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ジャック・ブギョン, ヤン・ミシュク 『ギグ・エコノミー神話の解体にむけて』 (2016年11月28日)

Jacques Bughin, Jan Mischke,”Exploding myths about the gig economy“, (VOX, 28 November 2016)


 

『ギグ・エコノミー』 とは、新しいデジタルなプラットフォームであるUberやAirbnbから収入を得ている者も含んだ、独立的労働者層 [independent workforce] をさす。本稿は合衆国・英国・ドイツ・スウェーデン・フランス・スペインからの回答者8千名を対象としたサーベイを活用し、この比較的新しく、また賛否両論有る経済領域にまつわる俗説の解体をめざすものである。既存の統計データがギグ・エコノミーの規模を著しく過小評価している事、独立的労働を行っている者の30%は自ら選んでそうしているのではない事などが明らかになった。

今日 『ギグ・エコノミー』 を話題に挙げれば、まさに百人百様といった反応が返ってくるだろう。懐疑派はそれを大したことのない、担ぎ上げの過ぎた労働者部門と見るが、他方で議論の反対陣営にいる者達は、人々の身過ぎ世過ぎの在り方を一変する可能性を秘めた、巨大で、しかもなお成長を続ける一勢力だと考えている。これらの相反する見解に、公の統計データからの支援は無い。データが古いのが通例で、現在進行中の経済シフトを把捉できていないからだ。さらに不味いことに、信頼できるデータの缺欠から、ギグ・エコノミーが広がる経済不安に対する解決策であるのか、それともその原因なのか、この点をめぐる論争の過熱化が生じている。

公平を期して申し添えると、非従来型労働者層を計測しようにも、これが中々容易でないのだ。UberやAirbnbなどのデジタルプラットフォームは、従来型の稼ぎ手でありながら副業として非従来型の労働に従事している者の存在と相俟って、事態をいよいよ錯綜させている。最近の研究からはこの辺りの事情がよく覗われる。一定のベンチマークを基準とするかぎり、ギグ・エコノミーが労働市場の一角を占める勢力であるのは確かなようだ。例えば、15歳から24歳のヨーロッパ人では、2人に1人がパートタイム又は臨時単位での労働を行っている (European Parliament 2016)。ブルッキングス研究所の或る調査も、過去十年間で独立的労働者の数が明らかに急増している旨を示す実証データを確認している (Brookings 2016)。しかしギグ・エコノミーの重要性を割り引かせるような発見も存る。Resolution Foundationによる近時のレポートでは、季節に起因する差異分を考慮してしまうと、複数職を兼業する労働者の比率にしても、英国では1990年代中頃での5%周辺をピークに、現在では記録的低さに達していることを明らかにしている  (Resolution Foundation 2016)。

McKinsey Global Instituteにおいて、我々はこうしたデータの空隙の補填を試みた。合衆国およびヨーロッパを通して見た独立的労働者層の計測にフォーカスを置き、合衆国・英国・ドイツ・スウェーデン・フランス・スペインからの8千名を超える回答者を対象とした大規模調査を実施した (McKingsey Global Institute 2016)。我々の発見は独立的労働者にまつわる俗説解体の一助となるかもしれない。

先ず第一に、独立的労働者には共通した3つの決定的特徴が有るので、これを認識しておくことが重要である: すなわち独立的労働者は高度の自律性をもち; タスク・任務・売上単位で収入を得; 依頼主ないし顧客との職務関係は短期的である。独立的労働者は労働力の提供、商品の販売、資産の賃貸を行う者達であり、eBayやEtsyといったプラットフォームで活動するセラーや、Airbnbを使って部屋を賃貸する小型貸家主 [micro-landowner]、さらにはフリーランスの医師・弁護士・ウェブデザイナー・ライターなどもここに含まれる。この定義に基づくかぎり、独立的労働者の数は諸政府の統計データが示すところを相当上回ることが分かった。本研究では、労働年齢人口層の20%-30%に独立的労働者として働いた経験が有ると結論付けている。これを合衆国および15のコアEU諸国に外挿すると、その数は優に1億6200万人に昇り、15のコアEU諸国のみでその内の9400万人を占める。政府統計ではこれの半数ほどの頭数になっており、独立的労働者層は合衆国では労働年齢人口層のたった11%、EU-15では14%とされている。この違いは先ずもって、これら非従来型労働者層の半数超がパートタイムで独立的労働に従事しており、また近年ギグ・エコノミーが成長してきたのは確かだとはいえ、依然として本研究における独立的労働者の15%、或いは2400万人ほどの規模を占めるに過ぎないという事実に由来する。この2400万人中、約900万人- 僅かに40%に届かない程度 – は自らの独立的労働にあたって専らデジタルプラットフォームのみを利用しているが、他方で60%超はデジタル・非デジタル手段を相織り交ぜつつ仕事を行っている。

既存の研究 – 例えばオーストリアにフォーカスを合わせた (Huws and Joyce 2016) など – と異なり、我々は人々が独立的労働に従事している理由の解明にも踏み込んでいる。そこでの発見は驚くべきものだった。独立的労働者の大多数である約70%は、専業/副業を問わず、自ら好んで独立的労働に従事しているのであり、従来型の職業が通例提示するところより大きな自律性と柔軟性を選好したのだと答えたのである。さらにこのグループ内の多数派はじっさいにも臨時的副業者 [casual earners] であり、他の収入源を補完するために独立的労働を行っている。臨時的副業者は学生・退職者・介護者などが典型で、彼らは労働をそれ以外の責務や活動と両立させているが、従来型の労働に従事している者の一部もここに含まれ、自らの収入を補完している。またこうした区分は諸大陸を見渡しても比較的安定している。例として合衆国とヨーロッパを対比してみよう (Figure 1)。

図1. 独立的労働者の4区分

デジタル専業独立的労働者対非デジタル独立的労働者での下位サンプルを比較すると、自ら好んで独立的になっている者はデジタル労働者のほうでさらに多くなる (78%) が、本業的収入源として独立的労働に依存する傾向は僅かに弱まる。ギグ・エコノミーはじっさいに自己雇用 [self-employment] を増加させているようだ。

図2. 非デジタル対デジタル専業でみた、独立的稼ぎ手の分布

独立的に労働することを選択した人達は相対的に高い水準の満足度を報告しているが、それは相対的に高い労働柔軟性のみによるものではない。自らの仕事に強く献身している者の数は従来型の定職保持者よりも多く、さらに自分が自分のボスであるという境遇を享受し、典型的な九時五時労働者よりも広い創発性の余地を楽しんでいる者もこちらのほうが多い。全体的に言って、こうした人達は自らの所得水準に対する満足度が相対的に高く、所得保証や給付金などの論点についても従来型労働者と同程度の満足度を報告している。

残念ながら、それでもなお、独立的に働くほか無いが為にそうしている30%の独立的労働者が残る。少数派ではあるとはいえ、独立的労働者層と典型的に結び付けて考えられる傾向が強いのはこちらの労働者のほうである。このグループはさらに2つのカテゴリに分割できる – 独立的労働から本業的収入を得ているが本当は従来型職業のほうを選好している者、そして財政的に行き詰まっており、副業などしたくないのだが収支の帳尻を合わせるためにそれを強いられている者、である。

独立的労働者の特徴の殆どは本研究の対象となったヨーロッパ15ヶ国で共通していることを突き止めたが、それでも幾つか違いも観察された。スケールの此端に位置するのがスウェーデン・米国であり、独立的労働を好んで選択した者が74%、止むを得ずそうしている者が26%。その対端に位置するスペインでは58%が自ら好んで、42%が止むを得ず、とのことだった。独立的労働者の割合が最も高かったのはギリシア・イタリア・ポルトガル・スペインで、所得は相対的に低く、経済成長率も常態的に貧弱である。これら諸国では、労働者層の大体15%から20%が自己雇用、ないし臨時的雇用に従事している。ギリシア・スペイン・ポルトガル・オランダを含む一部ヨーロッパ諸国では、臨時的労働者の四分の三超は非自発的なものである。

本研究による発見は政策画定者や企業そして個人に対しても重大な示唆をもっている。先ず今日となっては、従来型職業に従事する労働者にフォーカスを合わせるばかりでは、政策画定者は最善を尽くしたとは言えないこと。独立的労働者はもはや無視して置くにはあまりに大きな存在となった。続いて、政策画定者には最新、かつ、より包括的なデータの収集を通し、独立的労働者の追跡作業を改善させる必要があること。さらに、政策画定者は従来型雇用を選好している独立的労働者のために雇用機会を拡大させなくてはならないこと。最後に、政策画定者に対し、労働者保護・給付金・所得保証における格差への取り組みを求める圧力はこれから強まってくるだろうこと。

企業においても、従来型被雇用者と独立的労働者の混合編成を効率的に運用する制度および手続きの練り上げを求める競争圧力と直面するだろう。そして技術者の間でも、個人と賃金労働との間を繋ぐ新たな手法を発見すべく、イノベーション競争が始まるはずだ。また個人も適応への圧力に直面するだろう。独立的労働者は非従来型雇用の孕むリスクと困難、とりわけ所得不安定期間を掻い潜りつつ、自己を自ら運営する小事業と見做す思考法を身に着け、継続的改善と技能開発の術を見い出してゆかねばなるまい。

だが経済的利点もおそらく相当在るはずだ。本研究は、変わりつつある労働者層が抱える課題の一部との取り組みを通し、より幸福で、より満足度が高く、しかもより能率的な労働者層を広く社会に生み出しうる力を我々がもっていることを示した。そして、そうした可能性には取り組むだけの価値が有るのだ。

参考文献

Brookings (2016) Tracking the gig economy, October.

European Parliament (2016) Precarious employment in Europe, Part 1: Patterns, trends, and policy strategy, July.

Huws, U and S Joyce (2016) “Crowd Working Survey: Character of Austria’s gig economy revealed for the first time”, University of Hertfordshire and Ipsos MORI, in association with the Foundation for European Progressive Studies, UNI Europa and AK Wien.

The McKinsey Global Institute (2016) Independent Work: Choice, Necessity and the Gig Economy, October.

Resolution Foundation (2016) Double take: Workers with multiple jobs and reforms to National Insurance, November.


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