アレックス・タバロック 「輸出制限のミクロ経済学」(2013年8月20日)

●Alex Tabarrok, “The Microeconomics of Export Restrictions”(Marginal Revolution, August 20, 2013)


保護主義的な手段と言えば、関税だとか、輸入数量割当だとかのように、輸入を制限する措置が典型的だ。それに比べて、輸出を制限する措置については、試みられることも、議論されることも少ないが、最近になって天然ガスの輸出を制限しようとの提案が話題になっている。そこで、輸出制限というかたちをとる保護主義の効果について、簡単におさらいしておくのも悪くないだろう。まずは、輸入制限の効果について振り返っておこう。輸入制限は、国内の需要者(消費者)に対して損失をもたらす一方で、国内の生産者に対して便益をもたらすことになる。国内の需要者が被る損失と、国内の生産者が手にする便益とを比べると、前者(損失)が後者(便益)を上回る。それゆえ、輸入制限は、差し引きすると、社会全体に損失をもたらすことになる。輸出制限の効果についても、同様の結論が成り立つ。輸出制限は、国内の需要者に対して便益をもたらす一方で、国内の生産者に対して損失をもたらすことになる。国内の需要者が手にする便益と、国内の生産者が被る損失とを比べると、後者(損失)が前者(便益)を上回る。それゆえ、輸出制限は、差し引きすると、社会全体に損失をもたらすことになる。図を用いて分析すると、以下のようになる。

ExportRestrictions3
(鎖国下での均衡価格と均衡数量は、国内需要曲線(Domestic Demand)と国内供給曲線(Domestic Supply)の交点から見出すことができる。図にあるように、世界価格(World Price;世界市場で成立する価格)と世界需要(World Demand)が、鎖国下での均衡価格(Price w/no trade)を上回る場合、市場が開放されるのに伴って、国内の生産者による供給量はQsに達し、国内の消費者による需要量はQdにとどまることになる。そして、両者の差(Qs-Qd)が海外に輸出されることになる。ここで、輸出を制限する措置が導入されて、輸出が一切認められなくなったとすると、価格は(鎖国下での均衡価格まで)低下する。それに伴って、国内の消費者が手にする便益(消費者余剰)は(A+B)だけ増加する一方で、国内の生産者は(A+B+C)だけの損失を被ることになる。その結果、社会全体では、差し引きすると、Cだけの損失を被る結果となる。輸出制限が差し引きしてCだけの損失を生み出す理由は、販路の縮小に伴って生産者余剰が減ってしまうとともに、財の評価が低い層に向けて(他の国の消費者から国内の消費者へと)消費がシフトするためである。)

 

輸入制限や輸出制限を是とする立場からは、スピルオーバー効果だとか、ネットワーク効果だとかといった、二次的な(second round)プラス効果が意気揚々と持ち出される。確かに、ケースによっては、そのような二次的なプラス効果が存在することは否定しない。しかしながら、基本的な経済分析に従うならば、二次的なプラス効果を論拠とする輸入制限/輸出制限支持論には用心すべきだと言えよう。どちらか一方が得をして、他方が損をするような政策というのは、政治的な抵抗を招くのが常だし、二次的なプラス効果を論拠に輸出制限(あるいは、輸入制限)を正当化するためには、二次的なプラス効果が(上で図を用いて説明した)一次的なマイナス効果を凌駕するほど大きくなければならないのだ。

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