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サイモン・レン=ルイス「医者としての経済学者」(2017年4月6日)

Simon Wren-Lewis, “Economists as Medics” (Mainly Macro, 6 April 2017)

先日、経済学はいろんな点で医学に似ているという私の長年の見解についてツイッターで絡まれた。もちろん経済学は正確には医学のようではない。ダニエル・ハウスマン曰く、経済学は不正確な遊離科学だ。しかしほとんどの医者が何に時間を費やしているか考えてみてほしい。彼らは高度に不確かな環境で問題解決の仕事をしていて、限られたヒントみで先に進まなくてはならない。彼らは一部の問題に対する解決策を持っているが、そうした解決策が信頼できる度合いはさまざまである。 [Read more…]

消えた成長の謎:あるいは如何に帰属と創造的破壊がTFPに影響するか

訳者: 帰属計算というと、普通はGDPの計算で市場取引されていない財・サービスの価値の計算方法のことかと思いますが(よく例として出されるのが、持ち家の住居サービスの価値の計算)、このコラムでは名目値を実質値とインフレ率に変換する際の、新製品の影響の計算方法の事を指しています。

 

消えた成長:帰属と創造的破壊がいかにTFPの計測に影響を与えるか

From VoxEU

2017年8月16日

Philippe Aghion, ハーヴァード大学経済学教授、CEPRリサーチフェロー

Antonin Bergeaud, パリ経済学校博士課程学生、フランス銀行

Timo Boppart, ストックホルム大学IIES助教授

Peter Klenow, スタンフォード大学経済政策教授

Huiyu Li、サンフランシスコ連邦準備銀行

概要:全要素生産性の成長率が低下していることから、世界はイノベーションのアイデアに枯渇しつつあるのだと主張する人達がいます。このコラムは算出が計測される方法がこれを判断する上での核心であると主張し、産出計測バイアスにおける帰属の役割を定量化します。「新しい」ものと既存の製品を区別することで、合衆国経済の消えた成長を見つけ出すことが出来ました。この消えていた成長を考慮することで、統計当局はその手法を向上し、新しいアイデアの登場をより容易に認識することが出来ますし、またこれは最適成長とインフレターゲット政策についての含意を持ちます。

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マーク・ソーマ 「キューバ危機と『寛大なしっぺ返し戦略』」(2007年2月13日)

●Mark Thoma, “Generous Tit-for-Tat”(Economist’s View, February 13, 2007)


「寛大なしっぺ返し」戦略は壊滅的な軍事衝突を避ける上でキーとなる役割を果たす。ジェフリー・サックス(Jeffrey Sachs)がそう語っている1

Threats of War, Chances for Peace” by Jeffrey D. Sachs, Scientific American

気候変動に森林破壊、地下水の枯渇。いずれも世界経済の持続可能な発展に対する深刻な脅威であることは間違いないが、今後の人類の福祉にとって一番の脅威といえばやはり相変わらず戦争の脅威ということになるだろう。1962年のキューバ危機(キューバミサイル危機)時に世界は核戦争の瀬戸際に立たされることになったが、今でも南アジアや中東、朝鮮半島といった紛争地帯で再びあれよあれよという間に似たような事態に追いやられる可能性は残されている。核戦争の一歩手前までいったキューバ危機。しかし、キューバ危機は軍備管理に向けた最初の一歩(1963年に締結された部分的核実験停止条約)へと道を開くきっかけともなった。それもこれもジョン・F・ケネディ大統領の政治的なヴィジョンと熟練した手腕の賜物であり、歴史に名を残す画期的な成果だと言える。キューバ危機から部分的核実験停止条約の締結へと至る顛末は今日の世界にも時宜を得た教訓を与えてくれている。

1962年後半から1963年中頃にかけて立て続けに起こった一連の出来事についてはよく知られているところだ。・・・(略)・・・戦争開始まで残りあと数時間というギリギリのところまで追いつめられたと思いきや、その数ヵ月後には米ソ間で核実験の禁止に向けた合意が取り付けられるに至ったわけである。

わずか1年の間に戦争の瀬戸際から平和の実現に向けた画期的な条約の締結へと事態が大きく動いたわけだが、一体全体どうしてそんなことになったのだろうか? その答えはソ連に対するケネディの姿勢にあった。・・・(略)・・・敵を悪者と断じるなかれ。ケネディはそのような発想を出発点に据えてソ連との交渉に臨んだ。ソ連は(時に間違った行動を選択することはあるにしても)合理的である。ケネディはどの場面でもそのように想定した。ソ連は戦術的に少しでも有利な立場に立とうと画策しはするだろうが、・・・(略)・・・自殺行為を意味しかねない戦術からはすぐにも手を引くだろう。ケネディはそう想定した。

ケネディは「寛大なしっぺ返し」(generous tit-for-tat;GTFT)戦略を採用していたのだ。現代のゲーム理論家であればそう語ることだろう。一方の側のプレイヤー(プレイヤー1)は相手の側(プレイヤー2)が「協調」する限りは「協調」を貫く。しかしながら、プレイヤー2が「裏切り」に手を染めるやいなやプレイヤー1もプレイヤー2を真似て「協調」路線を見直す。裏切ると手痛い結果が待っているぞ。裏切り者にそう知らしめるためにである。・・・(略)・・・・しかしながら、裏切り者が改心する気があるなら再び「協調」路線に転じてやってもいい。プレイヤー1は「心の広さ」を示してそのような可能性を匂わせておく。・・・(略)・・・そしてプレイヤー1は「寛大にも」自分の側から率先して「協調」路線に転じる可能性さえある。そうすれば一度裏切った相手(プレイヤー2)から再び「協調」を引き出す(裏切り者を改心させる)ことができるかもしれないと見越してである2。「寛大なしっぺ返し」戦略は極めて実り多くてたくましい(頑健な)戦略として知られており、人間の本能に深く埋め込まれている基本的な戦略なのではないかというのが多くの進化生物学者の見立てである。

ケネディは・・・(略)・・・(1963年6月にアメリカン大学の卒業式に招かれて行った「平和のための戦略」演説の中で)敵を侮辱するようなことがあってはならないと強調している。「核を保有する国々は互いの重要な国益を守り抜きつつも、敵対する相手国に屈辱的な撤退か核戦争かの二者択一を迫るようなことだけは避けねばなりません。核の時代にそのような対立関係を煽るかのような路線を選択するというのは政策の破綻を示す証拠かあるいは全世界を巻き込んでの自殺願望を示す証拠でしかないでしょう。」

ケネディの発想は当時はラディカル(革新的で新奇)なものだったが、同じ人類という共通項ゆえにソ連と協調関係を構築することも可能だというのがケネディの考えだった。「煎じ詰めるとこう言えるでしょう。米国とソ連を結び付ける共通の絆の中でも最も根本的なもの、それはどちらの国の国民もこの小さな地球に共同で暮らしているという事実です。私たちは誰もが同じ空気を吸って生きています。誰もが子供たちの未来を気にかけています。私たちは命に限りがある同じ人間なのです」。あちら側(敵)もこちらと同じように生きたいと願っており子供たちの未来のことを同じように大切に想っている。何らかの挑戦や脅威が目の前に立ちはだかった時に是非ともしっかりと思い出したい洞察である。45年前(のキューバ危機時)にもそうだったように、この重要な洞察は我々が今後も無事に生き抜き安全に暮らし続けていく上でキーとなる役割を果たすことになるかもしれない。

  1. 訳注;サックスはこのテーマ(キューバ危機への対応を含めたケネディ大統領の世界平和の実現に向けた奮闘)で一冊物している。次の本がそれである。 ●Jeffrey D. Sachs(著)『To Move the World: JFK’s Quest for Peace』(邦訳『世界を動かす-ケネディが求めた平和への道』) []
  2. 訳注;キューバ危機前後の米ソ間のやり取りに当てはめて考えると次のようになる。ケネディ大統領率いる米国(プレイヤー1)はソ連(プレイヤー2)が挑発的な行動に出ない限りは「協調」路線(軍拡を控える)を貫く姿勢をとっていたが、ソ連がそれまでの(キューバ国内に持ち込むのは防衛用の兵器だけに限るという)約束を翻してキューバに攻撃用の核ミサイルを持ち込んだ(「裏切り」に手を染めた)ために「協調」路線を見直して海上封鎖に乗り出すとともにキューバに空爆を仕掛ける脅しもかけた。米国側の強気の姿勢を前にしてソ連は態度を軟化させ、結果的に全面核戦争の危機は回避されることになる。それから数ヵ月後のこと、米国は「寛大にも」自分の側から率先して「協調」的な行動に打って出ることになる。核実験を禁止する条約を結ばないかとソ連側に話を持ち掛けたのである。そしてソ連もその提案に乗っかる(「協調」で応じる)ことになり、1963年に部分的核実験停止条約が締結されるに至ることになる。 []

ラジブ・カーン「ピーター・ターチンへの10の質問:『歴史の方程式』は存在するか?」(2010年2月10日)

10 questions for Peter Turchin
POSTED ON FEBRUARY 10 2010 BY RAZIB KHAN

ピーター・ターチンは、生態学、進化生物学、ならびに数学を修め、コネチカット大学で教鞭を取っています。彼は5冊の本の著者です。その内の3冊『国家興亡の方程式』、”Secular Cycles”(『長期の世代循環』) 、”War and Peace and War”(『戦争と平和と戦争』)は、新分野「クリオダイナミクス(歴史動力学)」から得られたモデルの概説試案となっています。私は、『国家興亡の方程式』と”War and Peace and War“(『戦争と平和と戦争』)に書評を書いています。以下がターチンへの10の質問です。

Q1:あなたの最初の研究分野は、定量的な生態学でした。なにが、あなたを歴史動態のモデル化に転向させることになったのでしょう?

ある時点となりますが、生物個体群の動態における大きな問題の大部分が解決されている、ないしまさに解決されようとしているということを、私はハッキリ理解することになったのです。なので、私は”Complex Population Dynamics“(複合的な生物個体群の動態)に関する本を書くことになり、考えていた上記の問題の答えの統合を行いました。そして、よりやりがいのある分野への探索を始めることになりました。そこで判明したのが、まだ数学化されていない最後の科学分野は歴史である、ということです。まず最初に考えていたのが、単純に歴史の動態に関して幾つかの数学的モデルを書き出すことでした。趣味としてですよ。しかし、いったんこれをやってみたら、モデルの予測が、実データでテストできるかどうか見てみたくなったのです。非常に驚いたことに、歴史の進展に関しては、多くの定量的データが存在することが分かりました。つまり、モデルと理論のテストを行う事が、顕著に可能であることが判明したわけです。その結果、この件で、私の主目的は、机上の計算や、よりの厳密化を行うことよりも、「実証可能性」となりました。「私の理論は実データでテストできるか」が最優先興味になったわけですね。

Q2:あなたは、「クリオダイナミクス(歴史動力学)」という新分野の最前線にずっといます。新分野が必要なのでしょうか? 経済学者達が既に、「クリオメトリクス(計量経済史)」の最前線にいて、自前の理論的フレームワークを保持しているように思われるのです。あなた特有のフレームワークの付加価値は何になるのでしょう?

私は、「クリオダイナミクス(歴史動力学)」が必然だと確信しています。歴史の進展は非常に複雑です。経済的要素だけでなく、人口統計的、社会的、政治的、思想的、気候的、そしてその他多くの要素が関わっているのです。なのでおそらく、人は大規模な学問的分野にまたがるようなアプローチでもって歴史に相対すべきなのでしょう。科学的手法に従うようになることが、社会科学の最終到達点なのです。私は経済学者達に多くの敬意を払っていますが、多くの点で彼らは、歴史を扱って進捗をもたらすのを困難としています。例えば、最近まで、経済学者達は、「合理的経済人が破産するモデル」を扱いかねてきました。別の問題もあります。伝統的な経済学の理論は、あまりにも均衡に焦点を当てすぎています。このことは、経済学者に歴史の動態を扱いづらくさせているのです。この両障壁は、今や解体されつつありますが、未だに経済学者達は、「クリオダイナミクス・コミュニティ」の最前線にはいません。クリオダイナミクス(歴史動力学)は、歴史社会学者、人類学者、そして政治学者からなる非常に大きな領域を代表しているのです。

Q3:学問分野からの観点となりますが、あなたの研究に、最も肯定的な反応はどの分野からでしたか? また最も否定的な反応はどの分野からでしたか?

肯定的な反応は、上記に列挙した分野からありましたね。具体的には、歴史社会学、社会人類学と文化人類学、政治学、経済歴史学と社会歴史学、人口統計学です。否定的な反応は、これまでのところ実際にあまりありませんでした。主たる防衛的メカニズムは、私たちを無視することですね。歴史学者の95%が行っていることです。私にとって、気にするような事ではありません。実は、嬉しい驚きもありました。歴史社会学者と(推定)5%の歴史学者から肯定的反応が返ってきたことです。クリオダイナミクス(歴史動力学)の時代が到来している、ということなのでしょう。因みに、私たちは、今年、査読付き論文雑誌を始めています。

Q4:あなたがソ連で生まれたという事実は、歴史を科学的研究するというコンセプトを見開くことなったかもしれない、と私は推察しています。人類の過去を科学的に記述し、未来の予測を試みる、といったマルキストの思想形成のような、歴史の可視化を行えたのではないか、と。あなたの今の知的関心と、文化的背景の関係はあると考えていますか? それともないのでしょうか?

はい、ロシア的背景は、私の知的関心への強い貢献要因だと思います。しかし否定しておくと、マルキシズムは関係ありません。あなたに知って欲しい事があります。私が、歴史研究を始める前に、マルクス主義を完全に拒絶していた事です。これは私の家族的背景に由来してます。(私の父は、ソ連における人権活動家であり、1970年代後半に海外追放されているのです)。つい最近ですが、社会科学の研究者になったことで、私はマルクスの特定の洞察の価値を理解し、理論に組み入れることを習得しました。しかし、どんなに想像たくましくしても、私はマルキストではありません。ロシア的要素は(私が信奉する限り)、ロシア人は広大な思索家になる傾向、といった行動に現れます。ドストエフスキーが一度言っていたと思うのですが、「ロシア人の心は非常に広い。広すぎるくらいだ。俺はできるなら縮めたいよ」1 と。なのでロシア人は宇宙理論を生み出す傾向を持っています。(『ロシア宇宙主義』と今や呼ばれようになった、哲学一派すら存在します)。自身の研究において試みているのが、このロシア的傾向性と、アングロ・サクソンの実用性・経験主義の融合なのです。

Q5:あなたは、自身の学説で集団淘汰モデルを打ち出しています。しかしながら、私がなじんでいる限りあなたの研究内容は、文化的集団淘汰に焦点を絞っています。サミュエル・ボウルズによって提唱されている、狩猟採集民に関する血縁レベルの集団淘汰についてどう考えていますか? そしてそれの、農業的個体群への適応可能性についてはどう考えていますか?2

私が考えるに、集団淘汰メカニズムは、遺伝レベルと文化レベル双方で機能します。そして、もちろん遺伝と文化の相互作用に基づいたものとなります。この遺伝と文化による混合要因は、初期人類の進化においては、主に遺伝的要素が働いていました。現代は、文化的要素がより強く働くことになっています。しかしながら、遺伝的進化は未だに継続しています。なので、今日においても淘汰作用が、100%文化的ということありえないでしょう。私のクリオダイナミクスのサイトに査読前原稿があります。そこで私は、超大規模な社会性(数百万単位の個人が協力的な集団を形成する我々の能力)の進化に焦点を当てています。そして、そこでの私の主たる着眼点は、文化的集団淘汰です。

私たちが期待すべきでないことが1つあります。遺伝子と文化の間に綺麗に線引が行えるようになることです。この2つの情報伝達による共進化が、[進化が]作用する要所なのです。

Q6:あなたの農業社会を基盤にした政治形態の盛衰モデルについてです。モデルで、あなたは「高次の民族」アイデンティティの生成に関しては、制度的宗教の重要性を強調しているように思われます。歴史学者達によって言及されてきた歴史上の奇妙な現象の1つがあります。それは、世界的宗教の台頭が、紀元前600年から西暦600年の間に起こっており、さらにこの期間の後には、多数の宗教の台頭が比較的低位安定になった現象です。あなたは、この現象のパターンに関してなんらかの説明言説を保持していますか? それとも、説明すべきものは何もないのでしょうか?

事実、これは歴史における最も印象的なパターンの1つですね。そしてこの現象は、私の理論に非常にきれいに適応します。私自身に繰り返させるよりも、読者には私の最近の論文を読むことを勧めます。以下のURLに論文の再刊行版が掲載されています。
http://cliodynamics.info/PDF/Steppe_JGH_reprint.pdf
p.201からの「枢軸時代3 」の私の解説を読んでみてください。そこから続けて、「枢軸時代」期間の中東の部分(p.209)をチェックしてみてください。

Q7:レイ・ファンの著作”China: A Macro History“(『中国:マクロの歴史』)で言及されている事実に私は依拠しているのですが、それによると、中国では王朝と王朝の間の空位期間が、年代を経るごとに短くなっていっている、とのことです。これは、あなたの歴史進展のモデルによって説明可能でしょうか?

はい、可能です。世界の他の地域でも、同じ観察現象となって現れてるとのことです。ビクター・リーバーマンの著作”Strange Parallels“(『不思議な類似性』)の、最近出版された2巻によるとですが。思うに、国家の運営能力が文化的に進化しているという事例は、非常に説得力があります。おのおのの新国家は、白紙から始まっていません。過去の様々な試みの中で開発された政治統合の技術を既に備えているのです。結果として、政治形態の規模と統合は、時間とともに増大する傾向となります。そして、空位の期間は短くなっていくのです。

Q8:あなたは、歴史をまたいだ高次の民族的フロンティアの重要性に着目しています。
旅行とコミュニケーションが容易になった現代世界においては、空間的な境界線の価値は減っているように思えます。なので、文明はいくぶんですが、相互に入れ替えされていると思うのです。(例えば、第3世界における西洋人の飛び地居住、西洋社会へのイスラム教徒のディアスポラ(離散集住)、アフリカにおける中国人、等々…)。高次の民族的フロンティアの概念は、このような現在の状況にも転用可能ですか?

私は可能だと考えていますが、現段階では完全に根拠のない推測ですね。さきほど言及したビクター・リーバーマンは、別の際立ったアイデアを保有しています。それは、現代ヨーロッパ人の実態は「外見が白いアジア人」だというものです。どういうことかと言いますと、西暦1500年以後、文化進化の主要な中心地が、[中央アジアの]ステップ地帯のフロンティアから、ヨーロッパ人達の植民フロンティアへとシフトしたということです。 私たちは、おそらくいまだにこのシフトした同時代にいるのでしょう。だから、最も激しい文化進化が行われているのは、西洋社会が他の社会に侵略的影響を与えている地域ですね。

また忘れてはならないのが、民族・宗教的ディアスポラ(離散集住)は、近代性による発明ではないことです。より重要なことに、今日における情報流通は、その場限りではありません。なので、(イラクから数千キロ離れている)サウジアラビアに住んでいるような人が、アブグレイブ4 に関するニュースをリアルタイムで見ることができる。しかもおそらく視覚的なデータで。そして、その人は、イスラム原理主義ゲリラになることを決心するわけです。よって、私は、この基礎的な動力は未だに展開していると推測しています。しかも、この動力は、現在のコミュニケーション以前の動力と違い空間的に限定されていないのです。

Q9:現代のポスト・マルサス的世界についてです。過去の長期の世代循環から、我々が得ることができる、なんらかの洞察は存在するのでしょうか?

私の研究中の仮説は、「人口層構造理論」、「エリートの過剰生産」、「国家財政の脆弱性」の3つのメカニズムのうちの2つが、現実世界では引き続き機能しているというものです。次の質問の答えを参照してみてください。

Q10:あなたの次の大きなプロジェクトは何ですか?

私が今研究している主要プロジェクトは、1780年から現在までのアメリカ史における人口層の構造分析です。なので、上記の質問9で少し言及した仮説を、実証分析で裏付けるられるかどうかの検証を行う予定ですね。

※訳注:訳者による補足、註釈の文面は基本的に[]で囲っている。
※訳注:タイトルを直訳すると『ピーター・ターチンへの10の質問』となるが、馴染みの無い分野の記事内容と考え副題を追加している。
※訳注:本インタビューが行われた後、2016年に、ターチンは2冊の本を刊行している。”Ultrasociety: How 10,000 Years of War Made Humans the Greatest Cooperators on Earth“(『超社会性:戦争の1万年はいかにして人類を地球上でいまだかつてない協調者に仕立て上げたのか』)はQ5で言及している「超大規模な社会性(数百万単位の個人が協力的な集団を形成する我々の能力)の進化」を扱ってる。”Ages of Discord“(『不和の時代』)は、Q10で言及されている研究をまとめたものである。それぞれの本で扱われている内容の日本語による概略は、ココココココで読むことが可能。
※訳注:邦訳がない書籍は、原題の直後に訳者による便宜上の邦題を追加している。

  1. 訳注:『カラマーゾフの兄弟』の登場人物のセリフを指すと思われる。正確には「いや実に人間の心は広い、あまり広過ぎるくらいだ。俺は出来る事なら少し縮めてみたいよ」(岩波文庫版より)である。 []
  2. 訳注:訳注:『集団淘汰』という言葉に関しては、数十年前にほぼ棄却された後に、近年また別の形で復活していることに注意する必要がある。ここでカーンとターチンが話題にしているのは、後者の近年復活した『集団淘汰』のことではないかと思われる。
    古典的『集団淘汰』とは70年代頃までの、多くの生物学者の共通見解であった、群れ同士のあいだで行われる生存競争が進化を左右する、といった説である。この説は、個体間の利他行動が進化する理由を説明しやすい。個体がたがいに助けあう群れは、そうでない群れより生存に有利だと考えられるからである。しかし現実の生物は、群れ内部の個体間競争に勝つため、群れ全体にとっては損害となる進化をすることが珍しくなく、この説にそぐわない事実が多く指摘されることになった。
    そのため60年代半ばにハミルトンの包括適応度説(いわゆる『利己的遺伝子説』)が出現し、進化の基本単位を遺伝子とする血縁淘汰等での説明が主流となった。このことで、アリやハチの巣にみられるような利他行動の進化がこの説で説得的で説明されるようになり、集団淘汰説は廃れていくことになった。
    しかしハミルトン説で説明できるのは血縁者間の利他行動だけなので、人間が非血縁者同士でも助けあうよう進化した理由は、今に至るも大きな謎として残されている。ターチンが研究している、人間の超大規模な社会性の発達等である。この謎の解明の目的にさまざまな説が唱えられているが、その中には集団淘汰的発想を復活させるものも多い。人間だけなんらかの理由で集団淘汰により進化したとする説もあれば、遺伝子ではなく文化の進化が疑似集団淘汰的に起こるとする説や、遺伝子と文化の共進化という現象を想定する説もある。 []
  3. 訳注:哲学者カール・ヤスパースによって提唱された時代区分の名称。紀元前500年前後に、今にいたるも影響を与えている宗教や哲学思想が、世界各地で別個に同時多発的に発生した現象を指す時代区分 []
  4. 訳注:イラクのバグダッド近郊にあるアブグレイブ刑務所のことと思われる。イラク戦争渦中に、この刑務所を占拠したアメリカ軍は、ここで捕虜の虐待を行っており、マスメディアに報じられたことでアメリカ軍への批判が寄せられることになった。 []

サイモン・レン-ルイス 日本とその公的債務負担 (2017年8月18日)

Japan and the burden of government debt  (Mainly Macro, Friday, 18 August 2017)

Posted by Simon Wren-Lewis

日本について十分書いているとは言えない.今となっては,私の投稿の一部がありがたいことに日本語に翻訳されている1のだから,その埋め合わせをしてみるべきだろう.実際,ちょうど日本経済について書くべき大変よい理由がある.それは,非常に強かった2017年第2四半期のパフォーマンスである.年率換算した成長率は4%で,それに比べて英国は1.2%だ.最近の日本の成長に関して特に励まされる点は,貿易でなく内需に主導された成長であるという点だ.過去において日本は,英国と正反対の問題を抱えていたように思われる.すなわち,成長が貿易依存であり,内需が弱かった.

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  1. 訳注: こちらをどうぞ []

サイモン・レン-ルイス ネオリベラリズムと緊縮 (2016年10月21日)

Neoliberalism and austerity, (Mainly Macro, Friday, 21 October 2016)

Posted by Simon Wren-Lewis

ネオリベラリズムというものは首尾一貫した政治哲学などではなく,むしろ人々が議論を重ねるうちに広まった,相互に関連したアイデアの寄せ集めだと思っている.『民間セクターの起業家こそが富の創造者であって,国はただ彼らの邪魔をするだけだ』とか.『民間のビジネスにとってよいことイコール国の経済にとってよいことだ』とか(たとえ独占力を増したりレントシーキングを伴うものだったりしても).『民間ビジネスや市場に,国や労働組合が介入するのは常に悪である』とか….こうした考え方が支配的なイデオロギーとなっている現在では,誰もわざわざ自分たちのことをネオリベラルと呼んだりする必要はない.

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グローバライゼーションと合衆国の労働市場

グローバライゼーションと合衆国の労働市場 From VoxEU

Mine Senses、ジョンズ・ホプキンズ大学国際経済学准教授

2017年8月6日

 

概要: グローバライゼーションによってもっとも被害を被ったコミュニティは近年の合衆国の選挙において中道の候補からよりイデオロギー的に過激な候補へと支持をシフトさせたという証拠などが出てきている。Vox eBookから抜粋されたこのコラムでは、グローバライゼーションの波を反転させる事を約束して当選した政治家の政策がどういうものになるかと、そういった政策の成功の見通しについて考えてみる。

編集者注: このコラムは最初、Vox eBook、Economics and policy in the Age of Trump、の中の1章として書かれた。この本はここからダウンロード可能である。

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サイモン・レン=ルイス「ウソつき政治」

[Simon Wren-Lewis, “The politics of lying ,” Mainly Macro, August 11, 2017]

世間では「政治家はみんな嘘つきだ」と言うけれど,政治家がみんなドナルド・トランプと同レベルの不誠実ぶりだという意味ではとてもじゃないけれど言えない.とはいえ,政界での嘘つき具合を計るにはどんな方法があるだろう?
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アレックス・タバロック 「最終戦争の到来を見越して株を売るのは得策か?」(2017年8月12日)

●Alex Tabarrok, “Can You Short the Apocalypse?”(Marginal Revolution, August 12, 2017)


(北朝鮮による核開発の進捗に伴って)核戦争が起こる可能性が仮に高まりつつあるのだとしたらその影響で株価が下落してもよさそうなものだが今のところはそうなっていない。どうしてだろうか? ラルス・クリステンセンも指摘している1ように、キューバ危機(キューバミサイル危機)時にも同じような現象が観察された。当時も株価は下落しなかったのだ。

核戦争の一歩手前まできていたのが本当だとすれば、株価はキューバ危機の最中に――石が坂を転げ落ちるように――急降下していてもおかしくないはずである。実際のところはどうだったか? S&P500指数(株価指数の一つ)は急落なんてしなかった。1962年10月のあの13日間――米国とソ連との間で緊迫したにらみ合いが続いたあの13日間――を通じてS&P500指数には何の波風も立たなかった。

その理由は? 「相互確証破壊(MAD)戦略は大変優れた軍事戦略であり、そのおかげで核戦争が起こるリスクは低く抑えられている。世間で信じられているほど核戦争が勃発するリスクは高くはないのだ」。マーケットはそのように察知していたに違いない(し、実際にも核戦争は起こらなかった。マーケットは正しかったのだ・・・よね?)というのがクリステンセンの主張だ。

歴史家のアーサー・シュレジンジャー(Arthur M. Schlesinger Jr.)はキューバ危機時(ケネディ政権時)に大統領特別補佐官を務めてもいたが、キューバ危機は「人類史上で最も危険な瞬間」だったと回想している。キューバ危機はあくびを誘うような退屈極まりない出来事だったとの意見の持ち主は大統領周辺には一人もいなかったようだ。私もそのうちの一人に加えてもらいたいところだが、そうだとすると(キューバ危機が「人類史上で最も危険な瞬間」だったのだとすると)石が坂を転げ落ちるように株価が急落せずに済んだのはどうしてだろうという疑問が湧いてくる。核戦争という名の最終戦争が起こる可能性が株価に織り込まれずにいるというのはわかりきった話なんかではないのだ。 [Read more…]

  1. 訳注;リンク先の記事は本サイトでも訳出されている次のエントリーが元になっている(つい最近の国際情勢(北朝鮮と米国との間の緊張の高まり)を踏まえて一部加筆されている)。 ●ラルス・クリステンセン 「キューバ危機の痕跡はどこ? ~キューバ危機時の米国株式市場の反応は何を物語っているか?~」(2017年2月28日) []

政府通貨と暗号通貨の競争

訳者:上のタイトルの通り、政府発行の通貨と暗号通貨の間での競争についての論文を書いたJesús Fernández-Villaverde教授の自身によるその論文の解説です。原文で”cryptocurrency”と書かれるネット上の通貨は日本では「仮想通貨」と呼ばれる事が多いようですが、訳文ではそのまま「暗号通貨」と訳しています。私自身は通貨についての理論には全く詳しくありませんので、もし訳に問題があればお知らせください。

 

通貨競争の経済学について」 from VoxEU

Jesús Fernández-Villaverde, ペンシルバニア大学経済学教授

2017年8月3日

概要:もし暗号通貨による支払いのシェアが増えれば、政府発行の通貨は民間の発行者からの市場での競争に直面することになる。このコラムは、たとえもしこのシステムが価格安定を維持し得たとしても、市場は社会的に最適な量の通貨を提供しないと論ずる。しかしながら、通貨の実質価値を安定させる金融政策を利用することで、それでも政府は社会的厚生を最大化することが可能である。よって、民間通貨からの競争の脅威は貨幣を発行するどんな政府に対しても歓迎すべき市場による規律を与え得るものである。

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