ジョン・ロック ~あなたが雪かきしてできた駐車スペースは誰のもの?~」(2010年2月10日)

●Alex Tabarrok, “John Locke in Washington”(Marginal Revolution, February 10, 2010)


猛吹雪(スノーポカリプス)の中から愛車をやっとのことで救い出した市民の前には何とも厄介な別の道徳上のジレンマが立ち塞がることになる。火花散るひと悶着を引き起こしかねないジレンマだ。道路脇に停めていた愛車を「氷の墓」から(せっせと雪かきして)救い出したとしよう。あなたが雪かきした後にできるそのスペース(車一台分の駐車スペース)は一体誰のものなのだろうか? 太陽が道路脇の雪を溶かしてしまうまでは「あなたのもの」(あなたの愛車を停めてもよい駐車スペース)なのだろうか?

ワシントンの冬は比較的穏やかなことが多く、そのためもあって前述の疑問への解答を与えてくれるような吹雪時のマナーはワシントン市民の間で定着するに至っていない。

それとは対照的なのが(吹雪に見舞われるのが珍しくない)ボストン。ボストン市では雪かきという重労働の見返りを手にする権利が法律で擁護されているのだ。あなたが(道路脇に停めていた)愛車を「氷の墓」から雪かきして救い出したとしよう。そして雪かきした後にできたスペースに椅子だとかの目印を置いて「あなたのもの」(あなたの駐車スペース)であることを示す。ボストン市の条例ではそうする権利が認められているのだ。仕事に行くためにその場(雪かきした後にできたスペース)を離れている間もそのスペースに目印を置いてその場を「あなたのもの」とする権利が少なくとも2日間は認められているのである。

ワシントン・ポスト紙の記事より引用(ドナルド・マロン経由で知ったもの)。

(追記)フレッド・マケズニー(Fred McChesney)がこちらの論説で「雪かき」という労働に焦点を当ててそこから「所有権」に関する一般的な教訓を引き出している。

タイラー・コーエン 「おそロシア? ~バラク・オバマが巻き込まれたスパイ小説さながらの展開~」(2009年7月5日)/「お上に嘘をついたことがありますか?」(2006年4月6日)

●Tyler Cowen, “The value of personal experience”(Marginal Revolution, July 5, 2009)


バラク・オバマ絡みで初見のエピソードを目にするというのは私にとって珍しいことだ。

バラク・オバマが(大統領になる前に)最後にロシアを訪れたのは2005年。オバマがまだ上院議員を務めていた時のことだが、旅の締め括りは苦々しいものだった。シベリア近くにある空港で保安職員に引きとめられて3時間も足止めさせられたのである。空港の待合室に閉じ込められただけでなく、パスポートも没収。ジョン・ル・カレの小説さながらの展開が待ち受けていたのだ。

後になってロシア当局は「あれは誤解(手違い)だった」と弁解したそうだ。

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●Tyler Cowen, “жесткий is Russian for “intense””(Marginal Revolution, April 6, 2006)


ロシアを旅する何百万もの観光客はそのうち空港で嘘発見器と向き合わねばならなくなるかもしれない。ロシア国内の一部の空港でセキュリティチェックの一環として嘘発見器による検査の実施が検討されているのだ。ゆくゆくはロシア全土の空港に嘘発見器が導入される可能性もあるという。

嘘発見器の導入が検討されているのはモスクワにあるドモジェドヴォ空港。早ければ今年(2006年)の6月にも導入される見込み。テロリストや麻薬の密輸人を見抜くためというのが導入の目的だという。乗客には嘘発見器を前にして四つの質問――そのうちの一つは「これまでに公権力(お上)に嘘をついたことがありますか?」――に答えねばならないというひやひやものの試練が待ち受けている。

嘘発見器の前で答えねばならない質問は全部で四つ。一つ目の質問は氏名等の個人情報に関するもの。二つ目の質問はソビエトらしさ満載のぶっきらぼうな問いであり、怖気づかずにはいられない問い。「これまでに公権力(お上)に嘘をついたことがありますか?」 その後に続くのは武器や麻薬の所持の有無を問う質問。

乗客は靴を脱ぎX線検査装置で手荷物検査を終えてから嘘発見器による検査に臨むことになる。四つの質問にちゃんと答え終わらないと脱いだ靴は返してもらえない。いずれの質問も検査結果が出るまでには1分程度かかる。「検査で不合格となった(嘘をついているとの結果が出た)お客様は特別警備員に伴われて小さな部屋に通されることになります。そこでいささか張り詰めた雰囲気の中でいくつか質問に答えていただくことになります」。そう語るのはドモジェドヴォ空港でITディレクターを務めるウラジミール・コルニーロフ氏。

完全自動化されたその嘘発見器の名前は”Truth Verifier”。古臭いスパイもののフィクションでお馴染みのポリグラフとは似ても似つかない代物だ。乗客は受話器に話しかけるだけ。イスラエルに拠点を置く会社が開発した”Truth Verifier”には「多層音声解析(LVA)」技術が組み込まれており、そのおかげで乗客が記憶を正確に辿って答えているのかそれとも空想を働かせて答えているのかを見分けることができるという。

全文はこちら

タイラー・コーエン 「テロリストをあぶり出す新手のプロファイリング? ~選曲には細心の注意を~」(2006年4月11日)

●Tyler Cowen, “Musical profiling”(Marginal Revolution, April 11, 2006)


いやはや困ったものだ。

イギリスの空港で会社員が保安職員に引きとめられて飛行機への搭乗を阻止された。その原因は空港に向かうタクシーの中で会社員が運転手にカーステレオでかけてくれるように頼んだ曲にある。地元警察の話によると、その曲に運転手が不信感を抱いて空港当局に通告したという。

その曲とは? ザ・クラッシュの『ロンドン・コーリング』(”London Calling”)にレッド・ツェッペリンの『移民の歌』(”Immigrant Song”)。タクシーの運転手が歌詞のどこに不信感を抱いたのかという点も含めて詳しくはこちらを参照されたい1

(追記)ダニエル・シュトラウス・バスケスの指摘によると、会社員はタクシーの中で(『ロンドン・コーリング』をはじめとした)歌を口ずさんでいただけという少し違った報道もあるようだ2

  1. 訳注;リンク先の記事の中では『ロンドン・コーリング』の歌詞の中から次の一節が引用されている。「こちらロンドン はるか遠くにある街へ告ぐ 宣戦布告なり 戦闘のはじまりだ(“London calling to the faraway towns, now war is declared and battle come down”)/こちらロンドン 地下に潜り込んでいる連中に告ぐ そんな狭いところに隠れてないで出てきたまえ そこの僕にそこのかわいこちゃん 君らのことだよ」(“London calling to the underworld, come out of the cupboard, you boys and girls”)。さらには、『移民の歌』の歌詞の中からは次の一節が引用されている。「神々のハンマーが我らの乗る船を新大陸へと走らせる 歌い叫ぶやつらと戦うために 『神よ、今すぐに向かいます』」(“The hammer of the gods will drive our ships to new lands. To fight the horde singing and crying. Valhalla, I’m coming!”)。 []
  2. 訳注;会社員はインド生まれの24歳の男性。保安職員に引きとめられたおかげで結局予定の便には乗れなかったらしい。「運転手さんはレッド・ツェッペリンもザ・クラッシュも好きじゃなかったんだろうけど、だからって警察に告げ口する必要なんて微塵もないように僕には思えるんです」とは会社員本人の言。 []

タイラー・コーエン 「我が子に珍しい名前を付けるべきもう一つの理由」(2006年10月7日)

●Tyler Cowen, “Another reason to give your kid a weird name”(Marginal Revolution, October 7, 2006)


ケヴィン・ドラム(Kevin Drum)が次のように報じている

空港当局(運輸保安庁)がテロリストの可能性ありと疑われる乗客をあぶりだすために使用している「搭乗拒否リスト」。『60 Minutes』の制作に携わる記者のスティーブ・クロフト(Steve Kroft)がそのリストのコピーをどうにかして手に入れたそうだ。リストに載っている氏名とは?

ゲイリー・スミス、ジョン・ウィリアムズ、ロバート・ジョンソン。搭乗拒否リストに載っている氏名の一例だ。クロフト記者が総勢12名の「ロバート・ジョンソン」氏に取材をしたところ、全員がほぼ毎回のように空港での保安検査で引きとめられた経験があると語ったという。厳重な身体検査を要求されるなどして旅の計画が遅れに遅れることも。

「そうですね。『ロバート・ジョンソン』がリストから削除されることは絶対にないと思います」。そう語るのはドンナ・ブッセラ(Donna Bucella)。搭乗拒否リストの作成を取り仕切るとともに、2003年からFBIのテロリスト監視センターのトップを務めている人物だ。搭乗拒否リストに氏名が載っている方々には不愉快な思いをさせて申し訳ないと陳謝しながらも、「9・11」以後の世界で安全を守るためには必要な代償だとも語る。「搭乗拒否リストに氏名が掲載されている方々は空港を訪れるたびに不便な体験をされることでしょう。それもこれもテロリストであることが確定している人物ないしはテロリストの疑いのある人物と同姓同名なためなのです」とブッセラ。

言いたいことはわかる。上院議員の中に「ロバート・ジョンソン」がいたらどうなる? その場合FBIは搭乗拒否リストがいくらか乗客に優しくなるようにあれこれ工夫を凝らすに違いない。我々有権者一同は「ロバート・ジョンソン」を上院選で当選させるべきなのかもしれない。

これから生まれてくる息子が悪ガキ(悪人)に育ちそうだと予想する親は我が子に「ジョン」という名前を付ける(息子の名前がデート相手にグーグルで検索されても大丈夫なように1)。その一方で犯罪と関わり合いたくない市民は「ジョン」という名前の持ち主を避けるようになる。かくしてほんの数世代もすれば新しい「分離均衡」が定着するに至る2ことだろう。

  1. 訳注;悪ガキである息子の名前が珍しいものだとデート相手にグーグルで名前を検索されると悪事がすぐにばれてしまう恐れがある。その一方で、息子の名前が悪人に多い名前(例えば「ジョン」)と一緒だとグーグルで検索してヒットした悪ガキの「ジョン」がこれからデートする予定のジョン君その人のことを指しているのかどうかわからない。 []
  2. 訳注;「ジョン」という名前が善人か悪人かを識別する有効なシグナルとなる、という意味。 []

スコット・サムナー 「空港警備の強化に励む運輸保安庁は飛行機を毎月一機ずつ墜落させているに等しい?」(2011年11月22日)

●Scott Sumner, “The TSA is bringing down one airliner a month”(TheMoneyIllusion, November 22, 2011)


ティモシー・テイラー(Timothy Taylor)が「9・11」以降の米国内における(運輸保安庁(TSA)が取り仕切る)空港警備を対象とする研究にコメントを加えている(pdf)。

まずはじめに取り上げる論文は “Flight of Fancy? Air Passenger Security Since 9/11”。著者はK・ジャック・ライリー(K. Jack Riley)。ライリーは空港警備の研究に長らく取り組んできた一人であり、本論文では「9・11」以降の米国における空港警備の強化に伴う便益とコストのトレードオフが検討されている。曰く、「米国内にある空港から飛び立つ飛行機の機内に自爆テロ犯が乗り込んでいるのではないかと懸念すべき理由はほとんどない。というのも、前述した理由――乗客の間での警戒心の高まり、コックピット(操縦席)のセキュリティ強化、ビザ審査の厳格化――により米国内にある空港のセキュリティは強化され、そのおかげで過激なジハード主義者が米国に入国するのも(万一入国を許したとしても)飛行機を使ってテロ行為に及ぶのも難しくなっているからである。・・・(略)・・・米国内の空港から飛び立つ飛行機の安全性の高さを考えると国内線を利用する全乗客の保安検査(セキュリティチェック)のレベル(厳重度)をしばらく前(2009年12月以前)の水準に戻す(緩める)ことも選択肢の一つになると思われるが、仮にそうしたとすれば(保安検査に要する人員を雇う費用(人件費)や保安検査に必要な機械等の費用が浮く結果として)最低でも毎年およそ12億ドルの費用が浮くことになるだろう。・・・(略)・・・それだけではない。保安検査が厳重なために乗客が背負わねばならない『死重的損失』――セキュリティチェックに時間がかかることを当て込んで早めに空港に向かわねばならなかったり、セキュリティチェックを受けるために長時間列に並ばなければならなかったり、身の回りを事細かに調べられる煩わしさに耐えねばならなかったりといった乗客に押し付けられる負担――も軽減されることになるのだ」。「現状の保安体制下では国内線を利用する乗客(その数は年間で700万人に及ぶ)にも同様に厳重なセキュリティチェックが行われている。国内線の乗客が搭乗前のセキュリティチェックで強いられる負担を和らげる合理的な方法がこれまでに導入されずにきたというのは過去10年の中でも最大の『失われた機会』だと言えよう。(「危険度の低い(信頼できる)旅行客」(トラスティド・トラベラー)の認定書を持つ乗客にはその他の乗客よりも簡単なセキュリティチェックでよしとする)『トラスティド・トラベラー・プログラム』は空港の安全性を確保しつつ国内線の乗客がセキュリティチェックで強いられる負担を和らげる方法の一つだが、その具体的な中身は色々考え得るだろう」。「『9・11』は当日における直接的な被害者に加えてその後に道路上での交通事故による死亡者も生み出している可能性がある。『また飛行機がテロに利用されるのではないか』という恐れの高まりに加えてセキュリティチェックが厳しくなって飛行機を利用することが不便になったこともあり、飛行機の代わりに自動車を使って移動するケースが増えたためである。これまでの先行研究によると、移動手段として飛行機が敬遠されて自動車が選ばれた結果として生み出された(道路上での)交通事故死亡者の数は(「9・11」以降から)2003年半ばまでの間で合計でおよそ2200人に及ぶと推計されている。2009年12月以降に進められた空港警備のさらなる強化がこれまでと同等の大きさの(飛行機から自動車への)代替(代用)効果を伴うようであれば(あるいはその効果の大きさがこれまでよりも劣るようだとしても)、「9・11」からこれまでの間に飛行機を使った自爆テロで命を落とした全世界での死亡者の累計を上回る数の犠牲(死亡者)が米国の道路上で年間ベースで生み出される可能性があるのだ。」

「9・11」から2003年半ばまでの間に空港警備の強化によって誘発された(飛行機が敬遠されてその代わりに自動車での移動が増えた結果として生じた)道路上での交通事故で命を落とした人の数が2200名。「9・11」から2003年半ばまでというと大体22ヶ月になるので月あたりの死亡者数はおよそ100名。ボーイング737の乗客数が大体そのくらいだ。米国の空港警備はボーイング737の乗客数に相当する人命を毎月奪っているわけだ。それにもかかわらず、政府(運輸保安庁)は「我々は国民の身の安全を守るために努力しています」と「思いやり」(気遣い)の心に溢れているかのような素振りを続けることだろう・・・とロビン・ハンソンなら指摘することだろう1

「安全」と「自由」の一挙両得を可能にする機会がこんなところに潜んでいるようだ2

ところで仮の話になるが、空港警備の強化に伴って道路上での交通死亡事故が一切誘発されなかったとしても(空港警備の強化に伴って誘発される道路上での交通事故で命を落とす人の数が仮にゼロ人だとしても)、空港で乗客と保安職員が口論しなきゃならないだけの価値が果たしてあるかというと(そんなひと悶着の原因となりかねないまでにセキュリティチェックを厳しくしなければならないかというと)私にはそれだけの価値があるようには思えないものだ。

  1. 訳注;この点については次の論文を参照のこと。 ●Robin Hanson, “Showing That You Care: The Evolution of Health Altruism”(pdf) []
  2. 訳注;空港警備を今よりも厳重でなくしたら(空港での保安検査を今よりも簡単に済ませるようにしたら)煩わしくて抑圧的な保安検査から解放されるという意味で「自由」が高まるだけではなく、飛行機の代わりに自動車で移動するという流れが弱まる結果として道路上での交通死亡事故が減るという意味で「安全」も高まるという意味。 []