近く刊行される『労働経済学ジャーナル』(Journal of Labor Economics) に掲載される優れた労働経済学者 Valentin Bolotnyy & Natalia Emanuel の論文(閲覧制限なし)から抜粋:
業務内容が類似しており,賃金が同一で,在職期間によって昇進が決まる環境であっても,男女の収入格差が存在しうることを本稿は示す.我々の検討した環境に見られる 11パーセントの収入格差は,女性従業員が男性ほど残業をせず無給休暇をより多くとることに起因している.その結果として,性別に中立的な施策が男女それぞれに異なった影響を及ぼすのが観察される.
日程を自分で決められることの価値や,仕事内容が慣例どおりであること・予測しやすいことの価値,時間におく価値が,男性より女性従業員の方が大きい.数ヶ月前もって日程が決められる場合には,男性と女性が選ぶ残業時間は類似している.だが,急に日程が告げられた場合の残業時間は,女性に比べて男性の方が2倍近くも長くなる.さらに,女性従業員に比べて,男性従業員は残業制度をうまく利用する:望ましくない日程が示されると,男性従業員は無給休暇をとりつつ,他の日に残業を多くこなす.これによって,基本給から実際の給与を増やす結果となっている.
このように,11パーセントの賃金差は,雇用主による差別の結果ではなかった.ただ,次のような疑念があるかもしれない――「この賃金格差は家族役割での『系統だった性差別』の結果だろう.」 だが,かりにそうだとして,それによって痛手を負っているのは,稼ぎが少ない女性なのだろうか,それとも,家族と過ごす時間が少ない男性なのだろうか? あらゆる〔配偶者などの〕パートナーたちに性別がなかったとしても,一方のパートナーがより多く稼ぐことでもう一方の仕事に融通がききやすくなっている方が理にかなうのではないだろうか?
ここから得られうる教訓は次のとおりだ.すなわち,〔従業員にとって〕日程の融通をききやすくできる雇用主なら,それによって従業員たちの境遇を改善しつつ賃金を下げて雇用主の境遇を改善できるかもしれない.だが,そうした法案が俎上に載せられるかは定かでないが,不可能ではない.
面白いことに,Uber の運転手たちの男女差にも同様の結果が見られる〔日本語記事〕――男性の方がより多く稼ぐけれど,雇用主の差別のせいではなく(なにしろ Uber の文脈ではそもそもありえない),平均でみて運転の仕方に小さな男女差があるためにそうなっている.たとえば,男性の方が少しばかりスピードを出して運転してる.
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