ジェームズ・ハミルトン 「大規模資産購入プログラムの効果はいかほど?」(2013年10月20日)

●James Hamilton, “Estimates of the effects of the Fed’s large-scale asset purchases”(Econbrowser, October 20, 2013)/【訳者付記】Fedが量的緩和の縮小(テーパー)を決める前に書かれたエントリーである点に注意。つい先日のFedによるテーパーの決定に関しては、本サイトで訳出されているティム・デュイの分析を参照のこと。


先週末の話になるが、とあるカンファレンスに参加してきた。「今般の金融危機が金融政策に対して投げかける教訓は何か?」というのが、そのカンファレンスのテーマ。数多くの興味深い報告を聞くことができたのだが、個人的に特に興味深かったのは、大規模資産購入プログラムとフォワードガイダンスの効果に関する最新の推計結果を取り上げている、ジョン・ウィリアムズ(John Williams)サンフランシスコ連銀総裁の報告だった。

ウィリアムズの報告では、一連の学術研究の成果を踏まえて、Fedによる大規模資産購入プログラムの効果が探られている。Fedが債券の購入額を追加的に6000億ドルだけ増やした場合に、10年物国債の利回りにどのような効果が生じると予測されるかが、(対象となっているデータも、そのアプローチも多様な)一連の学術研究の成果を踏まえて推計されているわけだが、その結果をまとめたのが以下の表である。推計結果にはばらつきがあり、その効果の大きさにはかなりの不確実性が付きまとっているものの、大半のケースでは、(Fedが債券の購入額を追加的に6000億ドルだけ増やした場合に)10年物利回りは0.15~0.25%(15~25ベーシスポイント)程度低下するとの予測結果が得られている。

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Fedウォッチャーの間では、「Fedが『テーパー』(資産購入額の縮小、量的緩和の規模縮小)に踏み切るのはいつか?」という話題がホットなようだが、テーパーのタイミングが違うと何がどう違ってくるかというと、Fedが将来的にバランスシート上に保有する国債と不動産担保証券(MBS)の残高が違ってくることになる。しかし、その違いというのは、些細なものでしかない。例えば、つい先日も指摘したことだが、仮にFedが(幾人かのアナリストが予測していたように)先月(9月)のFOMC(連邦公開市場委員会)でテーパーを宣言して、10月以降に国債の純購入額 [1] 訳注;国債の追加的な購入額のうち、満期を迎えた国債の再投資分を除いた額 を毎月ごとに25億ドルずつ減らしていった場合と、来年(2014年)の1月にテーパーに踏み切る場合 [2] 訳注;来年の1月以降になってはじめて、国債の純購入額を毎月ごとに25億ドルずつ減らしていく場合 とを比べると、2014年(来年)末の段階においてFedが保有する国債残高にはおよそ1000億ドルだけの違いしか生まれない [3] … Continue reading 。上の表を頼りにすると、1000億ドルの違いは、10年物国債の利回りで測っておおよそ0.025~0.05%(2.5~5ベーシスポイント)程度の違いを生むに過ぎない。国債だけではなく、不動産担保証券の保有残高の違いも考慮に入れると、10年物国債の利回りに生じる差は0.025~0.05%の倍あるいは3倍になるかもしれないが、そうであったとしても、(10年物利回りにごくわずかの違いしか生まない)テーパーのタイミングに血眼になるというのは、いかがなものだろうか?

「Fedがテーパーに踏み切るのはいつか?」という問いではなく、「Fedが準備預金に対する金利(準備預金付利;IOR)を引き上げるのはいつか?」という問いをこそ、問題にすべきなのだ。IORが引き上げられるタイミングにこそ、目を注ぐべきなのだ。

References

References
1 訳注;国債の追加的な購入額のうち、満期を迎えた国債の再投資分を除いた額
2 訳注;来年の1月以降になってはじめて、国債の純購入額を毎月ごとに25億ドルずつ減らしていく場合
3 訳注;今年の10月からテーパーに乗り出すと、来年の1月からテーパーに乗り出す場合と比べて、2014年末の段階においてFedが保有する国債の残高は1000億ドルだけ少ないことになる。
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  1. 翻訳お疲れ様です。本サイトではなかなか紹介する機会のないベックワースが原文にコメントを付けてたので、おまけとして。

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    ジェームズ、

    この表は金利の変化についての結果を表したものだよね。大規模資産購入の効果について、雇用やGDPみたいな実際の経済活動に対するものの推定を行っている研究ってあるのかな?僕はそっちのほうに興味をもってるんだ。

    金利の推定は、大規模資産購入の予想所得効果が流動性効果をある程度相殺してしまう場合においては、混乱を招くかもしれない。つまり、大規模資産購入が経済の見通しを改善して、それが期待短期金利を押し上げることで長期金利に上昇圧力が加わる場合には、ということ。これは大規模資産購入が期間プレミアムを引き下げることで作り出した、長期金利の下落圧力を相殺するだろう。そういった場合、利回りに対する効果をみるだけでは、大規模資産購入の経済に対する効果は完全には見えてこない可能性がある。

    条件付ベクトル自己回帰による予測を使って、僕は金利以外の経済指標に対する大規模資産購入の効果をざっくりと見てみた。これをもっと練り上げていくのは楽しいと思うけど、もう既に誰かがやってるんじゃないかと思うんだ。
    http://macromarketmusings.blogspot.com/2013/10/what-george-bailey-can-teach-us-about-qe.html

    Posted by: David Beckworth at October 20, 2013 11:53 AM

    1. わざわざ補足をしていただきありがとうございます。ついでに、ベックワースのコメントに対するハミルトンの返答も訳しておきます(「訳す」というほどの分量でもありませんがw)

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      デイビッド: 「もう既に誰かがやってるんじゃないかと思うんだ」ということだが、例えば次の論文でそういった試みがなされているようだよ;Chung, et. al. (2011) (http://www.frbsf.org/economic-research/files/wp11-01bk.pdf)、Wu and Xia (2013)(http://econweb.ucsd.edu/~faxia/pdfs/JMP.pdf)

      Posted by: JDH at October 20, 2013 03:16 PM

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