貧しい家庭出身の子供たちが,大人になってから経済的な階層のはしごを上に登っていく機会がどれくらいあるのか――これを「世代をまたいだ経済的な上方への移動しやすさ」という (intergenerational upward economic mobility).この移動しやすさは,公正な社会に欠かせない特徴だ.アメリカでは,上方への移動しやすさが地域によって大きく異なっている.本研究は,上方への移動しやすさが都市によって容易であったり困難であったりする理由を検討した.我々の研究は,住民の上方への社会的な移動しやすさの鍵となっている要因が都市の「歩きやすさ」(walkability) にあるとつきとめた.「歩きやすさ」とは,自動車を使わずにどれくらいかんたんに用事をすませられるかということだ.まず,我々は1980年から1982年のあいだに生まれたアメリカ人およそ1000万人の租税データを利用して,歩きやすさと上方への階層移動とに関係があることをつきとめた.この関係は,経済要因と心理要因の両方に関係していることもわかった.366万人以上を対象としたアメリカコミュニティ調査 (American Community Survey) のデータを用いて検討したところ,歩きやすい都市の住民の方が自動車を所有しているかどうかによって雇用や賃金にちがいが現れにくく,上方への階層移動への障害を1つ顕著に減らしていることが明らかになった.これに加えて,2つの研究を実施した.このうち1つは〔データ収集前に仮説や分析計画を〕あらかじめ第三者に登録した研究だ(アメリカ人 1,827名,韓国人 1,466名).これらの研究から,より歩きやすい地域に暮らす人々の方が,地域コミュニティに所属している感覚が強いことがわかった.このコミュニティへの所属感覚は,個人の社会階層の変化と結びついている.
Oishi, S., Koo, M., & Buttrick, N. R. による論文はこちら.via Anecdotal.