アレックス・タバロック「家電の耐久性が下がってるって,ホント?」(2025年6月23日)

多くのアメリカ人は,こう信じている.「ここ数十年で,家電の耐久性はどんどん落ちてきた.」 これに大して,Wirecutter のレイチェル・ウォートンが秀逸な反論を書いてる.彼女の結論は,ぼくが衣服の品質を調べて見つけたのとそっくり,うり二つだ:たしかに,耐久性はいくぶん下がっているけれど,それをもたらした主な要因は,購買客たちの好み・規制の変化・ボーモル効果だ.べつに,企業のよこしまな行いのせいでも,文化の堕落のせいでもない.

「みんな言うよね,『メイタグの洗濯機は50年使えたのに』って.」 かつて家電メーカーのワールプール・コーポレーションで製品エンジニアをしていたダニエル・コンラッドはそう語る.彼はいま,商用冷凍設備会社で,設計品質・信頼性・製品検証部門の責任者を努めている.「でもね,そこまで長持ちしなかった他の450万台の洗濯機のことは,誰も語らないんだよ.」 利用可能な証拠を見ると,どうやら,家電の耐用年数はこの20~30年ほどでわずかに縮んでいるようだ.業界団体の「家電製品製造業者協会」による最近の調査では,2010年時点で,大部分の家電製品は11年~16年継続使用されたことがわかっている.2019年までに,その数字は下がって,9年~14年の範囲になっている.(ガスレンジや乾燥機など,逆に製品寿命が延びたものもある.)

この耐用年数のわずかな短縮の一部は,規制で説明がつく:

私が話をした家電修理屋たちは,みんな口を揃えてすぐさま言った.「現代の家電製品にみんなが抱いてる不満の大部分は,節水・省エネに関する連邦政府の規制のせいだ.」 みんな,いろんなブランドの機械を何十年も修理してきた経験者だ. (…)主な容疑者は,調理・冷蔵・清掃機器に設けられた水・エネルギー使用の効率性基準だ.

規制はたびたび変わる.そのため,製造者たちは金属の代わりに軽量な樹脂パーツに変えたり,効率を向上させる洗練されたコンピュータ制御を加えたりする.そういう変更を消費者たちは必ずしも求めてなかったりするし,コンピュータ制御を加えたことで故障箇所が増えたりもしている.こうした問題については,以前の投稿をみてほしい(ここここ).

ただ,衣服と同様に,耐久性の低下には他にも理由がある.それは,多くの消費者たちは耐久性の高い家電を欲しがらないという事情だ――逆に,消費者たちは最新型の派手な機能をぜんぶ備えた製品を欲しがる.(もちろん,ぼくはそんなのいらないし,きっと読者のキミも「いらない」というだろうけど,まあ,とにかくそっちの方が売れてるんだよ.) つまり,家電製品とそのカラバリ・機能・スタイルがファッションアイテムになっているわけだ.

また,新しいモノを求める人々の欲望は,ますます募っているようにしか見えない.ペトリノ・ボールによれば,AJ マディソンの売り上げ調査から,今日の消費者たちは8年ごとに新しい家電を購入しているのがわかるという.まだ完全に故障してもいないのに,買い替えているのだ. (…)GEアプライアンスの広報担当者ホイットニー・ウェルチは私にこう語った.同社の調査によれば,消費者たちはしばしば美的な理由で家電を買い替えているそうだ(…)

多くの消費者たちが,10年以上も家電を使い続けないんだったら,10年以上もつようにつくるコストをかけても割に合わない.

ここでの大筋の話は,「耐久性の低下」ではなくて,「価格の低下」だ:

AARP マガジンの2022年調査によれば,1972年に,シアーズでは洗濯機が220ドル,乾燥機が90ドルで販売されていた.インフレ調整すると,2025年の物価ではこのセットの価格はだいたい 2,389ドルに相当する.現在,シアーズのセール価格なら,洗濯機と乾燥機のセットは約 1,200ドルで購入できる.

ボーモル効果により,新品購入費に比べて修理費は上がってきている.いまより貧しかった時代なら故障したモノを直すのは理にかなっていたけれど,ボーモル効果によって,いまや,昔のように長く同じ製品を使い続けない理由がまたひとつ生まれている:

(…)たいていの新モデルの価格はとても低く,家電はとにかく買い替えてしまうのを彼は最初に顧客に提案している.「修理費が新品交換の 50% にのぼるんだったら,きれいさっぱり捨ててしまった方がいい」と彼は言った.「修理費が新品の 40% かかるんだったら,その選択肢を検討するといい.」 「労働者の技能はとても高いんだ」と,彼は付け加えた.「だから,低価格と競争なんてできない.」 時間の損失でも競争できない場合は多い.修理するとなると,部品を取り寄せるのに数日から数週間かかるとペトリノ・ボールはいう.「洗濯・乾燥機や冷蔵庫なしでは,一日しのぐのすら本当に厳しいという家庭は多いです」と彼女は言う.「でも,代わりを購入すれば,翌日には届きますからね.」

さらに,衣服に関して論じたときと同じく,よく注意して買い物すれば,耐久性の高い家電も見つけられる.興味深いことをウォートンが言っている.高級品でも安物でも高耐久性を得られるんだそうだ.サブゼロ&ウルフの最上位機種だったら,他よりも長持ちするけれど,すごく効果だし,最新機能はついていないことも多い.それがダメなら,GE やシアーズの安物冷蔵庫を買ってもいい.そういう安物は,あれこれといろんな機能がついていない――氷が作れなかったり,冷水を出す機能がなかったり,電子制御がなかったり,高級感のある塗装がされていなかったりする.そして,たいてい,そういう製品は長持ちする.

ようするに,家電の耐久性はガタ落ちになっていない――消費者の需要に合わせて進化してきたんだ.べつにぼくらはふんだくられてもいない.よりよい価格でよりよい製品を手に入れている.所得が上がってきたことで,「よりよい」とはどんなことなのかが再定義されているだけだ.


[Alex Tabarrok, “Have Appliances Declined in Durability?Marginal Revolution, June 23, 2025]
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