●Alex Tabarrok, “A failure to think on the margin”(Marginal Revolution, September 6, 2011)
「限界的な変化に着目せよ」(いわゆる限界原理)というのは経済学の基本とも言える考え方であり、コーエンと2人で執筆したテキスト(Modern Principles)でも経済学における「ビッグアイデア」の一つに挙げている(そう考えているのは、どうやら我々だけではないようだ)。さて、残念なお報せである。USA Todayの記事(“Math tips for the rest of us”)で所得税の話題が取り上げられているのだが、「限界税率」という概念を理解できているのか何とも怪しいのだ 。
所得が増えるというのは、思ったほど好ましいことじゃないかもしれない。前よりも稼ぎが増えるというのは、ハッピーな出来事だ。しかしながら、所得が増えたおかげで新たな所得階層区分(ブランケット)に仲間入りすることになれば、前よりも高い所得税率が課されることになる。所得が増えたおかげで、税引き後の所得(可処分所得)が前よりも減ってしまう可能性だってあるのだ。
アイタタタ・・・。ディーン・ベイカー(Dean Baker)の怒りの声に耳を傾けるとしよう。
何じゃそりゃ!!!!!!!! 違う。違う。そうじゃない×286,000! 所得階層区分ごとの税率というのは、あくまでも「限界的な」税率なのだ。所得が増えたおかげで、これまでよりも高い税率が適用される所得階層区分に仲間入りしたとしても、その高い税率が適用されるのは閾値 [1] 訳注;新たな税率が適用される所得階層区分の下限額を上回る金額に対してだけなのだ。例えば、20万ドル以下の所得に対する税率は25%で、20万ドルを上回る所得に対する税率は33%だとしよう。そして、あなたの所得が19万5000ドルから20万5000ドルに増えたとしよう。その場合、33%の税率が課されるのは、閾値である20万ドルを上回る金額に対してだけなのだ。すなわち、5000ドル(=20万5000ドル-20万ドル)に対してだけなのだ。20万5000ドルすべてに33%の税率が課されるわけじゃないのだ [2] … Continue reading。というわけで、稼ぎが増えたおかげで、これまでよりも高い税率が適用される所得階層区分に仲間入りしたとしても、前よりも税引き後の所得(可処分所得)が減るなんてことは絶対に(そう、絶対に!)あり得ないのだ。
References
↑1 | 訳注;新たな税率が適用される所得階層区分の下限額 |
---|---|
↑2 | 訳注;日本国内で所得税額の計算をする際に「速算表」が使われることがあるが(詳しくはこちらを参照)、税額の計算の過程を詳しく辿って「速算表」を導出してみるとしよう。例えば、所得(「課税される所得」)が700万円だとしよう。700万円ということは、「695万円超~900万円以下」の区分に入るので、税率は23%。それゆえ、支払うべき所得税額は、700万円×0.23で・・・というのは間違い。23%の税率が適用されるのは(閾値である)695万円を上回る金額に対してだけ。すなわち、5万円(=700万-695万円)に対してだけである。それでは、残りの695万円すべてに20%の税率(「330万円超~695万円以下」の所得階層区分の税率)が課されるかというと、そうではない。20%の税率が課されるのは(閾値である)330万円を上回る金額に対してだけ。すなわち、365万円(=695万円-330万円)に対してだけである。そして、残りの330万円すべてに10%の税率(「195万円超~330万円以下」の所得階層区分の税率)が課される・・・わけではなく、10%の税率が課されるのは(閾値である)195万円を上回る金額に対してだけ。すなわち、135万円(=330万円-195万円)に対してだけである。そして、残りの195万円に対して5%の税率(「195万円以下」の所得階層区分の税率)が課されることになる。これまでの話を式にしてまとめると、以下のようになる。なお、一番最後の式が「速算表」に掲げられている計算式(所得が700万円の場合)と同じであることを確認されたい。
(700万-695万)×0.23+(695万-330万)×0.20+(330万-195万)×0.10+(195万-0)×0.05 |
コワイですね〜。訂正されてよかったですし、正しい知識を持つことの重要性を気づかせてくれました。
毎回ブログ読まさせて頂いてますが、ためになります。