タイラー・コーエン 「スーパーマンのマクロ経済学」(2006年7月7日)

●Tyler Cowen, “The macroeconomics of Superman”(Marginal Revolution, June 7, 2006)


今年の夏 [1] 訳注;2006年の夏スーパーマンが再び我々の前に戻ってくる。ご存知だったろうか?

復帰記念がてらに、あの利他的で清廉潔白なスーパーマンが現実に存在すると仮定して、次のような問題を考えてみるとしよう。スーパーマンには、マクロ経済の活性化に手を貸してもらうとする。さて、そのためには、彼にどんな任務に取り組んでもらうべきだろうか? 彼は、強力なパワーの持ち主であり [2]訳注;一説によると、機関車よりも力がある 、物凄い速さで空を飛ぶことができる [3] 訳注;一説によると、弾丸よりも速いスピードで移動する 。ひと飛びで高層ビルを飛び越せるだけの跳躍力を備えていて、はるか遠くのものまで見通せる驚異の視力にも恵まれている。アインシュタインの相対性理論の枠外にある存在でもある。光速に近い速度で移動しても、時間の遅れを経験することがないのだ(スーパーマンがこれまでに成し遂げた成果の中で何が最も印象に残っているかと尋ねられたら、私なら真っ先にこの点を挙げるだろう)。

スーパーマンには、邪悪な狂人たちからこの世界を救う任務に専念してもらいたいところだ。しかし、日常的な犯罪となると、彼の手を煩わせるだけの価値があるとは思えない。というのも、(富の移転行為としての)犯罪行為を防止するための投資(例えば、鍵への投資)は非効率的ではあるが [4] … Continue reading 、スーパーマンが犯罪の取り締まりに乗り出したおかげで鍵への投資が減ったとしても、成長率に目を見張るほどの違いが生まれるとは思われないからだ。(テネシー州の)メンフィス上空が飛行機で混雑している時に、フェデックス(FedEx)に代わってスーパーマンに物流の仕事を引き受けてもらうというのも、同様に馬鹿げているだろう。

ところで、普段の彼は、「クラーク・ケント」という名前で新聞社に勤めているわけだが、新聞記者というのは彼に適した職業と言えるだろうか? 新聞記者は、コピー(再生産)するのが容易な(reproducible)財(記事)の生産に携わる職業だ。彼が世を忍ぶ仮の姿として新聞記者を選んだのは、シャーウィン・ローゼン(Sherwin Rosen)の論文(“The Economics of Superstars”)を読んだからに違いない [5] … Continue reading

ダルフール紛争だとか他にも解決してもらいたい問題はあるが、そろそろ本題に戻るとしよう。マクロ経済の活性化のためにスーパーマンに取り組んでもらいたい任務の候補を私なりにリストアップすると、以下のようになるだろう。

  1. 研究一筋の学者になる
  2. Fed(をはじめとした中央銀行)のためにデータを収集する
  3. 空を飛んで、「賃下げ(名目賃金の引き下げ)を受け入れましょう」と伝えて回る。
  4. テレビに出演してド派手なスタントを披露し、誰もが知る超有名なセレブになる。そして、その知名度を存分に活用して、経済学のリテラシー(基礎)を身に付けることがいかに重要かを説いて回る;これは、ダニエル・クライン(Daniel Klein)の案だ。

読者の皆さんはどうお考えだろうか? どう答えるか(どんな任務を候補に挙げるか)によって、あなたが何に大きな見返りを期待しているかが浮き彫りになることだろう。

ところで話は変わるが、こちらのページでスーパーマンが初登場した漫画雑誌の初版が紹介されている。

References

References
1 訳注;2006年の夏
2 訳注;一説によると、機関車よりも力がある
3 訳注;一説によると、弾丸よりも速いスピードで移動する
4 訳注;例えば、強盗という行為は、財産の持ち主から強盗へ向けて強制的に富の移転を図る行為であり、それゆえに、富の増大に貢献することのないゼロサムゲームであると言える。しかしながら、強盗という行為だったり、強盗を予防する行為(鍵への投資)だったりのために用いられた資源や労力が、それとは違うかたちで使われていたとすれば、富の増大につながっていたかもしれず、そういう意味で(富を生む機会が逸されているという意味で)強盗とそれを予防するための鍵への投資は、資源の非効率的な(=ネガティブサムの結果を招く)利用法ということになる。ちなみに、富の移転を狙う強盗行為とその予防を目的とした行為(鍵への投資)は、政府によって与えられる特権(レント)の獲得を目指して企業同士が競い合うケースと同様に、ネガティブサムの結果を招くという点は、レントシーキングの概念が初めて提示されているゴードン・タロックの論文(pdf)でも指摘されている。
5 訳注;インターネットなどのテクノロジーの発展に伴って、財や(パフォーマンスを含む)サービスの追加的な生産に要する費用(限界費用)が低下すると、才能のある人物が一人勝ちする状況(莫大な報酬を手にする機会)が生まれることになる(例えば、歌手のパフォーマンスをインターネット等を通じてどこにいても容易に視聴できるようになると、一流の歌手に人気と収入が集中する傾向が生まれる可能性がある。詳しくは、ロバート・フランク&フィリップ・クック(著)『ウィナー・テイク・オール:「ひとり勝ち」社会の到来』などを参照してもらいたい)。クラーク・ケントことスーパーマンは、「一人勝ち」市場の構造を見抜いた上で、(優れた才能に対して大きな報酬の見返りが得られる可能性がある)新聞記者という職業を選んだに違いない、ということが言いたいのだろう。
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    1. コメントありがとうございます。
      あくまでも私は翻訳しただけなので原著者の真意はわかりませんが、おそらくポイントは一番最後の「どのような仕事を候補に挙げるかによって読者自身がどの分野で大きな見返りが見込めそうだと判断しているかが明らかにされることだろう。」というところにあるんでしょうね。「スーパーマン」という話題にかこつけて、本当のところは読者が考えているマクロ経済上の問題は何であり(経済成長率が低い/失業率が高い/格差が広がっているなどなど)、その問題をもたらしている要因は何と見なしているか(経済学者の研究が遅れている、価格の調整がなかなか進まない、一般国民が経済学を知らなすぎるなどなど)をあぶり出そうというのが目的なのかもしれません。スーパーマンのような超人がいて何でも解決してくれるとして、「私ならスーパーマンにAという要因の解決にあたってもらいたい」と考えているとしたら、その人はAという要因がマクロ経済上の問題をもたらしている根源だと考えている、ということになるんでしょう。

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