Kimberley Scharf, Sarah Smith, “Peer-to-peer fundraising and ‘relational altruism’ in charitable giving” (VOX, 16 September 2016)
ピアトゥーピア (P2P) ファンドレイジング – 慈善団体に代わって活動を執り行い、寄付を促す – の台頭はオンラインソーシャルネットワークの成長と並行しているが、オンライン寄付行動を促すインセンティブについては依然として理解が乏しい状況が続いている。本稿では、個人がFacebook上の友人に対し紹介したP2Pファンドレイジングプロジェクトの大規模サンプルを取上げ、そこに見られた寄付行動を考察を加える。結果、友人数と寄付額のあいだに負の相関関係が在ることが明らかとなった。同発見は 『関係性利他主義 [relational altruism]』 の存在を示唆する。つまり寄付者は資金を募っている人物を慮るが故に寄付行動を取るのである。
慈善団体は長らく支援者に依存しつつスポンサー付きイベントを通して資金調達を行ってきた。しかし近年、『ピアトゥーピア (P2P) ファンドレイジング』 – 即ち、慈善活動支援者が仲間内で寄付を募るもので、こうした仲間達は慈善活動支援者が個人的に執り行う何らかの活動 (例: マラソン出場) の 『スポンサーに成る』 ことを依頼される – の広まりが見られている。個人ファンドレイザーはオンラインのファンドレイジングプラットフォームを利用してファンドレイジング用の個人ページを設置し、Facebook等のオンライン上のソーシャルグループから寄付を募ることが出来る。これにより、手軽に友人・家族・同僚に対し寄付を呼び掛け、こうして集めた寄付を自ら選択した慈善活動に充当することが可能となる。例えば最大規模のP2PプラットフォームであるJustGivingでは、2001年以来、2400万人もの人が様々な目標の支援に向け慈善活動資金を募っている。
インターネットは、一部の人に寄付行動への社会的伝染機会を数多く提供している (Lacatera et al. 2016)。寄付者は自らが支援している慈善活動についてインフォーマルな形で友人に話すことができ、さらには実例の提供や活動の奨励を通して、自らの所属するソーシャルグループのメンバーにも自分の例に倣うよう動機付けを行い得るのである (Scharf 2014での議論にある様に)。ところが、寄付行動の伝播はそれほど容易にはいかないことが実証研究により明らかにされている。近年の実証研究論文の1つであるCastillo et al. (2014) は、新種のフィールド実験をGlobalGivingとの連携で行い、オンラインソーシャルネットワークでのファンドレイジングに対する個人のインセンティブを調査するものだったが、同研究者により、自らが寄付を行った直後に、その寄付先の慈善活動に対する支援をFacebook上の友人に呼び掛ける機会を活用した寄付者は、少数派に過ぎなかったことが明らかになった。Facebookウォールに投稿した者 (この機会を与えられた者の7%) のほうが、友人一名に対しメッセージを送信した者 (2%) よりも多く; 文言の拡散を促すための (該当慈善活動に対する寄付額が増加するという形を取った) インセンティブは当該機会の活用率を高めたが、$5という寄付額増加最大値を提示した場合でも、Facebookウォールに投稿した者はわずか19%に留まった。さらに、該当慈善活動支援を目的とした友人向けのメッセージには極めて小さな効果しかみられなかったのだ – 何らかの寄付に結びついたメッセージは (Facebookの全ウォール投稿のうち) たったの1.2%である。これは別の論文だがLacatera et al. (2016) も同様の結論に至っている。
ということで、寄付者は自分の寄付行為について友人達に話すのを厭うようであるし、友人達のほうもこうしたインフォーマルな依頼に対してはかなり反応が薄いのである。しかしP2Pファンドレイジングを行うページはもう一つ別の、より強力なパンチを隠していた。最近の論文で我々は、様々な人達がFacebookを通じて友人達に寄付を呼び掛けているJustGiving上の35,000を超えるファンドレイジングページをサンプルとし、これに考察を加えた (Scharf and Smith 2016)。その結果、ほぼ99%近くが少なくとも寄付を1回受けていたことが明らかになっている。Facebook上の友人数の平均 (332) を基準に計測した場合、平均的な規模のソーシャルグループでは、平均15回の寄付が行われていた。単純な呼び掛けと比較したときのP2Pファンドレイジングの重要な差異は、こちらではファンドレイザーが何らかの非常に手間暇の掛かる活動 (最も良く見られるのはマラソンへの参加) に取組んでいる点、そして友人達の寄付が可視的である点が挙げられる。
慈善団体の願いは、P2Pファンドレイジングが単なる寄付に終わるのではなく、ファンドレイザーのソーシャルグループを通して新たな支援者を生み出すことである。しかしながら、P2P寄付者の多くにとっての中心的動機は、ファンドレイザーその人との個人的な繋がりであって、新たに目覚めた慈善活動への愛ではないかもしれない。ファンドレイザー側には慈善活動にも、自らが募ることのできる金額にも関心が有るが、寄付者側は専らファンドレイザーその人にしか関心が無いかもしれないのである。こうした動機のことを我々は 『関係性利他主義 [relational altruism]』 と呼んでいる – 慈善活動の為に、さてどうやって資金集めをしたものかと慮っている人物を慮って寄付する、といった動機である。
表1は寄付行動におけるこの関係性利他主義の裏付けとなる実証データを提示している。慈善活動の目標や任務といったものが高い順位を得ているのは確かだが、寄付者にとっては 『ファンドレイザーとの個人的繋がり』 もまたどれだけの寄付を行うかを決定するうえでの重要ファクターなのだ。第二の実証データは、こちらは実際の行動に基くものだが、ファンドレイザーの属するソーシャルグループの規模 (Facebook上の友人数を基準に測定) と、寄付者の寄付額との間に存在する極めて鮮烈な負の関係である。下の図1にそれをプロットした。ファンドレイザーのもつ友人数が – したがって潜在的寄付者数が – 増加するにつれ、各人が行う寄付の額は減少する。我々の推定値が示唆するところでは、Facebook上の友人数の分布で10パーセンタイルから50パーセンタイルへの上昇は、平均寄付額15%分の減少と結びついており – これはかなりの効果だといえる。これら研究結果は各慈善活動固有の効果を組入れても頑健性を保った、- 要するに、同一の慈善活動に関して募金を呼び掛けているファンドレイザー達を比較すると、大きなソーシャルグループをもつファンドレイザーほど少額の寄付を引き付けるようになるのである。
表1. 寄付額を決定するうえで重要なファクターはどれか?
原註: これらの回答はオンライン寄付プラットフォーム利用者を対象に2012年に執り行われた調査に依る。同質問に係るサンプルは、何らかのファンドレイザーにスポンサー支援をした経験が当時すでに有った17,989名の人達から構成されていた。さらなる情報はPayne et al (2012) を参照。
寄付額と友人数の間に在るこの負の関係は、単なる古典的なフリーライダーのインセンティブ – 共通目標に対する貢献量は貢献者の数が増加するにつれ落ち込む傾向が有るのだという考え – の帰結では片付けられない。同一の慈善活動のために募金を呼び掛けているファンドレイザーは数多く存在するので、問題となる慈善財への貢献者数は、ファンドレイジングページ1つに集まった寄付者の数と同じにはならはない。したがって、背後で作用していたのが標準的なフリーライダーのインセンティブのみならば、各ファンドレイザーがもつ友人数自体は、寄付額になんら影響をもたないはずなのだ。
さらに、この負の関係に関する他幾つかの説明も退けることが出来る。同関係は、多くのページが掲げているファンドレイジング目標額には依存していないようである (即ち、寄付者は単純に設定された目標額を潜在的寄付者数で除している訳ではなさそうなのだ)。というのは同関係はこうした目標額を掲げていないページに関しても当てはまるからである。また、平均値を引き下げてしまう大規模なソーシャルグループにおける限界的な追加寄付者が問題だというわけでもない – この関係は1つのページに対する全ての個人寄付に当てはまることが明らかになっているのである (つまり、1つのページに対する第一寄付、第二寄付、第三寄付の全てについて、ソーシャルグループの規模が大きいほどその額は小さくなっているのだ)。
他方で寄付行動への 関係性利他主義という動機ならば、寄付額と友人数の間に見られる負の関係に合理的説明を与えることができる。寄付者の関心がファンドレイザーその人に在って、他方そのファンドレイザーのほうでは自らの活動を通してどれだけの資金を確保できるのかに関心が有るという状況では、各ファンドレイザーが集めた額は、一種の局地的公共財 [local public good] に成る。そうであるなら、規模の大きなソーシャルグループではフリーライディングが生じてくるにせよ、肝心の公共財は個人のファンドレイザーによって集められた額なのであって、何らかの目標に対し全体としてどれだけの慈善的供給が為されたかではないのだ [訳註1]。この説明は我々の観察した寄付行動パターンとも整合性が有る – 報告されたP2P寄付行動に関する動機に関しても然り。
図1. ページ毎にみた (寄付額の) 対数平均 [ln]
以上全ての事柄はP2Pファンドレイジングに関して如何なる意味をもってくるだろうか? ファンドレイザーに対する示唆として、ファンドレイジングの成功は大規模なソーシャルグループを持っているか否かには依らないという点が1つ挙げられる。我々のサンプルでは、小規模ソーシャルグループを持つ者でも、何千というFacebook上の友人を持つ者とまさに同じくらい多くの額を集めることが出来ている。第二の示唆は、こちらは慈善団体に対するものだが、P2Pファンドレイジングは資金収集手段としては効果的手段と成り得るが、長期的支援者を集める目的に関してはそうではないかもしれない点だ。関係性利他主義を動機とする寄付者が関心を持っているのは、ファンドレイザーその人であって、その人の目標ではない。自らのファンドレイジング活動からより長期的な温情効果 [glow] を生み出してゆくことを望むのなら、慈善団体はよりいっそうの努力を重ね、繊細な社会関係を育んでゆかねばならないだろう。
参考文献
Castillo, M, R Petrie and C Wardell (2014) “Fundraising through online social networks: A field experiment on peer-to-peer solicitation”, Journal of Public Economics, 114: 29-35.
Lacatera, N, M Macis and A Mele (2016) “Viral altruism? Charitable giving and social contagion in online networks”, Sociological Science, 3: 202-238.
Payne, A, K Scharf and S Smith (2016) “Online fundraising: The perfect ask?” Forthcoming in Social Economics, MIT press, Massachusetts.
Scharf, K (2014) “Private provision of public goods and information diffusion in social groups”, International Economic Review, 55: 1019-1042.
Scharf, K and S Smith (2016) “Relational altruism and giving in social groups”, Journal of Public Economics, 141: 1-10.
訳註1. ファンドレイザーが自らの募金活動の成果から、[善い行いをした満足感という意味での] 『温情効果 [a warm glow]』 を得る一方、そのファンドレイザーを支援したソーシャルグループメンバー達も成功に喜ぶ彼を見て心温まる思いがするということらしい。こうした心地良い感覚を享受できるのはそのソーシャルグループ内部者に限られるという意味で、慈善活動の目的とは別の、 “局地的” 公共財が問題となる。下に元論文から関連個所を挙げる。
“この負の相関を説明できるかもしれない別のモデルは次の様なものだ。つまり、ファンドレイザーは自らが調達した募金から 『温情効果』 を得る一方、ファンドレイザーの属するソーシャルグループメンバー達は当該ファンドレイザーに対し利他的であるような場合だが、これによりファンドレイジングの成功は同ソーシャルグループにとっての ‘局地的’ 公共財に成り変わる…。
(An alternative specification that could explain the negative correlation is one where fundraisers experience “warm glow” from the donations they raise, and where the members of the fundraisers’ social group are altruistic towards the fundraiser, which makes fundraising success a “local” public good to the social group…)”