タイラー・コーエン 「自己非難に伴う過度の自賛 ~ノーマン・メイラーの場合~」(2007年8月14日)/「『三島の死』と『川端の死』」(2011年10月31日)

●Tyler Cowen, “Beware self-deprecation”(Marginal Revolution, August 14, 2007)


自己非難には「過度の自賛」が見え隠れすることが時にある。

ノーベル文学賞を受賞できずにいるのはなぜなのか? その理由について、ノーマン・メイラー(Norman Mailer)が自分なりの考えを披露した。

彼なりの答えは、こうだ。これまでノーベル賞を手にする機会に恵まれなかったのは、政治的な理由のためではない。その原因は、1960年に起こった事件にある。懐中ナイフで二番目の妻を刺してしまったのだ。メイラーは語る。「スウェーデンの方々は大変知的であり、ノーベル賞のことを誇りに思っています。そんな彼らが、自分の妻をナイフで刺した過去があり、かくも気難し屋で邪険な人間にノーベル賞をやろうなんて考えるわけがありません。だからといって、スウェーデンの方々を非難することなどできないというのが私の考えです」。

メイラーは、あまりにも過小評価されている作家だ――彼の作品の中でも『Harlot’s Ghost』なんかは特にそうだ(過小評価されている)――とは私も思うが、妻をナイフで刺したのがノーベル賞を受賞できずにいる主な原因というのは違うだろう。

上の引用文のリンク先はこちらだが、焦点が当てられているのはメイラーではなくギュンター・グラス(Günter Grass)だ。グラスも屈折した自己非難の使い手のようだ。

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●Tyler Cowen, “Model this (a continuing series)”(Marginal Revolution, October 31, 2011)


フィナンシャル・タイムズ紙で、ドナルド・キーンの半生が辿られている [1]訳注;次の記事もあわせて参照されたい。 … Continue reading

「ご存知のように、三島由紀夫は45歳で亡くなりました。彼の作品は、小説、戯曲、批評、詩といったジャンルにわたっており、少なくとも45本の作品を残しています」。三島は、天皇の復権を目指して茶番めいたクーデターを企てたものの、その試みが失敗に終わると(1970年に)割腹自殺を遂げた。キーン氏の考えでは、三島が自殺した理由はノーベル賞を獲り逃したためではないかという。1964年に東京オリンピックが開催されている最中に、キーン氏は三島から手紙を受け取っている。その中に、次のような文章が綴ってあったという。『文学にもかういふ〔運動競技の勝敗のような;訳者注〕明快なものがほしい、と切に思ひました。たとえば、僕は自分では、Aなる作家は二位、Bなる作家は三位、僕は一位と思つてゐても、世間は必ずしもさう思つてくれない』。キーン氏は語る。「手紙の中ではこれだけしか書かれていませんが、彼が何を言わんとしているかははっきりとわかりました」。何とも皮肉なことだが、1968年に日本人初のノーベル文学賞を受賞した川端康成も同じく(1972年に)自殺というかたちでその生涯を終えている。ノーベル賞受賞作家という新たな名声に恥じない仕事をせねばならないという重圧に押しつぶされたせいではないかと考えられている。

References

References
1 訳注;次の記事もあわせて参照されたい。 ●ドナルド・キーン、“【ドナルド・キーンの東京下町日記】ノーベル賞と三島、川端の死”(東京新聞、2013年10月6日)
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