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アレックス・タバロック 「朝鮮半島を二分する境界線にて」(2012年10月14日)

●Alex Tabarrok, “A Brief Visit to North Korea”(Marginal Revolution, October 14, 2012)


北朝鮮側にいるコーエン(左)に韓国側にいる私(右)。

北朝鮮側にいる私(左)に韓国側にいるコーエン(右)1

二人ともちょっと緊張しているように見えるとすればそれもそのはずだ。写真を撮影した現場(韓国と北朝鮮を分かつ軍事境界線上にある板門店)は緊張感に包まれていたのだ。それもいつにもまして。というのも、我々二人がこの地を訪れた数日前に北朝鮮側の兵士が勤務中に上官2名を射殺して(軍事境界線を越えて)韓国側に亡命するという事件が起きたばかりだったのだ。(2012年時点の)北朝鮮は例年よりも過酷な食糧不足に見舞われているようだが、そのことも現地の緊張感を高める一因となっていたことは間違いない。

ところで、今回実際に訪れてみてはじめて知ったのだが、韓国国内を走る高速道路の一つから北朝鮮の風景を目視することができる。土がむき出しになっている裸の土地が目に入る。薪として使うためにあるいは樹皮から得られるほんの少しの栄養分を摂取するために木々が伐採され尽くしてしまっているのだ。

最後の一枚だ。北朝鮮側の見張りがこちらを監視しながら我々二人の姿を写真に収めている。記録として残すためだろう。

  1. 訳注;ちなみに、コーエンがコメント欄で次のようにコメントしている。「一枚目の写真に写っている(北朝鮮側にいる)私と二枚目の写真に写っている(韓国側にいる)私を比べたらどちらかと言えば二枚目の方が幸せそうな見た目をしていることに読者も気付かれることだろう」。 []

アレックス・タバロック 「社会実験の帰結」(2004年10月21日)/タイラー・コーエン 「どっちのコリア?」(2004年9月29日)

●Alex Tabarrok, “A social experiment”(Marginal Revolution, October 21, 2004)


地球の外にいる異星人たちにも共産主義の効果は一目瞭然だ1

不気味な雰囲気に包まれた「柳京ホテル」のことも忘れずにおさえておきたいところだ。初期の建設費用だけでも対GDP比で2%にも及ぶとされる平壌(ピョンヤン)にある超高層ホテル、それが柳京ホテルだ。とは言っても、品質面での構造的な問題もあって未だ建設途上のもぬけの殻(廃墟)にとどまっている。北朝鮮当局は地図からその存在を抹消したりもしたようだが、世界で7番目に高い建物を隠し通そうなんて無理な話に決まっているのだ。

一枚目の画像はMahalanaboisから拝借したものであり、柳京ホテルの話題を取り上げてはどうかとアドバイスしてくれたのはTed Frankだ。両名に感謝。

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●Tyler Cowen, “What’s in a Name?”(Marginal Revolution, September 29, 2004)


かつてこんなことがありました。私がケンブリッジ大学で学んでいた時に教えを受けた恩師の一人でもあるジョーン・ロビンソン女史はラディカルな(左派の)経済学者として知られていました。一方で、グスタフ・ラニスはイェール大学に籍を置く教授で「新自由主義的」(‘neo-liberal’)な立場の経済学者として知られていました。そんな二人が意見を交わす機会があったのですが、その際に「コリアは大成功を収めている」と二人の間で意見が合致したのです。

何ともパラドキシカルな展開ですが、その謎もすぐに解けました。ロビンソン女史は北朝鮮(North Korea)のことを思い浮かべていた一方で、ラニスは韓国(South Korea)のことを思い浮かべていたというわけです。

ジャグディーシュ・バグワティー(Jagdish Bhagwati)――ノーベル経済学賞の候補の一人に名を連ねて当然と個人的に思う人物――がこちらのインタビュー2の中で上のように語っている(www.politicaltheory.info経由で知ったもの)。

  1. 訳注;以下の画像は夜間の朝鮮半島の様子を写した衛星画像。人工衛星によって観測された夜間光量のデータを用いて各国の実体経済の動向を把握しようと試みた研究としては例えば次の論文を参照されたい。 ●J. Vernon Henderson, Adam Storeygard and David N. Weil, “Measuring Economic Growth from Outer Space“(American Economic Review, vol. 102(2), April 2012, pp. 994-1028) []
  2. 訳注;リンク切れ []

アレックス・タバロック 「『覆面経済学者の逆襲』、『アメリカにおける財産の歴史』、『コマンド&コントロール』 ~お気に入りの3冊~」(2013年12月22日)

●Alex Tabarrok, “A Few Favorite Books from 2013”(Marginal Revolution, December 22, 2013)


トム・ジャクソンが(Sandusky Registerに寄稿する予定の)今年最後のコラムで2013年中に出版された優れた書籍を紹介する予定らしく、何冊か心当たりはないかとコメントを求められた。私はコーエンほど多読ではない。そういうわけでいくらか範囲と数を絞ってピックアップさせてもらうとしよう。2013年中に読んだ社会科学の分野の本の中から個人的なお気に入りを選ぶと以下のようになるだろう。

ティム・ハーフォード(Tim Harford)と言えば物語の語り部(ストーリテラー)としての天賦の才と複雑なアイデアをわかりやすく噛み砕いて説明する才能に恵まれている人物だが、そんな彼が持ち前の才能を携えてマクロ経済学の世界に足を踏み入れているのが今年(2013年に)出版された『Undercover Economist Strikes Back』(「覆面経済学者の逆襲」)である。経済学の分野の(世間一般の人々に向けて経済学の概念をわかりやすく解説することを狙いとした)ポピュラー書ではミクロ経済学の話題――市場やインセンティブ、個別の経済主体(消費者や企業)による意思決定などなど――に焦点が合わせられていることが多い。『ランチタイムの経済学』然り、『ヤバい経済学』然り、『予想どおりに不合理』然り。ハーフォードの旧作である『まっとうな経済学』にしてもそうだ。しかしながら、本作では従来のポピュラー書とは一味違ってずっと珍しい「獣」に狙いが定められている。インフレーションや失業、経済成長、経済危機といったマクロ経済現象を世間一般の人々向けに噛み砕いて解説するガイドブックを作成しようと意気込まれており、その狙いはものの見事に実を結んでいる。経済理論や経済政策についての冴え渡る説明が盛り込まれているだけではなく、刺激的な人生を過ごした経済学者の面々(かつてはそういう経済学者がいくらかはいたのだ!)の魅力溢れるエピソード(物語)が合間合間に挿入されている。その結果として『Undercover Economist Strikes Back』は啓発的な一冊であると同時に非常に愉快な読み物ともなっているのだ。 [Read more…]

アレックス・タバロック 「事実は小説よりも奇なり ~行方不明の核爆弾~」(2004年10月2日、10月3日)

●Alex Tabarrok, “Truth is Stranger than Fiction Department”(Marginal Revolution, October 2, 2004)


1958年のことだ。核爆弾の一つ――その威力は広島に投下された原爆の100倍以上に及ぶ――がジョージア州の海岸付近で行方不明になってしまった。空軍の飛行訓練中に爆撃機から誤って落下してしまったのである。何たることか! しかしながら、話はこれだけで終わらない。落下後間もなくして熱心な捜索活動が始められたが、数週間探しても見つからずに捜索活動も取り止められようかとしていたまさにそのタイミングで再び別の爆弾が誤って爆撃機から落下してしまったのである。今度の落下場所はサウスカロライナ州のフローレンス市近辺。落下したのは同じく核爆弾だったが、幸いなことにその爆弾には核分裂性核種が搭載されておらず、そのおかげで落下時に核爆発が起こることはなかった。しかしながら、落下の衝撃で通常の爆薬が爆発し、地表に大きなクレーターができただけではなく近くに住む農民も数名が怪我を負うことになってしまった。ジョージア州の海岸付近で行方不明になった核爆弾だが、もしかしたら見つかったかもしれないとの情報がつい最近になって飛び込んできた。民間で放射線の専門家として働いている人物が核爆弾が落ちたとされる近辺で放射線量を測定していたところ、通常の放射線量の3000倍にあたる放射線を放つ地点を探り当てたらしいのだ1

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●Alex Tabarrok, “More Lost Nukes”(Marginal Revolution, October 3, 2004)


「行方不明の核爆弾」ネタの続きだ。ジェラルド・ハナーが次のようなコメントを書いて寄こしてくれた。

サウスカロライナ州での核兵器落下事故と関係のある人物の一人とペアになって飛行機を操縦したことがあります。その人物から聞いた話によると、B-47爆撃機でイギリスにある前方展開基地に向かっている最中の出来事だったそうです。離陸後にわかったそうですが、兵器(こちらの世界では誰も「爆弾」とは呼びません)が発射装置にちゃんと固定されておらず、飛行中に何らかの緊急事態が起きたらすぐにも発射されかねない状態にあったそうです。兵器には「ピット」が搭載されていなかったので万一落下したとしても核爆発が起きる可能性はありませんでした。兵器を安全ピンで発射装置にきちんと固定するために離陸が安全に済んだ後に副操縦士が爆弾倉に向かったそうですが、安全ピンが差し入れ口にうまく嵌らなかったそうです。離陸した基地に連絡してどうしたものかと相談していると、基地にいる誰かが発射装置を少し揺らせば嵌るんじゃないかとアドバイスしたそうです。副操縦士はそのアドバイスに従いました。その直後に基地には次のような声が届いたそうです。「しまった! 落としちまったい!」 兵器は発射装置から解き放たれて爆弾倉のドアを突き破って落下していったそうです。落ちていったヤツは当時のレベルでは重量級に括られる兵器だったそうです。残りの話は御存知の通りです。

デイヴ・ウォーカーは自分のブログでノースカロライナ州で行方不明になった(そして今でも行方不明のままの)核爆弾のエピソードを紹介している。

その事件が起きたのは1961年1月24日の深夜0時を過ぎた直後のことだ。ノースカロライナ州のファロ村の近くを飛行中のB-52G爆撃機(ストラトフォートレス)が右翼の故障が原因で空中分解したのである。機体には2発の水素爆弾(マーク39)が搭載されていた。

B-52G爆撃機の空中分解に伴って2発の核爆弾も地表に落下。そのうちの一発は途中で落下傘が開いたために地表に衝突した時の衝撃が大いに和らげられることになった。残りの一発はぬかるんだ土地めがけて真っ逆さまに落ち、地表に衝突した時の衝撃で一部が損壊した。残骸の一部はぬかるみの奥深くに沈み込み、未だ見つかっていない。見つかっていない残骸の中にはウランを含んだパーツもある。ぬかるみを50フィート近く掘ってみたものの、今でも弾頭の部分をすべて回収するには至っていない。核爆弾の一部は今でも地中深くに埋まったままというわけだ。

残骸がどこにあるか探すために放射線の測定も試みたがこれといった結果は得られなかった。誰かがその辺りを勝手に掘ってしまわないように空軍は周辺の土地の地役権を買い取っている。

  1. 訳注;未だ見つかっていないようだ。 []

アレックス・タバロック 「マッドマン ~ニクソン大統領のクレイジーな戦略~」(2008年3月10日)

●Alex Tabarrok, “Mad Men”(Marginal Revolution, March 10, 2008)


不合理でクレイジーな振る舞いをする(あるいは「あいつは不合理でクレイジーな奴だ」と相手に思わせる)ことで得する可能性があることを示したのはトーマス・シェリング(Thomas Schelling)である。チキンゲームをやり合っている最中に敵(相手)がこちらのことを「あいつは不合理でクレイジーな奴だ」と思う。その結果としてあちらの方から先に折れる(譲歩する)。そうなる可能性があるわけだ。

シェリングのこの洞察はあのニクソン大統領の耳にも届いていたことはよく知られているところだが、Wired(ワイアード)に掲載されたこちらのゾッとするような記事によるとニクソン大統領はシェリングの洞察を正気とは思えないやり方で実践に移したらしい。

ベトナム戦争に終止符を打つためにパリで和平会議が始められたものの物別れに終わってしまう。そのような状態に業を煮やしたニクソン大統領は次のような手段に訴えた。

・・・(略)・・・ソ連に対して「大規模な核攻撃を仕掛けるぞ」と脅しをかけるだけではなく、「こいつは脅しを本当に実行してしまうようなクレイジーな奴なんじゃないか」とソ連の指導部の面々に思わせようともした。事態がエスカレートして手に負えなくなる前に何とかせねば。そう慌てふためいたソ連側は北ベトナムに圧力をかけるだろう。パリでの和平会議で譲歩しろ。さもないと軍事援助を打ち切るぞ、と。そうなることをニクソンは願ったのである。

ニクソンの脅しは単なる言葉の上での脅しにはとどまらなかった。核兵器を搭載した爆撃機をソ連の領空に送り込んだのである。その結果としてソ連の防衛システムが発動されることにもなったのであった。

1969年10月27日の朝、計18機のB-52――8基のターボエンジンを搭載し翼長は185フィートにも及ぶ爆撃機の一群――がアメリカの西海岸を飛び立った。目的地はソ連の東側国境。ターゲットに向けて時速500マイル超で疾走するB-52。パイロットたちは18時間無休息でB-52を操縦し続けた。全機に核兵器が搭載されており、その威力は広島や長崎を破壊し尽くした核兵器の何百倍にも及ぶ。

激怒するソ連。そのような中、(国家安全保障問題担当大統領補佐官を務めていた)キッシンジャーはニクソンの指示に従ってソ連側の大使に次のように伝えたのであった。「申し訳ありませんが、大統領は制御不能で誰の手にも負えない状態にあるのです」。

ニクソンにしてもキッシンジャーにしてもシェリングの別の洞察までは自分のものにできていなかったことは一目瞭然だ。私は制御不能の状態にある。その言葉に信憑性を持たせたいのであれば事態をエスカレートさせて自分の力ではもうどうしようもなくなるところまでもっていく必要が時としてあるのだ。その結果としてやがては核戦争に至る。そういうシナリオがいく通りもあり得るというのは心底ギョッとさせられるところだ。ともあれ、ニクソンは何百万人もの命を危険にさらしつつ「ソ連側は合理的に振る舞うだろう」との可能性に賭けていたわけなのだ。

マッドマン(狂人)が世界の安全を脅かしている。今後そんな話を耳にする機会があれば是非とも思い出してもらいたいものだ。この世界に史上最大の脅威をもたらしたマッドマンの一味は我々の味方のはずの面々だったということを。

アレックス・タバロック 「最終戦争の到来を見越して株を売るのは得策か?」(2017年8月12日)

●Alex Tabarrok, “Can You Short the Apocalypse?”(Marginal Revolution, August 12, 2017)


(北朝鮮による核開発の進捗に伴って)核戦争が起こる可能性が仮に高まりつつあるのだとしたらその影響で株価が下落してもよさそうなものだが今のところはそうなっていない。どうしてだろうか? ラルス・クリステンセンも指摘している1ように、キューバ危機(キューバミサイル危機)時にも同じような現象が観察された。当時も株価は下落しなかったのだ。

核戦争の一歩手前まできていたのが本当だとすれば、株価はキューバ危機の最中に――石が坂を転げ落ちるように――急降下していてもおかしくないはずである。実際のところはどうだったか? S&P500指数(株価指数の一つ)は急落なんてしなかった。1962年10月のあの13日間――米国とソ連との間で緊迫したにらみ合いが続いたあの13日間――を通じてS&P500指数には何の波風も立たなかった。

その理由は? 「相互確証破壊(MAD)戦略は大変優れた軍事戦略であり、そのおかげで核戦争が起こるリスクは低く抑えられている。世間で信じられているほど核戦争が勃発するリスクは高くはないのだ」。マーケットはそのように察知していたに違いない(し、実際にも核戦争は起こらなかった。マーケットは正しかったのだ・・・よね?)というのがクリステンセンの主張だ。

歴史家のアーサー・シュレジンジャー(Arthur M. Schlesinger Jr.)はキューバ危機時(ケネディ政権時)に大統領特別補佐官を務めてもいたが、キューバ危機は「人類史上で最も危険な瞬間」だったと回想している。キューバ危機はあくびを誘うような退屈極まりない出来事だったとの意見の持ち主は大統領周辺には一人もいなかったようだ。私もそのうちの一人に加えてもらいたいところだが、そうだとすると(キューバ危機が「人類史上で最も危険な瞬間」だったのだとすると)石が坂を転げ落ちるように株価が急落せずに済んだのはどうしてだろうという疑問が湧いてくる。核戦争という名の最終戦争が起こる可能性が株価に織り込まれずにいるというのはわかりきった話なんかではないのだ。 [Read more…]

  1. 訳注;リンク先の記事は本サイトでも訳出されている次のエントリーが元になっている(つい最近の国際情勢(北朝鮮と米国との間の緊張の高まり)を踏まえて一部加筆されている)。 ●ラルス・クリステンセン 「キューバ危機の痕跡はどこ? ~キューバ危機時の米国株式市場の反応は何を物語っているか?~」(2017年2月28日) []

アレックス・タバロック 「進化とモラルコミュニティー ~進化の名残としての『ゼロサム思考』~」(2007年5月10日)

●Alex Tabarrok, “Evolution and Moral Community”(Marginal Revolution, May 10, 2007)


進化の名残(としての「ゼロサム思考」)がモラルコミュニティーの拡大(同類意識の越境)に歯止めをかける働きをしている。ポール・ルビン(Paul Rubin)がそう主張している

我々人類の遠い祖先が生きていたのはその本質において変化に乏しい静的な世界だった。旧世代から新世代へと時が移り行く中でも社会的な面にしても技術的な面にしてもほとんど変化が見られなかったのである。言い換えると、我々の遠い祖先はゼロサムの世界に生きていたのである。誰かの分け前が増えるとそれと引き換えにその他の誰かの分け前は減らざるを得なかったわけである。

我々の思考(精神)はそのような(静的な)世界を理解するべく進化を遂げてきており、誰かが利益を手にするのを目にするとそれは他の誰かの犠牲の上に成り立っているに違いないとつい思い込んでしまいがちなのはその名残である。「自発的な交換(国内における同胞同士での交換であれ異国人同士での国境を越えた交換(貿易)であれ)はポジティブサムの結果をもたらす」。経済学者たちは2世紀(200年)以上にわたってそう説き続けてきている。自発的な交換は双方に利益をもたらす。さもなければそもそも交換なんて成り立たない、というわけだ。「移民の受け入れはポジティブサムの結果をもたらす」。経済学者たちはそうも説き続けてきている。アメリカにやってきた移民は自らの労働を売る見返りとしてお金(給料)を手に入れ(労働とお金を交換し)、そしてそのお金で他の誰かが作った商品を買う(お金と商品を交換する)。つまりは、移民だけではなく移民に商品を売った誰かも利益を手にすることになる、というわけだ。しかしながら、進化の名残をとどめる我々の直感はそのようには判断しない。海外の労働者がアメリカとの貿易を通じて利益を手にし、アメリカにやってきた移民がアメリカ国内で職を得ることで利益を手にしているとすれば、それと引き換えに同胞たるアメリカ人労働者が痛手を被っているに違いない。ついそう判断してしまうのだ。

アレックス・タバロック 「ホラー映画に関する『イチャイチャ理論』」(2011年10月31日)

●Alex Tabarrok, “The Snuggle Theory of Horror”(Marginal Revolution, October 31, 2011)


ホラー物(のフィクション)に関する心理学の先行研究を概観した記事の一部を引用しておこう。

ホラー映画への興味と年齢との関係に関して言うと、幼年期から成長するにつれてホラー映画を楽しいと思える感情が高まっていき、その感情は思春期でピークに達して以降は年を重ねるとともに徐々に薄れていく(ホラー映画を楽しめなくなっていく)との可能性が示唆されている。このことと関わりがあるのがいわゆる(ホラー映画に関する)「イチャイチャ理論」(‘snuggle theory’)と呼ばれているものである。「イチャイチャ理論」によると、ホラー映画の鑑賞は若者たちにとって通過儀礼の一つとなっている可能性があり、若い男女が社会における伝統的な性的役割(ジェンダー・ロール)を演じる機会を提供しているというのだ。ドルフ・ジルマン(Dolf Zillmann)やノルベルト・ムンドルフ(Norbert Mundorf)らが1980年代後半に発表した共著論文では男女の大学生を対象にそれぞれ異性とペアになって『13日の金曜日PART3』のワンシーンを14分間にわたって鑑賞してもらった上でその感想が尋ねられている。その結果によると、男子大学生はペアになった女子(男子大学生には知らされていないが、実は研究助手)が映像の鑑賞中にびくびく怖がっている場合にはそうでない場合よりも映像を2倍近く楽しめたと答える傾向にあった一方で、女子大学生はペアになった男子が映像の鑑賞中に冷静で動じた様子がないように見えるとそうでない場合よりも映像を楽しく観れたと答える傾向にあった。この研究ではペアとなった相手の印象が映像を観る前の段階で問われてもいるが、映像を一緒に観る前の段階では女子から魅力的ではないと判断されていた男子であっても『13日の金曜日』の映像を物怖じせずに見通した場合には相手の女子からの評価が高まる傾向にあったことも見出されている。「ホラー映画やモンスターは女子が悲鳴を上げながらデート相手の男子に必死になってしがみつく絶好のチャンスを提供しているとともに、男子が女子を安心させて守り庇護する――必要とあらばモンスターを打ち倒す――絶好のチャンスを与えてもいるわけです」。フィシュホフはそう語る。「男子も女子もどちらとも(ホラー映画を鑑賞しながら)文化の中に埋め込まれている性的役割を演じているわけです」。

アレックス・タバロック 「ゾンビ襲来の数理モデル」(2009年8月16日)・「ゾンビ経済学」(2013年3月9日)/タイラー・コーエン 「『アンデッドの経済学』」(2014年7月10日)

●Alex Tabarrok, “Mathematics of a Zombie Attack”(Marginal Revolution, August 16, 2009)


今回紹介するのは『Infectious Disease Modelling Research Progress』に収録されている論文(pdf)だ。アブストラクトを以下に引用しておこう。

ゾンビはポップカルチャーやエンターテインメントの世界で人気のキャラクターの一つである。死者が何らかの原因で突如ゾンビとして蘇り、生きている人間を次々と襲っていく。そしてゾンビに襲われた(噛まれた)人間もまたゾンビとなって新たな獲物を追い求めていく。世にある娯楽作品の中ではそのように描かれることが多い。本論文ではポピュラー映画に登場するゾンビの特徴を踏まえた上で「ゾンビ襲来」の数理モデルを組み立てる。まずはじめにゾンビ感染に関する基本となるモデルを構築し、モデルの均衡を求めると同時に均衡の安定性を検証する。さらには、数値シミュレーションも行う。次に基本となるモデルに修正を加え、人間がゾンビ化するまでには一定の潜伏期間を要する――ゾンビに襲われた(ゾンビウイルスに感染した)人間はすぐにゾンビになるのではなく一定の潜伏期間を経た後にゾンビ化する――との前提を置くことにする。その上でゾンビ(やゾンビウイルスに感染したもののまだゾンビになりきれていない人間)の「隔離」やゾンビウイルスに効く「治療薬」(ゾンビ化した人間が再び普通の人間に戻ることを可能とする治療薬)の効果を調べる。そして最後に定期的に「掃討作戦」を繰り返してゾンビの殺傷を試みた場合の効果を検証し、ゾンビの根絶が可能となる条件を求める。早い段階から積極果敢な掃討作戦に打って出る以外に「世界の終焉」シナリオ――ゾンビの襲来によって生きている人間が一人残らずゾンビとなり、文明が崩壊へと向かうシナリオ――を避けられる方法はない。本論文のモデルからはそのような結論が得られることになる。

この話題はBoing BoingサイトでCory Doctorowが紹介していたのを見て知ったものだ1。感謝する次第。
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●Alex Tabarrok, “Zombie Economics”(Marginal Revolution, March 9, 2013)


「ゾンビ経済学」とは言っても「セイの法則」だとかを槍玉に挙げているわけじゃない2。文字通り「ゾンビの経済学」――正真正銘のゾンビを対象とした経済学――だ。グレン・ホイットマン(Glen Whitman)とジェームズ・ダウ(James Dow)の二人が「『アンデッド』(特にゾンビと吸血鬼)の経済学」をテーマとする本の編集を進めているらしい。ロウマン&リトルフィールド出版社から出版予定とのことだ。

経済学の発想を使って「アンデッド」に関わる問題に切り込んだり、「アンデッド」を題材として経済学の方法論を問い直す。本書への寄稿をお考えの方々にはそのような姿勢で筆を進めていただきたいところだ。論文のアブストラクト(要旨)にしても本文にしても一般の読者でも近づきやすくて興味を惹かれるようなスタイルでまとめ上げていただきたい。さらには、ポップカルチャーの分野における「アンデッド」の例――例えば、『トワイライト』シリーズや『バフィー ~恋する十字架~』、アン・ライスの一連の小説、『ワールド・ウォーZ』、ジョージ・ロメロ監督の作品の数々、『トゥルーブラッド』、『ウォーキング・デッド』等々――を引き合いに出しながら論を進めていってもらいたいところだ。

考え得るトピックの例を挙げておくと、「血市場」における需要と供給、「ゾンビ労働市場」の振る舞い、「アンデッド」の脅威への対応策に絡む政治経済学的な問題、ゾンビの襲来によって荒廃した経済の復興にまつわる問題、ゾンビや吸血鬼の行動が合理的選択理論に投げかける示唆等々ということになるだろう。

ただ今論文のアブストラクトの投稿を募集している最中とのことだが、詳しい投稿規定はこちらをご覧になられたい。

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●Tyler Cowen, “*Economics of the Undead* (arrived in my pile)”(Marginal Revolution, July 10, 2014)


『アンデッドの経済学』と題する本が出版された。編者はジェームズ・ダウとグレン・ホイットマンの二人。副題は「ゾンビ、吸血鬼、陰鬱な科学」だ。執筆陣にはスティーブン・ホーウィッツ(Steven Horwitz)サラ・スウワイア(Sarah Skwire)イリヤ・ソミン(Ilya Somin)ホリス・ロビンズ(Hollis Robbins)らが名を連ねている。

  1. 訳注;この論文の内容を日本語で詳しく解説したものとしては例えば次のブログエントリーを参照のこと。 ●“感染症モデルに基づくゾンビ大量発生時の危機管理指針”(A Successful Failure, 2009年8月29日) []
  2. 訳注;「セイの法則」だとかを槍玉に挙げている「ゾンビ経済学」はこちら。 []

タイラー・コーエン「祖父の霊、売ります」(2004年12月5日)/アレックス・タバロック 「ビッグフットとUFOに関する計量経済学」(2008年9月1日)

●Tyler Cowen, “Phantom markets”(Marginal Revolution, December 5, 2004)


祖父の霊を怖がる6歳の息子を安心させるにはどうしたらいいだろう? そうだ、(インターネットオークションサイトである)eBay(イーベイ)で祖父の霊を売りに出そう。そのような母親の妙案に対してこれまでに34件を上回る入札があり、最高入札額は今のところ78ドルに達している(最新の情報によると、最高入札額は1万5000ドルにまで競り上がっている)。

「おじいちゃんの幽霊にそのうち出くわすんじゃないかって怖いんだよ」。母親のメアリー・アンダーソンが語るところによると、息子のコリンがそう語るのを聞いて祖父(メアリーにとっては父)の霊をオークションサイトに出品する(売りに出す)ことに決めたという。祖父が亡くなったのは昨年のことだが、それからというものコリンは一人きりで家の中を行き来するのを止す(よす)ようになったという。

・・・(中略)・・・

オークションには(祖父の霊に加えて)祖父が愛用した金属製のステッキも併せて出品されており、祖父の霊の落札者にはちゃんと手で触れることができるモノも送り届けられることになっている。母親のメアリーの言によると、オークションの売上金でコリンに何かしらのプレゼントを買ってあげる予定だという。

全文はこちら

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●Alex Tabarrok, “Econometrics of Bigfoot and UFOs”(Marginal Revolution, September 1, 2008)


ピーター・リーソン(Peter Leeson)がFreakonomicsブログに記事を寄稿している。テーマはビッグフットとUFO(未確認飛行物体)に関する計量経済学。リーソンがデータを詳しく調べたところによると、UFOの目撃件数の多い(アメリカ国内の)州ではビッグフットの目撃件数も多い傾向にあることが見出されたという。リーソンはその事実からいくつかの暫定的な結論を引き出している1が、残念ながらいずれも大間違いだと言わざるを得ない。正しい結論にたどり着きたいのであれば若き同僚(リーソン)にはこちらの古典2の研究に力を入れてもらわねばならないだろう。

  1. 訳注;一例だけ紹介しておくと、UFOの目撃件数が多い州ほどビッグフットの目撃件数も多い傾向にあるのはUFOやビッグフットをだしにして観光客をできるだけたくさん呼び込もうという誘因(インセンティブ)が絡んでいるのではないかとの可能性が挙げられている(UFOやビッグフットの目撃件数が多い州は観光業が州の重要な産業の一つとなっている州でもあるとのこと)。 []
  2. 訳注;『サイボーグ危機一髪』におけるスティーブ・オースティンとビッグフットの格闘シーン。この作品ではビッグフットは宇宙人が作ったサイボーグという設定になっている。 []