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スコット・サムナー「弱者に同情しすぎる保守派」

[Scott Sumner, “Bleeding heart conservatives,” TheMoneyIllusion, December 30, 2016]

長年,やたら弱者に同情するリベラルに悩んできた.彼らは,社会の底辺で苦しむ人たちを美化する傾向がある.もちろん,右派はこれと真逆の間違いをおかして,底辺の人たちを邪悪な人間だと考えた.適正な態度は,冷静な功利的現実主義だ――彼らは犠牲者でもないし悪漢でもない.さて,道徳心の見せびらかしにやっかいな新しい傾向がでてきているようだ――弱者に同情しすぎる保守派という新しい傾向がある.
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スコット・サムナー「炭鉱の雇用を奪ったのはオートメーションであって貿易ではない」

[Scott Sumner, “Coal jobs were lost to automation, not trade,” TheMoneyIllusion, December 21, 2016]

dwb というコメンターがこんなコメントを残している:

炭鉱の雇用をつぶした「技術変化」は安い天然ガスと電力需要の低迷とオバマによる化石燃料撲滅キャンペーンの 1-2-3 パンチだよ

この人は,少なくとも貿易を悪者にはしていない.それでも,基本的にはまちがってる――ごく最近まで,石炭の雇用を奪っていたのはオートメーションだ.石炭産業の雇用はこうなってる:

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実は見かけよりなおわるい.1973年にオフィスでの雇用が加えられたおかげで,データで人為的な急増が生じているからだ.実際の炭鉱夫たちを数えたなら,雇用喪失はグラフよりはるかにひどいものになる.ただ,このグラフですら,87万人から約11万人へと雇用が失われている.鉄鋼業よりほんのわずかにわるい.

すると,石炭産業は輸入に圧倒されてしまったんだろうと決めてかかる人がいるかもしれない.でもちがう.過去5年というもの,石炭は純輸出になっている.全生産量の 7% から 12% の範囲だ.

「輸入ではないとすると,じゃあ石油やガスとの競争で生産がたたきのめされたんだよね?」と言うかもしれない.そうでもない.以下のグラフをみてもらうとわかるように,石炭産業はこの数十年にわたって生産を増やしている.石油やガスとの競争が実際に生産を食いはじめたのはこの数年になってのことだ.

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じゃあ,どうしてこれほど多くの石炭産業の雇用が消えてしまったんだろう? 答えは単純,「オートメーション」だ.ぼくが若かった頃とくらべて,いまの生産量は2倍近くまで増えている.そして,はるかに少ない労働者で回している.

コメンターのなかには,「オートメーションによる雇用喪失は貿易による雇用喪失より痛みがかるい」と思う人がいるかもしれない.実際には,痛みは同等だ.オートメーションで失われる雇用は,人員削減によって時間をかけて徐々に起きるわけではなく,波となって生じる.しかも,景気後退のさなかに起こることもよくある.たとえば鉄鋼業では,USスチールとベツレヘムスチールが旧式の工場を閉鎖したとき数千の雇用が失われ,ニューコアとチャパラルは別の地域にもっと効率のいい新式工場をつくった.ピッツバーグで多くの鉄鋼業雇用が失われる一方で,その分を置き換えたのはテキサスのもっと少ない人員だった.

似たことが石炭業でも起きる.ワイオミングの新しい巨大露天掘り炭鉱は巨大ショベルカーを使う.ウェストバージニア州の閉鎖炭鉱の従業員100名がこれで置き換えられてしまう.

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ワイオミングが外国だったら,ウェストバージニア州の炭坑夫たちは議員たちに怒鳴り声を上げて,自分たちは安いワイオミングの輸入から「保護」される必要があると訴えるところだろう.だが,ワイオミングもアップルパイなみにアメリカなので,誰も関税を主張なんかしない.それでも,かりにオハイオ州の鉄鋼が中国からの輸入に影響を受けた場合と,経済問題はそっくり同じだ.

オハイオ州の鉄鋼労働者やウェストバージニア州の石炭鉱夫の苦しみにもっと注目すべきだという聖人ぶった論評がメディアで騒々しく飛び交っているのをみかける.なるほど,でもそうした評論家たちの何人が,この2つのグループの利害が真っ向から衝突しているのを認識してるんだろう? トランプが鉄鋼を助けるべく保護主義政策を追求したら,それによってアメリカの石炭輸出は打撃を受ける.TPP はウェストバージニアの景気をよくするだろうけれど,一方でオハイオの製造業を脅かす.

だが,もっと深い水準では,石炭と鉄鋼が直面する問題はそっくり同じだ.アメリカでは,というかほぼ世界のいたるところで,オートメーションが急速に鉱山業や製造業の雇用を削減していっている.この問題が消えてなくなることはなさそうだ.それどころか,ロボット工学の進展にともなって,事態はいっそうわるくなるだろう.トランプはいくらか象徴的な動きこそ見せられるだろう(空調設備企業 Carrier の件や環境保護法の緩和など).それで救われるのは一握りの雇用だ.そして,世間には見えない他の雇用が失われる.だが,根本のところではなにも変わらない.たんに,いまより薄汚くて暑い地球をもたらすだけだ.そして,そんときにもラストベルトの労働者たちはあいかわらず怒っているだろう.

自分たちの苦しみは外国人のせいだとデマを吹聴するのはいつだって心地いいものだ.でも,その外国人も同じことをやる――彼らにとっての外国人がわるいと責めるだろう.その外国人にはぼくらも含まれる.

タイラー・コーエン「サービス部門の新たなお仕事あれこれ:《スペイン式ハムスライスの供給と需要》 編」

[Tyler Cowen, “Those new service sector jobs, supply and demand Spanish ham slicing edition,” Marginal Revolution,December 21, 2016]

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55歳,世界最高峰のハムスライス職人――フローレンはそのサービスに相応の料金をとっている――ハム1本をスライスするのに4000ドルをとるという.

フローレンは愛称だ.そう呼ばれるのを本人も気にいっている.彼はこれまで数多くの多彩な有名人たちのためにハムをスライスしてきた.バラク・オバマ大統領,ロバート・デ・ニーロ,デイヴィッド・ベッカム,さらには,スペインのファン・カルロス国王陛下のためにスライスしたこともある.ハモン・スライスの匠の技を披露した場所もさまざまだ.オスカー賞の受賞会場,ハリウッドの内輪パーティ,ラスベガスやマカオのカジノなどなど.一年中,各地で開催されるF1レースのサーキットを転々としながら,パドックの VIP たちやラウンジのトップレーシングチームのためにハムを切る.

ハモン愛好家たちのあいだでは,どうやらスライス機は論外らしい.摩擦で生じる熱でハムの味がかわったり脂肪がとけてしまったりして,ハムを賞味する経験がすっかり台無しになってしまうのだという.だが,スペインで催されるそれなりのカクテルパーティやイベントならきまって専門のハムスライス職人がいるものだが,ハム1本あたりの費用はだいたい250ドル程度だ.これでは,とうてい生計を立てられない.このため,職人たちの大半は兼業だ.一方,フローレンこと Florencio Sanchidrián はハム1本あたりおよそ4000ドルを請求し,1時間半かけてスライスする.

さらに:

「ハム切り師が英語をしゃべるのもちょっとどうかと思いますね」と彼は語る.

全文はこちら.この記事を教えてくれた Chug に感謝.

タイラー・コーエン「多くの人にとってアメリカンドリームは消失してしまっている」

[Tyler Cowen, “For many people, the American dream has been vanishing,” Marginal Revolution, December 9, 2016]

1940年に生まれた赤ちゃんたちが30歳の大人になったとき,親が30歳で稼いでいた課税前の世帯所得を上回っていた人たちはおよそ92パーセントいた.(もっと上の年齢の課税後所得でも結果は同様だ)

(…)1980年生まれの赤ちゃん――いま36歳になっている人たち――の場合,アメリカンドリームをはかるこの指標は,50パーセントにまで落ちている:つまり,親が同年齢のときに稼いでいた額を上回った人たちは,半数にすぎない.

上記は,『ニューヨークタイムズ』のデイヴィッド・レオンハートの記事から引用した.紹介されている元ネタは Raj chetty による新研究だ.Jim Tankersley の文章にもっと詳しく書かれている.『ブルッキングス』での報道はこちら.さらに,ここで Vincent Geloso がデータのいろんな調整法について考察している.

▼ 親世代の収入を上回っている割合を生年別で見ると:
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アレックス・タバロック「大停滞に関する憂鬱な論文:アイディアは見つけにくくなっている」

[Alex Tabarrok, “A Very Depressing Paper on the Great Stagnation,” Marginal Revolution, December 17, 2016]

アイディアは見つけにくくなってるんだろうか? 「なってる」と言っているのがこの論文 [PDF] の著者たち,ブルーム,ジョーンズ,ヴァン・リーネン,ウェッブだ.アメリカの経済成長については,よく知られている事実がある.この100年あまりにわたって,アメリカの成長率は比較的に一定していた.一方,研究者の数は同じ期間にずっと大幅増加を続けている.研究者が増える一方で成長率が一定だということから,アイディアの生産性が下がっているらしいとわかる.ジョーンズがこの論点を主張したのは,ずっと昔の論文でのことだ [PDF].それ以来,この問題がずっと頭に引っかかってる.ただ,アメリカ一国をのぞいて世界の成長率は上昇しているのだから,もしかして,アメリカにはなにか相殺する要因があるのではないだろうか? だが,ブルーム,ジョーンズ,ヴァン・リーネン,ウェッブは,この問題をあらためて考察して,具体的な産業をもっと詳細に調査している.その結果得られた見取り図は,うるわしいものじゃあない.
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スコット・サムナー「モンティパイソンの知恵」

[Scott Sumner, “The wisdom of Monty Python,” The Money Illusion, November 8, 2016]

あんまり落ち込みなさんな:

きっとなにかしらいいところもあるはずだ:

1. まだトランプが一般投票で負けるかもしれない.

2. 反ヒスパニック系をめぐるトランプの言辞はどうかしてるといまでも思ってる.でも,何百万ものヒスパニック系があの男に投票するというんだったら,ぼくも気に病むのはやめておこう.

3. トランプは病理的な嘘つきだ.だから,「やる」といま言ってるろくでもないことを全部やるともかぎらないかもしれない.

4. 実のところ,まともな提案もほんのわずかだけれどある.たとえば,債権と債務の税制一本化みたいな提案だ.実現しそうには思わないけれど,世の中わからないものね?

5. ブロガーにとっては,これから12ヶ月以上にわたって取り上げる話題に事欠かないだろう.

ぼくが思いつくのはこれくらい.みんなはどうだろう?

〔訳者註記: 原文でこのあとに続いている追記は省略しています〕

ノア・スミス「数学の天才における性別格差の崩壊」

[Noah Smith, “The collapsing math genius gender gap,” Noahpinion, November 2, 2016]

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Allison Schrager, Andy McAfee その他経由のネタ.SATスコア上位層の性別格差のグラフだ:
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タイラー・コーエン「ジェフリー・ミラーの新著『消費:性・進化・消費行動』」

[Tyler Cowen, “Spent: Sex, Evolution, and Consumer Behavior,” Marginal Revolution, April 29, 2009]

――というジェフリー・ミラーの新著が出た.ミラーといえば,『恋人選びの心:性淘汰と人間性の進化』の著者として有名だ.議論の展開にはちょっとまとまりがないけれど,いちばんよく書けてる部分はぞくぞくするほどたのしい.おすすめ.手にとってすぐに読み始めてよかったと思ってる.

本書の核心部分をなす説は,ウェブレン的な論点だ.進化でかたちづくられた生物学的な生き物としてシグナリングにのめりこんでしまうぼくらが抱える弱点にマーケティングはつけこんでいるとミラーは言う:
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アレックス・タバロック「アメリカ人は多様性を強みだとみている」

[Alex Tabarrok “Americans Believe Diversity is Our Strength,” Marginal Revolution, October 7, 2016]

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ピュー研究所の調査によると,ヨーロッパ人に比べてアメリカ人は多様性をずっといいものだと考えている.多様なほどアメリカはよくない場所になると信じるアメリカ人は,わずかに7パーセントしかいない.これに次ぐのはスペインだが,アメリカの実に3倍以上もの人々が「多様になるとスペインはよくない場所になる」と信じている.

リベラルは保守に比べて多様性をよいことだとみているが,アメリカの保守派の多く (47%) は,多様なほどアメリカはもっとよくなると考えている.つまり,ヨーロッパのリベラルの大半よりアメリカの保守の方が多様性をよいことだと考え手いることになる.

多様性を楽観的に考えるのは,アメリカのとくに賞賛すべき特質だ.

多様性は信頼を損ないうるし,不信と強力な中央政府が結びついた社会は内戦と権威主義とを揺れ動く恐れがある.だが,限定された政府のもとでは,少しばかりの不信は手に負えるし,そればかりか利点でもある.たとえば,かりにアメリカがもっと同質であったなら,言論や信仰の自由をとっくの昔に放棄していただろう.その理由は,ほかでもなく,どういうことならみんなが自分の言いたいことを言っていいかどうか合意できない点にある.

多謝: Cardiff Garcia.

タイラー・コーエン「ITによって郊外の地位は高まりそう」

[Tyler Cowen, “Suburbs will soar on the wings of tech,” Marginal Revolution, September 29, 2016]

――ってことを『ブルームバーグ』の最新コラムに書いた.ひとつ抜粋しよう:

自動運転車がいちばん助けることになりそうなのは,郊外だ.郊外で最悪なのはなにかと言ったら都市部や他の郊外地域への通勤だ.でも,通勤時間に(安全に)読書したりテキストメッセージをやりとりしたりTVを見たりできたら,どうだろう? 電車や飛行機に乗っているあいだにいつもどおりに仕事を片付けられたらどうだろう? そうなれば,通勤の苦痛はずっと小さくなる.自動運転車が進化して,自動車の車内空間を仕事や余暇に使いやすくなれば,通勤のストレスは楽しみに取って代わられるだろう.

ドローンはどうだろう? ドローンも,便利な品物やサービスにアクセスするのが〔都市部より〕むずかしい遠隔地にとって有利なように思える.ドローンは,郊外よりもさらに遠くの郊外周辺の住宅地や田園地域にいっそう役立つかもしれない.他方で,いちばん得にならなそうなのが都市だ.側道を自走するタイプのドローンは,人で混雑した都市ではうまく走れないかもしれないし,飛行型ドローンにとって,高層ビルが林立する都市はあまり飛びやすい地域ではない.人口密度が高いと,ドローンが落下して誰かに当たるリスクが高くなるかもしれない.

さらにもうひとつ:

「スマートホーム」やモノがつながるインターネット (IoT) の到来を考えてみよう.コンロ/コンピュータ/3Dプリンタ/ロボットに話しかけるのって,よさそうじゃないか.「ちょっとピュレ・スカッシュをつくってよ」なんて.この話題についてなにをどう予測してみても,空想みたいに思える.それでも,郊外の方が新しい住宅や新しい機器をよく見る場合が多い.なぜなら,都市の古い集合住宅を建てなおしたり設備を入れ替えたりする方が難しいからだ.だから,スマートホームの登場も,やっぱり郊外に有利になるんじゃないかと思う.

リンク先のコラムにはもっといろいろ書いてる.かつての「テレコミューティング革命」〔家に居ながらにして会社の仕事をするスタイルが普及してなんかすごいことになるぞって話〕とちがうところに注意.テレコミューティングは都市にとってなんら痛手にならなかったけれど,こうした変化の多くは,情報だけでなく実際の人やモノの移動の速度を上げる.そうして生じる効果は,1950年代や60年代の州間ハイウェイによく似ている.州間ハイウェイは,都市ではなく郊外に有利にはたらいた.