ファイザー製ワクチンを使って薬剤師たちがワクチン接種をはじめたところ,標準的な 5回分小瓶から 6回~7回の投薬が可能なのを発見した.追加分はどこから生まれたんだろう? べつに,規定量を超える量が瓶につめられていたわけじゃない.小瓶には,標準的な注射器を使ったらきっかり5回分になる量しか入っていない.ところが,ワクチン接種会場によっては,死容積が少ない注射器が利用できたところがあった.「死容積が少ない」とは,注射が終わったときに吸引具と注射針のあいだに残るワクチンが少なくてすむ,ということだ.このため,死容積が少ない注射器を使うと,注射器に残ったまま無駄になるワクチンが減って,同じ瓶からより多くの人にワクチン接種できるようになるわけだ.
これは,けっこうすごいことだ.ワクチン供給量を 20% 増やすために新しく工場を建てようとすれば,何十億ドルもかかりかねない.工場の増設もやるべきではある.それはそれで値打ちがある.でも,この件では,注射器のデザイン変更という比較的に安上がりな方法で,供給を少なくとも 20%増やすことに成功している.このことが示すのは,サプライチェーン全体を考えて最適化の機会を見つけ出すことがいかに大事かってことだ.
「でも,なんかオチがつくんでしょ?」――〔COVID-19用ワクチンの迅速な生産・供給を目指す〕ワープスピード作戦とファイザー製薬が供給した注射器のすべてが死容積の少ないものというわけじゃなくて,ワクチン接種会場のどこでも追加の注射ができているわけじゃない.注射器のサプライチェーンにもっと投資する必要がある.