ジョン・ホートンの新論文では,とあるオンライン雇用市場での実験と政策変更を利用して,最低賃金の効果を理解しようと試みている.その雇用市場は,Upwork のプラットフォームに似ていて,企業は仕事を掲示でき,世界中どこの労働者でも希望の時給を提示してプログラミング・データ入力・デザイン・書き起こしのようなタスクを申し出ることができる.典型的には,労働者は1~2週間雇用される.
ホートンは,無作為に選んだ一群の仕事には最低賃金以下で労働者が作業を申し出られなくすることで最低賃金を実装できた.
実験期間に,時給単位の仕事を掲載した企業はすぐに実験群に割り振られた.実験には4つの実験群が用いられた:最低賃金のない現状のままの統制群,これが標本の75パーセントを占める(n=121,704).残り3つが能動的な処置を受ける群で,標本の残り25パーセントを占める.募集された仕事の総数は 159,656件で,これがそれぞれに割り振られた.雇用主も労働者も,実験に参加していることは知らされなかった.能動的な処置として設定された最低賃金は次のとおり――MW2 (n=12,442) が時給 $2,MW3 (n=12,705) が時給 $3,MW4 (n=12,805) が時給 $4 だ.
この実験により,最低賃金が雇用を減らすことがわかったとホートンは言う.とくに,最低賃金が賃金の中央値に比べて高いときに低賃金の職種で雇用が減った.雇用減少は計測されたものの,先行研究の結果と同じく,大きな減少ではなかった.だが,同プラットフォームのあらゆる仕事がソフトウェアで記録されたおかげで,ホートンは作業時間について両立のデータを取得できた.そこから浮かんできたのは,いままでといくぶんちがう物語だ.最低賃金は一貫して時給仕事を減らしていたんだ.
最低賃金が上がると,企業はプロジェクトの規模を縮小しやすい.だが,これは雇用への影響が小さいこととどうも整合しないように思える(雇用のコストは一定になっていることから,雇用数と作業時間は減少する一方でもしかすると雇用者当たりの作業時間は増えるのかもしれない).ホートンによれば,作業時間の減少を説明する要因は他にもあるという.最低賃金を上げたとき,企業はより生産的な労働者を注意して雇用しようとするのがわかったそうだ.ホートンによれば,減少した作業時間のおよそ半分はより生産性の高い労働者への置き換えによって説明できる.先行研究では,こうした筋書きに沿っているとおぼしき結果が見出されている.たとえば,Giuliano 2013 では,最低賃金が上がるとティーンエイジの雇用がそれまでよりももっと裕福な地域に移るのを見出している.そうした地域のティーンエイジャーたちの方がもっと技能に長けていて,しかも仕事を辞めにくい見込みが大きい.ホートンの研究でも同様の人口統計的な変化を見出していて,雇用がバングラデシュの労働者からアメリカの労働者に移行している.ただ,ホートンが利用した生産性データは先行研究よりもずっとクリーンなので,生産性と相関する人口統計上の代替項目を当てにする必要がそれほどない.
ひとつには(おそらく)実験そのものを理由として,この雇用プラットフォームはのちにあらゆる仕事で時給3ドルの最低賃金を制度化した.おかげで,ホートンは同じ環境での政策変更を分析して実験結果を補完できている.実験結果と整合する結果として,全面的に最低賃金を実施すると,作業時間は大幅に減少しつつも雇用数にはほとんど影響がなかった一方で,もっとも賃金の低い労働者たちの場合には最低賃金実施以後に雇用される確率が大きく落ち込んでいる.