福島の事故を受けてドイツでは原子力発電所を閉鎖した.これによって,大気汚染が増加して数千もの人たちが亡くなり,数十億ドルのコストが生じている.「ドイツの原発廃止による私的コストと外的コスト」について,Stephen Jarvis, Olivier Deschenes & Akshaya Jha の論文はこう述べている:
2011年の福島原発事故を受けて,ドイツの当局は前例のない決断を下した:(1) 国内にある原子力発電所のほぼ半数を即時停止し,(2) 残る原子力発電所のすべてを2022年までに廃止する,という決断だ.この決定によって生じた経済的コストと環境コストの全体像を我々は数量化する.本稿の分析からは,原子力発電所の廃止は年間およそ120億ドルのコストをドイツにもたらしている.このコストの 70% 以上は,原子力発電所の停止を埋め合わせて操業されている石炭火力発電所から排出される大気汚染に起因する年間 1,100 の死者増加による.原子力発電所の停止により生じたと推定されるコストは,段階的停止にともなう原発事故の減少と廃棄物コストの削減による便益の推定の〔より小さい推定からより大きい推定までの分布のうち,より大きい〕右側テールをはるかに超えている.
さらに,原発の段階的停止によって,消費者が支払う電気料金の大幅増加も生じている.以上を踏まえると,大気汚染コストと電気料金増額に影響を受けるドイツ市民は段階的停止に強く反対すると予想する人もいるかもしれない.だが,そうした予想に反して,原子力発電所の段階的停止はいまも広範な支持を受けており,2015年の調査では 81% 以上が支持すると答えている.
ドイツ人すら原子力発電に反対してるうえに風力発電にも背を向けている(日本語記事)となると,気候変動に対処する方策の選択肢はますます狭くなるね.
多謝:Erik Brynjolfsson.