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ブランチャード & Pisani-Ferry 「もしコロナが続けば:その潜在的な経済への影響を探る」 (2021年3月12日)

訳者(サボりがち):原文が出てからもう2ヶ月以上経ってしまい、少なくなくともアメリカではワクチン接種が進んでもう少しでポスト・コロナ時代到来!というような感じにはなってきており、この翻訳のポストが遅すぎるだろと訳者自身感じるところではあるのですが、世界的にはまだまだそういう状況ではないですし(残念ながら日本も含めて)、アメリカだって安心しきってたらどうなるか分かりません。そもそもコロナ以外の疫病の流行もあり得るわけですし。なのでまだまだ(残念ながら)意味のある投稿と信じポストします。

 

我々著者は、Michael Kisterにはその優れたリサーチアシスタンスについて、Nicolas WoloszkoにはOECDデータに関するガイダンスについて、Laurence Boone、Philippe Martin、Guntram Wolff、およびPIIEの同僚には初期ドラフトへのコメントと批判について感謝する。

 

2020年初頭にCOVID-19の危機が広がった時、その影響を予測しようとした多くの経済学者達は、一度のショックの後にはいずれ、元々の状態に近いものが戻ってくると予想していた。その後、ワクチンの製造にかかる時間や経済的な打撃の程度については見解が分かれるようにはなったものの、この数カ月前までは、公衆衛生関係者以外でパンデミックが大規模に持続する可能性を真剣に考える人はほとんどいなかった。

COVID-19の原因ウイルスであるSARS-CoV-2の新しい変異種の出現により、この仮定は怪しくなってきた。最もありそうだというわけではないとはいえ、より酷いシナリオについても排除することはもはやできない(この線にそった様々な酷いシナリオについては、例えばBosetti et al. 2021の図3を参照)。我々の同僚であるChad P. Bown、Monica de Bolle、Maurice Obstfeldが最近の記事で説明するように、新しく、潜在的に危険な変異種の定期的な出現は、効果的なワクチンにアクセスできない地域が世界にある限り、深刻な脅威であり続けるだろう。

もしCOVID-19が消え去らず、人命を脅かし続けるとなれば、2つのシナリオがありえる。1つ目は、感染の波が繰り返され、政府が疫病の流行に応じて衛生措置を講じたり解除したりを繰り返すというものだ。2つ目は、「ゼロCOVID」シナリオだ:劇的で持続的な封じ込め政策を最初に行い、その後は穏やかな衛生措置とシステマティックな追跡・検査を組み合わせて、非常に低い感染レベルを維持するというものだ。この2つ目のシナリオが長期的な人的・経済的コストの低減につながることを証拠が示しているが、各国の対内・対外的な地理的、人的、そして政治的な現実がこれの実現の可能性を低くしている。少なくとも人口密度が高く、開放的で緊密に統合されたヨーロッパのような経済圏においては。この理由の為、このブログでは第1のシナリオが意味するものに焦点を当てていく。

大流行が繰り返されるというシナリオには、3つの主要な経済的影響があると我々は考えている。1つ目は継続的な国境規制で、これは各国が外国での感染から自国を守ろうとする為だ。2つ目は繰り返される外出抑制の可能性だ。3つ目は、需要と供給の両方の構成への長きに渡る影響だ。これからこれらの影響を順に考えていく。(後日のブログで、経済政策についての教訓を述べる)。

 

1.継続的な国境規制

 

国連の専門機関である国際民間航空機関(ICAO)によると、2020年4月から5月にかけて国境を越えた航空旅客は90%以上減少し、12月になってもまだ通常の水準を64%下回っていた。2021年1月にはさらなる国境閉鎖が、とりわけヨーロッパにおいて発表された。例えばイギリスでは、30カ国以上からの入国を禁止し、アイルランド以外の国から到着した人には10日間の自主的隔離期間を設けた。

こういった渡航制限が続くとしてみよう。その経済的なコストはどれほどのものになるだろうか?

外国観光や航空会社に関しては、明白かつ大きな影響がある。国際旅行は2019年に1.7兆ドル、世界のGDPの1.9%を稼ぎ出したが、2020年には74%も減少した。これは経済活動の損失に1対1で換算されるわけではない。家に留まらざるを得なくなった自国民が、損失の一部を相殺するだろうからだ。だがそれは一部にすぎない(フランスの国民はエッフェル塔を繰り返し訪れようとはしないだろう)。そしてモルディブやバハマのような観光業がGDPの50%以上を占めている国々にとっては非常に悪い影響が及ぼされるだろうし、ギリシャ、イタリア、スペインのように観光業がGDPと雇用の10%以上を占めている(そして2020年には外国人観光客が70~80%減少した)国々でも深刻な結果となるだろう。しかしフランスのように多様性の高い国についても、外国人による観光業は直接・間接的にGDPの約3%を占めている1

季節の出稼ぎ移民、特に農業関係のそれへの制限も多大な影響を持ちうる。渡航制限は、(受入国での)作物の収穫を妨げ、(送り出し国への)送金に影響する。

他にも、評価がより難しいがより深刻な影響のあるものもあるだろう。そのうちの一つ大きな問題が、渡航制限はグローバルなバリューチェーンの構成、物品の貿易、観光以外のサービス、そして生産性にどういった影響を及ぼすのか、だ。

その性質から、コンテナの輸送では人と人との接触が最小化されている。いったん調達や輸出の契約が結ばれた後は、航空旅行制限による影響はほとんどない。しかし、人の移動可能性はバリューチェーンの構築には問題となってくる。細かく言って、多国籍生産ネットワークは3種類の摩擦にさらされている(Head and Mayer 2019):貿易コスト、マーケティングコスト、そして生産調整コスト、だ。渡航制限は最初のものには影響しない。しかし他の2つには影響を与えるのだ。Delpeuch et.al (2020)はこの事に基づいたモデルを開発し自動車産業に適用して、国境を越える際のコストすべての20%の増加は消費者の実質所得を通常の場合、約4%減少させる事を見出した。

旅客数の減少の経済的影響についての証拠は、様々な自然実験からも得る事ができる。Bernard, Moxnes, and Saito (2019)は、2004年に九州で開通した旅客専用である新幹線が利用可能なサプライヤーや調達先を広げ、企業レベルでのパフォーマンスに大きな効果をもたらしたことを明らかにした。これは、個人間の対面での交流が生産性にとって重要であることを示唆している。

Umana-Dajud(2019)はまた別の自然実験を利用している:シェンゲン圏 (訳者注:シェンゲン協定が適用されるヨーロッパの26の国の領域。) によるエクアドル(2003年)とボリビア(2007年)の国民へのビザの要求の開始だ。彼は両方のケースにおいて非常に大きな負の影響をスペインとの貿易(ビザステータスの変化によって一番の影響を受ける国だ)について、とりわけ差別化財について、発見した2。こういった発見はCoscia, Neffke, and Hausmann (2020)によってもなされている。彼らは出張の持つ、彼らが暗黙知と呼ぶもの(書き留めたり言葉にしたりする事によっては他人に伝えるのが難しいたぐいの知識)の拡散についての影響を調べた。このチャンネルの為に、国境を越えた移動への継続的な阻害要因は成長に悪影響を及ぼしうるのではと彼らは示唆している。外国貿易への依存度が高い国、特にサービスを輸出している国は、より大きな影響を受けるだろう。

国外留学の制限、例えばヨーロッパにおけるエラスムス計画の中止や、米国の大学における外国人学生や教員の減少などは、研究における国境を越えた協力関係を徐々に弱めていくだろう。留学生に多く頼っている大学は生き残れないかもしれない。そして、より漠然としているがしかし重要なの事は、学生が異文化に関する貴重な知識を失ってしまう事だ3

これらのコストを数字で表せるだろうか?簡単ではない。1年や2年ほどの制限ではあまり影響がないかもしれない。しかしながら、制限がより長く続くならば、グローバルバリューチェーン、貿易、そして全体的な効率に大きな影響を与える可能性がある。

 

2.繰り返される外出制限

 

疫病のアウトブレイクが繰り返されるシナリオでは、政府は様々なレベルでの外出制限とその後の緩和という「ストップ・アンド・ゴー」の措置を実施する事に多分なるだろう。このような対策は、経済活動の観点からするとどの程度のコストがかかるのだろうか?

いくつかの要因により、将来の外出制限は2020年春の最初の一連の制限よりもコストが低くなるだろう。まず、学習が行われてきた:マスクや保護具の不足はほぼ解消されたし、生産現場は汚染を制限するように再編され、在宅勤務もよりよく組織されるようになり、オンラインショッピングが発達した。政府は様々なグループ間それぞれの感染経路について、まだ驚くほど限定的ではあるもののより良く理解するようにはなってきたし、さらなる外科的介入や閉鎖を行うこともできる。

しかし同時に、外出制限疲れも明白になってきた。人々が規則を守らず、その行動にも慎重さを欠くようになってきている。

改善があったかどうかを知るために、春に一回と秋にもう一回、2020年に2回の明確な外出制限を行った欧州の7カ国に注目してみた。オーストリア、デンマーク、フランス、ドイツ、イタリア、ポルトガル、そしてスペインだ。

二度の外出制限のそれぞれについて、COVID-19の実行再生産数Rが最大値をつけた時から最低値になった時までの期間にかんして調べることにした 4。この期間は通常,公式の外出制限期間と,そして外出制限措置の強度を測ることを目的とした指標であるBlavatnik stringency指数の急激な上昇とも密接に一致していた(最大でも2週間ほどの違い)。この期間は時期や国によって異なるが、6週間から9週間続いた。

感染への影響を測る指標として、Arroyo-Marioli et al.(2021)が構築したRについての変化に注目した5 。よく知られているように、Rの値が1以上だと感染の増加を意味し、1以下は感染の減少を意味する。驚くような事ではないが、すべてのエピソードがRの値が1以上で始まり、1以下の値で終わっている6

経済の生産Yへの影響を測る指標としては,経済協力開発機構(OECD)が作成した経済活動の週間トラッカーを用いた7。 トラッカーの定義によれば,グラフの値が0であれば,ある週のGDPの推定値が前年の対応する週の値と等しいことを意味する(したがって,季節性の問題は排除される)。負の値は、GDPの推定値が前年の対応する週の値よりも低いことを意味する。

 

 

ヨーロッパの7つの国と2つの外出制限のそれぞれについて、RとYの変化を図の2つのパネルに示した。左側のパネルは1回目の外出制限エピソード(2020年春)での結果、右側のパネルは2回目の外出制限エピソード(2020年秋)での結果を示している。いずれの場合も、変化は上から始まって反時計回りとなっている。要約統計量を表に示しておく。

 

 

この図と表は次のような結論を示唆している。

  • RとYの動きは、2回目の外出制限よりも1回目の方がはるかに大きかった。Rは高く始まり、Rの減少中の生産コストはずっと大きかった。Rの最終的な値も、最初の外出制限よりも二度目の方が少し高かった。政府が公衆衛生上の目的が完全に達成される前に、社会生活への制限を解除するよう圧力を受けていたことを示唆している。
  • 第1回目の外出制限では、国によって結果が大きく異なることが特徴的だった。終了時、ドイツはフランスと同じ低いRの値であったが、生産面でのコストは約半分であった。一方、第2の外出制限では、ほとんどの国がほぼ同じ生産面でのコストでほぼ同じRの値というより均質な結果となった。
  • 我々の目的にとってさらに重要なことは、同じ値のRに到達するための生産面でのコストが、第2回目の外出制限では大幅に小さくなった。第1回目のコストの1/2から1/3となったのだ。別の見方をすれば、例えばRが1.5から0.7になるまでの軌跡を両パネルで比較すると、1週間あたりの生産面でのコストは第2の外出制限の方がはるかに小さく、週間GDPの約7~10%であった。

これは明らかにデータの大まかな最初の解釈に過ぎない。しかし証拠は明らかにこれらの国々が2回目の外出制限ではより低い生産コストで感染を制限できたことを示している。更に学習が進み、政策をより焦点を絞ったものにすることができるようになれば、次に新たな外出制限が必要になった時にはより優れたトレードオフを実現できるようになるだろう。しかし今のところは、2回目のではなく1回目の外出制限の経済的コストを出発点とするべきだろう。

 

3.需要と供給双方における変化

 

感染の流行が繰り返えされるならば、人々は正式な外出制限がなくともその行動を変えていく事になるだろう。ポストCOVID-19の世界ではウイルスの事を忘れて以前の生活に戻ることができるだろうなどとは、もはやあてにする事は出来ない。ワクチンを接種していても、過去に感染したことがあっても、あるいはその両方であっても、感染の危険性があることは認識され続けるだろう。正式な外出制限政策に関わらず、人々はレストランや劇場、スタジアムなどの公共の場に行くことを避け続けるだろう。アメリカのいくつかの州がパンデミックの中で不要不急な業種の営業再開を決定した2020年春がまさにそうだであったように8。 そういった接触集約的なセクターは、法的規制の対象であるかどうかに関わらず、年間を通して苦しむことになるだろう。

例えばフランスでは、ACEMOの調査によると、2020年末時点で大きな影響を受けた企業(売上高が通常の50%以下にまで減少した企業)が民間雇用の7.5%を占めていたが、それらはいくつかのセクターに偏って集中していた。COVID-19が持続するシナリオにおいては、一時的な支援スキームでは問題を解決できず、これらの企業の多くが閉鎖に至り、雇用に深刻な影響を及ぼす事がありうる。その場合、労働力の大幅な再配置と再教育を行わなければならなくなるだろう。

たとえほとんどの企業が適応し生き残ったとしても、経済活動への持続的な制約は大きなダメージをもたらすだろう。これまでの証拠からすると、金銭的支援は効果的であり、企業の倒産についても少なくともこれまでのところは抑えられてきた。しかし、企業の負債が増加すれば、支払不能となる件数も増加する事となる。そのコストの一部は債務帳消しによって財政に転嫁され、かなりの予算を費やす事になるだろう。

貯蓄や投資もまた大きな影響を受ける事となるだろう。溜め込まれた過剰貯蓄と辛いパンデミックの経験を埋め合わせようとする欲求を反映する膨れ上がった需要によってCOVID-19後には景気急上昇の時期が来るというのが一般的な想定である。力強い成長がもたらされる事となるだろうと。しかし、COVID-19の明確な終わりがなければ、このような状況は起こらないかもしれない。不確実な将来に備えて人々は貯蓄を続けるかもしない。多くの企業が深刻な打撃を受けてきた。利益の減少と引き続く不確実性のために、再び厳しい状況に備えようと、投資に消極的になり流動性を蓄え続けるかもしれない。これは潜在産出と総需要の両方に悪影響を及ぼす。政府は人々や企業を保護するだけでなく、経済を(低下した)潜在産出に安定させるために需要を維持しなければならないかもしれない。これもまた相当な予算を費やすことになるだろう。

マクロ経済学の古いテーマにヒステリシス、一時的なショックの長期的な影響がある。過去の景気後退から得られた証拠は否定・肯定混合だが(Blanchard 2018)、しかしCOVID-19があと数年影響を及ぼし続けるというシナリオの下では、持続的な傷跡の影響が残る可能性は一段と高くなる。長期的な失業は、たとえ失業者が経済的に補償されたとしても心理的な影響をもたらす。外出制限が教育の質に与える著しい不平等の影響は、小中高大を問わずにすでに報告されているが、苦々しいものとなっている。例えば、Chettyら(2020)は、2020年春の米国の学校閉鎖から6週間後に、オンラインの数学プラットフォームで修了したレッスン数の減少が低所得生徒の学校では40%以上だったが、高所得生徒の学校では10%未満だった事を発見した。もし対面の授業が長期間にわたって制限されたままだと、この数字はさらに悪化することになりそうだ。

 

結論

 

COVID-19の次のフェーズの正確な有り様や、それがどのくらい続くのかを知るには時期尚早だ。ワクチンが早くかつて我々が知っていたCOVID-19以前の生活へ連れ戻してくれることを望みたい。しかしもしそうならないならば、当初の政策戦略を見直し、おそらく修正する必要があるだろう。これが次の記事の主題である。

  1. フランスでは、観光業は直接的にGDPの7%を、間接的に約10%を占めている。外国人観光客は観光全体の30%を占める。 []
  2. これらの論文を教えてくれたThomas Chaney氏とThierry Mayer氏に感謝する。 []
  3. 関連する施策のコストの見積りとしては、Sherman Robinson, Marcus Noland, Egor Gornostay, and Soyoung Han, 2020, The Short- and Long-term Costs to the United States of the Trump Administration’s Attempt to Deport Foreign Students, PIIE Working Paper 20-11を参照。 []
  4. 流行の時間経過の説明は、カレンダー時刻t(t>0について)における一次症例あたりの二次症例の実際の平均数として定義される有効再生産数R(t)を推定することで、部分的にではあるが行うことができる。R(t)は、感染しうる人間の減少(内在的要因)と対策の実施(外在的要因)により、時間に依存した変動を示す。R(t)<1の場合は、流行が感染が減少しており、t時点でコントロール下にあるとみなされうる事を示している(R(t)>1の場合はその逆)。 []
  5. 別の方法として、入院数の変化をRの遅行指標として用いたこともある。結果は定性的に同じであった。 []
  6. Rデータを週次に変換し、OECDのWeekly GDP Trackerのデータと同じ頻度にした。 []
  7. GDPトラッカーは、1年前の同じ値に対する週次の生産高の推定値を示しており、暗黙のうちに一年前の値を通常の生産高の水準とみなしている。これは季節変動の問題を取り除いていると考えることができる。 []
  8. Chettyら(2020)は、州の命令による再開が個人消費と経済活動に与えた影響はわずかなものだったという説得力のある証拠を示している。 []

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