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アレックス・タバロック 「ミツバチが『失業』した先に待っているのは?」(2016年2月15日)

●Alex Tabarrok, “The Sharks Get Stung”(Marginal Revolution, February 15, 2016)1


金曜日にテレビで『Shark Tank』(大成功を収めた百戦錬磨の社長たち(「シャーク(鮫)」)が番組に応募してきた出場者のプレゼンを聞いて「これは!」と思った相手に出資する番組)を視ていたらミネソタ出身の二人の麗しい女性が「Bee Free Honee」なる商品(リンゴから作られたはちみつ)を売り込んでいた。安くてベジタリアンの希望にも沿うはちみつ。いいアイデアじゃないだろうか? そうかもしれない。しかしながら、その二人の女性のプレゼン中に納得しかねる発言があった。「私たちの商品はミツバチを救うことにもなるのです」というのだ。リンゴから作られたはちみつのおかげで従来のはちみつに対する需要が減れば養蜂家もミツバチを酷使するのをやめるでしょうし、そうなればミツバチの数も増えるでしょう。そう主張していたのだ。bee-jop

「シャーク」の一人であるケヴィン・オーレアリー(Kevin O’Leary)が本領を発揮して件の二人の女性が語る「誤謬」をけちょんけちょんに叩くに違いない。そう思っていた。あるいは別の「シャーク」であるマーク・キューバン(Mark Cuban)が「常識」っぽく聞こえる話を口にする面前の二人の女性をやり込めるに違いない。そう思っていた。しかし、どちらも当てが外れた。「シャーク」たちはこぞってこの「血迷った」商品に舌なめずりして食いついたのだ。というわけで、私にお鉢が回ってきたというわけだ。

従来のはちみつに対する需要が減ればミツバチに対する需要も減る。従来のはちみつに取って代わる安くて高品質の代用品(リンゴから作られたはちみつ)の出現はミツバチたちが花粉媒介者(ポリネーター)として優雅に自然の中を飛び交うのどかな世界の誕生を意味しはしない。待っているのは「ミツバチの絶滅」(beepocalypse)なのだ。「Bee free honee」がミツバチを「救う」ことになるとすれば、それは内燃機関が馬を「救った」のと同じ意味で「救う」ことになるに違いない。

(追記)蜂群崩壊症候群(CCD)のことが気になっている人がいるかもしれないが、誰よりも気になっているのが他でもない養蜂家たちだ。養蜂家たちはCCDにうまいこと対処しているようでミツバチによるはちみつの生産にしても「送粉サービス」の提供にしてもどうにか持ちこたえているようだ。そればかりか、アメリカ国内におけるミツバチのコロニー(群)の数は過去20年間で今が一番多いらしいのだ(最新のデータはこちら)。CCDはまだ完全に解決されたとは言えないが、従来のはちみつとミツバチによる「送粉サービス」に対する需要こそがCCDの解決策を探る(養蜂家の)インセンティブを支えているのだ。覚えておいてもらいたい。従来のはちみつなんて要らないなんてことになれば、ミツバチの受け皿となってくれるのは「私の趣味ですか? クローゼットの中でミツバチを飼うことです」と語る人間くらいしかいないのだ。

(追々記)件の二人の女性は(デレク・パーフィットが語るところの)「いとわしき結論」(repugnant conclusion)に対する洗練された一つの立場を表明しようという・・・、いや、それはおそらくないだろう。

今回の記事を書くきっかけをくれたMaxに感謝。

  1. 訳注;原エントリーのタイトルを訳すと「まんまと騙されたシャークたち」となるだろう。おそらく「ハチに刺された」(get stung by a bee)という意味も込められているものと思われる。 []

アレックス・タバロック「疲労困憊した医師は間違いをおかしやすく患者の害になる」

[Alex Tabarrok, “Fatigued Physicians Make Mistakes and Harm Patients,” Marginal Revolution, March 12, 2017]

疲れ果てた状態で車を運転すると事故をおこす.この当たり前の事実への対応策として,バスやタクシーの運転手は8時間連続して休憩をとったあとで最大10時間までしか運転できないように制限されている.ところが,内科医の場合,現行の基準はこれより大幅にゆるい.1年目の研修医の交代勤務時間はなんと16時間だ.これだけでもすでにどうかしてる.ぼくは午後 7:20から10時の夜学クラスをよく教えている.いつも,むずかしい題材は早めの時間に教えるように心がけている.なにしろ,9時ごろになると,もう調子がすっかり落ちてしまっているからだ.言うまでもなく,教師よりも研修医たちにかかるストレスの方がはるかに大きいし,疲労も大きい.さらに,1年目の研修医たちが働けるのは16時間までだけれど,2年目になると連続24時間ずっと働けるどころか,最大30時間まで働けるようになっている.睡眠をとらずにまともに稼働できる秘訣を1年の研修で内科医たちに教えられるんだとしたら,すごくない?
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アレックス・タバロック 「人間以外の動物(アニマル)も『アニマルスピリッツ』を持ち合わせているか?」(2010年1月29日)

●Alex Tabarrok, “Do Animals have Animal Spirits?”(Marginal Revolution, January 29, 2010)


自然界で「実物的景気循環」(リアルビジネスサイクル)が起きる様を想像するのはいとも容易いことだ。例えば、色んな生き物がウヨウヨとたむろしている池を思い浮かべて欲しい。ある時のことだ。池に浮かぶスイレンが寄生虫の魔の手にかかりすべて枯れてしまった。困ったのはカエルたちだ。ハエを捕まえようにも大事な足場(スイレン)が無くなってしまって捕まえようがないのだ。おかげでハエたちはわが世の春を謳歌することになるが、カエルたちはやせ細る一方。(カエルを捕食する淡水魚の)ノーザンパイクもショボイ獲物しか見つからずに困り果てるばかり。・・・と、まあこんな感じだが、「池国」内総生態(GPB;Gross Pond Biota)の計測を試みてみたら「池経済」における「景気」循環を跡付けることも可能になることだろう。「池経済」内の異なる部門(カエル部門、ハエ部門等々)も別々に計測すれば、当初のショック(寄生虫の襲来)に対してそれぞれの部門がどう反応し、一方の部門(カエル部門)で生じた変化が他方の部門(ハエ部門)にどんな変化を巻き起こしたかを跡付けることも可能になるだろう。つまりは、当初のショックが「池経済」内に引き起こした連鎖反応を時系列順に辿ることも可能になるわけだ(何だかベクトル自己回帰(VAR)モデルを使った時系列分析みたいな話だ)。

「池経済」でケインジアン流の景気循環が起きる余地はあるだろうか? あるいはこう言い換えてもいい。「アニマルスピリッツ」が自然界での景気循環の原動力になる可能性はあるだろうか? 「実物的景気循環」なら想像しやすい。しかし、こっちのケース(ケインジアン流の景気循環)は・・・、う~む。(悲観的なムードが個体から個体へとたちどころに伝染するのに伴って)「流動性への逃避」だとか突然の「投資の冷え込み」だとかいった現象が起きるためには「お金」(貨幣)ないしはそれに似た何かが必要になるだろう。群集(同調、模倣)行動(herd behavior)が(ロジャー・ファーマーが説いているようなかたちの)「コーディネーションの失敗」型の景気循環を引き起こす余地はもしかしたらあるかもしれない。この点との関わりで興味深いことがある。あくまでも私が知っている範囲での話に過ぎないがと断っておくが、それぞれの個体が互いの行動を模倣し合う群集行動は集団全体にとって最適な振る舞いだというのが生物学の今のトレンド(流行)の立場のようなのだ。しかしながら、必ずしもそうとは限らないように思われるのだ1(単細胞生物の)粘菌も過酷な環境にさらされると自己組織化して群体となって振る舞うことが知られている(邦訳『創発-蟻・脳・都市・ソフトウェアの自己組織化ネットワーク』)が、そういった自己組織化のプロセスが外的なショックもなしに(あるいは外的なショックが些細なものに過ぎなくても)突然始まるなんてことは果たしてあり得るのだろうか? 自然界における景気循環を説明するモデルというのは果たして見つかるんだろうか? 「アニマルスピリッツ」を持ち合わせているのは人間だけなのだろうか? それは何だか違和感がある。どうやら生物学者と経済学者が助け合える余地がたくさんありそうだ。

  1. 訳注;群衆行動が「コーディネーションの失敗」へと誘い、その結果としてその生物種の「経済」が「悪い均衡」に嵌ってしまう可能性もあるのではないか、という意味。 []

アレックス・タバロック「インドはアメリカより起業の盛んな社会だ(そして,それが問題だ)」

[Alex Tabarrok, “India is a much more Entrepreneurial Society than the United States (and that’s a problem),” Margianl Revolution, March 9, 2017]

インドはアメリカよりもずっと起業が盛んだ.そう聞かされると意外かもしれない.なにしろ,インドは貧しい国だし,起業が盛んだというと豊かさがたいてい連想されるものだからだ.だけど,このつながりは明白な事実ではない.インドにいる誰もがお金儲けに邁進しているし,機会にも開かれている.誰か雇って WiFi をつなぎ直したり自転車を修理したり映画をつくったりしたい? だったらものの数時間でやってくれる人は見つかる.どんなことを聞いても,「できるよ,俺らにはできる!」というのがおきまりの返事だ.もちろん,なかには法律違反になってしまう場合もあるけれど,それでもよければ,やってやれないことはない.「なせばなる」精神はとりわけムンバイではいたるところに浸透しているとはいえ,インドの他の地域でも事情は変わらない.
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アレックス・タバロック「移民医師」

[Alex Tabarrok, “Immigrant Doctors,” Marginal Revolution, March 7, 2017]

アメリカの内科医の1パーセントは,ドナルド・トランプの新たな大統領令で対象とされた6ヶ国の出身者だ.驚くほど高い数字だとぼくは思った.「移民医師プロジェクト」(Immigrant Doctors Project) によれば,この1パーセントにあたる7000名の内科医たちは,毎年1400万件の予約診察を提供し,しかも,その多くはより貧しく白人が多くて田舎にある地域でなされているという.

これで今回の政策が「はい論破」となるとは思わないけれど,その驚くほどのコストと,高技能で教育のある人たちの移民からアメリカがどれほど便益を得ているかを例証するものにはなっている.

アレックス・タバロック 「トランプとヒラリーの性別が逆だったら」(2017年3月8日)

●Alex Tabarrok, “Gender Reversal Teaches Uncomfortable Lessons”(Marginal Revolution, March 8, 2017)


ドナルド・トランプとヒラリー・クリントンの性別が逆だったら二人の討論の様子は聴衆の目にどう映っただろうか? 二人の研究者がその疑問に取り組んだ。トランプとヒラリーの(討論会での)セリフだけではなく身振り手振りも完全に再現した芝居を上演したのだ。ただし、トランプの役を演じるのは女性(役名はブレンダ・キング)でヒラリーの役を演じるのは男性(役名はジョナサン・ゴードン)という捻りが加わっている。

女性がトランプのような攻撃的な姿勢――相手の発言を頻繁に遮り、すぐに相手をなじる――をとれば決して見逃してはもらえないだろうし、反対にヒラリーが男性だったらその理知的な感じにしても冷静沈着な感じにしてもずっと魅力が高まるだろうに。米大統領選のテレビ討論会を生放送で視聴している最中にふとそう考えたという。トランプとヒラリーの性別を入れ替えて討論会の様子を再現してみたらきっとその通りになるに違いない。そう当て込んで今回のプロジェクトに乗り出したという。

しかしながら、予想とは大違いの結果が待っていた。(討論会の様子を再現した)芝居(公演は2度にわたって行われ、どちらも完売)を鑑賞した観客たちも事前の予想を裏切られてショックを受けた。 芝居を見終えた後の観客たちはブレンダ・キング(女版トランプ)に好意を覚え、ジョナサン・ゴードン(男版ヒラリー)に不信感を抱くに至ったのだ。

芝居が終わるとあちこちから観客たちの「何でかわかったぞ」――トランプが選挙で勝った理由がわかったぞという意味――という声が聞こえてきました。みんな狼狽していましたね。私の席の2列前に座っていた男性(の観客)なんか頭を抱えていました。文字通り両手で頭を抱えていたんです。その彼は隣にいた観客に肩を揉んでもらっていましたね。トランプ流のシンプルなメッセージが女性の口から語られると聞き取りやすさが増すようです。まさにそれこそが今回のプロジェクトのテーマの一つでした。ある観客はこう語っていました。「トランプのテクニックの緻密さがわかってただただ仰天したよ」。別の観客(職業はミュージカルの作曲家)はこんな感じの感想を漏らしていました。トランプ(ブレンダ・キング)はまるで「口ずさみやすい曲」を歌っているかのように喋っている。その一方で、ヒラリー(ジョナサン・ゴードン)は口数が多くて発言内容はどれもこれも正しくて事実だけれど「フック」が効いていない、というのです。・・・(略)・・・ジョナサン・ゴードン(男版ヒラリー)の顔を見ていると「無性に殴りたくなる」と語った観客もいました。ずっと笑みをたたえているからだそうです。多くの観客は芝居の鑑賞中に感じた感情が事前に予想していたのとは大違いだったようで非常に驚いていましたね。

芝居のリハーサルの模様を収めた映像は以下だ。

アレックス・タバロック「価格差別の倫理(小ネタ)」

[Alex Tabarrok, “The Ethics of Price Discrimination,” Marginal Revolution, February 20, 2017]

デリーにあるインド国立博物館から,価格差別の一例を.議論の呼び水に疑問を1つ書いておこう――「これって,公正だろうか.倫理的だろうか」「アメリカでは,これは合法だろうか?」

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インド国民:20ルピー
外国人:650ルピー(補足的な音声ガイドつき)
7年生までの学生:無料(I-カード提示)

アレックス・タバロック 「キスの科学 ~ヒトはなぜ口づけを交わすのか?~」(2016年2月14日)

●Alex Tabarrok, “Why Do We Kiss?”(Marginal Revolution, February 14, 2016)


キスは男女のカップルが未来の伴侶(結婚相手)を探す手助けをする。特に女性は付き合いはじめの段階で交わされたキスに高い価値を置いて相手(彼氏)が自分の伴侶にふさわしいかどうかの判断材料にする傾向にある。唾液には各種のホルモンや化合物が大量に含まれている。キスは唾液の交換を通じて相手が自分の伴侶としてふさわしいかどうかを「化学的」に見定めるヒントを与えてくれる可能性があるのだ。生物学的な要因が暗躍を始めるのはここだ。

・・・(略)・・・ある試算によると、男女がキスをしている最中には、9ミリリットルの水分に0.7ミリグラムのたんぱく質、0.18ミリグラムの有機化合物、0.71ミリグラムの脂質、0.45ミリグラムの塩化ナトリウム、そして1000万~10億匹に上るバクテリア(細菌)が二人の間で(唾液を介して)交換されるという。

付き合ってはじめて交わした「最初のキス」を相手が未来の伴侶としてふさわしいかどうかを見定める判断材料とする。そう答えがちなのは男性よりも女性だ。「生物学的」には相性がよくても相手のキスが下手だと感じられた場合にはどういうことになるのだろうか? ブウォダルスキ(Wlodarski)教授は「生物学的な相性」と「キスの感想」とを切り離すことは難しいと答えつつ次のように語る。「あくまでも推量でしかありませんが、相手の口の臭いが合わなかったのでキスが下手だという感想を持つに至るのかもしれませんね」。女性は男性よりも伴侶選びに慎重にならねばならない理由がある。女性の方が伴侶選びで下手をこいてしまった場合のコスト(負担、痛み)が大きいからだ(例えば、妊娠9ヶ月での早産を余儀なくされたり、というように)。ブウォダルスキ教授はさらにそう付け加える。

・・・(略)・・・口と口をしっかりとくっつけて(時に舌も絡ませながら)口づけを交わす風習はあらゆる文化で見られるわけではない。ブウォダルスキ教授によると、現代のそれも西洋に特有の(おそらくは2000年くらいの歴史しかない)風習らしい。2015年に公けにされた研究によると、調査対象となった文化のうちで性的な行為として口づけが交わされているケースは全体の半分にも満たなかったということだ。

文字として残されている歴史に話を限ると、過去においては互いに顔や鼻をこすり付けたり、互いに近寄って匂いをかぎあうのがキスに相当する性的な行為だったことを示す証拠がある。口づけは相手の魂を吸い取る行為として記されているヴェーダ語の古い文書も残っている。

全文はこちらを参照。

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タイラー・コーエン 「著名な経済学者は長寿の傾向にある?」(2009年4月6日)/ アレックス・タバロック 「モーリス・アレ」(2010年10月10日)

●Tyler Cowen, “He forgot about Hawtrey”(Marginal Revolution, April 6, 2009)1


エズラ・クラインが読者の一人であるNylundのコメントを紹介している

著名な経済学者は長生きの傾向にあるように思われるのですが、私の思い違いでしょうか?

ミルトン・フリードマン(享年94歳)、ミーゼス(享年92歳)、ジョン・ケネス・ガルブレイス(享年98歳)、ハイエク(享年92歳)、レオンチェフ(享年93歳)

・・・(略)・・・ケインズ(享年62歳)なんかは(あとはリカードだとかセイだとかいった大昔の経済学者も)例外ですが、著名な経済学者の中で80歳を迎える前に亡くなった例というのはなかなか見つからないのです。

サミュエルソンは現在90歳代だし2、ケネス・アローは現在87歳だ3。ブキャナンにタロック、コース、バーノン・スミスはまだまだ健在だし4、ゲーリー・ベッカーなんかは不死身なんじゃないかとさえ思えるほどだ5。例外(80歳を迎える前に亡くなった著名な経済学者)として真っ先に思い浮かぶのはフランク・ラムゼー(享年26歳)だ。ミゲル・シドラウスキー(享年28歳)もそうだ。比較的最近だと、フィッシャー・ブラック(享年57歳)やエイモス・トベルスキー(享年59歳)が例外(80歳を迎える前に亡くなった著名な経済学者)として思い出されるところだ。亡くなるのが早すぎた著名な経済学者の例についてはこちらの論文(pdf)を参照されたい(全部で16名が取り上げられている)。

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●Alex Tabarrok, “Maurice Allais”(Marginal Revolution, October 10, 2010)


フランス人の物理学者にしてノーベル経済学賞受賞者でもあるモーリス・アレが(2010年10月10日に)亡くなった。享年99歳。アメリカの経済学者の間では「アレのパラドックス」が彼の業績の中では一番有名だが、アレは非常に幅広い分野で業績を残している博識家こちらも参照)の一人だ。しかしながら、その多くは見過ごされたままだった。彼が母国語(フランス語)で書いた論文の多くが長い間英語に翻訳されずにいたためだ(残念なことに今でもそうだ)。

アレは「金本位制」と「オーストリア学派の景気循環論」を強く支持していた一人だったということはあまり知られていない。アレは自分の論文の中でミーゼスやロスバードを引用しているほどなのだ。その証拠としては例えば彼が1987年に執筆した “The Credit Mechanism and its Implications”(George R. Feiwel(編集)『Arrow and the Foundations of the Theory of Economic Policy』に収録)を確認してみればいいだろう。アレはフランス語で書いた論文でもミーゼスやロスバードを引用しているのだ(この点についてはこちらを参照されたい)。

博識家ということからも予想されるだろうが、アレがどういう考えの持ち主だったかを整然と要約するのは難しい。その一例を挙げておこう。アレは私的所有権や市場経済を強く支持していたが、市場経済に対する社会的な合意を取り付けるための手段として移民の受け入れ制限や保護主義を支持してもいたのだ。

驚くなかれ、アレは振り子を使った画期的な実験を行い、その成果を称えて1959年にフランス航空宇宙協会からガラベール賞を授与されてもいる。アレが件の実験を通じて発見した現象は物理学者の間では「アレ効果」と呼ばれており、一般相対性理論の分野におけるアノマリー(うまく説明できない異常現象)の候補の一つとなっている。

  1. 訳注;原エントリーのタイトルは「ホートレーを忘れてるぞ」(He forgot about Hawtrey)となっているが、ホートレーも長生きした経済学者の一人。ホートレーは95歳で亡くなっている。 []
  2. 訳注;サミュエルソンは2009年12月13日に亡くなっている。享年94歳。 []
  3. 訳注;アローは今も健在。現時点(2017年2月現在)では95歳。 []
  4. 訳注;ブキャナンは2013年1月9日に享年93歳で、タロックは2014年11月3日に享年92歳で、コースは2013年9月2日に享年102歳でそれぞれ亡くなっている。バーノン・スミスは今も健在(現在90歳)。 []
  5. 訳注;ベッカーは2014年5月3日に享年83歳で亡くなっている。 []

アレックス・タバロック 「冷血なセントラルバンカーの恩恵 ~時間整合性と金融政策~」(2004年10月12日)

●Alex Tabarrok, “The virtues of a nasty central banker”(Marginal Revolution, October 12, 2004)


キッドランド&プレスコットが彫琢した「時間整合性」のアイデアの応用範囲は広いが、その中でも最も重要な応用例は金融政策に関するものだ(この方面の功績はバロー&ゴードンおよびケネス・ロゴフにも帰さねばならないことは言うまでもない)。中央銀行としてはインフレも失業も低く抑えたいと考えているとしよう。そこで中央銀行はその願いを果たすために次のように宣言(約束)したとしよう。「インフレを低い水準にとどめるためにマネーサプライの伸びを抑えるつもりだ」。そして国民もその宣言を信じ、(労働契約や融資契約といった)契約の交渉に臨む際には「この先インフレは低い水準にとどまるだろう」と予想した上で(賃金額なり融資条件(金利)なりといった)契約条件の詳細を詰めるものとしよう。そんなある時のことだ。思いも寄らないショックが起きて失業率が上昇して(失業が増えて)しまったのだ。そのような事態を目にした中央銀行はふと次のような誘惑に駆られることだろう。「インフレを高めに誘導して景気を刺激したいところだが、どうしたものだろうか」。国民は「この先インフレは低い水準にとどまるだろう」と信じ切って既にあれこれの契約を結んでしまっている。国民が予想しているよりも高めにインフレを誘導すれば(実質賃金なり実質金利なりが予想よりも低下することで)失業率の抑制(失業の減少)を後押しする強力な効果が期待できる。何とも甘い誘惑だ。

しかしながら、上で描いたような展開が「均衡」となることはあり得ない。中央銀行が「インフレを低い水準にとどめるつもりだ」と宣言(約束)したとしても国民はこう反論することだろう。「そんな約束は信用できない。約束を鵜呑みにしたらそれ幸いと後になって手のひらを返すにきまってる。インフレを高めに誘導して我々を騙そうとするに違いない」。そうなるとどうなるだろうか? 国民は「この先インフレは低い水準にとどまるだろう」とは予想せず、そのため(何らかのショックが起きて失業率が上昇した場合に)中央銀行が失業率を抑えたいと思ってもインフレを先ほどの場合(国民が中央銀行の宣言を鵜呑みにする場合)よりもずっと高めに誘導しなければならなくなるだろう。インフレが高止まりするだけで失業率が(国民が中央銀行の宣言を鵜呑みにする場合よりも平均して)低く抑えられるわけでもない。最終的にはそのようなゲームの「均衡」に落ち着くことになるのだ。

どうすれば事態をいい方向に向かわせることができるだろうか? 意外な手がある。冷血漢をセントラルバンカーの地位に据えるのだ。そうすれば誰もがよりよい境遇を手にできる可能性があるのだ。「冷血なセントラルバンカー」というのはインフレを低く抑えることだけで頭がいっぱいで失業を抑えることには一切関心が無いような人物のことだ(その具体的な人物像としては債券の利息収入で暮らしを立てている金満家の共和党員なんかを思い浮かべればいいだろう)。「冷血なセントラルバンカー」は失業を減らすために(インフレを高めに誘導して)景気を刺激しようなんて考えもしない。そのため、「冷血なセントラルバンカー」が語る「インフレを低い水準にとどめるつもりだ」との宣言(約束)は信憑性が高く、国民は「冷血なセントラルバンカー」の宣言(約束)を信用して「この先インフレは低い水準にとどまるだろう」と迷い無く予想することだろう。最終的に落ち着く「均衡」では、失業率は中央銀行の約束が一向に信用されない先の場合と(平均してみると)変わりがない一方で(どちらのケースでも国民が予想するよりも高めにインフレを誘導する(国民を驚かす)ことはそう何度も繰り返せないため)、インフレは(中央銀行の約束が一向に信用されない先の場合よりも)低く抑えられることになる。こうして国民の誰もがよりよい境遇を手にすることになるわけだ。

トーマス・シェリングなんかは次のような例を使って似たようなアイデアを先んじて論じていたものだ。あなたが誘拐犯の魔の手に落ちてしまったとしよう。あなたを救い出すために誰かに誘拐犯と交渉する窓口になってもらうとすれば一体誰にその役割を引き受けてもらうのがいいだろうか? あなたのことを深く愛している妻だろうか? それとも冷血な前妻(別れた元妻)だろうか? その答えは迷うまでもないだろう(そうでしょ?)1。それでは次のような場合はどうだろうか? あなたがまだ誘拐されていないうちから(もしも誘拐された場合に備えて)誘拐犯と交渉する役目を誰に引き受けてもらうかを決めておき、誘拐犯にも前もって(あなたの誘拐を企てるよりも前の段階で)そのこと(誰が交渉の窓口役を務めるか)がわかっているとしたらどうだろうか? あなたのことを深く愛している妻と冷血な前妻のどちらにその役目(交渉の窓口役)を引き受けてもらえばいいだろうか? 答えはおわかりだろうか?2 冷血漢も時にはいい仕事をやってのけることがあるのだ。

  1. 訳注;答えは「あなたのことを深く愛している妻」。誘拐犯が身代金を要求してきた場合に交渉の窓口役を務めるのが「あなたのことを深く愛している妻」であれば身代金がいくら高額であってもそれを支払ってあなたを救い出そうと尽力してくれる可能性が高いが、「冷血な前妻(別れた元妻)」が交渉の窓口役を務める場合には見捨てられてしまう(その結果として最悪の場合あなたは誘拐犯に殺されてしまう)可能性がある(「その人とはもう何の関係もないわ。好きなようにして頂戴」)。 []
  2. 訳注;答えは「冷血な前妻(別れた元妻)」。「冷血な前妻(別れた元妻)」が交渉の窓口役を務めるとわかっていたら誘拐犯もあなたをさらおうとはしない可能性が高い。あなたを誘拐しても身代金が手に入らない可能性が高いからだ。つまりは、「冷血な前妻(別れた元妻)」のおかげであなたは誘拐されずに済む、というわけだ。 []