マーク・ソーマ 「労働市場における買い手独占」(2015年4月24日)

●Mark Thoma, “‘Monopsony and Market Power in the Labor Market’”(Economist’s View, April 24, 2015)


ニック・バンカー(Nick Bunker)が「労働市場における買い手独占」について論じている。

Monopsony and market power in the labor market” by Nick Bunker:「モノポリー」(“monopoly”)という言葉は、誰もが耳にしたことがあるだろう――同名のボードゲームを思い浮かべる人もいるだろう――。しかしながら、「モノプソニー」(monopsony)という言葉についてはどうだろうか? 「モノプソニー」というのは、「モノポリー」と密接なつながりを持っていて、「モノポリー」の別の側面だとさえも言えるのだ。

「モノポリー」というのは、財やサービスを生産する会社の数が一社だけに限られている状態――「売り手独占」――を指している。翻って、「モノプソニー」というのは、財やサービスを買い入れる(購入する)会社の数が一社だけに限られている状態――「買い手独占」――を指している。「モノプソニー」の例は、労働市場(pdf)においてしばしば観察される。ある特定の技能を身につけた労働者を雇い入れる会社の数が一社だけに限られるケース――労働市場における買い手独占――がそれだ。アメリカでは、財やサービスの生産を一社が独占する傾向(売り手独占の傾向)が強まっているだけでなく、企業同士のカルテル(結託)も盛んになっている兆候があるようだ。それに伴い、労働市場における買い手独占の傾向も強まっている可能性がある。労働市場における買い手独占が持つ効果にもっと目を向ける必要があるのだ。

労働市場における買い手独占の古典的な例は、ただ一つの炭鉱会社に依存する「炭鉱町」のケースである。町で暮らす労働者の雇用主が炭鉱会社一社だけに限られていて、その一社だけが労働力の唯一の買い手というケースだ。ところで、(労働市場における)買い手独占にわざわざ目を向ける必要があるのはなぜなのだろうか? その理由は、買い手独占状態にある会社は、賃金を「労働の限界生産物」を下回る水準に定めることが可能だからである。言い換えると、買い手独占状態にある会社は、労働者に支払う賃金を低く抑えつける強力な力を手にしているのだ。

しかしながら、労働者に支払われる賃金が(労働の限界生産物を下回る水準に)低く抑えつけられるためには、労働者を雇い入れる会社の数が一社だけに限られる必要は必ずしもない。財やサービスの売り手としてある程度の市場支配力を持つ複数の会社が共謀すれば、労働者に支払う賃金を低く抑えつけることはやはり可能なのだ。

私が大学院生の時――すなわち、だいぶ昔――に書いたジョブマーケットペーパー [1] 訳注;大学院生が研究機関のポストなどの働き口を見つけるために仕上げる論文。の一つでは、労働市場における買い手独占を想定したモデルを使って、実質賃金と雇用量(ないしは生産量)との間に(負の相関ではなく)正の相関 [2] … Continue readingが成り立つことを導き出している。ダンロップ(John Dunlop)やターシス(Lorie Tarshis)が1930年代に先鞭をつけて、その後に続いた一連の実証研究の結果とも整合的な結論でもある。そのあたりの実証的な証拠については、ジョン・ペンカベル(John Pencavel)の優れた論文(“Keynesian Controversies on Wages”)を参照されたい。

References

References
1 訳注;大学院生が研究機関のポストなどの働き口を見つけるために仕上げる論文。
2 訳注;正の相関が成り立つ=実質賃金が上昇するのに伴って、雇用量・生産量が増加する――あるいは、実質賃金が低下するのに伴って、雇用量・生産量が縮小する――ということ。
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